冒険の書 ~続の書~

星宮歌

文字の大きさ
4 / 21
第一章 第一フロア

痕跡

しおりを挟む
「うっわ、広っ」


 扉を潜って進むと、そこは、随分と広い廊下のような場所だった。いや、廊下というよりも、これはまるで……ダンジョンだ。ゲームの中で挑むダンジョンに似ていると、どうしてかそう思ってしまう。

 どこかネットリとした空気の中、僕は少し興奮気味に辺りを見回す。


 もし、万が一、ここが異世界だとすれば、どこかにモンスターが居るかもしれない。


 そう思ってしまえるくらいには、そこは、雰囲気満点だった。……ただ、自分の装備のこともあって、その場の雰囲気に酔っているだけかもしれないが。


「ここの光源も苔みたいだな」


 ダンジョンっぽい雰囲気の中、僕は篝火かがりびが全くないことに少しだけ残念な気持ちになる。何となく、篝火があった方がもっと本格的になるように思えたからだ。


「まぁ、これはこれでありだけど」


 ひとまず、この苔が全部剥がれ落ちるようなことでもない限り、光源には困らない。それを考えれば、篝火ではないことは、むしろ良いことなのかもしれない。


「よしっ、まずは探検だなっ!」


 本来なら、ここはどこなんだとか、どうしてこんなところにとかいった内容で不安になっても仕方ない状況。にもかかわらず、僕は、むしろやる気に満ち溢れていた。
 少なくとも、拘束はされていなかった。監視はされているようだが、動けないわけじゃない。それどころか、武器までもたされている。これならば、多少のことはどうにでもなるだろうと思えた。


 コツコツと足音を立てて、僕は通路を眺めていく。変わり映えのしない通路でも、今の僕にとっては面白いものでしかなかった。

 ただ……そんな風に通路を見ていたからだろうが、僕は、その時、偶然にもそれを見つけられた。


「ん? これ、何だ?」


 それは、ただの引っ掻き傷にしては、少し複雑に見えた。それで、僕は不審に思って近寄ってみたわけだが……。


「……何だよ、これ……」


 そこには、同じ内容が繰り返し、刻まれていた。


『助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて――――』


 思わず、僕は一歩後ずさる。しかし、そこで、僕はまたしてもいらぬことに気づいてしまう。


「待てよ……これって、まさか……」


 周りを良く見て、僕はようやく気づく。そこには、いくつもの引っ掻き傷・・・・・があることを。そこには、いくつもの、嘆きが描かれていることを。


「……っ」


 あまりに異常な、その引っ掻き傷達に、僕は言葉を失う。途端に、この場所が、薄気味悪く、恐ろしい場所のように思えて身震いする。


「なん、なんだ、これは?」

『何で、こんなことに……』

『許して許して許して許して――――』

『帰りたい、帰りたいよぉ』


 それらの傷は、恐らく、全て違う人間がつけたものだ。引っ掻き傷の場合、筆跡と呼んで良いのかどうかは分からないが、それが、全て違って見えるのだ。つまりは……。


「これだけの人が、ここに、居た、のか?」


 誰かがここに居た痕跡。誰かがここで絶望した痕跡が、ところ狭しと刻まれ続けている。しかし……。


「……でも、あんな高いところ、どうやって……?」


 読めはしないものの、随分と高い位置にも、その引っ掻き傷はあった。高さにして、三メートルから五メートルくらいだろうか。どんなに背の高い人間でも、あんな場所にまで引っ掻き傷は残せないはずだった。


「……っ、とにかく、離れなきゃっ」


 こんなものが残っている意味は分からない。しかし、こんなものが残っている場所に長く居るのは危険だということくらい、混乱した頭でも理解できた。

 僕は、まともに探索もしないままに、元居た場所へと走って逃げ帰った。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


今回は、ちょっとしたお茶目は、なりを潜めております。

毎回お茶目が過ぎるといけませんしね?

だって、この作品のジャンルはホラーなんですからっ。

『始の書』の時にはなかった壁の文字。

これがどういうものなのかというのは、皆さんの想像にしばらくお任せしましょう。

いずれ、答えは出しますので。

それでは、また!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...