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第四話 死亡フラグ、発見しました
しおりを挟む夜襲を撃退したものの、新田軍の状況が好転したわけではなかった。
敵の攻撃は日に日に激しさを増し、こちらの兵力と兵糧は確実に削られていく。義貞さんの顔にも、焦りの色が濃くなっていた。
俺の弓は、局地的な戦闘では絶大な効果を発揮した。
だが、それはあくまで戦術レベルの話。
戦全体の大きな流れ、すなわち戦略を変えるほどの力にはなり得なかった。
「このままではジリ貧だ……」
軍議の場で、脇屋義助さんが苦渋に満ちた声で呟く。
武将たちの表情も一様に暗い。
その重苦しい空気の中、義貞さんは一枚の地図を広げた。
「やはり、金ヶ崎城を奪還するしかない」
金ヶ崎城。 それは現在、足利方に占拠されている、この地域の最重要拠点だった。
ここを落とせば戦況をひっくり返せる可能性があるが、守りは固く攻略は困難を極める。
「しかし兄上、城攻めとなればこちらの被害も甚大になりますぞ」
義助さんの懸念はもっともだった。
今の新田軍に、力攻めをするだけの余力はない。
「力攻めはせん」
義貞さんは、地図の一点を指さした。
「城の背後にある、この崖を覚えておるか。
ここを夜陰に乗じて少数精鋭で登り城内に潜入。
内から門を開け、本隊を突入させる」
それは、あまりにも大胆で無謀ともいえる作戦だった。成功すれば大きいが、失敗すれば潜入部隊は全滅するだろう。
「危険すぎる…」誰かが呟いた。
だが、義貞さんの決意は固いようだった。
「この作戦の要は、敵の警戒を引きつける陽動にある。わしが本隊を率いて城の正面に陣取り、派手に攻めかかっているように見せかける」
「兄上、それはあまりにも危険です!
総大将が自ら囮になるとは!」
義助さんが血相を変えて反対するが、義貞さんは首を横に振った。
「わしが出るからこそ、敵は騙されるのだ」
その言葉を聞いた瞬間、俺の背筋を悪寒が走った。
陽動……囮。
それはつまり、敵の攻撃が集中する最も危険な場所に、義貞さん自らが身を置くということだ。
(まさか…これが、歴史の……)
藤島での死。 それは、単独行動中の不意打ちだったはずだ。
だが、もし、この金ヶ崎城攻めが、その「引き金」になるとしたら?
歴史の大きな流れは、些細なきっかけで大きくうねる。 俺の存在が、夜襲という形で歴史に介入したことで、義貞さんの死に方が、あるいはその時期が、変わってしまう可能性はないだろうか。
嫌な汗が、背中を伝う。
俺は、いてもたってもいられず、声を上げた。
「俺も、陽動部隊に参加させてください!」
「ならん!」
即座に、義貞さんの一喝が飛んだ。
「お主は別動隊に加われ。その神眼で、崖を登る者たちの道筋を照らすのだ。お主の力は、そこでこそ最大限に生きる」
「でも!」
「口答えするな、義之!これは決定だ!」
有無を言わさぬ、総大将の命令だった。
作戦決行は、三日後の夜と決まった。
俺の心は、焦燥感で焼け付くようだった。義貞さんを止められない。
ならば、せめて彼を守るための力を、もっと引き出さなければ。
その日から、俺は寝る間も惜しんで新たなスキルの探求に没頭した。
【集中】と【必中】は、もはや自在に発動できる。
重要なのは、まだ見ぬ未知の能力だ。
(もっと遠くを…もっと正確に……!)
俺は、遥か彼方の山の稜線に意識を集中させる。
木々の一本一本、岩肌の凹凸までも見定めようと、目を凝らす。
すると、脳が焼き切れるような激しい頭痛と共に、視界がぐにゃりと歪んだ。
【望遠】
その文字が脳内に浮かんだ瞬間、世界が一変した。
数キロは離れているはずの山の稜線が、まるで目の前にあるかのように、くっきりと鮮明に見える。
木の葉の葉脈や、岩の上を這う小さな虫の姿まで手に取るように分かった。
「……すごい」
これが、俺の新たな力。
興奮も束の間、俺はさらに別の可能性を試していた。
もし、射程が無限なら?
俺は空に向かって、矢を番える。
狙うのは遥か上空を流れる、ちぎれ雲の一片。
【集中】【望遠】【必中】
そして、意識の中に新たな単語が浮かび上がる。
【射程距離無限】
放たれた矢は、黒い点となって空に吸い込まれ見えなくなった。
本当に雲に届いたのかは分からない。
だが、確かに感じた。
この矢は、物理法則を無視して、どこまでも飛んでいくのだと。
これなら、あるいは……
義貞さんがいる本隊からどれだけ離れていても、彼を狙う敵を排除できるかもしれない。
一筋の光明が、絶望に沈んでいた俺の心に差し込んだ。
そして、運命の夜が来た。
月明かりもない、漆黒の闇。
作戦決行にはこれ以上ない夜だった。
俺は、脇屋義助さんが率いる別動隊と共に、金ヶ崎城の裏手にある断崖絶壁の下に潜んでいた。
これから、身の軽い兵たちが、この崖を登って城内に潜入するのだ。
俺の役目は、【望遠】スキルで崖の上の敵兵の配置や動きを監視し、登攀部隊に危険を知らせること。
「頼むぞ、義之殿」
義助さんの真剣な眼差しに、俺は固く頷いた。
一方、城の正面では、すでに義貞さんの率いる本隊が鬨の声を上げ、陽動攻撃を開始していた。遠くから、喊声と金属音が風に乗って聞こえてくる。
(義貞さん……!)
俺は、崖の上から城の正面へと意識を切り替える。
【望遠】
視界が、一気にズームアップする。
松明の光に照らされた城門の前で、馬上で太刀を振るい獅子奮迅の働きを見せる義貞さんの姿が見えた。彼の周りには、敵兵が蟻のように群がっている。
矢が、雨のように降り注ぐ。
その光景に、俺は血の気が引いた。
あれは陽動などではない。本物の死を賭した激戦だ。
(このままじゃ、本当に死んでしまう…!)
「義助さん、申し訳ありません! 俺、行きます!」
俺は、制止する義助さんの声を振り切り駆け出した。
目指すは、城の側面にある、小高い丘。
そこからなら、義貞さんの戦場と城壁の上の両方を射程に収めることができるはずだ。
闇の中を夢中で走る。
木の枝が頬を打ち、足がもつれる。
それでも、俺は走り続けた。
丘の上にたどり着いた時、俺の目に信じられない光景が飛び込んできた。
義貞さんが、馬を射られて落馬している。
そして、その無防備な背中に向かって、城壁の上にいる弓兵の一人が、狙いを定めて弓を引き絞っていた。
絶体絶命。
距離は、目算で二キロ以上。通常の弓では、絶対に届かない。
「ーーーー間に合えええええっ!!」
俺は、絶叫と共に矢を番える。
全てのスキルを、この一矢に込める。
【集中】【望遠】【必中】【射程距離無限】
放たれた矢は、闇夜を切り裂く一筋の光となった。
── それは歴史の強制力に抗う、ただの高校生の必死の祈りだった ──
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