復縁なんてしない!!

鳴宮鶉子

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待ちぶせで懺悔

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蓮と再会してから、集中ができず、判断力が低下し、私は何も手につかない。
デイトレードには手を出さず、ソミーから受けてるAIシステムのプログラム作成をする。
流行性疫病の影響で銀座のクラブも1ヶ月間休業する事になり、早朝のジョギングで外に出る以外は家に引きこもる生活を送る。

「……カラオケダンスロボットの動作がワンテンポ遅い……わかりました。今から出社して訂正します」

大手カラオケチェーンから依頼されたカラオケダンスロボットのシステムを任されてた私。
実際にそのシステムでロボットを起動させた所、0.5秒遅れて動作するとシステム開発課の田坂課長から連絡がきて、マンションから飛び出し、品川駅から徒歩5分のところにあるソミー本社ビルへ向かう。

ロボットが仕様より3kg重くなっていた事から動作がワンテンポ遅くなってしまってた。
理由がすぐにわかったから4時間ほどでプログラムをかきかえるも、そのまま動作試験に立ち合い、19時過ぎまで拘束されてしまった。

「明日、ビックリエコーの担当者にみてもらってOKが出たら生産に入ろう。椎名さん、体調が優れないのに出社させてすまなかった」

身体が弱いから在宅勤務をしてると思われてる私。顔色が悪かったのか、プロジェクトメンバーから無理させてしまったと心配された。

ソミー本社ビルを出ると、外に仕立てのいいスーツを身に纏った今、IT業界で有名人な色男が立ってた。

「美玲、やっと会えた。話したい事がある。夕食に付き合ってくれ」

私の手を掴むと強引に路肩に止めていたタクシーの後部座席に押し込んだ。
行き先を言わずして走り出したタクシーは3分ほどで品川駅横にある品川プリンセスホテルに着き、降りるとホテル内に入り、最上階にある創作料理と鉄板焼きの名店に入った。

「探偵を雇って美玲を探した。そして田坂課長にお願いして美玲と今日、ここで食事ができるよう協力して貰った」

VIPルームに通され私の隣に座った蓮の口から発せられた言葉に、身震いを感じた。

「……そんな不審そうな目で見ないでくれないか。日本に戻ってから同窓会で会った津田と葉山から美玲と連絡が取れなくなったと聞いて、心配になって探した」

ボーイが前菜のローストビーフとカルパッチョ、シーザーサラダを配膳し、シュフがきて、鉄板の前で霜降りが立派な A5ランクの松坂牛と野菜と海鮮の盛り合わせを焼き始めた。
そして、ワイングラスにシャンパンが注がれる。

シュフが立ち去るまで、私が料理に手をつけず、乾杯にも応じないから、蓮も黙って座ってた。

「……アメリカに留学してた時、友人のツテでgoogleとamazonでバイトができて、チャンスだと思って引き受けて、長期休暇に日本に戻る事ができなかった。寝る間を惜しんでプログラミングしてたから、美玲からのLINEも見れずり返信もできなかった。美玲への気持ちがなくなったからじゃない。吉川から美玲が浮気をしてるって聞いて、美玲の事を本気で想ってたからショックで信じたくなかったが美玲が他の男とホテルのベッドで眠ってる写真を見せられ、美玲に裏切られた気がして別れ、吉川と付き合う事にした。あれは……吉川が美玲をはめて撮った写真だったんだな。女子会といってコンパを開き、美玲のドリンクに眠り薬を入れて眠らせ、男にホテルまで運ばせてさもやったような写真を撮らせた。美玲が音信不通になった事で吉川の企みに加算した葉山が打ち明けてくれた。美玲がそんな事をする女じゃないとわかってたのに、美玲を信じなくてすまなかった」

私の方に身体を向けた蓮が、哀愁漂う泣きそうな表情でそういうと、頭を深く下げた。

パソコンメーカー フジテクの御令嬢な吉川せれなは、優秀な蓮を婿養子に欲しがってた。
父から優秀な社員や子会社の御曹司とお見合いするも、傲慢な性格から相手から断られていて、自分で結婚相手を探すと言ってた。
女子会といって呼び出された飲み会の男性陣はみんな吉川せれなの縁談相手で、おかしいとは思ってた。

「……もう、過ぎた話。蓮が私を振って、私と蓮の関係は無くなった。あの時の真相、教えてくれてありがとう。深く傷ついたから、蓮といるの今もツライ。ゴメン、帰る」

今さら過去の話をされても、もうどうしようもできない。
懺悔されても、蓮に振られてから自暴自棄になった私の波乱な人生は元通りにはならないし、蓮を許す事はできない。

「……美玲、俺はお前とやり直したい。お前が俺と別れてから、人付き合いをしなくなり、銀座のホステスになって枕営業したり、株に手を出しかなり損失を出してる事も知ってる。全て俺のせいだろ!!美玲、これ以上自分を苦しめる事をするな」

「……無理。蓮、私をこれ以上苦しめたくないなら、私の前に2度と現れないで!!」

三ツ星レストランの豪華な料理とドンペリが入ったグラスが目の前にあっても食欲なんてわかず、シェフに申し訳ないけど蓮の側にいたくないから、私はレストランから走って出ていった。

手を掴まれそうになったけど、ヒールで革靴の上から足を思いっきり踏みつけて蓮が怯んだ隙に逃げだした。

蓮に私の過去や居場所や行動を把握され、探偵を雇い私を監視してるとわかり、かなり気持ちが悪く感じた。

『椎名さん、自動車の自動運転のシステム開発のプロジェクトに君が選ばれた。だから、来週からは火曜日と木曜日は会社に出勤して貰いたい』

次の朝、私を蓮に引き渡した田坂課長から電話がかかってきて警戒をする。

『人事課から君が過去に精神科にかかっていて精神面で無理ができなくて在宅勤務を希望してると聞いた。アメバステーションと協力して、google MAPを活用した自動運転システムを開発するにあたり、長谷川社長がその開発プロジェクトに椎名さんを参加させるよういってきた。昨日、直接、長谷川社長から言われなかったか?』

ソミーが自動運転と追突防止機能を搭載した電気自動車の開発に着手する事は知ってた。

『長谷川社長と中学高校時代の同級生なんだろ?椎名の能力をかなり評価してた。体調が悪化したら在宅勤務に戻すから、とにかく、火曜日と木曜日は出勤するように!!』

田坂課長はそう言うと電話を切った。
バイトでなく正社員としてソミーに勤めてるから業務命令には従わないといけない。

ソミーを退職しようかと思ったけれど、今が買い時と貯蓄を株に変えてしまい、貯金残高が気がついたら500万円切っていた。
銀座クラブは休業中で再開の目処もたってなく、生活を考えるとソミーを辞める事ができなかった。

蓮はアメバステーションの社長で多忙なはずなのに、火曜日と木曜日に必ずソミーに顔を出し、私にプログラムに関して指示を出した。

食事に誘ったり口説いてきたりはしないけれど、私の近くにいようとするのがすごく嫌だった。




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