黒板の怪談

星宮歌

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第二章 答えを求めて

第二十七話 調査書(芦田・鹿野田・望月グループ)

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 それは、ある怪談についての調査書というべきものだった。

 黒板の呪いや黒板の怪談と呼ばれる、この願希小学校ならではのお話。そして、その裏側にあるとされる悲しいお話。


『黒板の呪い、もしくは黒板の怪談と呼ばれるこの話は、誰かの口から伝わった瞬間に終わるとされている。

 恐らくは、聞いたら呪われるといった類の話なのだろうが、元オカルト倶楽部の部長としては、興味のある話だ。

 とはいえ、不思議なのは、私自身、どうしてこの話を知っているのか覚えていないということだ。

 すでに怪談に巻き込まれている、ということだろうか?

 検証のために、今日を一日目として記録を付けていこうと思う』


 そんな文章から始まった資料。
 望月は、それをパラパラとめくって、眉をひそめる。


「これ、あの時の日記みたい……」


 一日目、二日目と、その資料はずっと続き、三十一日目まであった。ただ、あの時の日記と違うのは、この書き手は、徐々に自分の状態の異常に気づいていくことだ。


『五日目。

 おかしい。私は、毎日この図書室にいるけれど、黒板の呪いについて調べ始めてから、一度も家に帰った記憶がない。

 気づいたら、一日が終わったと認識していて、そのまま次の一日が始まっている。

 ご飯だって食べた記憶がない。

 どうなってるんだろう……』


 比較的早い段階で、そう書いてある記録は、どう読んだっておかしな内容だ。


『六日目。

 推測にはなるが、きっと、私は黒板の呪いの話を誰かから聞いてしまったのだろう。

 そして、その末路は黒板に引きずり込まれるというものだったはず。

 なら、ここは黒板の中?

 色々と手当たり次第に資料を探しているものの、目立った収穫はない。

 私は、ここから出られるのだろうか?』


「出られない、おかしな世界……。まさか、私達も?」


 資料の内容に不安を覚えた様子の望月。しかし、確証がない上に、そもそも彼女達は『開かずの教室』で肝試しをしようという話だったはずで、どこにも黒板のことはなかった。


『十日目。

 今日、初めて図書室から出ようと思い至った。

 しかし、鍵が掛かっているというよりも、扉が何かに固められているかのように、全く動かない。

 それに、こんな状態になっているのに、何で今まで出ようと思わなかったのか、全く理解できない。

 ただ、黒板の呪いに関して、何か思い出せそうな気もする。

 とても、大切なことだったと思うけど……』

『十一日目。

 基本的に、怪談というのは、何らかの怨念とか、そういったものが裏にある。

 誰かの恨みが、この現象を引き起こしているのだとすると、学校に関連した事件か?

 つい最近の事件なのか、それとももっと昔のものなのか……。

 この学校の歴史を調べてはいるが、やはり収穫はない』


 学校に関連した事件。そこから思い浮かべるのは、当然開かずの教室。しかし、それはこの資料の作成日を見た瞬間に否定されてしまう。


「これ、二十年前の資料……?」


 そこには、『二〇〇三年七月』という文字があった。
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