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元Sランクの俺、真実を知る
しおりを挟む目の前で突如起きた、不可解な現象。それは到底理解できるはずもなく、ただ謎と疑問が次々と生まれてくる。
どうしていきなり魔物の姿から人間の姿になったのか。そもそもどうしてここまで下手に出るのか、生まれてくる疑問は全て疑問のままで終わってしまう。
ならどうするか。レンはリルネスタとアイコンタクトをとって考えた。そして結論として出たのは『とりあえず話してみる』であった。
「えーと……そうだな。とりあえず、お前達は何者なんだ?」
『私たちはただの魔物です。それ以上もそれ以下もありません』
「……質問を変えよう。どうやって魔物から人の姿になったんだ?」
『それは私たちが使える《人化魔法》を使ったからです』
なにをどう質問しても、全て一言で終わってしまいそれ以上の会話が成立しない。
長い銀髪で、銀の羽衣を纏っている女性──おそらく、ライゴルグが人化した姿だと思うが、どうも真面目なのか模範解答を答えてしまうので困ってしまう。
一方、隣のライオウガであろう金髪の男はずっと黙っているので、どうすればよいのかレンは再び喉を低く唸らせていた。
「人化魔法って初めて聞いたのだが、それはかなり特別な魔法なのか?」
『はい。人化魔法は魔物しか覚えることができず、そして習得には難があるものです。なので人化魔法を覚えている魔物はこの世界で数えれる程度しか存在しません』
「なるほど……じゃあ──」
『だぁぁ! お前らいつまでつまらない話をしてんだよぉ!』
レンがライゴルグと話していると、苛立ちを覚えたのか突然ライオウガが立ち上がり、天に向かって吠え始めた。
これは魔物の習性なのだろう。しかし今は人の姿で吠えているため、どこか変な違和感をレンは感じていた。
『ライゴルグ! 今回の目的はそんなんじゃないだろ!?』
『……そうでしたね、すっかり忘れてました』
「今回の目的? なにかあるのか?」
『当たり前だろ!』
素朴な疑問を投げかけると、まるで怒ったかのように威嚇しながらライオウガは答える。それがどうも苦手なのか、リルネスタはレンの後ろで萎縮していた。
無理もないだろう。先ほどまで戦っていて、全力で殺しに来た魔物なのだ。いくら人になったとしても、なにかあったら殺されてしまうかもしれない。
だがレンにはライオウガが殴りかかってくるような気配は微塵も感じていたなかった。
ただの直感に過ぎないが、意外と直感というのは馬鹿にならない。なのでレンはほんの少し警戒をしつつも、ライオウガに一歩歩み寄った。
「単刀直入に聞く。お前は俺らの敵なのか?」
『さぁな、それを決めるのはお前らだぜ』
『ライオウガ。あなた勇者様になんて口の聞き方をしているの? 今すぐ訂正しなさい』
『あーはいはい。はぁ……俺とライゴルグは敵じゃない。これでいいか?』
「敵じゃないのか。分かった。ありがとう」
ライオウガは少し短気な性格だが、ちゃんと会話はできるらしく、気怠げにしつつもレンの質問にしっかりと答えてくれた。
レンの質問に答えたというより、ライゴルグに指摘されたから仕方なくといった方が正しいだろうか。それでも面と向かって話してくれるあたり、悪いヤツではないのだろう。
『それで、俺たちはなにをすればいい?』
「なにをすればいい。というと?」
『……忘れたのか? もう何年前か忘れたが、俺たちの力が必要になったら俺たちを呼び出すって約束したじゃねぇか』
「呼び出す? 約束? いったいなにを言ってるんだ?」
腕を組み、頭を悩ませるがなにも思い出せない。幼少期にライオウガ達に会った記憶はないし、そもそもこうして会話することは初めてのことだ。
それに呼び出したつもりはない。なにかの儀式をした覚えもないし、貢ぎ物を捧げたわけでもない。
だがレンは途中であることを思い出す。それはバットダイバーを倒すとき、リルネスタが放った《ライトニングブラスト》のことである。
