わたくし、異世界で婚約破棄されました!?

星宮歌

文字の大きさ
19 / 78
第二章 ライバル

第十九話 食事は大切です

しおりを挟む
 バーサークピッグ。名前は豚だが、猪と言わない理由が分からないほどに、そいつの突進は強烈だ。一度、バーサークピッグが通れば、その道には何も残らないと言わしめるほどのもので、実際に、家を潰された人だって居る。しかし、それを見たわたくし達の感想は以下の通り。


「これなら、僕一人でも倒せるよっ」

「そのようですわね」


 通常、百人単位の戦力が必要となる敵であるにもかかわらず、わたくし達の反応は随分とのんびりしたものだった。
 口調を変える必要性もない今、わたくしはいつもの声に戻して、とりあえず魔法を唱える。


「では、まずは《堅牢なる大地よ》」


 そう言った途端、全てをなぎ倒すバーサークピッグの前に、巨大な土壁がせり上がる。そして……。


 ドゴォォオッ!!


 凄まじい衝突音の後、バーサークピッグは土壁に弾き飛ばされてその巨体を停止させる。その際、地面が割れたのは、まぁ愛嬌ということで。


「それじゃあ、僕の番っ」


 特に打ち合わせはしていなかったものの、バーサークピッグが停止した直後、ルティアスは素早く腕からほとんど見えない糸を出して、バーサークピッグを絡め取る。
 ルティアス曰く、あれは暗器の一種らしく、かなりの強度と切れ味を持つ糸らしい。そんな糸に全身を絡め取られたらどうなるか。それは、現在、バーサークピッグが目の前で実演してくれていた。


「ブモッ?」


 ルティアスが糸を引いた瞬間、バーサークピッグは短く鳴く。それが、バーサークピッグの最期だった。
 ドシャッという音とともに、バーサークピッグの肉体は、ブロック肉へと変換されるのだった。


「見事な手並みですわね」

「ううん、リリスさんには敵わないよ。僕だと、魔の森に居る魔物には手も足も出ないし」

「それは単純に相性が悪いだけですわ」


 実際、魔の森の魔物は相当に強い。幻覚作用を持つものや、毒を持つものはもちろん、とにかく群れて、素早く動くものが多いのだ。
 ルティアスの戦闘スタイルは、標的を一個体に定めて、少し立ち止まった瞬間を狙い討つものだ。はっきり言って、集団戦でルティアスは真価を発揮することはない。


「ルティアスの戦い方は暗殺者のそれですわ。基本、対人戦にしか向かない戦い方ではありますが、ルティアスの場合、魔物にも対応できるのです。それだけでも、十分すごいことだと思いますわよ?」

「……リリスさんに褒められた……? どうしよう、すっごく嬉しい。ねぇ、リリスさん、抱き締めても良い?」


 顔を赤くして、手の甲を口元に持ってきたルティアスは、潤んだ瞳で、わたくしにそんな問いかけをする。


「ダッ、ダメに決まってますでしょうっ!」


 不覚にも、一瞬『可愛い』と思ってしまったわたくしだったけれど、どうにかその思いを堪えて反論する。すると、ルティアスは途端に元気をなくす。


「そっか……」


 しゅんと垂れた耳と尻尾の幻影を振り払いつつ、わたくしは視線をブロック肉となったバーサークピッグへと向ける。実は、このバーサークピッグ、かなりの高級食材である。


「バカなことを言ってないで、肉を回収しますわよ」


 ブロック肉といっても、縦と横で四等分にされただけのバーサークピッグは、まだまだ解体しなければならない状態だ。血抜きは、水魔法を応用すれば簡単にできるし、内臓は、一部を除いてそれなりに使い道はある。皮に関しては、カーペットにするも良し、服や防具に使用するも良しの素材だ。
 ちなみに、バーサークピッグの素材の中で、最も高価なのは、その角や牙、骨である。それらは、粉末にすると、高品質な媚薬となるらしく、貴族の間で特に取引が多いのだ。一説によると、バーサークピッグが暴れ回る原因は、その媚薬成分を体内に有しているせいだとも言われており……あながち間違いでもないと思えてしまう。


