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何か家に帰りたくない理由でもあるのだろうか。

そんな疑問を抱きながらも、足は一歩一歩前へと進み、ものの2、3分で俺たちは白月の住む家の前までやってきた。

何度か白月の家とは知らずにこの家の前を通りかかったことがあるが、こうして近くでまじまじと見てみるとやはりでかい。

西洋の屋敷に付いていそうな細かい装飾が施された大きな門に、そこから玄関へと続く石畳。その両脇には緑の芝生が敷かれた庭が見える。

そして何よりも目を引くのは、白く塗られた壁に三角屋根の邸宅。

白月の両親が、一体何を職業としている人なのかは全く知らないが、少なくてもうちの両親ような平社員でないことは間違いない。

天才で尚且つ金持ちとか、ますますこいつのことが嫌いになる。


そんなことを思っていると、白月が一歩前に出て口を開いた。


「一応礼を言っておくわ。今日は付き合ってくれてありがとう。今度、お礼にドックフードを奢ってあげる」

「そんなお礼はいらねぇ」

貴重な休日を潰してまで付き合ってやった俺を最後の最後まで犬扱いとか、失礼にも程がある。

しかし挑発であることは分かっているため、極力声には感情は乗せず、目だけで訴える。

白月はそんな俺を見てクスクスと鼻で嗤うと、入り口の大きな門に手をかけた状態でこちらを振り向き、最後に小さく笑って言った。

「……でも、本当にありがとう。じゃあまた明日、学校で」

「あぁ、また明日」

俺も同じように言葉を返す。

そうして白月が門を通り、こちらに背を向けたところで、俺は自宅のある方向に足向けた。


——その時だった。


「蒼子! お前今までどこに行ってたんだ!」


バンッと勢いよく玄関の扉が開く音と共に、閑静な住宅街に男性の怒鳴り声が響いた。

俺はその声驚き、思わず足を止めて振り返る。

すると、開きっぱなしになった玄関の前に白月ともう1人、見知らぬ男性が佇んでいる。

身長は俺と同じくらい。
口元には綺麗に整えられた髭を蓄え、白月によく似た瞳には明らかに苛立ちが含まれている。

「朝から一体何度連絡したと思ってる! 警察に連絡するところだったんだぞ! この馬鹿娘がッ!!!」

男性は俯く白月に向かってそう怒鳴り散らすと、感情のままに右手を振り上げ、そのまま勢いよく白月の左頬を叩いた。
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