冒険の書 ~始の書~

星宮歌

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第二章 第二フロア

チダマリ

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『冒険の書

十四日目

第二フロア 地帯区分A


警告

二日モンスターとの戦闘、および第二フロアにて入手された食糧の摂取行動が見られなかったため、後二日で処分

逃れたくば、モンスターとの戦闘、もしくは、食糧の摂取を推奨』


 翌日、目を覚ました俺がベッドに腰掛けながら見たのは、そんな絶望的な文章だった。たしか、前日の警告文には、『第二フロアにて入手された食糧』とかいった記述はなかったはずだ。

 ただただ書かれていなかっただけなのか、それとも、俺を外に出すためにそうしているのか……。犯人の真意なんてものは分からないが、とにかく、これで分かったことがある。


「あと、二日……」


 あと二日で、俺は『処分』されてしまう。『処分』の内容は全く分からないが、良からぬものであることには違いない。もう、決断を見送るなどということはできない。


「そ、外に……出よう」


 『処分』が間近に迫っているという事実は、俺に決断をさせるのに充分な力を持っていた。


 おそるおそる、俺は扉の前に立つ。今回は、役立つかどうか分からないが、スケルトンのレアドロップアイテムである『尖った骨』もリュックに収納済みだ。

 きっと、罠の確認に少しくらいは使える……と思いたい。


「よしっ!」


 俺は、そんな声を出して気合いを入れる。これから扉を開ければ、また、あの血濡れの光景が嫌でも目に入る。気合いでも入れないと、どうにもならない。


 そうして、俺は、小刻みに震える手で、扉を開いた。

 ムワッとした生臭さを感じながら、俺はそれを見る。目の前に映るそれは、やはり赤。赤く赤く、壁一面、床一面を染めている。

 その光景は、見ているだけで震えそうなほどに異様なもので、できることなら今すぐ引き返したい。しかし……そこには大きな違和感があった。


「……まだ、赤い?」


 いや、たしかに、血といえば赤い。が、本来、時間が経てば、その血はどす黒くなるはず……だと思っていた。細かい原理なんて知らないが、何となく、そんなイメージがあるにも関わらず、そこにあるのは鮮血だ。しかも、おそらくはまだ液状である。

 もしも時間が経つと血がどす黒くなるということが勘違いなのだとしても、固まることもなく、液状のままであることはおかしい。


「また、新しい血か?」


 その想像は最悪のものだ。誰かが……何かが、この扉の前で死んだばかりである可能性。思わず後退ろうとしたが、俺は、この先に進まなければと、首を横に振り、思いとどまる。


 そして、また一つ、違和感を見つける。


「苔がない?」


 そう、貴重な光源となっている苔が、第一フロアでは床にも生えていた光を発する苔が、床にだけなかった。

 背後の安全地帯にはあったはずだが、どうやらここでは壁だけにしかないようだった。床に生えている分は、滑りやすいため、いらないとは思っていたが、実際になくなってみると、さらに薄暗くなっていて心許ない。


「あとは……壺?」


 不安を胸の内で膨らませながらも、俺は、今見る限りの違和感をその目で捉える。通路の壁にピッタリとつくように置かれた、俺の腰の高さくらいはありそうな丸い壺。赤茶色のその壺は、周りの血の色に溶け込むようにして置かれていて、最初に気づかなかったこともうなずける。

 そうして、状況確認を一通り終えた俺は、とにかく、冒険の書を取り出すのだった。


「やっぱり、何の情報もない……か……」


 前日に、扉から出た後の更新がないことは確認していた。一縷の望みをかけて見てみても、やはり、それは変わらない。ここからが、そう、ここからが、変化のときなのだ。

 俺は、背中のリュックに手をかけると、用意していたそれを取り出す。


『尖った骨』


 それは、何に使えるのか全く分からないままに、とりあえず、収集していたレアドロップアイテムだ。ただ、レアドロップと書かれているわりに、出てくる頻度が高かったので、三十個近くはある。


