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第二章 第二フロア
ボウキャク
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『イリュージョンが現れた
イリュージョンの技『幻敵』発動
柿村啓はダメージを負った
柿村啓は目を失った
柿村啓はダメージを負った
――――――
ペットの技『主のために』発動
ペットが倒れた
ドロップアイテム 霊水
レアドロップアイテム 妖花の種
イリュージョンを倒した
ドロップアイテム 一の核
レアドロップアイテム 魔眼』
「…………えっ?」
理解のできない文章が続く冒険の書に、俺の脳内処理速度は格段に落ちる。しかし、文章はそこで終わりではなかった。
『条件達成のため、これよりこの場所は安全地帯へと移行
また、条件を満たしたために、柿村啓の修復を行う
一週間以内に柿村啓が目覚めなかった場合、強制処分』
一応、とんでもないことが書かれていることを考慮に入れて、俺は覚悟したはずだった。ただ、それはやはり、知らないことが多いからこそできる、甘過ぎる覚悟だったようだ。
「敵は一体だった……? 目を失った……? ペットが死んだ……? 修復……? 強制処分……?」
疑問に思うことを、衝撃を受けた内容を、俺は無意識の内に唱える。
「はっ、はははははっ! あはははははっ!!」
何だコレ、何だコレっ、何だコレっ!!
救いのない世界。常識のことごとくを打ち砕かれる世界。ここは、そういう場所だと、ちゃんと分かっていたはずなのに……。
そんな中にも、ある程度の常識を求めていた自分に気づき、俺は、哄笑する。
笑って笑って笑い尽くして、暗い光を瞳に宿す。
「そうか……あくまでも、お前らは俺を道具としてしか見ないのか……」
きっと、俺の行動は、誰かにとっての良い娯楽なのだろう。苦しんで、足掻いて、抗って、懸命に動く俺の姿は、たとえ催眠術によるものだとしても、さぞかし面白いのだろう。
が……俺にだってプライドがある。人間としての尊厳がある。こんなわけの分からない遊びに付き合い続けるつもりなど、さらさらない。
「絶対に、生き残ってやるっ!!」
自分の命が相手に握られているかもしれないという嫌な状況。そんな状況下において、俺にはそう宣言する以外の対抗手段がない。しかして、それは、たしかに俺の中で、力強くしっかりとした意志の形を築く。
生きてやる。生きて、生きて、生き残って、絶対に帰るんだ。絶対に、家に帰って、母さんや父さんに会って…………。
決意を固めようとしていた俺がその異変に気づいたのは偶然。本当に、運が良かった……いや、むしろ、運が悪かったのかもしれない。
気づかなければ、幸せでいられたから。気づかなければ、嘆かずにいられたから。
俺は………………両親の顔を忘れていた。
「あ……い、いや、違うっ! こ、これはっ、そんなわけっ! 嘘だっ、嘘、だ……」
思い出せないはずがない。忘れるはずがない。
頭を抱えて思い出そうと、二人の顔を頭の中に描こうとしたが、どうしても、両親の顔が思い出せない。
どんな人だったか? どんな仕事をしていたのか? どんな顔だったか?
