作者は異世界にて最強

さくら

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十三話

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久遠一行は、南へと進路を取った
紅零曰く、南側がソナーで検知できないらしく、これは何かあるぞと向かっているということだった
「つか...れた...!」
「お疲れ様、久遠。水飲む?」
「ありがとう、椎名さん...」
雪音と一緒に乗り込んだのは阿賀野だ
桜音は天羅に話があると言って酒匂へ
黒鉄は一人になりたいと言って矢矧に乗り込み、余った夜刀神も一人になりたいということで能代に乗り込んだ
「地形破壊しないように結界張るの疲れたなぁ...」
「コンフィグみたいな能力はないのね」
「あるにはあるけど効果があるのが半径二百キロに限られるんだよ。雪音じゃ五百キロ以上凍土に変えちゃうからね」
「設定が強すぎるのよ」
そう言いながら椎名は紅茶を啜った
両手で本を読んでおり、紅茶のカップがひとりでに動き、椎名の口元に紅茶を運ぶ
見ていてシュールに感じた久遠は目を逸らした
「椎名さんはいいの?紅零に構ってあげなくて」
「天羅の彼氏に手を出すほどバカじゃないわ。私にはいないけど」
「水明は?」
「あれでも彼女持ちよ。桜嶺晴香っていたでしょ?」
「ここに来て伏線かぁ...」
久遠は両手を額に当てて顔を伏せた
行動とは裏腹に、少し楽しそうですらある
「じゃあ椎名さんはフリー?」
「そうなるわね。改めて考えると悲しくなってくるわ...」
椎名はあらぬ方向を見ている
阿賀野は空を飛んでいるため水平線は見えないが、地平線を見ているのだろう
(あの地平線~)
久遠は声に出さずに歌いながら艦橋を抜け、甲板に降りた
日本のように機械なんてものはほとんどなく、魔法が機械の代わりをしている
「本当に隠してるだけならいいけど、世界が違うからなぁ」
呟きながら横になり、空に手を伸ばす
その手を握ったのは雪音だ
「おつかれですか、主様」
「どこかの従者さんのせいでね」
久遠と雪音が笑顔を交わした直後、阿賀野が大きく左に流された
『緊急警報。右舷に被弾、許容レベルを突破。一時着陸します。付近の柵に掴まるか、艦内部に退避してください』
機械的な声が甲板に響き渡り、警察サイレンのような音が鳴りだした
「被弾!?」
「移動の暇はありません!」
「仕方ない、『創作者シナリオライター』スキル「鋼糸こうし」!」
久遠の左腕につけられている腕時計から目に見えないほど極細の糸が射出され、矢矧の左右の柵を捉える
「スキル「粘糸」!」
今度は右腕につけられた機械から同じように糸が射出、雪音と久遠をぐるぐる巻きにした
鋼糸は切れることの無い糸、またはワイヤー
粘糸は弾力のある糸、またはワイヤー
それぞれ役割が異なるのを、使い分けた
これはダンジョンにいた蜘蛛型の魔物を見た時に、『創作者シナリオライター』で作られた能力でコピーしたものだった
『緊急着陸。衝撃に備え』
阿賀野が墜落するような速度で地面に突っ込み、寸前で反重力装置が作動・衝撃を緩和した
それでもかなりの衝撃が加わり、久遠を下にして二人は甲板に叩きつけられた
「うぐっ...!」
「久遠様!?」
無事とは言えない着陸をした阿賀野の後方では、能代と酒匂も同じように緊急着陸を実行していた
矢矧は既のところで黒鉄が『暴喰者グラトニー』を起動し、攻撃を喰ったらしく、まだ空を飛んでいた
「何事!?」
『私にも分からないわ。緊急形態エマージェンシーモードが起動したから助かったけど、下手したら轟沈よ』
「やけに冷静ですね」
『見えてるじゃないの。敵性反応はあれよ』
椎名の思念を受けて、久遠は右側を見た
そこにいた...というより、飛んでいたのは一人の女の子だ
天使の羽が生えているが、その輪郭は血のようなどす黒い赤になっている
女の子自身の顔は見えない
『暴走天使ね。どこかの小説で読んだわ』
「じゃああれも...!」
『えぇ。異世界転移をした私たちと同郷者よ』
椎名が言い終わるかどうかのところで、女の子──暴走天使が動き出した
椎名は阿賀野の顕現を解除し、対物ライフルを取り出した
後に、阿賀野の主砲と同じ破壊力を持つと聞いた時にはさすがの久遠も戦慄した
紅零も顕現を解除してライトマシンガンを持って駆け寄ってくる
紅零のものは副砲、天羅が持つロケットランチャーは魚雷発射管、水明がもつハンドガンは高射角砲だと後から解説があった
「桜音たちは!?」
「衝突のショックで動けねぇよ。黒鉄が様子を見守ってるから安心しろ」
「ならよかった。来るよ!」
久遠と雪音は《拷問者の斬首大剣》を召喚して備えた
暴走天使はヒトの言葉ではない言葉で何かを叫び、久遠たちの元へと飛んでくる
「───!」
暴走天使がまたヒトの言葉ではない言葉で叫ぶと、手に黒い光が集まった
それが槍の形状になり、投擲される
「『創作者シナリオライター全反射フルカウンター!」
黒い光の槍を、余すとこなく全て反射し、暴走天使にぶつける
怯んだ隙に、紅零と椎名が銃を撃つ
弾幕と単発高威力が炸裂するも、効果はないように見える
水明は撃たない。射程圏外だ
天羅のミサイルは躱されてしまった。魚雷もまた、遅いために躱されやすい
「こんだけやって無傷かよ」
「椎名さん、暴走天使の話ってどんなのなの!?」
「た、たしか...お兄ちゃん大好きっ子が、兄に振り向いてもらいたくて天使になる話よ!兄にキスをされて止まっていたわ!」
「しっかり読んでるのだね」
「うるさいわね!」
そう言う間にも、椎名はコッキングし、照準・発射を立ったまま行っている
紅零はマガジンを取りかえ、伏せて連射を続ける
「じゃああの子の兄を連れてくるってこと!?無理じゃん!」
「そーでも、ない...」
天羅の言葉に、全員が振り向く
攻撃が止まったために、暴走天使がまた吼えて一度距離を取った
「あの子の、お兄ちゃん...は、久遠...!」
「え!?」
「マジか!」
「ほう」
「そうなの?」
「あの子...舞莉、だよ...?」
言われて始めて、久遠は暴走天使の顔を見た
「ま...り...?」
「なんで転移できたのか、わからないわ。けど止められるのはおそらく兄である久遠だけよ!」
「ということは、久遠様を妹様の元に届ければいいわけですね!」
雪音が戦闘態勢に移行し、着物をまとった
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