Sランクパーティから追放された俺、勇者の力に目覚めて最強になる。

石八

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元Sランクの俺、過去の自分を思い出す

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 夜、部屋に運ばれた夕食を食べ終え、風呂に入った二人は各々自由に行動していた。

 レンは部屋の片隅でストレッチとマッサージ、そして軽い筋トレを。一方のリルネスタはベッドに寝転がりながら目を閉じ、魔法の詠唱練習をしていた。

「リルネスタって毎日詠唱の練習してるのか?」

「うん。普段はお風呂場でやるんだけど、今日は時間が無かったから今やってるの。そう言うレンこそ、筋トレとかは毎日してるの?」

「いや、ストレッチとマッサージは毎日やるように心掛けているが、筋トレは毎日ではないな。と言っても、定期的にやるようには心掛けてはいる」

「へぇ、さっきからずっとやってるよね? でもあんまり汗かいてないし……やっぱりレンって実はすごい人?」

「リルネスタだって、何種類もの魔言を暗記して詠唱の練習してるじゃないか。俺にとってはそっちの方がすごいと思うぞ。まぁ、あれだ。俺にとっての筋トレはリルネスタにとっての詠唱練習みたいなものだ」

「なるほどねぇ。確かに、そう考えるとレンにとって筋トレは大したことないことなんだね」

「そうだな。まだ軽い方だが、風呂に入ったからな。今日はこれくらいで切り上げるつもりだ」

 レンはそう言うと立ち上がり、机の上に置いておいた濡れタオルで脇の下など汗がこもりやすい場所を拭き、ベッドに腰を下ろして一息つく。

 そしておもむろに自分の腕を触る。まだ完全に筋肉質になったとは言えないが、力を込めれば十分なくらい力こぶができるほど筋肉は付いていた。

 しかし腹筋はそこまで発達しているというわけでもなく、薄らと筋肉の筋が見えるだけ。

 別にレンは筋肉を鍛えるのが趣味というわけではないが、もう少しだけ筋肉を付けたいと内心思っていた。

 そんなレンの腕を後ろからリルネスタが触れようとする。だが触れる一歩手前でレンが気配に気付き、腕を引っ込めてリルネスタの顔を見た。

「えへへ、ちょっと興味があって」

「興味を持つのは勝手だが、あんまり人の体は触るものじゃないぞ。特に異性の体はな。俺はこれでも常識がある方だが、世の中には非常識の男だって沢山いるんだ。だからそんな風に人の体に触れると大変なことになるぞ」

「大変なこと? 相手のコンプレックスに触れちゃって喧嘩になるってこと?」

「喧嘩よりも怖いことだ。特に、リルネスタのような女にとってはな。だから気安く人の体に触れちゃダメだぞ」

「でも、私はレン意外の人には好き好んで触ったりはしないよ?」

「…………とにかく、ダメなものはダメだ」

 その手のことに関しては無知に等しいリルネスタに注意喚起をするが、まさかの返答にレンは言葉が出なくなってしまう。

 しかもその張本人であるリルネスタは特に意識した様子もなく、ケロッとした表情で言い放つので、レンはどう反応すればいいのか分からなくなっていた。

「んー、私難しいことはよく分からないけど……とりあえず、ティエリナさんなら教えてくれるかな?」

「……教えてくれるとは思うが、やめておいた方がいいかもしれない」

「え、どうして?」

「最悪の場合、俺が死ぬ」

 きっと心優しいティエリナならリルネスタに配慮して異性との関わりを教えることはできるだろう。

 だがリルネスタがそれを相談するということは、話の発生源が自然と語られてしまうわけで。

 そうなってしまえば、きっとあの魔物すら凍り付かせるような視線を向けてくるだろう。これに関しては憶測に過ぎないが、先ほどから本能が警鐘を鳴らしているので間違いはないはずだ。

「まさか~、あのティエリナさんだよ? レンが死ぬわけないじゃん!」

「……ちなみに、リルネスタにとってティエリナさんはどういうふうに見えてるんだ?」

「んー、そうだなぁ……笑顔が素敵で、頼り甲斐のあるお姉さん……かな?」

「頼り甲斐のあるお姉さん……ねぇ」

 頼り甲斐のあるのは確かだ。実際、スレイヴスネークの死体付近に置いていたローブの切れ端を変な誤解が生まれる前に俺の説明通りに説明して収めてくれたし、リルネスタが冒険者登録するときもすぐに他の受付嬢を手配してくれた。

 だが今俺はティエリナさんに『貸し』を作ってしまった。しかもその貸しについてはまだなにも言われていない。

 ティエリナさんのことだ。突然『死んでください』みたいな支離滅裂なお願いはしてこないと思うが、だからといってなにか手伝いを頼んでくる様子もない。

 だからこそ恐ろしいのだ。あのティエリナさんという魔王のような人は。

「まぁ、いい人だよな」

「うん。綺麗だし、スタイルもいいし、気が利くし、大人の女性って感じだし」

「あんまりティエリナさんに大人っぽいって言うなよ? あれでも本人は気にしてるらしいし」

「そうなんだ。私は褒め言葉のつもりで言ってるけど……」

「俺も言ったことあるんだが、逆に捉えられて『老けて見える?』って言われたからな。ティエリナさんもまだ若いんだし、大人っぽいって言われるよりは綺麗って言われた方が嬉しいかもな」

