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3-3教室を後にしてから、もうすぐ2時間が経とうとしている。

秋空に浮かぶ太陽は徐々に高度を落とし、それに照らされる人々の影は、先ほどよりも少しだけ長く伸びているように見えた。

***

俺と誠は、初めて祭りに訪れた子供のようにはしゃぐ輝彦に引っ張られ、目に付いた教室を片っ端から見て周った。

輝彦は昨日訪れたはずの店でも、まるで今初めて立ち寄ったとでもいうかのように新鮮な表情を浮かべて、文化祭をこれでもかというほどに楽しんでおり、対して誠は、そんな輝彦を保護者のようにニコニコと微笑ましく見つめ、文句の一つも言わずに付いて周っていた。


「昨日もあんな感じだったのか?」

俺が誠にそう尋ねると、

「まぁね。高2になって、あれだけ純粋に文化祭を楽しめるのは才能だと思うよ」

と、苦笑いを浮かべながら答えた。


「才能か……。それを言ったら、文句も言わずにあいつに付き合ってやってるのも才能だと、俺は思うけどな」

そう言って俺は、隣に立つ誠に目を向ける。

誠は少し驚いたように目を開くと、すぐにいつもの柔らかな表情に戻って笑った。


「それは違うよ。僕はただ単純に、輝彦と一緒にいるのが好きなんだ。……もちろん、晴人と一緒にいることもね。今だってこうして3人で文化祭を周れていることが、凄く嬉しくて、楽しいんだ」

そう呟く誠は、俺には少し眩しく見えた。

俺だって輝彦や誠、それに葉原や白月のことを大切に思っている。
けれど、俺には誠のようにはっきりと言葉にしてそれを伝えることが出来ない。

だから、その想いをしっかりと相手に伝えることが出来る誠を、俺は羨ましいと思った。


「……お前らはほんとすげぇよ」

小さく呟いたその言葉が、果たして2人に届いたかどうかは分からない。

……いや。きっと、喧騒に掻き消されてしまって、誰の元にも届いていないのだろうな。

そんなことを考えながら、遠くで手招きを繰り返す輝彦に目を向ける。


「行くか」

「そうだね」

まだまだ治りそうもない人混みの中、俺たちは互いに顔を合わせて、輝彦の元へと足を進めた。
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