何一つとして、情報がない。たしかに、俺は両親に育てられたという記憶があるにもかかわらず、両親とずっと過ごしていたという意識があるにもかかわらず。俺に、両親に関する具体的な記憶がなかった。
「ど、して……」
分からないことが、不可解なことが……そして、恐ろしいことが、立て続けに起こったせいで、俺は放心する。生き残ってやると意気込んだはいいが、そのための原動力が削がれたような状態だ。
俺は、ペタリとその場に座り込み、何もない空間を見つめる。
そこに思い出がない。何も……何も、なかった。
友人の顔は思い浮かぶ。親戚の顔も思い浮かぶ。暮らしていた街並みも、思い浮かぶ。……ただ、両親のことだけが、すっぽりと抜け落ちていた。
どういうことだ? 催眠術で、こんなことまでできるのか? いや、そもそも、本当に催眠術なのかも怪しいが……。
合理的にこの現象を説明しようと、俺は頭を働かせる。が、俺はけっして頭が良い人間ではない。当然のことながら、そんなに都合の良い答えなんて出てこない。ただ、俺が理解できるのは、『両親に関する情報だけ』が喪失してしまったこと。
「くそっ!」
考えても仕方ない。その結論に辿り着くまで、さほど時間を要することはなかった。
とりあえず、空腹を訴える腹を黙らせるために、俺はリュックから乾パンの缶詰めを取り出し、乱暴に蓋を開ける。そして、中身の乾パンを片手いっぱいに掴むと、それを無造作に口に放り、ガリガリとむさぼる。食べたら食べた分だけ、口の中は渇き、無造作に濁った水を飲む。
やけ食いに近いその行為。ただ、やけ食いができるほどの食料なんてない。だから、その行為はすぐに終わりを告げる。そして……。
「う……うわぁぁぁあっ!! 返せよっ! もう、こんな場所、懲り懲りだっ!! 俺の記憶を返してくれよっ!」
俺の中で何かが切れた感覚があった。これまで溜め込んでいた不満が、不安が、恐怖が、全て、堰を切って溢れ出す。
俺自身が傷つくのは、もちろん怖かった。痛いし苦しいし、死ぬかもしれないことが、何よりも恐ろしかった。ただ、それでも、俺は帰りたいと思っていたんだ。暖かい記憶があるから。それだけで、頑張ろうと思っていたはずだ。が、その根幹が、今、崩れた。
もはや、両親との記憶が暖かいものだったのかすら分からない。
このままここにいれば、帰る意志すらも失われる。
そんな予感が、何よりも、俺を狂わせた。
嫌だ。もう、止めてくれ。家に、帰りたい。
うわ言のように、そう言い続けていた俺は、日付が変わったことにも気づかず、嘆き続けた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ダークな部分はさらに続きます。(お笑いもちょこちょこ入りますが……)
柿村君には盛大に苦悩してもらうつもりですので、これからもよろしくお願いします。
それでは、また!
イリュージョンの技『幻敵』発動
柿村啓はダメージを負った
柿村啓は目を失った
柿村啓はダメージを負った
――――――
ペットの技『主のために』発動
ペットが倒れた
ドロップアイテム 霊水
レアドロップアイテム 妖花の種
イリュージョンを倒した
ドロップアイテム 一の核
レアドロップアイテム 魔眼』
「…………えっ?」
理解のできない文章が続く冒険の書に、俺の脳内処理速度は格段に落ちる。しかし、文章はそこで終わりではなかった。
『条件達成のため、これよりこの場所は安全地帯へと移行
また、条件を満たしたために、柿村啓の修復を行う
一週間以内に柿村啓が目覚めなかった場合、強制処分』
一応、とんでもないことが書かれていることを考慮に入れて、俺は覚悟したはずだった。ただ、それはやはり、知らないことが多いからこそできる、甘過ぎる覚悟だったようだ。
「敵は一体だった……? 目を失った……? ペットが死んだ……? 修復……? 強制処分……?」
疑問に思うことを、衝撃を受けた内容を、俺は無意識の内に唱える。
「はっ、はははははっ! あはははははっ!!」
何だコレ、何だコレっ、何だコレっ!!
