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第二章 ライバル
第十九話 食事は大切です
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バーサークピッグ。名前は豚だが、猪と言わない理由が分からないほどに、そいつの突進は強烈だ。一度、バーサークピッグが通れば、その道には何も残らないと言わしめるほどのもので、実際に、家を潰された人だって居る。しかし、それを見たわたくし達の感想は以下の通り。
「これなら、僕一人でも倒せるよっ」
「そのようですわね」
通常、百人単位の戦力が必要となる敵であるにもかかわらず、わたくし達の反応は随分とのんびりしたものだった。
口調を変える必要性もない今、わたくしはいつもの声に戻して、とりあえず魔法を唱える。
「では、まずは《堅牢なる大地よ》」
そう言った途端、全てをなぎ倒すバーサークピッグの前に、巨大な土壁がせり上がる。そして……。
ドゴォォオッ!!
凄まじい衝突音の後、バーサークピッグは土壁に弾き飛ばされてその巨体を停止させる。その際、地面が割れたのは、まぁ愛嬌ということで。
「それじゃあ、僕の番っ」
特に打ち合わせはしていなかったものの、バーサークピッグが停止した直後、ルティアスは素早く腕からほとんど見えない糸を出して、バーサークピッグを絡め取る。
ルティアス曰く、あれは暗器の一種らしく、かなりの強度と切れ味を持つ糸らしい。そんな糸に全身を絡め取られたらどうなるか。それは、現在、バーサークピッグが目の前で実演してくれていた。
「ブモッ?」
ルティアスが糸を引いた瞬間、バーサークピッグは短く鳴く。それが、バーサークピッグの最期だった。
ドシャッという音とともに、バーサークピッグの肉体は、ブロック肉へと変換されるのだった。
「見事な手並みですわね」
「ううん、リリスさんには敵わないよ。僕だと、魔の森に居る魔物には手も足も出ないし」
「それは単純に相性が悪いだけですわ」
実際、魔の森の魔物は相当に強い。幻覚作用を持つものや、毒を持つものはもちろん、とにかく群れて、素早く動くものが多いのだ。
ルティアスの戦闘スタイルは、標的を一個体に定めて、少し立ち止まった瞬間を狙い討つものだ。はっきり言って、集団戦でルティアスは真価を発揮することはない。
「ルティアスの戦い方は暗殺者のそれですわ。基本、対人戦にしか向かない戦い方ではありますが、ルティアスの場合、魔物にも対応できるのです。それだけでも、十分すごいことだと思いますわよ?」
「……リリスさんに褒められた……? どうしよう、すっごく嬉しい。ねぇ、リリスさん、抱き締めても良い?」
顔を赤くして、手の甲を口元に持ってきたルティアスは、潤んだ瞳で、わたくしにそんな問いかけをする。
「ダッ、ダメに決まってますでしょうっ!」
不覚にも、一瞬『可愛い』と思ってしまったわたくしだったけれど、どうにかその思いを堪えて反論する。すると、ルティアスは途端に元気をなくす。
「そっか……」
しゅんと垂れた耳と尻尾の幻影を振り払いつつ、わたくしは視線をブロック肉となったバーサークピッグへと向ける。実は、このバーサークピッグ、かなりの高級食材である。
「バカなことを言ってないで、肉を回収しますわよ」
ブロック肉といっても、縦と横で四等分にされただけのバーサークピッグは、まだまだ解体しなければならない状態だ。血抜きは、水魔法を応用すれば簡単にできるし、内臓は、一部を除いてそれなりに使い道はある。皮に関しては、カーペットにするも良し、服や防具に使用するも良しの素材だ。
ちなみに、バーサークピッグの素材の中で、最も高価なのは、その角や牙、骨である。それらは、粉末にすると、高品質な媚薬となるらしく、貴族の間で特に取引が多いのだ。一説によると、バーサークピッグが暴れ回る原因は、その媚薬成分を体内に有しているせいだとも言われており……あながち間違いでもないと思えてしまう。
「骨や牙、角は売るんだよね?」
「えぇ、もちろんですわ。持っていても使い道なんてありませんし」
どこか顔を赤くして尋ねてくるルティアスに、わたくしは即答する。きっと、ルティアスもそれらの素材の行く末を知っているのだろう。
「じゃあ、お肉はどうする? 一部はもらって、後は売る?」
「そうなりますわね」
「じゃあ、今日は焼き肉にしようねっ。あっ、それとも豚丼とかも良いかな? あー、こんなことなら、生姜を持ってくるんだった! 生姜焼きっていうのも美味しいんだよっ」
そんな言葉に、わたくしは前世のことを思い出す。思えば、この世界に生まれてから、日本で食べていたようなものを食べた記憶はない。似たものはあっても、どこか違うし、あまり美味しくないのだ。どこかに日本食がないだろうかと探したけれど、それらしいものは見つかっていない。
「豚丼……生姜焼き……」
もしかして、魔族の国には日本食があるのだろうか?
