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第四章: 虚無なる卒業
最終話:虚無なる世界の終焉
しおりを挟む政府の中枢や大手製薬会社の役員たちが次々と『くねくね』の呪いに卒業していく中、日本社会はまさに静かなる崩壊の淵にあった。
都市の狂気は日々深刻化し、精神病院は患者で溢れかえり、街中では虚ろな目で『くねくね』にひとつになった者たちが、まるで祝福されたかのように踊り狂う光景が日常と化していた。
しかし、多くの国民は、その異変を「新型ウイルスによる集団ヒステリー」あるいは「社会不安による一時的な精神疾患の流行」として受け入れ、政府の「新薬」と「情報統制」を信じ続けていた。
だが、その裏で政府与党の最高幹部たち、そして官邸の総理大臣は、この未曽有の事態が、もはや手の施しようのない「情報災害」であることを、既に悟っていた。
彼らは、国民を救うことなど最初から考えていなかった。
自分たちが「プロジェクト・シラギヌ」を承認し、推進したことで招いたこの破滅から、ただ自らだけが逃れることしか頭になかった。
ある漆黒の夜……
東京の空が、街の灯りさえも飲み込むような濃い霧に包まれる中、極秘裏に手配された政府専用機が、羽田空港の滑走路を滑り出した。
機内には、総理大臣をはじめとする政府与党の主要幹部、そして彼らの家族たちが憔悴しきった表情で座席に身を沈めていた。
彼らは国民を見捨て、日本という国から逃げ出すことを選択したのだ。
彼らの脳裏には日本中に広がる『くねくね』の影と、その情報に侵食され、幸福な笑顔を浮かべて狂気に堕ちていく人々の姿が焼き付いていた。
「これで……終わるのか……?」
機体が離陸し、東京の夜景が遠ざかっていく。
窓の外には白い霧の向こうに、無数の小さな点が、まるで生命のように「くねり」ながら、ゆらめいているのが見えた。
それは、地上で『くねくね』に「ひとつになった者たち」が、彼らの逃亡を嘲笑うかのように踊り続ける姿だった。
彼らの背後には、彼らが置き去りにした静かに狂気に飲み込まれていく日本列島があった。
しかし、彼らが逃れた先の世界も、もはや安全な場所ではなかった。
数週間後、アメリカ合衆国ワシントンD.C.のペンタゴン。
日本政府からの緊急要請を受け極秘の国際会議が開かれていた。
日本から亡命した政府幹部たちが、『くねくね』という情報災害の脅威と、その恐るべき感染力について説明を試みる。
だが、彼らがモニターに映し出した学園Zや都市の狂気の映像を見た途端、会議室の空気は一変した。
会議に参加していたアメリカ国防総省の将軍が、突如、「あ、あ、あ……」と意味のない音を発し、その場で奇妙に体を「くねらせ」始めた。
彼の目に宿るのは恐怖ではなく、底知れない「恍惚」の光だった。
それを皮切りに、会議室のあちこちで複数の関係者が同様の症状を見せ始める。
彼らの顔に浮かぶのは、学園Zでひとつになった者たちが見せた、あの幸福な、しかし虚ろな笑顔だった。
「まさか……ここまで……」
亡命した日本の総理大臣は絶望に打ち震えた。
彼らは、『くねくね』という呪われた情報を政府専用機の機内、そして彼らが持ち込んだ機密資料、さらには彼ら自身の精神を通じて、自覚なく「世界」へと持ち込んでしまっていたのだ。
『くねくね』の浸食は国境も、人種も、地位も関係なく静かに、そして確実に広がり始めていた。
ニューヨークのタイムズスクエアの巨大スクリーンに、ロンドンの地下鉄の広告に、北京のオフィスビルの窓に……
あらゆる視覚媒体を通じて無数の白い影が、まるでこの世界の一部であるかのように、自然に「くねり」と姿を現すようになる。
人々は、当初それを「光の加減」「目の錯覚」として処理する。
しかし、その「錯覚」が積み重なることで、彼らの無意識下では『くねくね』の存在が「恐怖」から「認識すべきもの」、そしてやがては「受け入れるべきもの」へと変容していく。
世界は『くねくね』の情報に静かに、しかし確実に塗りつぶされていく。
暴力的な終焉ではなく、人々が「幸福」のうちに『くねくね』を受け入れていく、虚無なる「白絹の世界」
灰谷零士たちが学園Zで経験した地獄は始まりに過ぎなかった。
彼らが逃げ延びたと思った世界は、既に『くねくね』の情報に深く浸食された、終わりのない地獄そのものだったのだ。
高層ビルの窓ガラス、スマートフォンの画面、そして世界中の人々の瞳の奥に無数の小さな白い影が、くねりと歪むように映り込む。
それは、人類が自らの手で生み出した欲と知識によって、自らを破滅へと導いた、救いのない「虚無なる終焉」を暗示していた……
─── 終 ───
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