7 / 18
第一章:薄暮の月白
1-5.水平線は何色か
しおりを挟む
-鯱- 鯨偶蹄目マイルカ科の海獣
魚全般やサメのみならず、自分の体の倍以上あるシロナガスクジラをはじめとした鯨やホッキョクグマをも捕食する。肉食性で知能も高く、海洋系の食物連鎖の頂点に立つ。弱っている場合はサメに襲われることもあるが、それ以外の場面では天敵となる種は存在せず、時には共食いを行うことも……。
無利益な戦いを避ける傾向にある半面、他の生物を海面上に放り投げて必要以上の苦痛を与えるなど、遊び目的で虐殺することもある。氷の下からの奇襲、群れでの協力、挟み撃ちなど、高度な狩りの技術も合わせ持つ。
泳ぐ速さは時速50㎞以上にも及び、最も早く泳ぐことのできる哺乳類の一種でもある。群れでのコミュニケーションを行うためのコールと呼ばれる音と、前方の障害物を確認するエコーロケーションに用いるクリック音の二種類の音を発生させることができる。クリック音の性能は高く、わずか数ミリメートルしか離れていない2本の糸を認識したり、反響音の波形の違いから物質の成分、果ては内容物まで認識したりすることが可能だという。
(参考資料:Wikipedia より)
------------------
ーIt is never too late to be what you might have been.ー
流れるような美しい筆跡が、書類にインクの跡を残していく。飾り気のないQUEENの執務室で、銀髪のQUEENは、その公務に頭を悩ませていた。約三世紀の間、QUEENで溜まった仕事の量は膨大で、捌いても捌いても限がない。
外交問題、食糧不足、輸入関連、財政予算に関するまで、幅広く集められた書類と意見書は、到底一人では相手できない。
(……これだから、王宮は嫌だったんですよ…………)
一度筆を置き、凝り固まった肩を解すように大きく伸びを一つ。この国の者たちは、あまりに絵札を万能視しすぎている。
ふと外を見遣れば生憎の曇天だ。快晴の多い♢の国には珍しい……。時計を見れば、13時半少し前。ちょうど昼時だが、これっぽっちも食欲は湧かない。
王宮へ連れてこられて早三日。長く絶食状態にあったせいか、晩餐に呼ばれても全く食欲が起きず、結局二日目以降は晩餐会にすら参加しなくなってしまった。
着任直後にしてはあまりに自己中心的な行動でがあるが、無理に口へ入れても、部屋に戻ってから吐いてしまう。飢餓に苦しむ者がいるのに、食物を粗末にするなんて……。戻してしまうくらいなら、どこかの誰かに食べてもらった方が良い。
(拒食症、ですかねぇ……。あるいは単純な不慣れか……)
食わずとも死なぬ体とはいえ、空腹は感じる。飢餓の苦しみは、彼女自身にも痛いほど刻まれている。しかし、嘔吐も、弱った体には厳しい仕打ちであって……前にも後ろにも、進めない。
(……QUEEN OF CLUBに親書でも送りましょうか……。いずれはご挨拶せねばなりませんし……)
目の前の書類に目を落とす。国を覆う食糧難に太刀打ちするには、実りの国・♧の協力が必須だ。
……けれど、彼女の筆は進まない。なぜなら、QUEEN OF DIAMONDは、♧の言語を解していないから。絵札の声は、あらゆる言語に対応しているが、筆記は別問題だ。文書を送るためには、先方の言語を理解しなくてはならない。
(……一度焼失したこの王宮に、他国の言語の本なんて無いでしょうし……かといって、こちらの言語で送るのは失礼でしょうし……。……どうしたものか……)
八方塞がりな現実に、机に肘をつき、頭を抱える。他者には見せられない苦悩の姿。それは、今日が初めてではない。
そんな折、トントントン……と軽く三つのノックが響き、入室の許可を待たずに扉が開かれる。
「仕事中すまない。少し時間を貰っても良いだろうか?」
白よりも白い純白の髪を後ろで束ね、彼女の銀にも負けぬ白銀の目を持つ、この国の君主・KING OF DIAMONDが姿を見せる。
「えぇ、問題ありませんよ。むしろ、わざわざ御足労頂いて申し訳ないくらいです」
筆を置いて席を立ち、庶務机の前方に設置された応接スペースへと移動する。
「お茶でも淹れましょうか?」
「いや、必要ない。気持ちだけ受け取っておこう」
はて、昼食休憩の誘いでなければ、一体どんな要件だろうか。面倒な仕事を押し付けられなければ良いのだが……。
「してKING、なんの御用でしたか?」
「……うむ、あなたの体が心配でな……。様子を見に来た。食事は取れているか?」
流石は民に慕われる王者。ただ純粋に、晩餐へ顔を見せない新入りの部下を心配して、わざわざ部屋を訪ねてくれたらしい。
想像以上に人間味のある君主の思いやりに頬を緩め、
「ご心配なさらず。長らく食事を取っていなかったせいでしょうか……まだ重いものは食べられませんが、果物程度なら問題なく」
そう平然と嘘をついた。その実、結局彼女の絶食状態は何も変わっていないのだが……。
「……そうか。皆と食べるのがまだ慣れぬのなら、部屋へ軽食を運ばせよう。……あまり、無理をするなよ」
痛いほどにどこまでも真っ直ぐなKINGは、息を吐くように吐かれた嘘に気付く様子無く、純粋な心配と気遣いを送ってくれる。それが、彼女にとってはどこまでも息苦しく感じられた。
「お気遣い感謝いたします。……あぁ、すみません、ついでに一つよろしいでしょうか」
せっかく機会がそちらから訪れたのなら、掴まない選択肢はない。彼女は、必要最低限だけ伝えて知ろうとするKINGを呼び止めた。
「なんだ」
「大したことでは無いのですが……♧宛に文書を送りたいのです。しかし、生憎♧の言語には学がなく、語学書があればお借りしたいのですが……」
国内に図書館があることは知っている。が、あの膨大な書籍の中から、最適な物を見つけるにはあまりに時間がかかりそうだ。
王宮にも図書室とは別に書庫があると聞く。もしかしたら、目的の本があるかもしれない。あるいは、国王配下の通訳士でも居れば良いのだが……。
