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前編
「リィナ・マーシャル! 今度こそ、婚約破棄だ!」
今日も懲りずに、第二王子殿下のその言葉が響き渡り、誰も、それに見向きもしなかった。
それは、トトッコ王国のとある学園の卒業式。その学園では、紳士・淑女教育のため、もしくは領政を学ぶため、あるいは、人脈を築くためなど、ありとあらゆる目的を持った貴族達が集まる。ただ、当然ながら、さして大きな目標を持つこともなく過ごす者も、友情や恋愛事に夢中な者も存在する。
その中でも最たるもの……現在、この学園の生徒の中では最も身分が高く尊い身とされていたトトッコ王国第二王子、カーク・ド・トトッコ。飴色のフワフワとした髪に、ピンク色の瞳を持つ完全に童顔な美少年の姿は、今や見る影もなくやつれ、その瞳には狂気をたたえている。
しかし、この世界は良くも悪くも身分がものを言い、損得で動く世界。関わっても損にしかならない王子の姿など、誰も目にしようとはしていなかった。
「承知いたしました。では、証をここに」
カークの声に応えるのは、見事な金髪に青い瞳を持つ絶世の美女。ゴージャスという言葉が似合う、成人間近なその女性は、リィナ・マーシャル。マーシャル公爵家の長女にして、トトッコ王国の才媛と名高い、第二王子殿下の婚約者だ。
柔らかな微笑みで『証』を促すリィナの姿は、まるで女神のようだったが、カークはそのリィナの言葉に青ざめる。
「そ、そんなものは、必要ないだろ!」
「あら? そうですか? では、婚約破棄は無理ということで処理いたしましょう」
「っ、い、嫌だっ! お前なんかとは、絶対に婚約破棄してやる!! お前のような性悪と結婚なんかするものか!!」
聞き分けのない子どものように首を振るカークの姿は、どう見ても一国の王子には見えない。
「困りましたわ。わたくしはただ、婚約破棄に必要なものを提示していただきたいとお願いしただけですのに……皆様は、それでもやはり、わたくしが悪いと思われるのでしょうか?」
眉尻を下げて周囲の令息や令嬢達へと問いかけるリィナの姿に、男も女も関係なしに見惚れ、否定の言葉を紡ぐ。
「そんなわけありませんわ!」
「マーシャル嬢が悪いなんて、あるわけない!」
「美しい……。マーシャル嬢のような方にそんな愚かなことを言う者こそ、悪というものだ」
口々にリィナが正しいのだと告げる人々の声に、リィナはにっこりと微笑み、カークへと向き直る。
「そういうわけですので、どうぞ、証の提示を願いますわ。あぁ、ですが、明日が結婚式ですので、難しいでしょうか?」
そう、カークは、明日がリィナとの結婚式であるにもかかわらず、このような暴挙に出ていた。それを知るのはもちろん、当人だけではない。周囲の令息、令嬢達とて知っていることであり、カークの常識外れな行動に、内心眉をひそめていた。
ただ、それでもカークを彼らが見ようとしないのは王命が下されたから。第二王子カークには、試練を与えるため、カークへの手助けを禁じるというもの。
当然、このような常識外れな行動に手を貸したがる者など、その権力に媚びた者くらいだろうが、それ以前にも様々なやらかしをしていたカークには、そんな味方さえ居ない。正直、リィナとの結婚が無ければ廃嫡されるだろうと噂されるような王子など、どこにも価値はないのだ。
結果、彼らがとった行動は、カークへの無関心。カークの姿は徹底的に無視され、誰かがカークに絡まれることがあろうものなら、全員が協力してカークから引き離してもらえる。そんな、ある意味孤独な、しかし、自業自得でしかない状況ができあがっていた。
今日も懲りずに、第二王子殿下のその言葉が響き渡り、誰も、それに見向きもしなかった。
それは、トトッコ王国のとある学園の卒業式。その学園では、紳士・淑女教育のため、もしくは領政を学ぶため、あるいは、人脈を築くためなど、ありとあらゆる目的を持った貴族達が集まる。ただ、当然ながら、さして大きな目標を持つこともなく過ごす者も、友情や恋愛事に夢中な者も存在する。
その中でも最たるもの……現在、この学園の生徒の中では最も身分が高く尊い身とされていたトトッコ王国第二王子、カーク・ド・トトッコ。飴色のフワフワとした髪に、ピンク色の瞳を持つ完全に童顔な美少年の姿は、今や見る影もなくやつれ、その瞳には狂気をたたえている。
しかし、この世界は良くも悪くも身分がものを言い、損得で動く世界。関わっても損にしかならない王子の姿など、誰も目にしようとはしていなかった。
「承知いたしました。では、証をここに」
カークの声に応えるのは、見事な金髪に青い瞳を持つ絶世の美女。ゴージャスという言葉が似合う、成人間近なその女性は、リィナ・マーシャル。マーシャル公爵家の長女にして、トトッコ王国の才媛と名高い、第二王子殿下の婚約者だ。
柔らかな微笑みで『証』を促すリィナの姿は、まるで女神のようだったが、カークはそのリィナの言葉に青ざめる。
「そ、そんなものは、必要ないだろ!」
「あら? そうですか? では、婚約破棄は無理ということで処理いたしましょう」
「っ、い、嫌だっ! お前なんかとは、絶対に婚約破棄してやる!! お前のような性悪と結婚なんかするものか!!」
聞き分けのない子どものように首を振るカークの姿は、どう見ても一国の王子には見えない。
「困りましたわ。わたくしはただ、婚約破棄に必要なものを提示していただきたいとお願いしただけですのに……皆様は、それでもやはり、わたくしが悪いと思われるのでしょうか?」
眉尻を下げて周囲の令息や令嬢達へと問いかけるリィナの姿に、男も女も関係なしに見惚れ、否定の言葉を紡ぐ。
「そんなわけありませんわ!」
「マーシャル嬢が悪いなんて、あるわけない!」
「美しい……。マーシャル嬢のような方にそんな愚かなことを言う者こそ、悪というものだ」
口々にリィナが正しいのだと告げる人々の声に、リィナはにっこりと微笑み、カークへと向き直る。
「そういうわけですので、どうぞ、証の提示を願いますわ。あぁ、ですが、明日が結婚式ですので、難しいでしょうか?」
そう、カークは、明日がリィナとの結婚式であるにもかかわらず、このような暴挙に出ていた。それを知るのはもちろん、当人だけではない。周囲の令息、令嬢達とて知っていることであり、カークの常識外れな行動に、内心眉をひそめていた。
ただ、それでもカークを彼らが見ようとしないのは王命が下されたから。第二王子カークには、試練を与えるため、カークへの手助けを禁じるというもの。
当然、このような常識外れな行動に手を貸したがる者など、その権力に媚びた者くらいだろうが、それ以前にも様々なやらかしをしていたカークには、そんな味方さえ居ない。正直、リィナとの結婚が無ければ廃嫡されるだろうと噂されるような王子など、どこにも価値はないのだ。
結果、彼らがとった行動は、カークへの無関心。カークの姿は徹底的に無視され、誰かがカークに絡まれることがあろうものなら、全員が協力してカークから引き離してもらえる。そんな、ある意味孤独な、しかし、自業自得でしかない状況ができあがっていた。
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