【猫の記念:2026】:お風呂場のジョーと🐾底辺作者の私

月影 流詩亜

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第2話 涙の入浴と🐾招かれざる(?)訪問者

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​ ざばぁ、と湯船に沈み込むと、冷え切った体がじんわりと解けていく。

「はぁ……」

 雪かきで痛めた腰の張りが少しだけ和らいでいくのを感じるが、心の中の冷たいしこりは、お湯に浸かってもどうしても溶けなかった。

​ 湯気で白く曇った視界の向こうに、スマホの画面に並んでいた「★0」という数字がフラッシュバックする。

「私、才能ないのかなぁ……」

 ポツリ、とこぼした独り言は、タイル張りの浴室に反響してやけに惨めに響いた。両膝を抱え、顔を埋める。温かいお湯に混じって、ツーッと頬を冷たいものが伝った。

​ その時だった。

​ カリカリカリッ!

​ すりガラスの扉の向こうから、鋭い爪音が響いた。

「えっ?」

 びくっとして顔を上げる。

「にゃあぁーーっ!」

 ひときわ大きく、そしてどこか偉そうな、要求を通そうとする鳴き声。長女のメグのような控えめな声でも、末っ子のエイミーのような甘えた声でもない。

​(ジョー?)

 水場を嫌がる猫が、わざわざお風呂場にやってくるなんて珍しい。真由美が慌ててすりガラスの扉を少しだけ開けると、そこには、不機嫌そうにしっぽをパタンパタンと床に打ち付ける黒猫の姿があった。

​「ジョー、どうしたの? ここ、濡れるよ」

「にゃっ」

 短く言い捨てると、ジョーは濡れた床のタイルをひどく嫌そうに一歩一歩踏みしめながら、迷うことなく湯船に近づいてきた。そして、しなやかな跳躍で、ひらりと湯船の細い縁に飛び乗ったのだ。

​「ちょ、ちょっとジョー! 落ちたら危ないって!」

 真由美の焦りをよそに、ジョーは縁の上を器用に歩き、真由美の目の前でピタリと止まった。
 琥珀色の瞳が、赤く腫れた真由美の目をじっと見据える。

『……なに泣いてんのよ、みっともない』とでも言いたげな、呆れを含んだ強い視線。

 そして、ジョーは前足をスッと伸ばし、真由美の濡れた肩をポン、と一つだけ叩いた。

​「……慰めて、くれてるの?」

「なぁー」

『勘違いしないで。うるさくて眠れないから、様子を見に来てやっただけよ』とでも言うように、ジョーはプイッと顔を背けた。
  しかし、湯船の縁は細く滑りやすい。時折ツルッと後ろ足が滑りそうになりながらも、決して浴室から出て行こうとはしなかった。

​ このままでは本当にお湯に落ちてしまう。

 焦った真由美は、ふと洗い場にあった黄色いプラスチックの洗面器を手に取った。お湯にプカプカと浮かべ、ジョーの目の前にそっと差し出す。

「ジョー、危ないから、これ乗る?」

​ ジョーは怪訝そうに黄色い小舟を見つめた。鼻先を近づけ、フンッと匂いを嗅ぐ。
 そして、やれやれという顔で真由美を一度見下ろしてから、なんとその洗面器の中に、長い手足を見事に折りたたんで入り込んだのだ。

​ すっぽり。

​ 黄色い洗面器の中に、漆黒の毛玉が完璧な円を描いて収まっている。

「えっ……ウソ」

 お湯の温もりが底からじんわりと伝わってきたのだろう。ジョーは最初こそ『下僕が用意したから、仕方なく乗ってやったわ』というようにツンと澄ました顔をして顔を背けていたが、数秒後には、琥珀色の瞳がとろんと細まり始めた。

​ ゴロゴロゴロゴロ……

​ 浴室に響き渡る、盛大なモーター音。

「ふふっ……あははっ!」

 さっきまでのツンツンした態度はどこへやら、洗面器の小舟で完全にくつろぎ、喉を鳴らすジョーの姿があまりにもシュールで愛らしくて、真由美は堪えきれずに吹き出してしまった。

​「ありがとう、ジョー。お風呂、あったかいね」

「……にゃぅ」

 目を閉じたまま、ジョーは面倒くさそうに短く鳴いた。相変わらず尻尾の先だけはパタン、パタンと動かして『別に甘えてるわけじゃないから』とアピールしていたが、そのゴロゴロ音は、真由美がお風呂から上がるまでずっと鳴り止まなかった。


​ 


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