すると、
「あぁ、なんだ、そんなことか。その程度であれば、私が訳そう。草案を頂ければすぐにでも」
という、驚きの回答が。どうやらこのKING、♧の言語を解しているようだ。
「いえ、それはとてもありがたいのですが……」
さすがに上司の手を煩わせられない。丁重に断ろうとする彼女に、
「私は♧出身なのだ。気にするな、大した手間でもない。ましてや外交文書など、学の低い者には任せられないだろう」
そう笑って見せた。
「……では、大変申し訳ありませんが、お願い致します。草案が出来次第お持ち致しますね」
「あぁ、頼む」
そうして腰を浮かせたKINGを見送り、ようやく一つ案件が片付きそうなことに、彼女は安堵した。
白髪の君主が去っていった部屋は、陽が沈んだ後の静寂のようで、どことなく冷たく閉ざしているようだ。
(……一度休憩しましょうか…………)
心の底まで、外と同じ曇天に染まりそうで、その空気を嫌うようにどこへともなく部屋を出る。
清掃の行き届いた広い廊下、窓の外ではきめ細かい雨音が響いていた。降り始めた雨は、国土と民衆を濡らしていく。
暖かな王宮には、雨水など届かない。なんだか、雨に打たれながら国中を歩き回っていたほんの数日前までの日々が、どこまでも懐かしく、不意に哀愁の念に襲われた。
先日JACKに城内の地図を見せられて、「覚えた」などと強がってはみたものの、その実、理解したのは、自分の部屋と君主の部屋くらいなものだ。学ぶことは好きだけれど、一度で城内全ての部屋を暗記できるほどの記憶力は持ち合わせていない。
(……これで部屋にも戻れなくなったら、笑い者ですねぇ……。さすがに、来た道くらいは覚えておりますが……)
このまま歩き続けてどこへ行きつくかは全く分からない。冒険心も好奇心もさほど旺盛ではないが、仮にもここは、これから自分の職場 兼 家になる場所。早く覚えないと、恥をかきそうだ。
やがて彼女は行き当たりへとたどり着く。
(……確かここは……音楽ホール、でしたっけ……)
おぼろげな記憶を頼りに、防音用の重厚な扉を押し開けると、開いた隙間から音が流れ出した。静寂の廊下へ漏れだした音は高く澄んで、うっかりすると聞き入ってしまいそうな清らかだ。
その音の引き込まれるように、僅かに開いた戸の隙間に身を滑らせ、薄暗いホールへと足を踏み入れる。
防音加工の施されたホール内は、中の音はよく反響するにも関わらず、外を打ち付ける雨の音は一切受け入れていない。ここに許されているのは、ただ純粋な音楽のみ。一種の神聖な雰囲気を感じながら、端の椅子へ腰を下ろし、響く音に耳を傾ける。
何かの公演中というわけではない。この広いホールに、観客は彼女一人。有名な歌手がいるわけでも、オーケストラの演奏があるわけでもない。煌びやかな照明がステージを照らしているわけでも、固唾を飲んで見守る大衆もいない。飾り気のないその音楽が、彼女にはこれ以上なく心地よかった。
やがて、穏やかなロングトーンで歌が終わり、拍手の代わりに一言、
「お上手ですね」
純粋な賞賛を送った。
ステージの上から、ようやく彼女の存在に気が付いた青年は、
「あれ、いたの? 君に褒められるなんて思わなかった」
と、ニヒルな笑顔を返す。靴音を反響させながら、マローネ・ニービオを名乗るJACKはステージを下り、彼女の前方の椅子にもたれかかった。先程の美しい歌声の持ち主は、どうやら彼だったらしい。
「嘘をつく必要はないでしょう? あなたはよくこちらへ?」
「ううん? ただ気晴らしに。君が用もなくこんなところに来ることの方が驚きだけど……」
「奇遇ですね。私もただの気晴らしです」
お互いに、こんなところで遭遇するとは思わなかった、と苦笑いを浮かべる。
「体調は大丈夫なの? ヴァイスが随分心配してたよ?」
この城のJACKとKINGはかなりの仲良しだ。休憩時間にお茶を共にしたり、暇があればJACKがKINGの執務室に遊びに行く。だから、KINGがQUEENのことを心配していることを、彼はよく知っていた。
「生憎、その程度でくたばるようにはできておりませんので……。先ほどKINGが、わざわざ部屋まで声をかけに来てくださいましたよ。申し訳ない限りです」
空腹を感じ、口にものを入れれば、胃から全てを吐き出してしまう。それでも死ぬことは無い。
「う~ん、ならいいんだけど……」
彼は首を傾げる。身を貫かれそうな程の空腹など知らない。なぜなら、彼の周りはいつも、必要最低限の生活水準は揃っていたから。
「あ、そうだ! 気晴らしついでに、城下にでも遊びに行かない?」
QUEENと連れ立って遊びに行くなら、KINGにも文句は言われないだろう。このJACKは仕事が大の嫌いだ。サボれる理由があるなら、サボらなくてどうする。だって、やってもやっても終わりがない書類の山など、片付けようとする方がバカバカしいじゃないか。
「私は構いませんが……生憎の天気ですよ?」
「別にいいんじゃない? 君、♤出身なら雨には慣れっこでしょ?」
「まあ、そうですが……」
彼女の祖国・♤の国は、世界で一番雨が多い国だ。一年の半分が曇り、四割が雨、晴れ間が覗くのは残り一割しかない。
「じゃあ問題ないよね! 着替えて城門集合で!」
彼はそう楽しそうに笑って、彼女の返答を待たずにホールを飛び出して行ってしまった。
(……つくづく、行動力の凄まじい方ですね……。かなり自己中心的ですが……)
大きな音を立ててしまったホールの扉を眺めながら、彼女は苦笑いを浮かべた。
***
ーSe hai un sogno, devi fare mille sacrifici per raggiungerlo.ー
外は想像通りの雨空で、傘布に跳ねた雨粒が不思議な音色を奏でている。生憎の曇天には慣れっこだが、せっかく美しい晴れ間の見える♢の国にいるのなら、見慣れた雨空よりも晴天が見たかった。
