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狂気な旦那様

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4年前の春、私は蓮の転勤に着いていきたかった。
だけど、大学院修士まで出したのに、たった1年で仕事を辞めて蓮に着いていくと言った私を両親が許してくれなくて、反対されたから諦めた。

ーー 蓮が東京本社に戻ってきたら、結婚しよう。

自分の名前と保証欄に父の名前が書かれた婚姻届を結婚の約束を交わすように交換した。

ーー 7年間恋人同士だったから遠距離になっても大丈夫。

1人暮らしをしていた蓮の家に半同棲をしていたから、蓮がいない生活がとても寂しくて辛った。
そしてお互い仕事が多忙で長期休暇しか会えなくて、蓮が遅くまで仕事をしてるのもありLINEで動画通話をする事もできなくて、すれ違いの生活を送ってた。

私はその寂しさを耐えてた。

でも蓮はその寂しさを埋めるために、合コンでその場限りの女の子をお持ち帰りしてた。
26歳で盛ってるお年頃だから仕方がないのかもしれないけど、快楽を得る為だけに私以外の女の子を抱いてた。
しかも、親元離れた地での1人暮らしで生活費がかかるのと長距離恋愛で交通費がかかるからと、1人暮らしをしてるマンションに女の子を連れ込んでた。

マンション建設で国内シェアNo.1の瀬戸工コーポレーションの設計士で、いわゆるイケメンだから、その場限りの関係といってもほいほいと女の子が寄ってくるらしい。

誕生日を祝うために仕事を調整して週末に会いにきたのに、朝っぱらから恋人がその場限り対象の女の子がベッドの上で生々しい行為をしてるのを目の当たりにした。

浮気がバレて、私に好きでもない女の子とは体だけの関係だと弁解し赦しを乞った蓮。

失望した表情を浮かべた私に、浮気相手のナカで達する寸前だった彼が慌てふためき私に近づいてきて、だから、勃ってる急所に思いっきり蹴りを入れ、合鍵を投げて出て行った。

遠距離恋愛は7ヶ月目でジ・エンド。

その日の情景を未だに忘れる事ができない。
悪夢のように夢にでてうなされ、私を苦しめる。


蓮の浮気と最低極まりない本性を知り、連絡先を即全て拒否設定した。

2度と関わりたくなかった。

なのに、3年後に東京本社に戻ってきたこの最低男は、私が住んでるマンションの最上階にある5LDKの部屋に引っ越してきて、そして籍を入れて私を戸籍上の妻にした。



*****

2週間前の日曜日の夕方。
玄関のインターフォンが鳴って出る。そして、確認せずに出た事を後悔をする。
「俺が東京本社に戻ってきたら直ぐに結婚しようって用意していた婚姻届、役所に提出してきた」

蓮と別れてから、実家を出て1人暮らしを始めた私。
ここの住所は蓮には教えてないのに突然訪ねてきた。

東京本社に戻ってきたからと、3年前に関係が終わっていてそれ以降連絡をとってなかったのに、遠距離恋愛になる前の約束を実行されてたじろぐ。

下手に関わらない方がいいと思い、すぐにドアを閉めて鍵をしめチェーンをかけた。

玄関に座り込んで心臓をばくばくさせて恐怖に震える。

婚姻に関しては調べたら、弁護士を雇って婚姻無効の調停を行えば取り消しができる。
公正証書等不実原本記載罪、有印私文書偽造罪や同行使罪で刑事告訴する事も検討する。

会社まで徒歩5分で、地下に食品スーパーとクリーニングがある住み心地がいい私のお城。
でもこのマンションに蓮が引っ越してきた事に危険を感じ、私は荷物をまとめて実家にしばらく身を寄せようと思った。

実家に帰ると、母はご機嫌に鼻歌を歌いながらキッチンで料理をしていた。
そしてリビングに入ると、父が蓮とテーブルに並んだ母の手料理をつまみに焼酎を飲みながら楽しそうに話をしてた。
いも焼酎が好きな父に、九州の銘酒、魔王と森伊蔵をお土産に持参した蓮。
母にも母が好きなプラダのバッグをプレゼントしたようだった。

『結衣も帰ってきたか。2人が元鞘に納まってよかった。籍だけ先に入れて、結婚式は落ち着いてから挙げるんだな。結衣の花嫁姿がみれるのが楽しみだなぁ』

完全に酔いが回ってる父は、私と蓮が結婚したことを喜んでた。

別れた理由を話してなかった。
だから、遠距離によるすれ違いで別れたと思われていて、蓮が東京に戻ってきた事で仲が戻り、結婚を決めたと思われた。

実家に泊まろうと思ったけど、父と母が蓮にまとわりついて大歓迎をしてるのを見て、実家は頼れないと思い、仕事で呼び出されたといってマンションに戻った。


そして、次の日。
「瀬戸工コーポレーションの意匠設計第2課の課長に着任しました桐嶋蓮です。マンションの水回り関係の設備に関してお世話になるのでご挨拶に参りました。宜しくお願いします」

蓮が瀬戸工コーポレーションの新しい意匠設計第2課の課長としてうちの会社へ来て、応接室で部長と課長と話をした後に、直接関わりがあるからと私が配属してるデザイン設計部に来た。

「私の妻がお世話になってます」
挨拶を終えた後に、蓮が私の隣にきて、同僚達に声をかける。

婚姻届を出されたけど、私は蓮と夫婦になるつもりはないから、直ぐに婚姻取消の手続きをするつもりだった。

「結衣、会社に結婚の届けを出してないだろ?早めに出しとけよ」

部長や課長に結婚報告をされ、出したくなかったけど総務に結婚届を提出した。
そしたら親切な既婚者の総務の社員さんから、免許証や銀行口座、クレジットカードに年金手帳とパスポート、生命保険などの保険関連の名義を変更をしないといけないと教わり、半休を取らされ手続きに走り回った。

「蓮、私と蓮は3年前に別れたの。だから弁護士を雇って婚姻無効の調停を起こすから」

実家の両親も職場の上司も、私が蓮と結婚した事を喜んでる。
出張に行くたびに私の両親にお土産を届け、仕事に関してもTATAを優遇してくれる。

「……結衣、俺と離婚でなく婚姻無効?して立場が悪くなるの結衣だよ。俺、結衣の両親に好かれてるし、職場では1番怒らせたらまずい相手先の責任者だよ。いいの?両親を悲しませて、仕事もこれから他社に依頼を回すよ?」
蓮は私が蓮の奥さんを辞めたら不利益がでるように、私の外壁を埋めて逃げれないようにした。

「……書類上の奥さんでしょ。私、蓮の奥さんになる気はないから!!だから、プライベートはちょっかいかけてこないで!!」

蓮は私の部屋に入ってきたり、私を蓮の部屋に連れ込んだりはしない。

でも、仕事帰りに待ち伏せして、私の実家や友人や会社関係の飲み会に連れて行き、愛妻家の嫁にベタ惚れキャラを演じる。

同じマンション内で家庭内別居。 

お互い仕事が忙しい。水曜日と金曜日のノー残業デー以外は21時過ぎまで仕事をしてるから、家には寝に帰るだけの生活。
ノー残業デーに飲みに連れてかれたり、週末にホームパーティに連れてかれても、2人きりで過ごす事はなかった。






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