黒板の怪談

星宮歌

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第二章 答えを求めて

第三十一話 二手に分かれて

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 地下室の骸骨とはどういうことなのか、とか、そこから導き出せた推測とは何か、とか、色々と聞かなければならないことも、話さねばならないこともたくさんあったはずだ。
 しかし、それは言葉になることはなかった。


 カツン………………。


 そう、あの音が聞こえてきたから。


「「「「「っ!?」」」」」


 ここに居る五人は、全員この音を聞いている。そして、その上で、何となく良くないものなのだということだけは理解していた。

 図書室から遠く離れた場所から聞こえていると思われるそれ。そのどこか硬質な足音が響いたことを確認するや否や、彼らはそっと音がした方向へと視線を向ける。


 カツン………………。


 まだ、そこそこ距離は遠く感じられる。しかし、それもいつこちらへ迫ってくるか分からない。


「ひとまず、その地下室が今の時代もあるかもしれないから、そこへ行ってみよう」


 小声でそう指示を出す芦田。確かに、十年前と現在では状態が違う可能性も、何か手がかりがある可能性もある。しかし、それに焦ったのは望月だった。


「待って、それって、カウンターの奥の床下収納なんだよね? それなら、全員は行かない方が良いかもしれない」

「それは……確かに、逃げ場がないものね」

「そ、そうだね。二手に分かれて、異常があればすぐに引き上げられるようにした方が、いいかも?」


 望月は、そんな二人の言葉に大きく頷く。


「そうっ。それに、鹿野田君は、少しでも動かずに休んでた方が良いと思うよ!」

「おぉーっ、優愛ちゃん、心配してくれてるのー? やっさしーっ」


 そう茶化す鹿野田だったが、望月の表情は真剣だった。


「当然っ! 怪我してるんだから、安静にしとかないとでしょっ」

「……そっかー。ありがとう、優愛ちゃん」


 面食らった顔をしながらも感謝を告げる鹿野田。望月は、その様子に大きく頷くと、芦田達の方へと向き直る。


「鹿野田君と一緒に居る人は、できれば男子が良いと思ってるけど、どうかな?」


 そう問いかければ、芦田は眉間にくっきりとシワを作る。


「……俺でも良いが、中田、頼まれてくれるか?」

「ぼ、僕!?」

「あぁ、中田は、俺よりも頭が良い。だから、何か予想外のことが起こっても、俺よりは要領よく対処できるような気がしてな」


 そう言った芦田の言葉に、中田は少しばかり呆然としていたものの、すぐに頷く。


「う、うん。なら、僕が鹿野田君の側に居るよ」


 そう、ある程度の方針が決まると、また微かに『カツン』という音が遠くから聞こえてくる。


「鹿野田と中田は待機。それ以外は、杉下の案内で行くぞ」


 そっと小声で告げた芦田の言葉に、全員が小さく頷く。
 静かに、極力音を出さずに、三人は速やかに地下室へと繋がる場所へと向かう。


「それで、どうして鹿野田君を遠ざけたの?」

「遠ざけた? どういうことだ?」


 しかし、少し進んで、声が聞こえないであろう距離まで来ると、杉下は望月へとそう問いかけていた。


「……うん、これを、見てもらいたくて、でも、鹿野田君に話すかどうかを判断できなくて……」


 言いながら、望月は先程見つけた資料を床下収納から取り出して二人に見せる。

 『願希小学校司書、鹿野田恭子』。望月が示した資料には、確かにそんな文字が書かれていた。
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