数少ない私服を引っ張り出して、城門へ向かうと、
「うわ、ちょっと君、何さその格好!」
先に到着していた桃髪のJACKに非難の声を投げられた。
「……はて、いつもの装いですが……」
確かに、身なりが良いとは思わないが……まあ、ごく普通といったところだ。
対する彼は白いシャツにベージュのセーター、黒のスラックスとコート……という、カジュアルだがラフすぎない洒落た格好で待っていた。
「もうっ……まずは服屋からだね。女の子がそんな格好だなんて!」
「いえ、別に私は気にしていませんが……」
「隣にいる僕が嫌なの! いいから来て!」
そう言ってマローネは、アルギスの細い腕を掴み、ぐいぐいと引っ張って王都へ向かう。
傘をさしながら腕を引いているため、彼の腕は雨粒に晒されて、コートは途端に色を濃くした。
「……えっと、あの……自分で歩けますし、着いていきますので……」
この寒雨に晒されては可哀想だ。彼女は気遣いからそっと腕を離すように促す……が、
「……!?」
急激に掴まれた腕を引かれ、彼の傘の中に招き入れられる。ぶつかり合った傘が彼女の手を離れ、雨に濡れる灰色の街へ彼女の傘が転がって、水音を立てた。
「それに、そんな恰好じゃ寒いでしょ! なんでコートとか着てこなかったのさ!」
ただ状況が追い付かず困惑するばかりの彼女に、袖の塗れてしまったコートを羽織らせる。二月の厳しい寒さの中に、明らかに不健康そうなか弱い女性を晒しておくなんてできない。
「……コートと言われましても、持ち合わせがありません」
先日の夜もそうだったが、コートがあれば言われるまでもなく着てきたとも。
「あれ? 支給品は?」
「……先日も思ったのですが……その支給品というのは、いったいなんのことでしょうか……。私の確認漏れではないかと、戻ってから確認もしたのですが……」
「おかしいなぁ……。手配が遅れてるのかな……」
支給品の手配は既に終わっているはずだ。彼の認識と違う現実に首を傾げる。報告書に目は通していないが、何か不備があったのかもしれない。
「はい、急に引っ張ってごめんね。さ、行こ!」
そう言って傘を拾い渡す。そして、彼女の手を引いて歩き出す。
「……」
されるがままに手を引かれ、最早止めることも諦めた彼女は、歩幅を合わせてついて行く。足の長い彼は、彼女よりも歩くペースが速く、半ば引きずられる形になっているが……。
(……初めは怖い方かと思いましたが…………思ったよりも子供っぽいというか……)
第一印象を改めながら、こっそり隣を歩くJACKを見やる。
(……まあ、こういう関係も悪くはないのかもしれませんね……)
雨の街を歩く二つの黒い傘。降りしきる雨は傘布の上でリズムを刻み、跳ねる水音と相まって灰色の街を彩っていく。
やがて目的地にたどり着いたのか、先行していた青年が傘を閉じ、軒下に身を寄せた。どこにでもありそうな庶民的な服屋だ。
「Ciao~」
彼がいつも通りに入店すると、ドアに取り付けられたベルが音を鳴らした。
マローネは迷うことなくレディースのコーナーへ向かい、物色を始める。行きつけと言っただけあって、どこに何が売られているかは把握しているらしい。
「あ、これとかどう? 可愛くない?」
数十秒程度でお目当ての物を発掘し、フリルがふんだんにあしらわれた女の子らしい服を持ち上げる。自分で着るなら、カジュアルものを選ぶが、他人に着せるなら話は別だ。
……しかし、対する彼女は顔を歪めていた。
「……あの…………申し訳ないですが……それはちょっと……」
肩につかない程度に切りそろえられた銀の髪、中性的な顔立ちに、高くもなければ低くもない声……。一見すると青年にも見える彼女には、少しハードルが高かった。
「えぇ? 似合うと思うんだけど……」
可愛い子には可愛い服を着せたい。着飾れば彼女だって、可愛らしく見えるはずだ。
「……私には似合いませんよ」
「う~ん……似合うと思ったんだけどなぁ……」
少し残念そうに眉根を寄せる。嫌がっているものを無理に着せるわけには行かない。
仕方なしにといった様子で再度服を見繕う。傍から見てもその様子は楽しそうで、何をも知らぬ年相応の青年のようにしか見えない。
「……楽しそうですね。お好きなのですか?」
「うん。僕、昔はファッション関係の仕事に就きたかったんだ。今はもう叶わないことだけどね」
手元に向けた視線を上げないまま、苦笑いを浮かべる。
昔から……と言っても、記憶がある限りだが、誰にどんな服が似合うかを想像するのは楽しい。組み合わせ次第で、人の雰囲気を大きく変化させる、衣装のマジック……。できることなら、本業に叱った。
……しかし、その夢が叶うことは無い。目を覚ました時から絵札として育てられ、語らることも許されないまま、夢は終わってしまったから。もしも、なんて想像するだけ無駄だけど……未練は消えることを知らない。
「君にも、夢はあった?」
「……えぇ。……もう叶うこともないでしょうけれど」
服を見繕う彼の背を眺めながら、彼女も静かに肯定した。この立場に選ばれてしまったからには、皆等しく、自らの人生を諦めなければならない。
「……」
「……」
会話の途切れた二人の間に、店内のレコードが淡々と流れていった。気まずい雰囲気を紛らわすように
「あ、これとかどう?」
と、コーディネートを提案する。灰色のインナーに黒のジャケット、濃い色のジーンズと灰色のマフラー……カジュアルな組み合わせだ。
「はい、とりあえず着て! 文句ないよね? ほら、早く!」
「え、あ……は、はい……」
半ば押し付ける形で服を渡し、試着室の方へと背中を押す。さすがにレディの着替えに付き合うことはできない。
数分後、渡された服を身に着けて戻ってきた彼女に、
「うん、やっぱり僕の目は狂ってないね! すっごく似合ってるよ!」
素で自画自賛とも取れる言葉を投げた。
黒を基調とした衣服と対照的な銀の髪とまつ毛はよく映えて、中性的な顔立ちも相まって完全に美青年にしか見えない。