それをライオウガに伝えようとしたレンであったが、その前にライオウガが喋ったせいでレンの声が潰れてしまった。
『勇者か大賢者かは知らないが、用があったらここで呼び出すってお前らが言ってたじゃねぇかよ』
『ライオウガ。お前らじゃなくて勇者様、大賢者様でしょう?』
『ちっ、次から気を付けるからそんな目で睨むな、気色悪い。で、なんの用で呼んだんだ?』
やはりライオウガはライゴルグに逆らえないのか、反発的な態度をとりつつも、しっかりと従っていた。
きっと力の関係でもあるのだろう。魔物の姿も人の姿もぱっと見はライオウガの方が強そうに見える。
だがあの一瞬でレンを無力化した技を含めると、力のライオウガ。技のライゴルグで比べてギリギリライゴルグの方が強いのだろう。
それより、
「悪いが、そんな約束をした覚えはない。それにこれといった用も特にない」
レンはスッパリと言い捨てた。
それにより、ライオウガはなにも反応は見せなかったものの、ライゴルグは冷淡な仮面が外れ、口を半開きにしてキョトンとしていた。
『ゆ、勇者様。それはいったいどういうことですか……?』
「どういうこともなにも、そのままの意味だ。そもそも、もし呼び出すという約束を覚えていたのならどうして攻撃してきたんだ?」
『そ、それは……』
「俺らがお前達の知る勇者と大賢者なら、攻撃してくるはずがないだろ? でもお前達は突然攻撃を止めて頭を下げた。それは俺の右腕の包帯が切れて紋章が見えたからなんじゃないのか?」
今までの話の流れと先ほどから胸につっかえていた疑問を照らし合わせ、導き出した答えを次々と話していく。
なぜ勇者や大賢者を『様』呼びするほど慕っているのに攻撃を仕掛けてきたのか。それなのになぜ今になって思い出したかのように攻撃を止め、下手(したて)に出たのか。
レンはライゴルグに問い詰める最中にある結論まで辿り着いた。
「なぁ、本当は気付いてるんだろ?」
『……なんのことでしょうか』
「とぼけるなよ。俺が──いや、俺らがお前達の知る勇者と大賢者とは違うって」
『っ!』
どうやら図星だったようで、レンが言い切るとライゴルグ俯いてしまい、肩を震わせていた。
それを見ていたライオウガは苛立ちを覚えたのか牙を剥き出しにしてレンの胸ぐらを掴もうとしたが、ライゴルグが『やめなさい!』と声を荒らげたので舌打ちをして一歩引き下がっていく。
そのときの声はとても弱々しいもので、聞いてるこちらの心臓が握られるような、そんな罪悪感が襲いかかってきたのである。
『……そのとおりです。私たちは最初勇者様と大賢者様を見たとき、言い伝えをイタズラ半分で試した者達だと思っていました』
「言い伝え?」
『はい。あまり認知してる人は少ないのですが、曇天の日、ルドの渓谷で雷魔法を放つと私たちを呼び出すことができるという半ば迷信のようなものです』
「なぁ、リルネスタ。そんな事、絵本に書いてあったか?」
「うーん、書いてないと思うよ?」
ライゴルグが話した内容は今日初めて聞くことで、レンとリルネスタはお互いに首を傾げていた。
勇者と大賢者が関わっているので《だいけんじゃとゆうしゃたち》に書かれていることだと思ったが、どう思い出してもそのような内容は書かれていないのだ。
もしかしたら語られることなく終わったことだとレンは思ったのだが、先ほどライゴルグは『言い伝え』と言っていたので、少なくとも語られてはいるのだろう。
だが絵本には少したりとも『勇者と大賢者がライオウガとライゴルグに出会った』とは書かれていない。なら誰が知っているのかと考える。
すると隣にいたリルネスタがなにか思い出した様子で、
「もしかしたらルドの村の人なら知ってるんじゃないかな?」
と、レンに聞こえるくらいの大きさで呟いていた。
だがそれはライゴルグにも聞こえていたらしく、静かに頷いていた。
『ルドの村……懐かしい名前ですね。その村の人達なら知っているはずです。しかし、それ以外の人には私たちの存在は知るものの、勇者様や大賢者様と関わりがあるなんて知る由もないでしょう』
「それは……どうして?」