わたくしが興味を持ったと知ったルティアスは、満面の笑みでうなずく。
「そうだよっ! 僕の国の料理なんだけどねっ。大昔に、異世界からの転移者が伝えたとされてる料理なんだっ」
『異世界からの転移者』という言葉に、わたくしは、ドキリとする。
「異世界からの、転移者……? そ、それは、どこの世界とか、国とか、伝わってますのっ!?」
「えっ? う、うん……伝わってはなかったと思うけど……そういえば、ユーカ様は自分の故郷じゃないかって言ってたかなぁ? えぇっと、『にほー』だったか、『にーほ』だったか……」
ユーカ様というのが何者か気になるけれど、それよりも、恐らくは日本からの転移者が居たのだという事実に、驚きを隠せない。
「ほ、他に、どのようなことが伝わってますの?」
「他? 確か、僕達の言葉は、その異世界の言葉らしいよ。あっ、それとも料理のことだった? それなら、お刺身とか、お寿司とか、ラーメンとか、おひたしとか、煮しめとか、豚の角煮とか……そうだっ、豚といえば、角煮も美味しいんだよっ!」
確かに、ルティアスに出会ってまず驚いたのは、日本語で話してきたことだった。まさか、異世界からの転移者が伝えたものだとは思わなかったけれど、これで納得できる。
そして、ルティアスの挙げた料理の羅列は、わたくしにとって、とても魅力的だった。
わたくしは、ニコニコと微笑んでいるルティアスの側にフードが外れるのも構わず駆け寄り、ガシッと両手を掴む。
「ぜひとも、それらの料理を作ってくださいましっ」
「!? うんっ、もちろんだよっ!」
嬉しそうに、けれど、真っ赤になったルティアスを見つめながら、わたくしは、久々に日本食が食べられる喜びに浮かれるのだった。
「これなら、僕一人でも倒せるよっ」
「そのようですわね」
通常、百人単位の戦力が必要となる敵であるにもかかわらず、わたくし達の反応は随分とのんびりしたものだった。
口調を変える必要性もない今、わたくしはいつもの声に戻して、とりあえず魔法を唱える。
「では、まずは《堅牢なる大地よ》」
そう言った途端、全てをなぎ倒すバーサークピッグの前に、巨大な土壁がせり上がる。そして……。
ドゴォォオッ!!
凄まじい衝突音の後、バーサークピッグは土壁に弾き飛ばされてその巨体を停止させる。その際、地面が割れたのは、まぁ愛嬌ということで。
「それじゃあ、僕の番っ」
特に打ち合わせはしていなかったものの、バーサークピッグが停止した直後、ルティアスは素早く腕からほとんど見えない糸を出して、バーサークピッグを絡め取る。
ルティアス曰く、あれは暗器の一種らしく、かなりの強度と切れ味を持つ糸らしい。そんな糸に全身を絡め取られたらどうなるか。それは、現在、バーサークピッグが目の前で実演してくれていた。
「ブモッ?」
ルティアスが糸を引いた瞬間、バーサークピッグは短く鳴く。それが、バーサークピッグの最期だった。
ドシャッという音とともに、バーサークピッグの肉体は、ブロック肉へと変換されるのだった。
「見事な手並みですわね」
「ううん、リリスさんには敵わないよ。僕だと、魔の森に居る魔物には手も足も出ないし」
「それは単純に相性が悪いだけですわ」
実際、魔の森の魔物は相当に強い。幻覚作用を持つものや、毒を持つものはもちろん、とにかく群れて、素早く動くものが多いのだ。
ルティアスの戦闘スタイルは、標的を一個体に定めて、少し立ち止まった瞬間を狙い討つものだ。はっきり言って、集団戦でルティアスは真価を発揮することはない。
「ルティアスの戦い方は暗殺者のそれですわ。基本、対人戦にしか向かない戦い方ではありますが、ルティアスの場合、魔物にも対応できるのです。それだけでも、十分すごいことだと思いますわよ?」
「……リリスさんに褒められた……? どうしよう、すっごく嬉しい。ねぇ、リリスさん、抱き締めても良い?」
顔を赤くして、手の甲を口元に持ってきたルティアスは、潤んだ瞳で、わたくしにそんな問いかけをする。