「……ありがとうございます」
「じゃあ、ちょっと待ってて。あぁ、そのまま着てて良いから。タグ切ってもらわないとね」
彼もそれが気に入ったのか、待ち時間に選んでいたであろう数着を片手に、早足にレジヘ向かう。
「え、あ、あのっ……」
流石に自分で払うと止めようとする彼女を差し置いて、手早く会計を済ませ、ご満悦の様子で戻ってくる。
「す、すみません……。代金お返ししますよ」
「いいよ、気にしないで? 女の子にお金払わせるとか無いから!」
そんなことをいいつつ、先日、お互いの金を奪い合ったばかりなのだけれど……。まあ、今は関係ないか。
「服はこれで良し、と……。あ、コートは返してもらうね。さすがに寒い」
「はい、ありがとうございました」
店員に服のタグを切ってもらっていた彼女は、顔を上げ、素直に例を言う。こんなところで意地を張る必要もない。
返してもらったコートに、再度袖を通す。そして、店員が仕事を終えるのを待ってから、
「さ、何か美味しい物でも食べに行こうよ!」
そう言って手を引いて店を出た。
***
ーI am the master of my fate. I am the captain of my soul.ー
「う~ん……ん~…………」
雨粒が曇りガラスに弾ける音、店内の穏やかなBGMに合わせてどことなくノスタルジックなノイズを奏でる中、窓辺に腰を下ろした桃色の髪の青年は、両肘をテーブルについて、その美しい顔を苦悶に歪ませていた。
「……決まりましたか?」
「うぅ…………イチゴパフェとチーズケーキ、どっちにしよう……」
可愛らしい顔の桃色の髪の青年、マローネ・ニービオはどこまでも乙女な悩みを口にする。ここだけ見れば、彼がこの国の第三位だとは思わないだろう。
現在地は、王都のとある喫茶店。有名というわけでも、無名というわけでもなく、混雑しているというわけでも、閑散としているわけでもない。
「……どちらでも良いではありませんか……」
今日もなさそうなため息を吐いて、銀髪のQUEEN、クローネ・アルギスは店員に声をかける。
「すみません、コーヒー二つと、イチゴパフェとチーズケーキを一つずつお願いします」
「かしこまりました」
「え、あ、ちょっと!」
勝手に注文を決めたことに、マローネは抗議の声を上げる。一方のアルギスは、答えることなく、窓の向こうへ視線を投げた。
雨の色に濡れていく王都。故郷を思わせるその景色を、美しいと感じてしまう。それは、彼女の心が♢ではなく♤の色でできているからだろうか……。
「ねぇ、ちょっと! 聞いてるの?」
桃色の髪が、窓ガラスに反射している。薄ら暗い風景よりも、暖色で暖かく照らされた店内の方がはっきりと見えた。
しばらくして注文の品が運ばれてくる。不服げな表情だったマローネの表情は一気に明るくなった。目の前に置かれる高いパフェには、形の揃ったイチゴが飾られていて、年頃の女子なら飛びきつきそうだ。
「わぁっ、美味しそう!」
一口含めば、途端に口内に広がる甘いクリームの味。季節外れのイチゴはかなり酸っぱいが、その酸味が甘めのクリームとよくあっていた。この国は、深刻な食糧難に見舞われているが、存外王都では気にならない。食を楽しみの一つとしている彼にとっては、この上なく幸福な事だ。
「……」
アルギスは、そんな青年を横目に、自分の目の前に置かれたチーズケーキの皿を、マローネの方へ押し出す。
「? いらないの?」
「……スイーツを食べる余裕があれば、食事もきちんと取っていますよ」
皮肉げで回りくどい♤らしい言い回しで返し、机に肘を着いて雨の町へと再度視線を投げる。
「うーん、それもそっか」
素直に彼女の申し出を受け入れて、彼女に合わせるように窓の外を見る。この国のしては珍しい曇天。そんなに熱心に、彼女は何を見ているのだろう……。
「……そういえばさ、僕が言うのもなんだけど……この国って治安悪いでしょ? 今まで一人で暮らしてて、平気だったの?」
ふと、気になったことを口にする。JACKの本業は、KINGとQUEENの護衛だ。しかし、国防と司ると同時に、治安維持の最高権威でもある。そんなJACKとして、軽々しく治安が悪いとは言えないのだけれど……。
「……これでも私、剣の国の出身ですよ? ある程度は慣れております」
この国もこの国だが、隣国♤も、他国のことを言えたものでは無い。♤は、まだ発展途上な地域が多く、内政を司るKINGが不在だと聞く。ならば国が乱れるのも、ある種仕方の無い。
「そう? ならいいけど……」
「……あぁ、そういえば……着任式の日、些細な暴行事件を目撃致しました。一応報告を……」
「ふーん?」
まあ、この国ではよくある事だ。その一件一件を重要視したりはしない。せっかくの祭日ぐらい、殴り合いなどやめればいのに。
「……しかしまぁ…………綺麗な赤髪でしたねぇ……。……あぁそれと」
その一件とほとんど関係を持たない情報を口ずさんで、ふと思い出す。
「その件に関わっていた方の言葉は、あなたの発音と似ていた気がします。……まぁ、彼の方が訛りは強かったですが……もしかしたら、同じ地域の出身なのでは?」
暴行事件の中央のいた、不機嫌そうな赤髪の、鈍い月色の目をした青年。思い返せばマローネと背格好も近かった気がする。
「へぇ? この国の人?」
不明な自分の過去に、近づけるかもしれない。興味なさげな様相を纏ったまま、彼の心だけは強くその話に惹き付けられていた。
「いえ……旅行者だそうです。なんでも、人探しに度々訪れているのだとか……。運が良ければ、またお会いできるかもしれません」
「人探し……かぁ…………。うーん…………」
「……おや? なにか気になることでも?」
「うーん…………」
歯切れの悪い言葉を返し、一体どこまで話すべきかと思案する。別に隠すようなことでもない。それに彼女には既に、自分の出身が不明であり、過去の記憶を失っていることを話してある。
