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わたしは貴方に相応しくない

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「桐谷一家と今日、夕ご飯を食べに行くからね。今日は真凛も付き合って。久しぶりの和食料亭 縁よ。楽しみ」

母が嬉しそうに朝ごはんを食べてるわたしに言う。

自動車部品メーカー デンタの社長夫婦とわたしの両親は仲がいい。
月に2回ぐらいどちらかの家でホームパーティを開いたり、ご飯を食べに行ったりする。
長期休暇の旅行も一緒に計画して行く仲。

朝ごはんを食べ終え、部屋に戻り、ベッドに寝っ転がってスマホでお気に入りのUNTITLED (アンタイトル)で夏仕様のスーツとブラウスを購入し、携帯小説を読んで昼までのんびり過ごす。

午後からはスポーツジムへ行く。
1時間半ランニングマシーンとエアロバイクで有酸素運動。
その後、エアロビクスとヨガを3プログラムこなし、水着に着替えて1時間半泳ぐ。

18時にプールから上がって、シャワーを浴びて髪を乾かし、メイクをしてスポーツジムから出る。

桐谷一家に会うからいつもよりフォーマルなデザインの服を選んだ。
UNTITLEDのブラックのタックプレートジョーゼットシャツにモスグリーンのストレッチウールワイドパンツを合わせ、ベージュのCHANELのパンプスを履く。バックもCHANELのベージュピンクのラージショッピングバック。

待ち合わせ時間ギリギリに和食料亭 縁に着いた。

「真凛ちゃん、こんばんは」

店に入り、座敷に案内された。
父と理人さんは仕事があるからいつも遅れてくる。
母と美魔女な結花さんがお茶を飲みながら女子トークをしていて、わたしが入ると結花さんが声をかけてくれた。

桜色のワンピース着た結花さん。
細いけどグラマーな女性らしいラインについつい目がいってしまう。
57歳に見えない姿……。

わたしの母もわたしと姉妹に間違えられるぐらい若作りだけど、残念な事に結花さんみたいな女性らしい凹凸がない。
娘のわたしももちろん悲惨なぐらい凹凸がない。

「真凛ちゃん、咲香ちゃんそっくりになったね」

「でしょーー。姉妹によく間違えられる」

“凹凸がないとこが似てしまって残念”と母の発言に腹の底でディスりながら母の隣に座る。

「頼翔くんはやっぱり結花と理人さんのいいとこ取りで超絶的にハンサムになったんだろうな!!
10年ぶりに会うから楽しみ」

今日の食事会に頼翔くんも来るんだと思うと気が重くなる。
頼翔くんはハーバード大学の理工学部の修士課程修了まで出て、その後、ドイツに渡りフォルクスワーゲンでエンジン制御開発の仕事に携わっていた。

日本の自動車メーカーはいかに壊れずに長く乗れるかという需要が高いく、それを目的に車が開発されてる。
ドイツではどんな状況でも車が減速と停止ができ、時速200kmまで加速できる性能とそれでもふらついたりしない車の開発をしていて、走行性能が高い。

走行性能が良くて燃費が良いエンジン制御システム開発を学ぶ目的で、頼翔は3年半フォルクスワーゲンに勤め、先月の終わりに日本に帰ってきて、今、デンタでエンジン制御ECU開発部長をしてる。

「遅くなった」

19時に待ち合わせをしていたのにいつもの事だけど20分遅れて、父と理人さんと……頼翔くんが座敷に入ってきた。

10年ぶりに会う頼翔くん。
背が伸びて大人の色気が漂うスパダリな男に成長してた。

銀フレームの眼鏡をかけ知的な端正な顔立ちに思わず見惚れてしまう。

わたしの前に頼翔くんが座り、目が合ってドキッとする。

「真凛、頼翔くんがかっこよすぎるから緊張してる?」

父が茶化してきた。だから目線を父の方に向け、キッと睨みつける。

「真凛、これからトミタのハイブリッド仕様車用のエンジン制御ECUは頼翔くんに任せる事にしたから、仕事でしょっちゅう顔を合わせるようになるんだから、赤面しないよう、このイケメンな顔に慣れろ!!」

トミタのエンジン制御開発部長をしてる父はわたしの反応を面白がってる。

父の言動を無視し、配膳された海鮮食べつくしコース(飲み放題付)のお寿司とお刺身をひたすら口に運ぶ。


ちなみにわたしの母もわたしを産むまではトミタのエンジン制御システム開発の仕事をしてた。
わたしを産んでからはデンタでエンジン制御ECUシステム開発エンジニアをしてる。
結花さんと子育てを協力し合いながら仕事を続けてた。
わたしと頼翔は近所に住んでいて小学校卒業するまでは常に一緒にいて、頼翔くんが中学生になってから高校卒業するまでも月に1~2回ぐらいは食事会で会ってた。
だから、頼翔くんの姿を見慣れてるはずなのに、10年ぶりに会うと見た目が神々し過ぎて直視できない。

