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第60話 そして世直し旅 ②

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【千代姫side】

 徳松と左近様が城下町で楽しそうに遊んでいると聞きつけ羨ましくなり、お父様義光(家光)に わたくしも城下町を見てみたいとお願いしたけれどもお認めくださらなかった。

「お父様なんて嫌いです ! 」

 言い残して駆け出そうとしたところで、

「姫さま、某に任せてくだされ 」
 松平伊豆守さまに引き留められた。

殿義光(家光)、千代姫さまのお輿入れ先の松平光義みつよし(後の光友)より左近に輿入れさせれば、千代姫はずっと殿のお膝元に居ることに成るのですぞ !
 いい加減、決断なされませ。
 それとも尾張に遣ってしまわれますか ?」

 ぐぬっぬっぬっ、と唸ったお父様。

 えっ ?  左近様が、わたくしの夫……
 わたくし、耳が良いので聞こえてしまいました。
 正直、よく知らない遠戚の光義様に嫁ぐと聞かされた時には不安しかありませんでしたが……

  吉良きら上野介こうずのすけ義央よしひさ 様

 わたくしの周りの殿方は『男らしく無い』『武士らしく無い』と陰口を言っていますが、むしろ わたくしには好ましく感じていました。
 他の殿方には無い優しく柔らかい雰囲気が心地好いのです。

「丁度良い機会です。
 例の件、左近たちに調べさせる旅に千代姫さまを同行してもらうのは、どうでしょうか ?
 千代姫さまの目で左近を見てもらいましょう値踏みさせましょう 」

「だが、左近や徳松様だけでは千代姫様を守りきれぬだろう。
 伊賀や光矢の者も警護に付けられるのは限られる。
その辺りは、どうするつもりだ、殿

 おそらくは反対しているのでしょう。
 柳生但馬守さまが伊豆守さまに嫌味を言いましたが、

「それなら、お主が千代姫様をお守りしたら良いではないか。
 それなら安心ですよね、殿義光 」

 「某が良くても、上様綱吉(徳松)が嫌がるでしょう 」

 但馬守様は抵抗しましたが、

「うむ、宗矩が千代を守ってくれるなら安心だ。
 徳松も左近も経験が足りぬから、此度の旅は良い勉強にも成るだろう。
 千代よ、そなたの目で左近を検分するが良い。
 もはや太平の世、我が娘くらいは政略抜きに好きな男と一緒に成って欲しく想うは親の欲というもの 」

 あれよあれよと云う間に、わたくし達の旅が決まりました。
 当然、徳松は但馬守が同行する旅に反対することもなかった。
 将軍 今川綱吉としての頼みを断れる訳もなく但馬守は旅に同行することになったのですが、左近さまからの提案で、

「わたし達の旅は、お忍びでしょう。
 だったら、わたしがプロデュースするから大船に乗ったつもりで安心してね 」

 ぷろでゅーす ?   南蛮の言葉でしょうか。
 わたくし達の知らない知識を持つ左近様。
 それは、初代将軍 今川義元 様に通じるものがあるからと重要視される要因なのが少しだけ判りました。
  

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