「うーん…………大したことじゃないんだけど……僕も探したい人がいるんだよね」
そうして、不器用な言葉を繋いでいく。
「探したい人、と言うのは?」
「えっと……実兄? だと思うんだけど……」
兄にしては疑問符の多すぎる回答に、窓の外を見ていた彼女も、怪訝そうに視線をこちらへ向けた。
「うーん……ごめん、僕もよくわかんなくて……。多分兄だと思うんだけど……顔も名前もわかんなくて……でも、ふとした時に思い出しかけたり、探さないといけないような気がしたりするんだ……」
その言葉に嘘は無い。泣きそうに、不安げに、彼の声は震えていた。
しかし、兄弟を探すならば大きな問題がある。
「…………えぇと……その、失礼ながら……マローネさん、今おいくつですか?」
「えっと……実年齢?」
「……なぜここに来て、着任時の年齢を問うと思ったのですか……」
「あはは……」
外見だけならば20代前半のようにしか見えない彼らだが、絵札は人間よりもずっと長い時を生きる。見た目と実年齢は一致していない。
「……えっと…………今年で、78……」
表情を歪めて、苦々しく白状する。見た目がどれだけ若々しくとも、生きてきた年数的には相当な老人だ。
「えぇと……ならば、探す相手も……」
「うぅ……」
残念なことに、この国の医療水準は高くない。
「で、でも、ほら、もしかしたらまだ生きてるかもしれないし……?」
望みが無い訳では無い。平均寿命は約60際だが、それはあくまで平均。まだ可能性はある。
「えぇと……ま、まあ……私にできることがあれば、気持ち程度は協力致しましょう……」
「……Grazie」
会話が途切れ、重い空気が満ちる。雨音と店内ミュージックがどれだけ鮮やかに彩っていても、直面した現実の重さに、言葉が詰まってしまう。
刹那、
「全員動くな!!」
男の声が店内に響く。その声に引き寄せられ、ほとんど全員の視線が店の入口に集中した。
入口には、覆面姿の大男六人組。手には大口のリボルバー、威嚇するようにガンガンと引き金を打ち鳴らし、床板に弾丸の痕跡を残す。
(物騒ですねぇ……)
急激な店内の変化に、息を飲むように、食い入るように、この場にいるほとんど全員が男達に熱い視線を送る。しかし、その中でアルギスは冷めた表情で、気だるげに窓の外を見つめたままだ。
男たちが声を張り上げ、タバコを食みながら、店員へ金銭を要求する。相対するマローネは、同じように面倒くさそうば表情で入口を一瞥し、外を見つめ続けるアルギスに視線を向けた。
「……どうする?」
「……そうですねぇ…………」
彼女が他人事に呟いたその時、ガシャンと音を立てて、彼女の手元のコーヒーカップが割れる。まだ八割以上残っていたコーヒーがテーブルを濡らした。
横を見れば、男が一人立っており、その拳銃からは煙が上がっていた。
「舐めてんのかてめぇら」
下品な声と、苛立たせた肩。鼻息は荒く、いかにも気に食わないと言う態度だ。
「……」
「いいえ、これっぽっちも」
ようやく窓から視線を戻したアルギスは、その赤い色の目で、真っ直ぐに目の前のJACKを見つめる。
「……では、たまには職務を全うしてみては?」
死刑宣告のように、JACKからの質問へ回答を述べ、穏やかに首を傾げた。
「Si」
言うが早いか、次の瞬間には、彼女の眼前にJACKの姿はなく、代わりに床に硬いものが打ち付けられる音が響いた。
「ガッ……!?」
遅れて、状況を理解する。彼女の横に立っていた男が、顔を掴まれて床に頭を打ち付けられる。もちろん、その顔を掴んでいるのは、件のJACKだ。
急激な衝撃に真っ先に反応するのは肺。息が詰まり、一瞬視界が明滅する。そのたった一瞬でも、拘束するには十分な隙になり得た。
マローネは男の腕を後ろへ回し、ゴキゴキと嫌な音を鳴らしながら、関節を外していく。生憎、手錠は持ち歩いていない。
(……さすがはJACKですね…………)
理解はしていたけれど、いざ実際にJACKとして働いている姿を見るのはこれが初めて。人間の動体視力を超えた動きと、的確な対処に、動揺を堪えるのが精一杯だった。
その間にも、敵意を見せた桃髪の青年に、強盗らしき男たちは攻撃を開始する。店内を発砲音が満たす。他の客の絶叫が聞こえ、店内は瞬く間に地獄絵図と化した。
その中を一人、彼は飄々とした様子で弾丸を躱し、一人、また一人と男達を地面に叩きつけていく。凡そ人間がやろうとしてできる動きでは無い。
「ッ!? お前っ、何m……」
なんとか抵抗しょうとした男の声に、
「答える義理はないかな」
無慈悲な回答を下した。
手早い動きで最後の一人も手足の関節を外して放置する。関節のある位置に無理やり指をねじ込んで脱臼させる様子は、見ていて楽しいものでは無いし、激痛に対する男たちの絶叫も、聞いていて楽しいものでは無い。
しかし、そんな環境音を気にもとめず、マローネは
「これで終わりだね」
なんて呟いた。さて、この男たちをどうやって警察署へ運んだものか……。
その時、その油断しきった彼の背へ向けて銃声が響く。一番最初に地面に叩きつけられた男は、外れた手関節を必死に抑えながらも、引き金を引いたのだ。
「!?」
いくら人間離れした動きができるJACKでも、まずは状況を確認しなければ回避できない。音が耳に届くと同時に振り返るが……内心、避けられないだろうと察していた。
しかし、そんな彼が振り返って目撃したのは、眼前で火花を散らし、ぶつかり合う二つの弾丸。走馬灯を見る際、時間の流れを遅く感じるとはよく聞くが、その一瞬の出来事は酷くゆっくりに目に映る。
「!」
直後、跳ね返って着弾した弾は、一方は壁に、もう一方は彼の足元に穴を開けた。
「……詰めが甘いですよ」
見れば、アルギスが拳銃をしまうところだった。弾丸に弾丸を当ててはじき返すなんて、よく訓練された兵でもそうそうできない。弾速の違いを理解した上で、弾丸に着弾させるべき角度を計算し、寸分のズレなく発射するなんて……。
(……君の方が何者かわかんないよ……?)