『人と魔物が関わりを持つことはありえないことです。ですから語られたものの、後世には伝わらなかった──と考えるのが妥当かもしれません』
「……それって、寂しいよね?」
『…………はい』
話を真面目に聞く純粋なリルネスタだからこそ『寂しい』と思い、伝えることができるのだろう。
それに対しライゴルグは黙り込むのではなく小さな声で肯定する。これはきっと心からの言葉であると、レンは瞬時に理解出来た。
『勇者様と大賢者様は、結局一度も私たちの力を借りることなく、一生を終えてしまいました
「え、一回も……?」
『勘違いすんなよ。別に俺らの力を使わなくていいほど強くなった。もしくは平和だったってことだ。だから全然気にしてねぇよ』
「…………」
そう声を張るライオウガであったが、それはどこからどう見ても強がりのように見えた。それはリルネスタも感じたらしく、どこか寂しそうな目でライオウガを見つめていた。
「辛かったよね」
『っ! や、やめろ! 気持ち悪い!』
突然頭を撫でられそうになったことに驚きを隠せないのか、ライオウガはリルネスタの手を振り払ってその場から飛び退いていた。
そしてなにを思ったのか、人化魔法を解除し、本当の姿になったと思えばリルネスタを睨みつけて威嚇をしだした。
『ガルァァアァア!』
「……大丈夫だから、落ち着いて。ね?」
リルネスタが一歩近付く度、ライオウガは口を大きく開けて威嚇を繰り返す。しかしリルネスタは怯む様子を見せず、勇敢にも一歩二歩と近付いていく。
そして手を伸ばしたと思えば、魔物の姿のライオウガに臆することなく、優しく頭に触れ、ゆっくりと撫で始めた。
「辛かったよね。寂しかったよね。私はあなたの知る大賢者様じゃないけど、これでも一応大賢者だから……」
『ガルルルル……!』
「これからは私とレンが頼るから、安心していいよ」
『…………っ!』
リルネスタの気持ちが伝わったのか、そのままライオウガはその場に座り込んで目を閉じてしまう。
きっと疲れてしまったのだろう。少し大きめな寝息を立て、三本の尻尾でリルネスタを掴んで背中に乗せていた。
『まさか、あのライオウガが心を開くなんて……』
「それはすごいことなのか? なんかすんなりと心を開いたように見えたんだが」
『きっと大賢者様に触れられたことで理解したのでしょう。目の前にいる人物はただの人ではなく本物の大賢者だと』
「野生の勘ってヤツか」
『まぁ、そんな感じですかね……』
と言いつつも、先ほどからライゴルグがレンのことをチラチラと見ていた。
ライゴルグは内心ライオウガを羨ましがっていたのだが、撫でていたリルネスタはライオウガに夢中になっている。
つまり頼れるのはレンしかいないというわけなのだが、そのレンは視線に気付いてないのか無視しているかは不明だが、ライゴルグの隣でライオウガとリルネスタを眺めるだけでなにもしなかった。
『コホン。その、ですね』
「ん?」
『ここで会ったのもなにかの縁。なので、少しばかりスキンシップはいかかでしょうか』
「……は? ちょっと待て、わけが分からないのだが」
レンは顔に手を当ててライゴルグの前に手のひらを出すが、それを無視するかのようにライゴルグはレンに近付いていく。
そのときの目がやけに鋭く、怯んだレンは一歩離れるが、それを追うように今度はライゴルグが二歩レンの元へ近寄る。
「おい、いったいなんの真似だ」
『────さい』
「え?」
『私をライオウガみたいに撫でてくださいっ!』
「…………あー、そういうことか。それなら早く言ってくれればよかったのに。ほら、頭を出してくれ」
そう言ってレンが手を前に出すと、待ってましたと言わんばかりにライゴルグが頭を差し出す。
それからというものの、ライゴルグは猫なで声を出しながらレンとのスキンシップを行い、気が付けばライゴルグも人型ではなく魔物の姿に戻っていた。
そんな姿に若干戸惑いつつも、レンはライゴルグが満足するまで優しく頭を撫で続けるのであった。
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