婚約破棄ですか? 無理ですよ?3

星宮歌

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番外編

第四話 エヴァン・トニアの『真実』1

 エヴァン・トニアは、トニア子爵家に生まれた男児だったが、三男という立場から将来はどこかに仕官するか、どこかの婿養子になるかといったところだった。
 転機が訪れたのは、エヴァンが十二歳の時。当時、アルビニア公爵家の後継者問題が取り沙汰されており、エヴァンは見事、アルビニア公爵家当主のお眼鏡に叶ったようだった。


「エヴァン・トニアと申します。今日からよろしくお願いします」

「ライラ・アルビニアよ。そう固くならないで。私、弟がずっと欲しかったの!」


 アルビニア公爵家の直系であるライラ・アルビニアの義弟として引き取られたエヴァンは、その瞬間、恋に落ちた。
 結ばれることはないかもしれないと思いつつも、可能性が全く無いわけではないという状況に、エヴァンはひたすら努力した。
 最初は子爵家の三男だと侮っていた貴族達も、頭角を現したエヴァンに対しては畏怖の視線を向けた。
 アルビニア公爵にも認められ、本当に、ライラとの婚約が叶うかもしれない。そう思えた直後だった。フォルト・ダラックという男に、ライラを掠め取られたのは。


「義姉さん!」

「止めないで、私は、フォルト様を愛してるの」


 当時、アルビニア公爵が病に倒れていたことも、エヴァンにとってはマイナスだった。
 この頃には宰相補佐として活躍していたエヴァン。あと一年経てば、エヴァンは宰相にまで昇り詰めることができたはずで、そうすれば、ようやくライラへの求婚ができるという状況だった。
 しかし、その前に行われたフォルトによる熱烈なプロポーズによって、ライラは陥落してしまった。
 急いでフォルトのことを調べ、不正な資金流入や、フォルト自身の人柄に対する問題点を見つけ、それをライラに伝えようとしたものの、恋に恋したライラには通じなかった。
 終いには、もう関わるなとばかりに振り払われ、ライラに嫌われたくなかったエヴァンは、それ以上踏み込むことができなくなっていた。

 何をしても思い出すのは、優しいライラとの記憶。エヴァンが仕事に没頭し、他を見なくなるまで、さほど時間は必要としなかった。
 毎日毎日、宰相補佐として、そして、一年が経過した頃には宰相として、感情を無くした顔でただひたすらに様々な不正を正し、法を整え、国王を支え続けた。国王からはライラへの想いを見透かされ、心配されることもあったが、エヴァンにとってそれは鬱陶しいだけのことだった。
 ある日、国王に内密にと命じられた調査を行ったところ、国王の兄が王妃と密通したらしいということに気付いたが、それでも、その時のエヴァンは何も思わなかった。
 ただ、国王の兄は死ぬだろうな、とだけ理解した。
 不自然なほどにアルビニア公爵家へは関与することなく、エヴァンはただ、仕事に打ち込み続けた。






 そんな風に過ごしていたからなのか、ライラが死んだ時、エヴァンは何が起こったのか、理解できなかった。
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