作者は異世界にて最強

さくら

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四話

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「不明。こんな私と言われても、桜シリーズと雪シリーズでは設計思想が異なる。私には分からない」
「だからー...桜シリーズはこう、戦闘メイドみたいなイメージじゃないですか」
「肯定。正確には戦える癒し要素」
桜音は元の姿を取った雪音を見ることなく、久遠が食べた朝食を片付けている
部屋はホテルというより、アパートやマンションの一室といった感じだ
魔法を内蔵させた機械、魔道具のエアコンもあれば、魔道具のテレビもある
水道管はないが、各部屋に「枯れずの水筒」という異能で作られた水タンクがあるため、水道設備も問題は無い
「けど私...というか雪シリーズは力を制御できない女の子なんですよ?私の元ネタなんて広域振動系魔法が得意な女の子ですし」
零號が現れたときの桜や雪の吹雪は、彼女らの能力ではない
久遠が考えた登場エフェクトでしかないのだ
しかしその登場エフェクトも、元ネタにそったものにしてあるようだが
「私、設定上では制御しきれなくて国を滅ぼしてるんですからねー」
雪音は能力を解いて人間に無害な姿になった
雪音の能力は、ただ人間になるというもの。つまり夜刀神に与えられたのは、雪音の能力にほかならない
夜刀神と違うのは、戦闘力や元々ある雪に関する能力が消えることだ
本来の姿でなければ、雪音はただ魔法が使えるだけの一般人ということになる
「魔法が使える時点で普通ではない」
「それはそうですけどー...」
雪音はまだ何か言いたげにベッドに突っ伏し、足をバタバタさせる
口元に手を当ててマスクのようにした桜音は、手に持っていたガラス製のコップを雪音の頭に投げつけた
「痛いです!」
「煩い」
「ただただ罵られた!?」
理不尽に怒られた雪音は抗議するためにベッドに座った
だからだろうか、異変に真っ先に気づけたのは
「桜音!」
「...っ!」
雪音が起こした吹雪に阻まれ、割れた窓ガラスは外へと押し出された
桜音と雪音がそれぞれ武装を召喚して構える
「警告。死にたくなければ直ちに退去して」
「私たちの愛の巣を穢すなら、凍らせますよ?」
雪音の剣から冷気が溢れ、侵入してきた者の足元へと流れ出す
怒りの感情に呼応して、能力が暴走しているのだ
すなわち、凍結させるための魔法が
「...あれ、ここが桜坂の部屋じゃ...」
「わかってて入ったようですね。凍結地獄コキュートス!」
雪音を中心に冷気が発され、部屋の物ごと侵入者を凍らせにかかる。が
地獄業火ヘルフレイム
侵入者の体から発された熱によって、氷が溶かされていく
雪音の後ろで桜音は主たる久遠に異常事態警報を送りながら、結界にて逃げ道を封鎖する
「発熱系ですか...厄介ですね...」
「......」
「無視は酷いです、よ!」
大剣を振るった剣圧に霊力を乗せて威力を増大化させ、飛ばす
雪音の固有魔法「カマイタチ」が相手の両足首を切り裂いた
「......離脱アウト
瞬間、男の体が青白く発光し、光と化したまま物と結界を貫通して去っていった
「...結界を超えましたか」
「肯定。あの離脱アウトといっていたものは、異能である可能性が高い」
「二つの異能ですか...。主様のように小説家だったのでしょうかね」
「不明。ただ、あの離脱アウトは主の作品にも出てくる。また、自己加熱魔法も主作のものに出てくることから」
雪音はハッと顔を上げて桜音を見た
剣をしまいながら桜音は呟く
「主の作品、もしくは時雨・凱亜の作品から能力を使う能力かもしれない」


数時間後
「桜音!雪音!」
大きな音を立ててドアを開いた久遠は、誰もいない自室を見て呆然とする
窓ガラスは割れており、ところどころ氷が張り付いている。戦闘したのは明白だろう
「おかえり。主、襲撃にあった」
「あ、おかえりなさいませ主様~」
抱きついてきた雪音を撫でながら、久遠は部屋の惨状を見渡す
ガラス以外に被害があるようには見えない
「よかった...あれ、雪音の頭にたんこぶあるのは...?」
「回答。私がコーヒーカップ投げつけた」
「なんで!?」
「久遠、来客だ」
桜音と雪音をベッド付近まで退避させてから、夜刀神を人型にしてドアを開けた
そこにいたのは委員長だ
「やぁ」
バタンッ
久遠はなんの躊躇いもなくドアを思いっきり閉めた
が、またノッカーで呼び出す音が聞こえた
再度ドアを開け、ため息をつきながら質問する
「何しに来たの?」
「お茶でもしてこうかと」
「いつから私と君はそんなに仲良くなったし」
「最初から」
「この人間図々しいですねぇ...凍らせてもいいですかぁ?」
雪音が部屋の奥から呪詛を孕んだ声を発した
それに気づいた委員長が、久遠を問いただす
「今の声は...?まさか誰かを連れ込んでるのか!?」
「ああもう厄介事になった!だから引っ込ませたのに!」
黒鉄が『暴喰者グラトニー』を展開するかを迷っていると、雪音が戦闘態勢白い着物姿になって久遠の後ろにでてきた
「なんで出てきたの!?」
「主様どいてください。その不届き者を凍らせて叩きわります」
雪音が手を向けると、黒鉄ですら耐え難いほどのの冷気が押し寄せた
吹雪のように、雪の結晶が委員長の頬を叩く
「お、俺は勇者だぞ...?そんなことしていいと...!」
エクストラスキル「勇者」
久遠が持つ「反勇者」以外で殺すことは原則不可能で、魔属性特攻という、魔王に対する絶対的切札だ
「思ってますよ?」
「なっ...!」
「私の主様を下に見てるみたいですけど、格段にあなたの方が格下ですし。あなたみたいなのがいなくても、最悪魔王くらいなら私だけで消せます」
委員長が叩きつけられた壁が、冷気によって凍結し始めた
手から足から、末端から徐々に凍らせていく
「やめて、雪音。ことを荒らげる気は無いよ」
「...ですが」
「大丈夫。『創作者シナリオライター』」
久遠は能力でもって委員長を眠らせ、部屋に来たという記憶を消した
雪音と桜音を守るために
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