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第一章 第一フロア
一人
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お兄ちゃんが大怪我をした。それはきっと、私が戦いたくないと言ったせいだ。私を守るためにお兄ちゃんは前に出るしかなかった。本当なら、敵がどんな行動を取るか見極める必要があったのに。
「お兄ちゃん、どう?」
「あ、あぁ、少しは楽になったよ」
『濃厚な水』の臭さと格闘しながら、お兄ちゃん鎧を取っての手を清めた私は、水が瓶からなくなってしまえば臭いが消えることに安堵しつつ、お兄ちゃんに状態を尋ねる。返ってきたのは、脂汗をかいて、無理矢理、笑顔を浮かべたお兄ちゃんの返事だったが……。
ベンとの戦いは大変だったものの、今は水が多いことに感謝して、私はお兄ちゃんの『冒険の書』を開いて、先程のモンスターの情報を確認しようとする。しかし……。
「あ、開かない?」
「琴、音?」
なぜか、お兄ちゃんの『冒険の書』を開くことができなかった。どんなに力を入れてもビクともしない。
「もしかして、持ち主にしか開けないのかな?」
そうだとしたら、少し不味い。今、お兄ちゃんは手を怪我しているわけだから、『冒険の書』を開くことはできない。
私は少しだけ考えて、結論を出す。
「お兄ちゃん、私、アイテム図鑑とか、モンスター図鑑が掲載されるまで戦ってくる」
「はっ? ど、どうしてっ」
「お兄ちゃんの『冒険の書』は私じゃ開けられないみたいだし、食料調達もほとんど出来ていないようなものだし、この缶詰もどういうものなのか確認したいし」
理由をつらつらと並べ立てると、お兄ちゃんは首を横に振る。
「危険だ」
「でも、このままじゃあ共倒れだよ」
「うっ」
本当は、私だって怖い。できることなら、戦いなんてしたくない。それでも、今、私が動かなければ、お兄ちゃんは死んでしまうかもしれない。もちろん、戦いに出た私が死んでもお兄ちゃんは死ぬのだろうけど、何もしないで緩やかに死を待つより、足掻けるだけ足掻く方が良い。
「お兄ちゃんはそこで休んでて。私、行ってくるから」
決意が固いことが伝わったのか、はたまた熱のせいで考えがまとまらないのかは分からないものの、お兄ちゃんはそれ以上引き留めるようなことは言わなかった。
『冒険の書』をしっかりとリュックに入れ、ついでに『濃厚な水』も三つほど入れてから、私は扉の外へと出る。一人での探索は、お兄ちゃんに会う前に少し行っただけだ。慎重に警戒して進まなければならない。
ベンは大量に来られたら討伐は難しいかも。ワームは……危険だけど、最初の攻撃さえかわせたらなんとかなりそう。人食い花は、足元に気を付けていたら大丈夫かな?
今まで出会ったモンスターのことを分析しながら、どのモンスターを標的にするか考える。
人食い花が無難だよね。どうしても無理だったらワームで。ベンは逃げの一択。
そう考えて、警戒をしていると、ふいにその音に気づく。
ズル。
これは……ワーム?
慌てて『冒険の書』を取り出して見てみると、確かにそこには『ワームが現れた』という一文がある。つい先程、お兄ちゃんに重傷を負わせたワーム。その存在に、私は生唾を呑む。
いける、かな?
ズルズル。
音の方向は前方だ。もう少しでワームの姿も見えそうな距離。そこで、私は『濃厚な水』を一つ取り出す。
多分、大丈夫。お兄ちゃんは気づいてなさそうだったけど、レベルが上がるごとに、身体能力が上がってる感覚があるし。
もし失敗しても、まだ二つ残っている。そう思って、私はおもむろに、『濃厚な水』をワームへと投げた。
ピシャアッ!!
投げた直後、ワームは内臓を吐き出し、あの酸をぶちまける。しかし、距離が離れているおかげで私にまでそれは届かない。
今っ!
