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少女期
まだ知らない(魔王視点)
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その出会いに、特別なものは何もなかった。光を求めてただ、闇の中に身を置いていた我は、主に容赦なく引きずり出され、ネズミの姿で外の世界へと落ちることとなった。
自分のことも分からないのに、外に出された我は、何もかもが怖かった。だから、ミルラスの存在だって、怖くて怖くて仕方がなかった……のだが、ミルラスは、見事なまでに、主のことしか考えていなかった。
「主様の作る料理は絶品なのじゃっ!」
「主様に教えてもらった特訓で、ようやく、この魔法が発動できたのじゃっ!」
「主様が好むものは何かのぅ?」
「主様っ、主様っ!」
我のことは、全面的にミルラスへと任されて、我は、ただ、ミルラスの話に付き合いながら、世界を知っていく状態だった。そして、最初は何とも思わなかった主の話題が、いつの頃からか、どこか、面白くないように感じ始めた。
「ひぅ、何なのじゃっ、これはっ」
その日は、突如として、瘴気の塊がこの国にやってきて、国全体を瘴気が覆い尽くした日でもあった。ミルラスと過ごすうちに確信したのは、ミルラスが、主の仲間の中では最も弱いということだった。そもそもが、夢魔というのは戦闘に向かない種族であり、夢魔の中では最強なのだと聞いてはいたが、攻撃力はほとんどないに等しい。そして、防御の方だって、主が装備を用意しなければ、ほとんどないようなものだった。
「チュウ……我が、守る。大丈夫だ。ミルラス」
本来ならば、セイ達とともにこの国から一度離れる予定だったものの、合流が上手くできずに、我とミルラスは取り残されてしまった。ただ、幸いなのは、我自身、瘴気の扱いに慣れているため、ミルラスと我の周りにだけ、瘴気を近寄らせないようにすることは容易かったということだろうか。
瘴気に怯えるミルラスが、もしかしたら、瘴気を操る我を恐れるかもしれない。そんな懸念はあれど、ミルラスは主と同じくらい大切な存在。それを、怖がられるかもしれないなどという理由で守らないわけにはいかなかった。
迫り来る瘴気を前に、行き止まりで、逃げ道を失ったミルラスは、ただただ震えて、小さな我を抱きかかえる。
「大丈夫、大丈夫だ、ミルラス」
「魔王……うぅ、すまぬ、妾は、弱い……。魔王を守ることすらできぬ。妾は、夢魔の女王であるのに……」
ただただ、瘴気に怯えているだけだと思っていた我は、そのミルラスの言葉と、涙で理解する。ミルラスは、己の弱さが悔しかったのだと。我を守りたかったのだと。
それを認識した瞬間、我の中には、とても、温かなものが生まれた気がした。
ミルラスを守り抜き、主達が戻ってきた後も、それはずっと胸の中にある。記憶のない我は、それを何と呼ぶのか、まだ知らない……。
自分のことも分からないのに、外に出された我は、何もかもが怖かった。だから、ミルラスの存在だって、怖くて怖くて仕方がなかった……のだが、ミルラスは、見事なまでに、主のことしか考えていなかった。
「主様の作る料理は絶品なのじゃっ!」
「主様に教えてもらった特訓で、ようやく、この魔法が発動できたのじゃっ!」
「主様が好むものは何かのぅ?」
「主様っ、主様っ!」
我のことは、全面的にミルラスへと任されて、我は、ただ、ミルラスの話に付き合いながら、世界を知っていく状態だった。そして、最初は何とも思わなかった主の話題が、いつの頃からか、どこか、面白くないように感じ始めた。
「ひぅ、何なのじゃっ、これはっ」
その日は、突如として、瘴気の塊がこの国にやってきて、国全体を瘴気が覆い尽くした日でもあった。ミルラスと過ごすうちに確信したのは、ミルラスが、主の仲間の中では最も弱いということだった。そもそもが、夢魔というのは戦闘に向かない種族であり、夢魔の中では最強なのだと聞いてはいたが、攻撃力はほとんどないに等しい。そして、防御の方だって、主が装備を用意しなければ、ほとんどないようなものだった。
「チュウ……我が、守る。大丈夫だ。ミルラス」
本来ならば、セイ達とともにこの国から一度離れる予定だったものの、合流が上手くできずに、我とミルラスは取り残されてしまった。ただ、幸いなのは、我自身、瘴気の扱いに慣れているため、ミルラスと我の周りにだけ、瘴気を近寄らせないようにすることは容易かったということだろうか。
瘴気に怯えるミルラスが、もしかしたら、瘴気を操る我を恐れるかもしれない。そんな懸念はあれど、ミルラスは主と同じくらい大切な存在。それを、怖がられるかもしれないなどという理由で守らないわけにはいかなかった。
迫り来る瘴気を前に、行き止まりで、逃げ道を失ったミルラスは、ただただ震えて、小さな我を抱きかかえる。
「大丈夫、大丈夫だ、ミルラス」
「魔王……うぅ、すまぬ、妾は、弱い……。魔王を守ることすらできぬ。妾は、夢魔の女王であるのに……」
ただただ、瘴気に怯えているだけだと思っていた我は、そのミルラスの言葉と、涙で理解する。ミルラスは、己の弱さが悔しかったのだと。我を守りたかったのだと。
それを認識した瞬間、我の中には、とても、温かなものが生まれた気がした。
ミルラスを守り抜き、主達が戻ってきた後も、それはずっと胸の中にある。記憶のない我は、それを何と呼ぶのか、まだ知らない……。
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