「これを、とりあえず投げてみよう」


 もしも、ここに罠があって、物を投げる程度で分かるような罠であるならば、これを投げることが石橋を叩くこととなるはずだ。

 最初に投げる場所は、血溜まりの中心。罠が発動して絶命した何かがいたのなら、きっと、この血溜まりの中心付近にいたはずだから……。


「……ふぅ……よしっ」


 試せるのは、この『尖った骨』の数の分だけ。もしも、全て投げ終えて、それでも罠が発動しないのであれば、俺は自分でその場所を歩かなくてはならない。それは、想像するだけで恐ろしいことだった。


 悪い方にばかり走る思考で、震える手。ただ、狙いを定めて投げるときに、こんなにも震えていたらいけない。ブルブルと震える手をどうにかなだめようと、俺は手を握り締めたり、叩いたり、頭を振ってみたりする。


「大丈夫……大丈夫……」


 自分にそう言い聞かせ、俺は、やっと手の震えが治まるのを目で確認する。大きく深呼吸をし、ようやく、俺は『尖った骨』を投げる体勢に入り……投げた。


「……っ!」


 声もなく、『尖った骨』を投げた俺は、それが描く軌跡を眺める。時間がゆっくりと流れているかのように感じ、俺はぼんやりとそれを見続ける。そして……。


 コツン。


 『尖った骨』が、床に落ち…………。




 ドスンッ!!



 と、天井から、巨大な何かが落ちてきた。

 あまりにも唐突なそれの出現に、俺の思考は一時停止する。それは、金棒らしきものだった。ゴツゴツとした表面のそれは、ちょうど、血溜まりの中心付近に落ちている。そして……それは、ゴリゴリとドリルのように回転をはじめた。


 キュイィィィンという機械音を立てて回転するそれ。その真下にあるであろう『尖った骨』がどうなったのか、ここからでは金棒(?)が巨大過ぎて分からない。分からない、が、もしも、あそこに俺が立っていたらと考えると、悪寒が走る。


 金棒(?)は、徐々にその回転の勢いを増し、その場の物を容赦なく押し潰す。そして……グルグルとかき混ぜるかのような回転まで加わり……。


「うわっ!!」


 すぐ目の前までそれが来たことで、俺はようやく身の危険を感じる。扉を背にしていた俺は、扉にピッタリと背中をつける。


 それが動く勢いで、恐ろしい音を立てて、風圧が顔面を直撃する。潰して、かき混ぜて、原形をとどめないように、念入りに、念入りに、動くそれ。顔面スレスレのところまで稼働範囲を広げてきたそれに、俺は恐怖のあまり動くことすらできない。


 五分? 十分? 三十分?


 どれだけの時間が経ったのかは分からないが、随分と長く感じられたその時間は、ようやく過ぎ去る。金棒(?)の動きが停止したのだ。


 停止して、ゆっくり……ゆっくりと、天井へと引っ込む。天井は暗くてよく見えないが、きっと、この金棒(?)が収納できるくらいには開かれているのだろう。


 ガコンッ!


 という音を最後に、辺りは静寂に包まれる。


「はっ……ははっ……」


 もしも、俺が罠に気づかなかったら。もしも、物を投げる以外の手段で試していたら。もしも、扉からもう少し前に出ていたら……。きっと、俺は死んでいた。

 潰れて、バラバラにになって、グチョグチョになって……最後には原形の欠片も残っていなかっただろう。


 そこまで思考して、俺は、ズルズルと背中と壁を擦り合わせながらへたり込む。


 もう、嫌だ。


 何度目とも知れぬその感想を抱きながら、俺は、血溜まりを見つめていた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


昨日は、更新できずすみませんでした。

ちょっとばかし、頭が痛くて……(今も治ってません)

季節の変わり目で体調を崩したかなぁと嘆いています。

とりあえず、明日と明後日は忙しくもあるので、更新はお休みします。

明明後日からは、また更新しますのでよろしくお願いします。

それでは、また!
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