先程自分に向けられた問いを、知人 兼 上司へ向けて
「……Grazie」
一応、礼を述べる。どうせ治るとはいえ、痛い思いをしなくて済んだのは、純粋に感謝すべきだ。
その後、ようやく到着した警官に男達を引き渡し、店を出る。動乱こそあったものの、気晴らしには十分だった。外は快晴とは言い難いが、曇り空の合間から陽の光が差しており、町を濡らす雨粒に反射して、光の渦で世界を彩っている。
「……良かったのですか?」
不意に、隣に並ぶ銀髪が問う。165cmの頭は、彼を見上げるために少し上を向いた。
「何が?」
急な問いに反応出来ず首を傾げてると、桃色の柔らかな髪が耳から落ちた。
「なんの説明も無しに、現場を引き渡してきてしまったことですよ。最悪、あなたが反社会勢力かなにかだと疑われても仕方ない状態だと思いますけれど……」
この国の第三位が、警察組織から目をつけられた、なんて笑い話でしかない。
「いいのいいの、一々そんなこと気にしないって!」
まるで他人事のように笑って言う。だって、例え疑いをかけられても、警察組織の上層部とは面識があるから問題ない。万が一問題になったら、その時はその時だ。
そうして晴れた街にまた一歩踏み出す。快晴とはとても言えないが、晴れ間の多いこの国によく似合う。見つからない探し人も、立ち込める暗雲のことも、今だけは、全て忘れて、その美しさにただ酔いしれていたかった。
***
ーQui ne cherche pas à te voir, ne souffre pas de ton absence.ー
コツリ、一つ足音が響く。汚れた町、道の端に転がる死体だか死体予備軍だか見分けのつかない人型がことがっている。遠くに聳え立つ白銀と黄金が彩った美しい王宮は、その下に無惨な町があるからこそ、対比で煌びやかに見えるのかもしれない。
そんなことを考えながら、白に近いプラチナブロンドの髪を優雅に靡かせて、一歩、また一歩と、足音が町に響く。この国は、我が故郷は……あまりにも廃れた。
それは事実だ。変えようもない。……けれど、それでも真っ直ぐに前へ向かおうと、光に猛進する羽虫のように、この国は、一種の眩さを纏っていた。
ふと視線をあげると、しわくちゃの紙切れが空を舞っている。導かれるように手を伸ばし、紙切れを掴んでみる。どうやらそれは、元々は新聞だったらしい。
衣服も食料もろくに無いこんな町で、一体誰が新聞など読むものか……。これらに意味があるとするなら、燃やして暖を取ることくらいだ。
無意味な紙に刻まれた文言は、何百年かぶりに王座に着くべきものが見つかったという吉報。長らく空席だった女王の座は、ようやく座るべき相手を見初めたらしい。これで、三枚の絵札が揃ったと、そう晴れ晴れしく謳っている。
「QUEEN OF DIAMOND、ねぇ…………」
待たりた人物が現れたというのに……この国のこの現状は、一体どういうことだろう?
よれた紙切れを、くしゃりと丸め、道へ投げる。不法投棄? そんなことを気にしている者が、一体どこにいる?
ふぅ……と、諦観とも哀れみとも違う、深い息を吐き出して、空を見上げる。味気ない灰色の雲ばかり。……否、きっともっと美しい色をしているのだろうけれど、この場所からは、その色を楽しむ気力も起こらない。
「……君と一緒に仕事をするのが楽しみだよ。名も知らぬQUEEN」
誰にとなく声を落として、止めていた歩を踏み出す。一体どんな悪女がその椅子を手に入れたのだろうか。不敵に口角を引き上げて、プラチナブロンドの髪の人物は、暗い町へ消えていった。
【2-2.水平線は何色か】
----------------
ー登場人物ー(トランプ史700年現在)
名前:ーー
偽名:クローネ・アルギス
役職:QUEEN OF DIAMND
能力:ーー
外見:銀髪、赤眼
出身:♤
性別:女
象徴:烏 / 銀
備考:食欲がない……
名前:トワ?
偽名:マローネ・ニービオ
役職:JACK OF DIAMOND
能力:ーー
外見:桃髪、赤茶色の目
出身:不明
性別:男
象徴:茶 / 鳶
備考:兄を探している
名前:オジロ?
仮名:ヴァイス・ファルケ
役職:KING OF DIAMOND
能力:ーー
外見:白髪、銀眼
出身:♧
性別:男
象徴:白 / 鷹
備考:心配性
名前:ーー
外見:白に近い金髪
性別:ーー
備考:?
