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拉致からの帝王切開  side 愛莉

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澪が東大病院に転院してから1週間が経った。
父親が違う同期複妊娠という稀な症例と、難易度AどころかS級の絨毛膜2羊膜双胎の前置胎盤による癒着胎盤のオペ。

この病院でオペを執刀すると引き受けてくれたのに、術式ついてはあれこれ案はでても執刀医が決まらず、澪と双子の命が助けられるか不安になった。

そんな時、22時過ぎに家に戻ると、家の前で真嶋が待ち伏せしていて、近くのレストランに連れていかれ、全てを吐かされた。

澪のエコー動画と血液検査のデータを見せ、ハイリスクな帝王切開になる事を伝えた。

4Dフルカラー超音波エコーだから、双子の顔はリアルにわかる。
父親が違う同期複妊娠だと真嶋はすぐに気づいた。

産婦人科は専門外とはいえ、ハーバード大学のメディカルスクールを卒業しただけあり、全科の難易度Aクラス以上のオペの術式が頭の中に入ってた。

「……1人で執刀するのは無理だ。大出血のショックで澪の命が危ない。如月蓮に話して、一致団結してオペをする」

深夜0時を回ってるのに、如月蓮が住んでるマンションを訪ね、いないからと病院まで行く。
澪の状態を1番把握しているのが私だからと付き合わされた。
そして、ノートパソコンに入ってるエコー動画と血液検査のデータを見せながら如月蓮にも同じように説明した。

東大病院から拉致し、如月総合病院で緊急帝王切開をする計画が立てられた。

癒着胎盤のオペはかなり難航するとかで、癒着が進まない状態でオペをした方がいいという判断から、1週間後にオペが行われる事になった。

****
「真嶋、10分以内に終わらせろよ」

「わかっている」

私は吸引器で血を吸い上げ、輸血量の調整をする役回りを任された。
エコー動画で胎盤の位置を把握し、自身の息子を取りあげる。
メスを入れ、ものの3分で息子を取りあげると新生児小児科医に渡す。
大出血が起きてる中、胎盤を剥ぎ取り癒着している場所の子宮を部分切除して子宮筋腫核出術のように子宮を縫合する術式でオペは行われた。

華麗なる施術で、如月蓮は8分、真嶋は10分で終わらせた。
大出血は止まり、子宮と皮膚を縫合し、オペは30分もかからなかった。

全身麻酔の点滴を止め、自力呼吸を始めたら口の中に入ってる人工呼吸器の管を抜く。

「真嶋、切り過ぎだ。こんなに切らなくても執刀できただろ!!」

「如月先生とそんな変わりませんよ。数ミリしか違わないじゃないですか!!」

傷は残るけど、丁寧に縫合されてるから目立たなくなると思われる。

澪の事を取り合ってる2人だから犬猿の仲。

拉致からの帝王切開の計画に関しての話し合いで、術式に関しては意見は合ったけど、澪を嫁にするのは俺だといった言い争いが繰り返されてた。

同期複妊娠で2人とも父親になった。
麻酔から覚めた澪。
術後の診察をどっちがするかで揉めてる2人の姿を見て、戸惑ってた。

2日間は絶対安静だから、運搬用保育器に入った息子達を個室の集中治療室まで連れていった。
如月蓮そっくりな1865gの長男と、真嶋そっくりな1254gの次男。

小さく産まれたけれど、体は完全にできあがってた。

同期複妊娠という症例は稀すぎて、知られていない。
それもあり、双子の父親が違うとは誰も思わなかった。

双子が退院する1ヶ月半後に澪も退院した。
そして、如月蓮のマンションで暮らす事になり、そこに真嶋が転がり込み、5人家族として生活するようになった。

如月蓮と真嶋は、結婚という制度に拘らず、澪を共同で愛する事にしたらしい。


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