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第一章 入場
第二話 ソト
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赤い手形。しかし、それは恐らく血痕ではないだろう。もしも血痕だとするならば、それは鮮やか過ぎる色合いだ。むしろ、ペンキか何かがついたまま、ベタベタと触ったと言われた方が納得できる。
ただし、随分と新しく見えるそれが、いつ付けられたものなのか、という問題はあるが……。
「……は、早く、出よう」
震えそうになる足を叱咤して、澪は手形だらけの玄関らしき扉へ手を伸ばし、先程の子供部屋の時と同様に袖の布越しにドアノブへと手をかける。
ザラリとした感触が布越しに伝わる。それでも、澪は意を決して扉を一気に開いた。
「っ、外!」
見えた光景に、思わずといった様子で駆け出した澪。ただ、その足はすぐに止まった。
確かに、そこは外だった。植物も見えるし、何よりも天井や壁が無い。しかし、空気はどんよりと淀み、空は曇っているのか、随分と暗かった。街灯は一つも存在せず、どこまで続くのか分からない細道が左右に伸びるのみ。
「……葵、どこ……?」
外に出られたのは良かったものの、どちらに行けば良いのかすら分からない。普段はしっかり者の姉であっても、こんなわけの分からない状態では心細くなるのも当然だった。
とにかく、どちらかには進まなければならない。その思いで、澪は右に伸びる道を選択する。根拠など何もない。本当に何となく選んだだけの道。
しん、と静まり返った暗い道を、澪はトボトボと歩く。心細さに泣きたくなるものの、それを我慢しているのが丸分かりな表情で、必死に歩く。
どこまで歩いただろうか。澪はふいに、キシキシとした音がどこからか聞こえてくることに気付いた。
「な、に……?」
無音だった空間に響く軋むような音。澪が立つ場所は、当然崩れかけの屋内などではない。それでも、そんな音が聞こえるということは、そんな音を立てる何かが近くにある、ということだった。
「あっち……?」
恐怖心と、もしかしたら誰かが居るかもしれないという希望が混ざり合った状態なのか、澪はその音がする方向を確認したものの、立ち止まったまま動けないようだった。
今の季節は、暖かくなってきたとはいえ、まだ三寒四温が続くような時期。その場所の気温も低く、完全に室内着でしかなかった澪は少し震えていたが、きっと、それは寒さばかりが理由ではないのだろう。
「大丈夫、私は、大丈夫……きっと、葵も、心細いはずだから……お姉ちゃんの私が行かないと……」
大切な妹が自分よりも大変かもしれない。そんなことを考えて、澪はこのまま音の方へと進むことに決める。
虫の声も聞こえない細道を、一歩、また一歩。
キシキシ、キシキシと軋む音は、徐々にはっきりと聞こえるようになる。
「……」
ただ、この時になって、澪はようやくおかしいことに気付く。
こんなにもはっきりと聞こえる音なのに、その音の発生源が全く見えてこない。確かに、視界がそれほど良いわけではないが、それでも、澪の感覚からすると、すでにあの廃屋の中でキシキシといった音を聞いていた時と変わりない音量で、その音は聞こえてきているのだ。
何かが、おかしい。
その感覚は、澪の足を止めた。
ただし、随分と新しく見えるそれが、いつ付けられたものなのか、という問題はあるが……。
「……は、早く、出よう」
震えそうになる足を叱咤して、澪は手形だらけの玄関らしき扉へ手を伸ばし、先程の子供部屋の時と同様に袖の布越しにドアノブへと手をかける。
ザラリとした感触が布越しに伝わる。それでも、澪は意を決して扉を一気に開いた。
「っ、外!」
見えた光景に、思わずといった様子で駆け出した澪。ただ、その足はすぐに止まった。
確かに、そこは外だった。植物も見えるし、何よりも天井や壁が無い。しかし、空気はどんよりと淀み、空は曇っているのか、随分と暗かった。街灯は一つも存在せず、どこまで続くのか分からない細道が左右に伸びるのみ。
「……葵、どこ……?」
外に出られたのは良かったものの、どちらに行けば良いのかすら分からない。普段はしっかり者の姉であっても、こんなわけの分からない状態では心細くなるのも当然だった。
とにかく、どちらかには進まなければならない。その思いで、澪は右に伸びる道を選択する。根拠など何もない。本当に何となく選んだだけの道。
しん、と静まり返った暗い道を、澪はトボトボと歩く。心細さに泣きたくなるものの、それを我慢しているのが丸分かりな表情で、必死に歩く。
どこまで歩いただろうか。澪はふいに、キシキシとした音がどこからか聞こえてくることに気付いた。
「な、に……?」
無音だった空間に響く軋むような音。澪が立つ場所は、当然崩れかけの屋内などではない。それでも、そんな音が聞こえるということは、そんな音を立てる何かが近くにある、ということだった。
「あっち……?」
恐怖心と、もしかしたら誰かが居るかもしれないという希望が混ざり合った状態なのか、澪はその音がする方向を確認したものの、立ち止まったまま動けないようだった。
今の季節は、暖かくなってきたとはいえ、まだ三寒四温が続くような時期。その場所の気温も低く、完全に室内着でしかなかった澪は少し震えていたが、きっと、それは寒さばかりが理由ではないのだろう。
「大丈夫、私は、大丈夫……きっと、葵も、心細いはずだから……お姉ちゃんの私が行かないと……」
大切な妹が自分よりも大変かもしれない。そんなことを考えて、澪はこのまま音の方へと進むことに決める。
虫の声も聞こえない細道を、一歩、また一歩。
キシキシ、キシキシと軋む音は、徐々にはっきりと聞こえるようになる。
「……」
ただ、この時になって、澪はようやくおかしいことに気付く。
こんなにもはっきりと聞こえる音なのに、その音の発生源が全く見えてこない。確かに、視界がそれほど良いわけではないが、それでも、澪の感覚からすると、すでにあの廃屋の中でキシキシといった音を聞いていた時と変わりない音量で、その音は聞こえてきているのだ。
何かが、おかしい。
その感覚は、澪の足を止めた。
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