魚全般やサメのみならず、自分の体の倍以上あるシロナガスクジラをはじめとした鯨やホッキョクグマをも捕食する。肉食性で知能も高く、海洋系の食物連鎖の頂点に立つ。弱っている場合はサメに襲われることもあるが、それ以外の場面では天敵となる種は存在せず、時には共食いを行うことも……。
無利益な戦いを避ける傾向にある半面、他の生物を海面上に放り投げて必要以上の苦痛を与えるなど、遊び目的で虐殺することもある。氷の下からの奇襲、群れでの協力、挟み撃ちなど、高度な狩りの技術も合わせ持つ。
泳ぐ速さは時速50㎞以上にも及び、最も早く泳ぐことのできる哺乳類の一種でもある。群れでのコミュニケーションを行うためのコールと呼ばれる音と、前方の障害物を確認するエコーロケーションに用いるクリック音の二種類の音を発生させることができる。クリック音の性能は高く、わずか数ミリメートルしか離れていない2本の糸を認識したり、反響音の波形の違いから物質の成分、果ては内容物まで認識したりすることが可能だという。
(参考資料:Wikipedia より)
------------------
ーIt is never too late to be what you might have been.ー
流れるような美しい筆跡が、書類にインクの跡を残していく。飾り気のないQUEENの執務室で、銀髪のQUEENは、その公務に頭を悩ませていた。約三世紀の間、QUEENで溜まった仕事の量は膨大で、捌いても捌いても限がない。
外交問題、食糧不足、輸入関連、財政予算に関するまで、幅広く集められた書類と意見書は、到底一人では相手できない。
(……これだから、王宮は嫌だったんですよ…………)
一度筆を置き、凝り固まった肩を解すように大きく伸びを一つ。この国の者たちは、あまりに絵札を万能視しすぎている。
ふと外を見遣れば生憎の曇天だ。快晴の多い♢の国には珍しい……。時計を見れば、13時半少し前。ちょうど昼時だが、これっぽっちも食欲は湧かない。
王宮へ連れてこられて早三日。長く絶食状態にあったせいか、晩餐に呼ばれても全く食欲が起きず、結局二日目以降は晩餐会にすら参加しなくなってしまった。
着任直後にしてはあまりに自己中心的な行動でがあるが、無理に口へ入れても、部屋に戻ってから吐いてしまう。飢餓に苦しむ者がいるのに、食物を粗末にするなんて……。戻してしまうくらいなら、どこかの誰かに食べてもらった方が良い。
(拒食症、ですかねぇ……。あるいは単純な不慣れか……)
食わずとも死なぬ体とはいえ、空腹は感じる。飢餓の苦しみは、彼女自身にも痛いほど刻まれている。しかし、嘔吐も、弱った体には厳しい仕打ちであって……前にも後ろにも、進めない。
(……QUEEN OF CLUBに親書でも送りましょうか……。いずれはご挨拶せねばなりませんし……)
目の前の書類に目を落とす。国を覆う食糧難に太刀打ちするには、実りの国・♧の協力が必須だ。
……けれど、彼女の筆は進まない。なぜなら、QUEEN OF DIAMONDは、♧の言語を解していないから。絵札の声は、あらゆる言語に対応しているが、筆記は別問題だ。文書を送るためには、先方の言語を理解しなくてはならない。
(……一度焼失したこの王宮に、他国の言語の本なんて無いでしょうし……かといって、こちらの言語で送るのは失礼でしょうし……。……どうしたものか……)
八方塞がりな現実に、机に肘をつき、頭を抱える。他者には見せられない苦悩の姿。それは、今日が初めてではない。
そんな折、トントントン……と軽く三つのノックが響き、入室の許可を待たずに扉が開かれる。
「仕事中すまない。少し時間を貰っても良いだろうか?」
白よりも白い純白の髪を後ろで束ね、彼女の銀にも負けぬ白銀の目を持つ、この国の君主・KING OF DIAMONDが姿を見せる。
「えぇ、問題ありませんよ。むしろ、わざわざ御足労頂いて申し訳ないくらいです」
筆を置いて席を立ち、庶務机の前方に設置された応接スペースへと移動する。
「お茶でも淹れましょうか?」
「いや、必要ない。気持ちだけ受け取っておこう」
はて、昼食休憩の誘いでなければ、一体どんな要件だろうか。面倒な仕事を押し付けられなければ良いのだが……。
「してKING、なんの御用でしたか?」
「……うむ、あなたの体が心配でな……。様子を見に来た。食事は取れているか?」
流石は民に慕われる王者。ただ純粋に、晩餐へ顔を見せない新入りの部下を心配して、わざわざ部屋を訪ねてくれたらしい。
想像以上に人間味のある君主の思いやりに頬を緩め、
「ご心配なさらず。長らく食事を取っていなかったせいでしょうか……まだ重いものは食べられませんが、果物程度なら問題なく」
そう平然と嘘をついた。その実、結局彼女の絶食状態は何も変わっていないのだが……。
「……そうか。皆と食べるのがまだ慣れぬのなら、部屋へ軽食を運ばせよう。……あまり、無理をするなよ」
痛いほどにどこまでも真っ直ぐなKINGは、息を吐くように吐かれた嘘に気付く様子無く、純粋な心配と気遣いを送ってくれる。それが、彼女にとってはどこまでも息苦しく感じられた。
「お気遣い感謝いたします。……あぁ、すみません、ついでに一つよろしいでしょうか」
せっかく機会がそちらから訪れたのなら、掴まない選択肢はない。彼女は、必要最低限だけ伝えて知ろうとするKINGを呼び止めた。
「なんだ」
「大したことでは無いのですが……♧宛に文書を送りたいのです。しかし、生憎♧の言語には学がなく、語学書があればお借りしたいのですが……」
国内に図書館があることは知っている。が、あの膨大な書籍の中から、最適な物を見つけるにはあまりに時間がかかりそうだ。
王宮にも図書室とは別に書庫があると聞く。もしかしたら、目的の本があるかもしれない。あるいは、国王配下の通訳士でも居れば良いのだが……。
すると、
「あぁ、なんだ、そんなことか。その程度であれば、私が訳そう。草案を頂ければすぐにでも」
という、驚きの回答が。どうやらこのKING、♧の言語を解しているようだ。
「いえ、それはとてもありがたいのですが……」
さすがに上司の手を煩わせられない。丁重に断ろうとする彼女に、
「私は♧出身なのだ。気にするな、大した手間でもない。ましてや外交文書など、学の低い者には任せられないだろう」
そう笑って見せた。
