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第四章 遠い二人

第七十二話 眷族(リリス視点)

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(さて、厄介なことになっていますわね)


 現在、わたくしはサクッとロックボーンの頭蓋骨を入手してきた帰りで、屋敷の周りを取り巻く濃厚な魔力に立ち止まっていた。


(悪魔、ですわね。ですが、これは……)


 何にせよ、屋敷に帰らないわけにはいかないと、わたくしは慎重に屋敷へと近づいていく。


(魔力の残滓は濃厚……まだ、悪魔が居る可能性は高いですわ)


 そっと玄関扉を開けて、緊急時だからということで、土足で入らせてもらう。


(屋敷全体に強化魔法をかけていたのが幸いでしたわね。おかげで、どこも壊れていませんわ)


 恐らくは、攻撃魔法を放ったのであろう痕跡もあったが、それで屋敷が壊れているなんてことはなかった。もちろん、集中的に一ヶ所を攻撃され続ければどうなっていたか分からないが、今回は被害も出ていなさそうだった。


「さて、と……あれ、ですわね」


 長い廊下を歩き、いくつもの扉を素通りした後で見つけたのは、黒く盛り上がって蠢くナニカだった。


「悪魔、というよりは、その眷族と考えた方が良いでしょうか?」


 声を上げているというのに、それはわたくしの視線の先で、じっと動かずにボコボコと肉体を波打たせているのみだ。


(恐らくは、シェイラを捕まえることを目的として、命令されているのでしょうね。シェイラを見失ったせいで、動きを止めている、というわけですか)


 命令以上のことができない、意思を持たない人形。しかし、その戦闘能力は、きっと侮れるものではない。


「一気に片をつけましょうか」


 動かないのであれば、こちらから向かうまでだ。わたくしは、自身に身体強化をかけ、異空間から取り出した剣を構える。


「《消滅の光よ》」


 剣に付与するのは、強力な光属性の魔法。悪魔は、総じて光に弱いとされている。それならば、その弱点を突かない手はない。


「《悠久なる光よ》《至高の光よ》」


 その場を光属性に染め上げて、悪魔の周囲に光属性の爆弾をいくつも仕込む。そして……。


「《貫く光よ》」


 光の矢を五十ほど用意し、それを一気に放てば、大きな咆哮が上がる。


「オォォォオォォオォオッ!!」


 ダメージは負ったはずだが、それを感じさせない勢いで、ソイツは飛び出し……爆弾の中に突っ込む形となる。


「ギャオォオッ!!」


 連鎖する爆発に、黒いそれは、肉体の欠片を飛び散らせながら、それでもこちらへと向かってくる。しかし……。


「終わり、ですわ」


 全ての準備が整うまで動かない敵を倒すのは、そう難しいことではない。わたくしは、迫ってきたソイツに、光を纏わせた剣を刺す。


「《終焉の光よ》」


 剣を基点にして放った魔法。光魔法の中でも最上位に位置する広域殲滅魔法。それを、ただこの敵にのみダメージが通るよう集約して発動させれば、ソレは、叫び声を上げることもなく、ボロボロと崩れ去る。


「こんなもの、ですか」


 悪魔の眷族だろうと警戒していたが、案外、楽に倒せた。そう思いながら、わたくしは、シェイラとルティアスが居るであろう自室を目指すのだった。
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