救いのない世界。常識のことごとくを打ち砕かれる世界。ここは、そういう場所だと、ちゃんと分かっていたはずなのに……。
そんな中にも、ある程度の常識を求めていた自分に気づき、俺は、哄笑する。
笑って笑って笑い尽くして、暗い光を瞳に宿す。
「そうか……あくまでも、お前らは俺を道具としてしか見ないのか……」
きっと、俺の行動は、誰かにとっての良い娯楽なのだろう。苦しんで、足掻いて、抗って、懸命に動く俺の姿は、たとえ催眠術によるものだとしても、さぞかし面白いのだろう。
が……俺にだってプライドがある。人間としての尊厳がある。こんなわけの分からない遊びに付き合い続けるつもりなど、さらさらない。
「絶対に、生き残ってやるっ!!」
自分の命が相手に握られているかもしれないという嫌な状況。そんな状況下において、俺にはそう宣言する以外の対抗手段がない。しかして、それは、たしかに俺の中で、力強くしっかりとした意志の形を築く。
生きてやる。生きて、生きて、生き残って、絶対に帰るんだ。絶対に、家に帰って、母さんや父さんに会って…………。
決意を固めようとしていた俺がその異変に気づいたのは偶然。本当に、運が良かった……いや、むしろ、運が悪かったのかもしれない。
気づかなければ、幸せでいられたから。気づかなければ、嘆かずにいられたから。
俺は………………両親の顔を忘れていた。
「あ……い、いや、違うっ! こ、これはっ、そんなわけっ! 嘘だっ、嘘、だ……」
思い出せないはずがない。忘れるはずがない。
頭を抱えて思い出そうと、二人の顔を頭の中に描こうとしたが、どうしても、両親の顔が思い出せない。
どんな人だったか? どんな仕事をしていたのか? どんな顔だったか?
何一つとして、情報がない。たしかに、俺は両親に育てられたという記憶があるにもかかわらず、両親とずっと過ごしていたという意識があるにもかかわらず。俺に、両親に関する具体的な記憶がなかった。
「ど、して……」
分からないことが、不可解なことが……そして、恐ろしいことが、立て続けに起こったせいで、俺は放心する。生き残ってやると意気込んだはいいが、そのための原動力が削がれたような状態だ。
俺は、ペタリとその場に座り込み、何もない空間を見つめる。
そこに思い出がない。何も……何も、なかった。
友人の顔は思い浮かぶ。親戚の顔も思い浮かぶ。暮らしていた街並みも、思い浮かぶ。……ただ、両親のことだけが、すっぽりと抜け落ちていた。
どういうことだ? 催眠術で、こんなことまでできるのか? いや、そもそも、本当に催眠術なのかも怪しいが……。
合理的にこの現象を説明しようと、俺は頭を働かせる。が、俺はけっして頭が良い人間ではない。当然のことながら、そんなに都合の良い答えなんて出てこない。ただ、俺が理解できるのは、『両親に関する情報だけ』が喪失してしまったこと。
「くそっ!」
考えても仕方ない。その結論に辿り着くまで、さほど時間を要することはなかった。
とりあえず、空腹を訴える腹を黙らせるために、俺はリュックから乾パンの缶詰めを取り出し、乱暴に蓋を開ける。そして、中身の乾パンを片手いっぱいに掴むと、それを無造作に口に放り、ガリガリとむさぼる。食べたら食べた分だけ、口の中は渇き、無造作に濁った水を飲む。
やけ食いに近いその行為。ただ、やけ食いができるほどの食料なんてない。だから、その行為はすぐに終わりを告げる。そして……。
「う……うわぁぁぁあっ!! 返せよっ! もう、こんな場所、懲り懲りだっ!! 俺の記憶を返してくれよっ!」
俺の中で何かが切れた感覚があった。これまで溜め込んでいた不満が、不安が、恐怖が、全て、堰を切って溢れ出す。
俺自身が傷つくのは、もちろん怖かった。痛いし苦しいし、死ぬかもしれないことが、何よりも恐ろしかった。ただ、それでも、俺は帰りたいと思っていたんだ。暖かい記憶があるから。それだけで、頑張ろうと思っていたはずだ。が、その根幹が、今、崩れた。
もはや、両親との記憶が暖かいものだったのかすら分からない。
このままここにいれば、帰る意志すらも失われる。
そんな予感が、何よりも、俺を狂わせた。
嫌だ。もう、止めてくれ。家に、帰りたい。
うわ言のように、そう言い続けていた俺は、日付が変わったことにも気づかず、嘆き続けた。
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ダークな部分はさらに続きます。(お笑いもちょこちょこ入りますが……)
柿村君には盛大に苦悩してもらうつもりですので、これからもよろしくお願いします。
それでは、また!
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