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突然の訪問

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全国的に9月の半ばはまだ残暑が厳しい季節だけど、北海道はどんどん日の入りは早くなり、平均気温も20℃を下回りら少し肌寒くなった。

毎日の日課で大和をベビーカーに乗せて小樽運河を散歩する。
9月の終わりにはここを出て、つくばに住もうと考えてるけど、いまだに凛花ちゃんからいい物件の紹介がない。
“もうちょっと待って!!”とくまさんがごめんなさいしてるLINEスタンプが送られてきて、後2週間で見つかるのかっと不安にある。

マンションに戻りエレベーターから降りると、私が住んでる部屋のドアの前にスーツを着た男性の後姿が見えた。

見覚えのある後姿に固まってしまう。
「……あっあっ、あう、ばあ」
大和が私が部屋の方に歩き出さないから私の方を見て話しかけてきた。喃語を話すようになり、最近、なにかと私に語りかけてくる。

大和の声が聞こえたのか、私の部屋の前にいた大翔が私の方に駆け寄ってきた。
そして、わたしを力強く抱きしめてきた。
「……彩葉。凛花さんから彩葉が俺の子を産んで小樽で生活してるって聞いてすぐにでも迎えにきたかった」

BARで凛花ちゃんが拓磨さんとセフレをしてるから、拓磨さんを関して、大和は凛花ちゃんと顔見知りになったらしい。
大翔と2人でひっそり暮らしたいと伝えたのに、凛花ちゃんは勝手に大翔にバラしてた。


「……本当に俺にそっくりだ。大和、俺が父さんだよ。おいで」

ベビーカーに座ってる大和を抱き上げ、大翔が高い高いをした。
ちびな私が高い高いするのと違い、目線が上がるからか大和は楽しいのか「きゃっきゃっ」と笑い声をあげて喜んでた。

「彩葉、これからの事を話したい。家の中に入れてくれる?」
玄関の前に大きなスーツケースがあった。
「引っ越し準備を手伝いにきた。2週間休みを貰った。彩葉、俺と結婚して、俺が住んでるマンションで一緒に暮らそう」
部屋の鍵を開けずに立ち竦んでる私に大翔は言う。

「子供ができたから責任とっての結婚だったらしないでいいよ。1人で育てられるから」

大翔が私を迎えにきてくれて、結婚して大和を一緒に育ててくれると言ってくれるのは嬉しい。
でも、大和ができた夜、何もなかったようにホテルから出て行った大翔は私と恋人関係に戻る気はなかったんだと思う。
だから、子供ができた事を理由に夫婦になるなんてできない。

「俺は彩葉に初めて出会った日からずっと、彩葉の事だけを愛してる。彩葉を愛し過ぎて、……心に傷を負ってる彩葉を無理矢理抱いてしまいそうになって、だから、俺は彩葉から離れた。こんな所で話すないじゃないから、家の中に入れて」
玄関前で話す内容ではないから、ドアの鍵を開けて大翔を家の中に招き入れた。


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