わたくし、異世界で婚約破棄されました!?

星宮歌

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第四章 旅行

第三十七話 懐かしい国

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 鳥に乗って、途中で休憩を挟みながら飛び続けていると、二日目の夜に、ヴァイラン魔国の入国門まで辿り着くことができた。
 ここから先は、未知の世界。ルティアスから色々と話は聞いているものの、ドキドキと緊張で心臓がうるさくなる。


「ここから王都までは普通に行けばそれなりにかかるんだけど、僕なら転移門が使えるからね。一緒にそれで王都まで行こうね」

「転移門、ですか……それって、かなりの高級品、というか、王族が多少持ってることもあるというような伝説の品だったように思いますが……」

「うん? 伝説? 人間の国ではそんなことになってるの? この国では、普通に作られてるよ?」

「作られてる!?」

「うん」


 聞けば、転移門はこの国のあちこちに存在するとのこと。町と町を繋ぐ門はもちろんのこと、ギルド同士を繋ぐ転移門もあるらしい。もちろん、それが使えるのは使用許可をもらっている者だけなので、そう簡単に使えるものではないらしいけれど、緊急時の避難などには便利なのだと話す。


「ですが、どこからか攻められた時は大変なのではないのですか?」

「それは大丈夫だよ。セキュリティって言っても分からないかな……えーっと、防衛のための対策は色々と取られてるんだ。そう簡単に敵に転移門が利用されるようなことはないから安心して良いよ」


 具体的な説明はできないと言ったルティアスは、恐らく、転移のセキュリティに関して知ってはいるのだろう。ルティアスの地位は、このヴァイラン魔国に三人しか居ない魔将の一人で、軍のトップクラスだということは教えてもらっていたものの、こんな時になって、初めてそれが本当なのだと実感がわく。
 入国門の入国審査に並んでいる人達のところに行こうとすれば、ルティアスは『そっちじゃないよ』と、誰も並んでいない門の受付らしき場所へと連れていってくれる。


「バルトラン様! お勤めご苦労様ですっ!」

「あー、今は片翼休暇中だから、お勤めではないよ」

「ははっ!」


 そこには、いかにも軍人といった、がっしりとした体つきの魔族が恐縮していた。


「彼女が、僕の片翼だ。入っても良いよね?」

「もちろんでありますっ! それでは、こちらにお名前をお書きになってください」


 そう言われて、二枚の紙を渡されたルティアスは、一枚をわたくしに手渡してくる。


「リリスさんの国の言語で構わないから、ここに名前を書いてもらえるかな?」

「……家名も必要ですの?」

「……家名は、バルトランにしてくれたら嬉しいなぁ。じゃなくて、うん、必要だから、お願いね」


 いかに、ヴァイラン魔国が人間の国と国交がないとはいえ、わたくしがシャルティー公爵家の令嬢だとバレるのは不味い気がして、ルティアスの厚意に甘えてバルトランの名前を使わせてもらう。サラサラと書いて、軍人らしい魔族に提出すると、ルティアスはすでに提出した後だった。


「……はっ、確認いたしました。ルティアス・バルトラン様。リリス・バルトラン様。どうぞお入りくださいっ」

「えっ?」


 ルティアスが目を丸くしてわたくしの方を見ているけれど、わたくしは、それを無視してルティアスの手を引く。


「さぁ、案内してくださるのでしょう?」

「う、うん」


 頬を赤らめるルティアスの姿を不思議に思いながら、ルティアスとともに入国門を潜り抜ける。すると……。


「……日本家屋……」


 門を潜り抜けた先は、日本に戻ってきたのかと錯覚するほどに、多くの日本家屋が建ち並んでいた。もちろん、道行く人は、日本人とは似ても似つかない大きな体と様々な色を持っては居るものの、それさえなければ、わたくしは日本に戻ったのだと思ってしまったかもしれない。


「リリスさん? えっ? ど、どうしたの!? どっか痛いとか!? 治癒魔法、必要っ?」


 わたくしの顔を見て、面白いくらいに慌て出すルティアスを見て、わたくしは初めて、視界がぼやけていることを……知らず知らずのうちに、涙が頬を伝っていることを知る。


「だ、大丈夫ですわっ! ただ……い、いえ、何でもありませんわっ」


 『懐かしかった』なんていう言葉が出そうになって、わたくしはその言葉をグッと呑み込む。そんなことを言っても、ルティアスには意味不明だろうし、前世云々の説明をしたところで信じてなど……くれそうな気はするものの、それでもやっぱりあまり知られたくはない。
 心配そうなルティアスを前に、わたくしは手渡されたハンカチで涙を拭う。


「リリスさん? 本当に? 具合悪いなら、どこかで休むよ?」

「大丈夫ですわ。目にゴミが入っただけですので」


 我ながら厳しい言い訳だとは思っているものの、今はこのくらいしか誤魔化しの言葉が思い浮かばない。あまりの懐かしさに、走り出しそうな気持ちを抑えるだけで精一杯だった。


「……分かったよ。でも、何かあったら必ず僕に言ってね? すぐに対処するから」

「ルティアスの助けなんて、必要ありませんわっ。……ですが、ありがとうございます……」

「っ、うんっ」


 日本に似たこの国で、わたくしは、ちょっとだけ素直な言葉を口にすることができた。
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