「創真、真凛をからかわない。創真だって、大学時代からわたしと付き合うまで10年近く結花に見惚れて同じような反応してたよ」

父は結花さんに長い片思いをしていた。結花さんは高嶺の花でわたしの父には手が届かない存在。

結花さんは仕事もできて美魔女で、わたしが憧れて目指してる女性だったりする。

和食料亭 縁 でのお食事会はひたすら美味しい料理を食べ続けた。

そして、腹を満たしたらいつものように母の耳元で帰ると伝え、料亭から出ようとした。

でも、今日は、1人で帰して貰えなかった……。

「10年ぶりだな」

「……うん」

理人さんが頼翔くんにわたしを送り届けるように言ったから、2人で帰る羽目になった。
和食料亭 縁からうちは目と鼻の先。
いつもは1人こっそり帰っても何も言われない。

「真凛、公園でブランコに乗りながら少し話そう」

家から徒歩5分のところにある昔、頼翔くんとよく遊んだ公園の前を通りかかった時に、頼翔くんがブランコに指をさして言った。
そして、わたしの手を取りブランコまで歩いていく。
ブランコの前につくと、わたしの手を離し頼翔くんは右のブランコに座った。
だから、わたしも左のブランコに座った。

「真凛、あのさ、俺と付き合わない?」

「……どこへ?」

「そういう意味じゃなくて、俺の恋人になって、それで、俺の奥さんになって欲しい」

突然、頼翔くんにそんな事を言われ、たじろぐ。
頼翔くんの方を向くと、頼翔くんは真剣な表情をしてわたしの事を見てた。

「……いきなり言われても困る」

付き合ってと言われても10年ぶりに再会して、かっこよくなって帰ってきた頼翔くんの顔がまともに見られないわたし。
付き合うなんて、無理。

「……真凛、俺の顔をみて」

頼翔くんがブランコから立ち上がってわたしの前に来た。
そして、わたしの下あごを触れ、無理やり至近距離でわたしと顔を合わせる。

「真凛、赤面してる。俺に好意がなかったらこんなにならないよな。真凛、付き合おう」

そういうと頼翔さんがわたしの手を引きブランコから立たせた。

「今日はもう帰ろうか」

手を繋がれたまま、頼翔くんと公園を出て歩いてわたしの家まで送られた。

「明日、9時に迎えにくるから。ドライブに行こう」

わたし、付き合う事に合意してない。
なのにデートの約束をさせられた。


次の日の朝9時に頼翔くんが迎えにきた。
いつもみたいに7時半に起きて着替えてからメークをし、朝ご飯を食べて自分の部屋に戻りU-NEXTで東宝アニメ映画を見てたら母に呼ばれ、TVを消してプラダのカーキ色のフラップバックを手に持ち玄関へ行く。

「真凛、頼翔くんとドライブに行く約束をしてたのね。行ってらっしゃい」

家から出ると、お客様用駐車場に青い86が停まってた。

「頼翔くんって走り屋?」

「……アメリカとドイツにいた時はやらかしてたね」

安全運転で公道を走る。でも烏森から高速道路に入って、運転は荒くないけれど最高時速200km出てメーターを越えてた。

「捕まったら嫌だから、ネズミ取りの装置があるところはブザーが鳴るようにしてる」

カーブでなくコーナーでドリフトをされ、時間的に渋滞してないから良いものの、あまりにも酷い運転に思わず涙目になった。

1時間ほどで伊勢神宮に着いた。

日本の総氏神様である天照大御神(あまてらすおおみかみ)を祀っている内宮(ないくう)と衣食住の神様を祀っている外宮(げくう)を参拝し、その後お土産横丁で伊勢うどんを食べてから車で20分走らせた先にある水族館 シーパラダイスに入った。
シーパラダイスは動物たちとの距離が近く、アザラシタッチや、アシカショー、セイウチとイルカにも触れ合うことができて楽しかった。



「真凛、ちょっと歩こう」

シーパラダイス内ではぐれないよう頼翔と手を繋いでて、館内を出てからもそのまま繋いだまま歩く。

「ここにくる事が1番の目的」


海岸沿いにある恋愛成就、夫婦円満でよく知られる二見興玉神社(ふたみおきたまじんじゃ)に着いた。
まるで寄り沿っているように見える”夫婦岩”をながめてから本殿をお参りし、観光を終えて名古屋に戻る事に……。

「ちっ、この速度だと名古屋市内に着くのに2時間かかるな」

帰りは安全運転といっても時速120km出てた……。

知立に戻り、頼翔くんが1人暮らししてる駅前の高層マンションの駐車場に車を停め、焼き鳥と創作料理が看板メニューの居酒屋に入ってお酒を飲みながらご飯を食べ、21時過ぎに家まで歩いて送って貰った。

ドライブデートで一気に距離が近づいた。
目を合わせるのも恥ずかしかったのに、自然と手を繋いで歩けてるのが不思議。

でも、極上級のスパダリな頼翔くんにわたしは相応しくない。
スタイル良くないし、仕事もできる方じゃない。

頼翔くんに付き合おうと言われたけれど断ろうと思う、わたしがいた。




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