「骨や牙、角は売るんだよね?」

「えぇ、もちろんですわ。持っていても使い道なんてありませんし」


 どこか顔を赤くして尋ねてくるルティアスに、わたくしは即答する。きっと、ルティアスもそれらの素材の行く末を知っているのだろう。


「じゃあ、お肉はどうする? 一部はもらって、後は売る?」

「そうなりますわね」

「じゃあ、今日は焼き肉にしようねっ。あっ、それとも豚丼とかも良いかな? あー、こんなことなら、生姜を持ってくるんだった! 生姜焼きっていうのも美味しいんだよっ」


 そんな言葉に、わたくしは前世のことを思い出す。思えば、この世界に生まれてから、日本で食べていたようなものを食べた記憶はない。似たものはあっても、どこか違うし、あまり美味しくないのだ。どこかに日本食がないだろうかと探したけれど、それらしいものは見つかっていない。


「豚丼……生姜焼き……」


 もしかして、魔族の国には日本食があるのだろうか?
 わたくしが興味を持ったと知ったルティアスは、満面の笑みでうなずく。


「そうだよっ! 僕の国の料理なんだけどねっ。大昔に、異世界からの転移者が伝えたとされてる料理なんだっ」


 『異世界からの転移者』という言葉に、わたくしは、ドキリとする。


「異世界からの、転移者……? そ、それは、どこの世界とか、国とか、伝わってますのっ!?」

「えっ? う、うん……伝わってはなかったと思うけど……そういえば、ユーカ様は自分の故郷じゃないかって言ってたかなぁ? えぇっと、『にほー』だったか、『にーほ』だったか……」


 ユーカ様というのが何者か気になるけれど、それよりも、恐らくは日本からの転移者が居たのだという事実に、驚きを隠せない。


「ほ、他に、どのようなことが伝わってますの?」

「他? 確か、僕達の言葉は、その異世界の言葉らしいよ。あっ、それとも料理のことだった? それなら、お刺身とか、お寿司とか、ラーメンとか、おひたしとか、煮しめとか、豚の角煮とか……そうだっ、豚といえば、角煮も美味しいんだよっ!」


 確かに、ルティアスに出会ってまず驚いたのは、日本語で話してきたことだった。まさか、異世界からの転移者が伝えたものだとは思わなかったけれど、これで納得できる。
 そして、ルティアスの挙げた料理の羅列は、わたくしにとって、とても魅力的だった。
 わたくしは、ニコニコと微笑んでいるルティアスの側にフードが外れるのも構わず駆け寄り、ガシッと両手を掴む。


「ぜひとも、それらの料理を作ってくださいましっ」

「!? うんっ、もちろんだよっ!」


 嬉しそうに、けれど、真っ赤になったルティアスを見つめながら、わたくしは、久々に日本食が食べられる喜びに浮かれるのだった。
しおりを挟む
感想 170

あなたにおすすめの小説

<完結>溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。 本編完結済み。 続きのお話を、掲載中です。 続きのお話も、完結しました。

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?

ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」 バシッ!! わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。 目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの? 最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故? ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない…… 前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた…… 前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。 転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

愛のない結婚をした継母に転生したようなので、天使のような息子を溺愛します

美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
目が覚めると私は昔読んでいた本の中の登場人物、公爵家の後妻となった元王女ビオラに転生していた。 人嫌いの公爵は、王家によって組まれた前妻もビオラのことも毛嫌いしており、何をするのも全て別。二人の結婚には愛情の欠片もなく、ビオラは使用人たちにすら相手にされぬ生活を送っていた。 それでもめげずにこの家にしがみついていたのは、ビオラが公爵のことが本当に好きだったから。しかしその想いは報われることなどなく彼女は消え、私がこの体に入ってしまったらしい。 嫌われ者のビオラに転生し、この先どうしようかと考えあぐねていると、この物語の主人公であるルカが声をかけてきた。物語の中で悲惨な幼少期を過ごし、闇落ち予定のルカは純粋なまなざしで自分を見ている。天使のような可愛らしさと優しさに、気づけば彼を救って本物の家族になりたいと考える様に。 二人一緒ならばもう孤独ではないと、私はルカとの絆を深めていく。 するといつしか私を取り巻く周りの人々の目も、変わり始めるのだったーー

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜

鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。 誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。 幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。 ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。 一人の客人をもてなしたのだ。 その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。 【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。 彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。 そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。 そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。 やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。 ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、 「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。 学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。 ☆第2部完結しました☆

処理中です...