そして、ゆっくりズルズルと内臓を戻し始めたところで、私は剣を抜いて駆け出す。緊張と恐怖でおかしくなりそうな心を押し隠して、ワームの本体へと駆け寄り剣を降り下ろす。
生々しい肉を断ち切る感触に、ゾワリと鳥肌を立てる。
「シャアァアッ」
しかし、お兄ちゃんのように一撃では仕留められず、ワームは悲鳴を上げてのたうってきた。
「くっ、このっ!」
今は気持ち悪いとか言っている場合ではない。早く仕留めなければならない。
私はもう一度剣を降り下ろし、ワームの頭を貫く。すると、ようやく、ワームは黒い光を放って消えるのだった。
「ふ、ぅ……やった。私、やったよ。お兄ちゃん」
ブルブルと震えながらそう呟いた私は、ワームがドロップしたアイテムが缶詰ではないことに少し遅れて気づく。それは、前にベンがドロップした『毒草』のようにビニール袋に入った葉っぱだった。
モンスターを一体倒したことで、アイテム図鑑が掲載されているのではないかと思った私は、すかさずそれを調べてみる。
「……あった」
『アイテム図鑑
食糧編
4 何かの魚の缶詰
ワームのドロップアイテム
何の魚かって?
青魚ってくらいしか分からねぇな
一応腐ってはいないから安心しろ
薬編
2 薬草(中)
ワームのレアドロップアイテム
傷口に刷り込んでごらん?
きっと、多分、わりと大きく、一部を回復してくれるから 』
どうやら私は運が良い。もしかしたら、この『薬草(中)』はお兄ちゃんを回復してくれるものかもしれない。時間はかかるだろうが、薬が全くないよりはマシだった。
「よし、いったん戻ろう」
そう思って振り返った瞬間、私は辺りの警戒を怠ったことを後悔する。
ヂュウゥゥウ。
そこには、ベンが一匹、もう逃げられないくらいの距離まで迫っていたのだから……。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
うーむ、何だか、困ったら物を投げさせて対処させてるような?
『~始の書~』でもそんなところがあったので、ちょっと変えないといけないかなぁと思いつつも、基本的に魔法とか使えないのでそのままにしてしまってます。
この後は少し色々と考えてみますね。
それでは、また!
「お兄ちゃん、どう?」
「あ、あぁ、少しは楽になったよ」
『濃厚な水』の臭さと格闘しながら、お兄ちゃん鎧を取っての手を清めた私は、水が瓶からなくなってしまえば臭いが消えることに安堵しつつ、お兄ちゃんに状態を尋ねる。返ってきたのは、脂汗をかいて、無理矢理、笑顔を浮かべたお兄ちゃんの返事だったが……。
ベンとの戦いは大変だったものの、今は水が多いことに感謝して、私はお兄ちゃんの『冒険の書』を開いて、先程のモンスターの情報を確認しようとする。しかし……。
「あ、開かない?」
「琴、音?」
なぜか、お兄ちゃんの『冒険の書』を開くことができなかった。どんなに力を入れてもビクともしない。
「もしかして、持ち主にしか開けないのかな?」
そうだとしたら、少し不味い。今、お兄ちゃんは手を怪我しているわけだから、『冒険の書』を開くことはできない。
私は少しだけ考えて、結論を出す。
「お兄ちゃん、私、アイテム図鑑とか、モンスター図鑑が掲載されるまで戦ってくる」
「はっ? ど、どうしてっ」
「お兄ちゃんの『冒険の書』は私じゃ開けられないみたいだし、食料調達もほとんど出来ていないようなものだし、この缶詰もどういうものなのか確認したいし」
理由をつらつらと並べ立てると、お兄ちゃんは首を横に振る。
「危険だ」
「でも、このままじゃあ共倒れだよ」
「うっ」
本当は、私だって怖い。できることなら、戦いなんてしたくない。それでも、今、私が動かなければ、お兄ちゃんは死んでしまうかもしれない。もちろん、戦いに出た私が死んでもお兄ちゃんは死ぬのだろうけど、何もしないで緩やかに死を待つより、足掻けるだけ足掻く方が良い。
「お兄ちゃんはそこで休んでて。私、行ってくるから」
決意が固いことが伝わったのか、はたまた熱のせいで考えがまとまらないのかは分からないものの、お兄ちゃんはそれ以上引き留めるようなことは言わなかった。
『冒険の書』をしっかりとリュックに入れ、ついでに『濃厚な水』も三つほど入れてから、私は扉の外へと出る。一人での探索は、お兄ちゃんに会う前に少し行っただけだ。慎重に警戒して進まなければならない。
ベンは大量に来られたら討伐は難しいかも。ワームは……危険だけど、最初の攻撃さえかわせたらなんとかなりそう。人食い花は、足元に気を付けていたら大丈夫かな?
