冷たい夜、星に出会う前

灰黒猫

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1.待ち合わせ

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 梅雨入つゆいりには、まだ半月ほど間があった。
 歳の離れた姉から男に電話があり、「子どもを1、2週間あずかってほしい」とたのまれた。十四歳になったという。
 五年前の二十歳はたちの夏以来いらい、会うことはなかった。
 断る理由が特になかった。き部屋はある。
「かまわない」と男は答えた。
 明後日あさっての午後、最寄もより駅までむかえに行く約束をした。
 姉は口数くちかずが多いほうではなく、くわしい事情を説明しなかった代わりに、「あの子が、あなたに会いたいって言ったの」とだけ言って電話が切れた。
 夜中、客用の寝床ねどこがないことに気づいたが、十四の子どもが何を荷物に持って来るのかもわからなかった。
 思い悩むのも面倒めんどうだった。会った時、本人にけばそれでむ。
 はしもない。男が一人で暮らすこの場所に、客用の物は何もなかった。
 
 約束の日、少年が旅行用バックを肩にかけて、待ち合わせた時刻の15分前に駅へと着いた時、1ヵ所のみの改札口かいさつぐちには誰もいなかった。
 何度か電車を乗りえて2時間近くかかった。2路線しかない駅は、思ったよりも広く感じられた。都心の駅構内こうないのように店舗が集まっていないのだと気づく。きスペースが多い。
 言われた時刻を15分過ぎても、男はあらわれなかった。
 今朝けさ、母から男の住所と電話番号が書かれたメモを渡された。どう見ても番号は固定電話のものだった。あまり電話をしたい気になれない。
 先ほどから何度も自分の携帯電話を確認するが、着信はない。
 駅周辺を見ようと自動改札機を通り抜ける。すぐ近くに下へ続く階段と、その両端りょうはしに上下のエスカレーターがあった。こちらも広々としている。階段の天井部は高く、透明な窓だった。まぶしすぎない光が入る。
 家にいた頃より、息がしやすい。
 少年は階段を下りていった。
 駅の外は大きなロータリーでバス用とタクシー用の停車場があったが、今は何の車も止まっていなかった。人影もほとんどない。
 階段を下りた真正面に、男がロータリーを背にして歩道のガードパイプに腰かけていた。

 むかえに行くと言った時刻の30分前、男は駅前に着いていた。平日の午後1時半、人通ひとどおりが少ない。そういう駅だった。それが気にってもいた。
 ガードパイプに浅く腰かけ、電話で最後に聴いた姉の言葉の意味を考えたがわからなかった。他人の心情はよくわからない。自分のものなら、だいたいわかる。
 男は子どもと歩いた夏の日のこと、その日までのことを思い返していた。
 会いたいのは、自分の方ではないかと思った。
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