「ダッ、ダメに決まってますでしょうっ!」
不覚にも、一瞬『可愛い』と思ってしまったわたくしだったけれど、どうにかその思いを堪えて反論する。すると、ルティアスは途端に元気をなくす。
「そっか……」
しゅんと垂れた耳と尻尾の幻影を振り払いつつ、わたくしは視線をブロック肉となったバーサークピッグへと向ける。実は、このバーサークピッグ、かなりの高級食材である。
「バカなことを言ってないで、肉を回収しますわよ」
ブロック肉といっても、縦と横で四等分にされただけのバーサークピッグは、まだまだ解体しなければならない状態だ。血抜きは、水魔法を応用すれば簡単にできるし、内臓は、一部を除いてそれなりに使い道はある。皮に関しては、カーペットにするも良し、服や防具に使用するも良しの素材だ。
ちなみに、バーサークピッグの素材の中で、最も高価なのは、その角や牙、骨である。それらは、粉末にすると、高品質な媚薬となるらしく、貴族の間で特に取引が多いのだ。一説によると、バーサークピッグが暴れ回る原因は、その媚薬成分を体内に有しているせいだとも言われており……あながち間違いでもないと思えてしまう。
「骨や牙、角は売るんだよね?」
「えぇ、もちろんですわ。持っていても使い道なんてありませんし」
どこか顔を赤くして尋ねてくるルティアスに、わたくしは即答する。きっと、ルティアスもそれらの素材の行く末を知っているのだろう。
「じゃあ、お肉はどうする? 一部はもらって、後は売る?」
「そうなりますわね」
「じゃあ、今日は焼き肉にしようねっ。あっ、それとも豚丼とかも良いかな? あー、こんなことなら、生姜を持ってくるんだった! 生姜焼きっていうのも美味しいんだよっ」
そんな言葉に、わたくしは前世のことを思い出す。思えば、この世界に生まれてから、日本で食べていたようなものを食べた記憶はない。似たものはあっても、どこか違うし、あまり美味しくないのだ。どこかに日本食がないだろうかと探したけれど、それらしいものは見つかっていない。
「豚丼……生姜焼き……」
もしかして、魔族の国には日本食があるのだろうか?
わたくしが興味を持ったと知ったルティアスは、満面の笑みでうなずく。
「そうだよっ! 僕の国の料理なんだけどねっ。大昔に、異世界からの転移者が伝えたとされてる料理なんだっ」
『異世界からの転移者』という言葉に、わたくしは、ドキリとする。
「異世界からの、転移者……? そ、それは、どこの世界とか、国とか、伝わってますのっ!?」
「えっ? う、うん……伝わってはなかったと思うけど……そういえば、ユーカ様は自分の故郷じゃないかって言ってたかなぁ? えぇっと、『にほー』だったか、『にーほ』だったか……」
ユーカ様というのが何者か気になるけれど、それよりも、恐らくは日本からの転移者が居たのだという事実に、驚きを隠せない。
「ほ、他に、どのようなことが伝わってますの?」
「他? 確か、僕達の言葉は、その異世界の言葉らしいよ。あっ、それとも料理のことだった? それなら、お刺身とか、お寿司とか、ラーメンとか、おひたしとか、煮しめとか、豚の角煮とか……そうだっ、豚といえば、角煮も美味しいんだよっ!」
確かに、ルティアスに出会ってまず驚いたのは、日本語で話してきたことだった。まさか、異世界からの転移者が伝えたものだとは思わなかったけれど、これで納得できる。
そして、ルティアスの挙げた料理の羅列は、わたくしにとって、とても魅力的だった。
わたくしは、ニコニコと微笑んでいるルティアスの側にフードが外れるのも構わず駆け寄り、ガシッと両手を掴む。
「ぜひとも、それらの料理を作ってくださいましっ」
「!? うんっ、もちろんだよっ!」
嬉しそうに、けれど、真っ赤になったルティアスを見つめながら、わたくしは、久々に日本食が食べられる喜びに浮かれるのだった。
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