今まで出会ったモンスターのことを分析しながら、どのモンスターを標的にするか考える。
人食い花が無難だよね。どうしても無理だったらワームで。ベンは逃げの一択。
そう考えて、警戒をしていると、ふいにその音に気づく。
ズル。
これは……ワーム?
慌てて『冒険の書』を取り出して見てみると、確かにそこには『ワームが現れた』という一文がある。つい先程、お兄ちゃんに重傷を負わせたワーム。その存在に、私は生唾を呑む。
いける、かな?
ズルズル。
音の方向は前方だ。もう少しでワームの姿も見えそうな距離。そこで、私は『濃厚な水』を一つ取り出す。
多分、大丈夫。お兄ちゃんは気づいてなさそうだったけど、レベルが上がるごとに、身体能力が上がってる感覚があるし。
もし失敗しても、まだ二つ残っている。そう思って、私はおもむろに、『濃厚な水』をワームへと投げた。
ピシャアッ!!
投げた直後、ワームは内臓を吐き出し、あの酸をぶちまける。しかし、距離が離れているおかげで私にまでそれは届かない。
今っ!
そして、ゆっくりズルズルと内臓を戻し始めたところで、私は剣を抜いて駆け出す。緊張と恐怖でおかしくなりそうな心を押し隠して、ワームの本体へと駆け寄り剣を降り下ろす。
生々しい肉を断ち切る感触に、ゾワリと鳥肌を立てる。
「シャアァアッ」
しかし、お兄ちゃんのように一撃では仕留められず、ワームは悲鳴を上げてのたうってきた。
「くっ、このっ!」
今は気持ち悪いとか言っている場合ではない。早く仕留めなければならない。
私はもう一度剣を降り下ろし、ワームの頭を貫く。すると、ようやく、ワームは黒い光を放って消えるのだった。
「ふ、ぅ……やった。私、やったよ。お兄ちゃん」
ブルブルと震えながらそう呟いた私は、ワームがドロップしたアイテムが缶詰ではないことに少し遅れて気づく。それは、前にベンがドロップした『毒草』のようにビニール袋に入った葉っぱだった。
モンスターを一体倒したことで、アイテム図鑑が掲載されているのではないかと思った私は、すかさずそれを調べてみる。
「……あった」
『アイテム図鑑
食糧編
4 何かの魚の缶詰
ワームのドロップアイテム
何の魚かって?
青魚ってくらいしか分からねぇな
一応腐ってはいないから安心しろ
薬編
2 薬草(中)
ワームのレアドロップアイテム
傷口に刷り込んでごらん?
きっと、多分、わりと大きく、一部を回復してくれるから 』
どうやら私は運が良い。もしかしたら、この『薬草(中)』はお兄ちゃんを回復してくれるものかもしれない。時間はかかるだろうが、薬が全くないよりはマシだった。
「よし、いったん戻ろう」
そう思って振り返った瞬間、私は辺りの警戒を怠ったことを後悔する。
ヂュウゥゥウ。
そこには、ベンが一匹、もう逃げられないくらいの距離まで迫っていたのだから……。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
うーむ、何だか、困ったら物を投げさせて対処させてるような?
『~始の書~』でもそんなところがあったので、ちょっと変えないといけないかなぁと思いつつも、基本的に魔法とか使えないのでそのままにしてしまってます。
この後は少し色々と考えてみますね。
それでは、また!
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