 あくまで偏見に過ぎないが、過去につい『綺麗』と言ってしまったとき、しばらく慌てふためいたことがあった。

 そのときのことを考えると、振る舞いは大人だがまだ年齢相応なんだなと実感してしまうのである。

 つまり、ティエリナもまだまだ子供というわけだ。

「さぁ、もう夜も遅いし、寝るとするか」

「うん、そうだね──って、どこに行くの?」

 レンがベッドの上に畳まれた掛け布団を掴み、ベッドから降りようとすると当然の如くリルネスタに疑問を投げかけられる。
 なのでレンは、

「俺は寝相が悪いから、向こうの机で寝る」

 と、言い残し、返事を待たずして椅子を引き、自分の肩から布団をかけて机にうつ伏せになって目を閉ざした。

 前回、不可抗力と言えどリルネスタの髪を掴み、匂いを嗅いだことを必要以上に気にしているからこそ、レンは今回このような行動をとったのである。

 それを途中で察したリルネスタは、まるでレンを真似するかのように掛け布団を抱え、レンの正面に位置する椅子に座り、肩から布団をかけていた。

「…………おい」

「ん?」

「いや、ん? じゃなくてだな。これだと意味ないだろ?」

 折角リルネスタのことを思って離れたのに、これじゃ全く意味を成さなくなってしまう。

 だがそんなレンとは対極的に、リルネスタは優しく微笑んだままレンを見つめていた。

「あんなの、ただの事故じゃん。レンだってあんなに反省してたんだし、今更気にすることじゃないよ。それに──」

 言葉の途中でリルネスタは机に顔を伏せてしまう。

 だがそのまま目を閉ざしてしまうのではなく、ひょこっと顔を上げたと思いきや、レンの目を見てニコッと可愛らしい笑顔を見せた。

「レンが机に寝てるのに、私だけベッドとかつまらないよ」

「……ははっ、なんだそれ。つまらないなんて思うのはリルネスタだけだろうな。はははっ」

「なーんでそこで笑うのー!? もうっ! せっかく真面目に話してたのに!」

 そう言うと、リルネスタは頬を膨らませてぷいっとそっぽを向いてしまう。

 リルネスタにとっては怒りを表している行動のつもりなのだろうが、レンにはどうもその行動が可愛らしく見えて仕方がなかった。

「ごめんごめん。別にバカにしてるわけじゃないんだ。ただリルネスタらしいなっと思っただけなんだよ」

「……私らしい?」

「あぁ、その……なんというか。リルネスタと冒険してから毎日が楽し──暇にならなくてな。新鮮なんだよ」

 このような気持ちを味わうのはいつぶりだろうと、レンは喋りながら過去を思い出す。

 前のパーティに居たとき、このような気持ちを味わったあったか? と、自問自答する。

 答えは簡単。声を大にして『否だ』と叫ぶことができるだろう。

 朝早く起きて、食事をし、ギルドに向かう。そしてクエスト。選び、達成し、帰還する。最後に全員で報酬を分け合った後、解散して各々自由行動をする。

 傍から見れば充実した一日だと思われるだろう。だがそれは人としてではない。冒険者として充実しているのであって、楽しさの欠片もなかった。

 初めのうちは楽しかった。これが冒険者としての理想なのだと、心躍らせたものだ。

 だが人という生き物は、恵まれた環境で生活しすぎると次第にそれでま物足りないと感じてしまう。

 そしてレンは考えてしまったのである。

『俺はなんのために生きているのだろう』と。

 困ってる人を救うため? 違う。
 金を集め、大きな野望を叶えるため? 違う。
 力をつけ、誰にも負けない冒険者になるため? ……違う。

 どれだけ考え耽っても、答えという答えは出てこなかった。

 その代わり、レンはあることを思うようになってしまう。

『俺って、本当に人間なのか?』と。

 同じ作業を繰り返し、一日を終え、また繰り返す。そんなの、人ではなく機械と同じである。

 そんな結論に至った日の翌日、レンはある壁に直面してしまうことになる。

 それは、レンが追放される理由になった、忌々しいスキル開花の準備期間である。

「…………なぁ、リルネスタ。リルネスタさ、今後も冒険者を続けるつもりなのか?」

「うん、続けるよ」

「その先、どんな困難が待ち構えていようともか? どれだけ毎日がつまらなくなろうと、その眩しい笑顔のままでいられるのか?」

 自分で言ってて、情けなくなる。

 これではまるで、リルネスタに冒険者稼業をやめろと言っているのも同然ではないか。

 そうだ。リルネスタと出会ってまだ日は浅いが、毎日が楽しくなった。だが、それ故リルネスタは眩しいのだ。

 だからこそ、その輝きを失ってほしくないのである。

「私、あまり頭良くないから分からないけど……私は、今この瞬間が一番楽しいかな」

「今、この瞬間…………か」

「うん。それに……レンと一緒ならなにが起きても乗り越えられそうな……そんな気がするんだ。って、私なに言ってるんだろ、あはは! も、もう寝るねっ! おやすみ!」

 自分で言ったことが恥ずかしいことだと思ったのか、リルネスタは顔を伏せてわざとらしい寝息を立てて寝たフリをし始める。

 だがリルネスタの何気ない言葉のおかげで、レンの心の中を覆っていた分厚い雲は綺麗さっぱい晴れて、消えていた。

「リルネスタ。ありがとうな」

「…………うん」

 そんないじらしい雰囲気になりつつも、レンはリルネスタの一言だけ交わして机の上に顔を伏せる。

 そして英気を養うため、レンはすぐさま深い眠りにつく。だがリルネスタはすぐに眠ることなく、途中で起き上がってレンの髪を撫でる。

「えへへ、これでおあいこだね」

 そんなレンが聞いたら羞恥のあまり倒れかねない言葉を残し、リルネスタも机の上に顔を伏せる。

 明日はどんなことが起きるのかな。明日はどんな楽しいことが待ってるのかな。そんな期待に胸をふくらませつつも、リルネスタはレンの後を追って深い眠りにつくのであった。
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