「……では、大変申し訳ありませんが、お願い致します。草案が出来次第お持ち致しますね」
「あぁ、頼む」
そうして腰を浮かせたKINGを見送り、ようやく一つ案件が片付きそうなことに、彼女は安堵した。
白髪の君主が去っていった部屋は、陽が沈んだ後の静寂のようで、どことなく冷たく閉ざしているようだ。
(……一度休憩しましょうか…………)
心の底まで、外と同じ曇天に染まりそうで、その空気を嫌うようにどこへともなく部屋を出る。
清掃の行き届いた広い廊下、窓の外ではきめ細かい雨音が響いていた。降り始めた雨は、国土と民衆を濡らしていく。
暖かな王宮には、雨水など届かない。なんだか、雨に打たれながら国中を歩き回っていたほんの数日前までの日々が、どこまでも懐かしく、不意に哀愁の念に襲われた。
先日JACKに城内の地図を見せられて、「覚えた」などと強がってはみたものの、その実、理解したのは、自分の部屋と君主の部屋くらいなものだ。学ぶことは好きだけれど、一度で城内全ての部屋を暗記できるほどの記憶力は持ち合わせていない。
(……これで部屋にも戻れなくなったら、笑い者ですねぇ……。さすがに、来た道くらいは覚えておりますが……)
このまま歩き続けてどこへ行きつくかは全く分からない。冒険心も好奇心もさほど旺盛ではないが、仮にもここは、これから自分の職場 兼 家になる場所。早く覚えないと、恥をかきそうだ。
やがて彼女は行き当たりへとたどり着く。
(……確かここは……音楽ホール、でしたっけ……)
おぼろげな記憶を頼りに、防音用の重厚な扉を押し開けると、開いた隙間から音が流れ出した。静寂の廊下へ漏れだした音は高く澄んで、うっかりすると聞き入ってしまいそうな清らかだ。
その音の引き込まれるように、僅かに開いた戸の隙間に身を滑らせ、薄暗いホールへと足を踏み入れる。
防音加工の施されたホール内は、中の音はよく反響するにも関わらず、外を打ち付ける雨の音は一切受け入れていない。ここに許されているのは、ただ純粋な音楽のみ。一種の神聖な雰囲気を感じながら、端の椅子へ腰を下ろし、響く音に耳を傾ける。
何かの公演中というわけではない。この広いホールに、観客は彼女一人。有名な歌手がいるわけでも、オーケストラの演奏があるわけでもない。煌びやかな照明がステージを照らしているわけでも、固唾を飲んで見守る大衆もいない。飾り気のないその音楽が、彼女にはこれ以上なく心地よかった。
やがて、穏やかなロングトーンで歌が終わり、拍手の代わりに一言、
「お上手ですね」
純粋な賞賛を送った。
ステージの上から、ようやく彼女の存在に気が付いた青年は、
「あれ、いたの? 君に褒められるなんて思わなかった」
と、ニヒルな笑顔を返す。靴音を反響させながら、マローネ・ニービオを名乗るJACKはステージを下り、彼女の前方の椅子にもたれかかった。先程の美しい歌声の持ち主は、どうやら彼だったらしい。
「嘘をつく必要はないでしょう? あなたはよくこちらへ?」
「ううん? ただ気晴らしに。君が用もなくこんなところに来ることの方が驚きだけど……」
「奇遇ですね。私もただの気晴らしです」
お互いに、こんなところで遭遇するとは思わなかった、と苦笑いを浮かべる。
「体調は大丈夫なの? ヴァイスが随分心配してたよ?」
この城のJACKとKINGはかなりの仲良しだ。休憩時間にお茶を共にしたり、暇があればJACKがKINGの執務室に遊びに行く。だから、KINGがQUEENのことを心配していることを、彼はよく知っていた。
「生憎、その程度でくたばるようにはできておりませんので……。先ほどKINGが、わざわざ部屋まで声をかけに来てくださいましたよ。申し訳ない限りです」
空腹を感じ、口にものを入れれば、胃から全てを吐き出してしまう。それでも死ぬことは無い。
「う~ん、ならいいんだけど……」
彼は首を傾げる。身を貫かれそうな程の空腹など知らない。なぜなら、彼の周りはいつも、必要最低限の生活水準は揃っていたから。
「あ、そうだ! 気晴らしついでに、城下にでも遊びに行かない?」
QUEENと連れ立って遊びに行くなら、KINGにも文句は言われないだろう。このJACKは仕事が大の嫌いだ。サボれる理由があるなら、サボらなくてどうする。だって、やってもやっても終わりがない書類の山など、片付けようとする方がバカバカしいじゃないか。
「私は構いませんが……生憎の天気ですよ?」
「別にいいんじゃない? 君、♤出身なら雨には慣れっこでしょ?」
「まあ、そうですが……」
彼女の祖国・♤の国は、世界で一番雨が多い国だ。一年の半分が曇り、四割が雨、晴れ間が覗くのは残り一割しかない。
「じゃあ問題ないよね! 着替えて城門集合で!」
彼はそう楽しそうに笑って、彼女の返答を待たずにホールを飛び出して行ってしまった。
(……つくづく、行動力の凄まじい方ですね……。かなり自己中心的ですが……)
大きな音を立ててしまったホールの扉を眺めながら、彼女は苦笑いを浮かべた。
***
ーSe hai un sogno, devi fare mille sacrifici per raggiungerlo.ー
外は想像通りの雨空で、傘布に跳ねた雨粒が不思議な音色を奏でている。生憎の曇天には慣れっこだが、せっかく美しい晴れ間の見える♢の国にいるのなら、見慣れた雨空よりも晴天が見たかった。
数少ない私服を引っ張り出して、城門へ向かうと、
「うわ、ちょっと君、何さその格好!」
先に到着していた桃髪のJACKに非難の声を投げられた。
「……はて、いつもの装いですが……」
確かに、身なりが良いとは思わないが……まあ、ごく普通といったところだ。
対する彼は白いシャツにベージュのセーター、黒のスラックスとコート……という、カジュアルだがラフすぎない洒落た格好で待っていた。
「もうっ……まずは服屋からだね。女の子がそんな格好だなんて!」
「いえ、別に私は気にしていませんが……」
「隣にいる僕が嫌なの! いいから来て!」
そう言ってマローネは、アルギスの細い腕を掴み、ぐいぐいと引っ張って王都へ向かう。
傘をさしながら腕を引いているため、彼の腕は雨粒に晒されて、コートは途端に色を濃くした。
「……えっと、あの……自分で歩けますし、着いていきますので……」
この寒雨に晒されては可哀想だ。彼女は気遣いからそっと腕を離すように促す……が、
「……!?」
急激に掴まれた腕を引かれ、彼の傘の中に招き入れられる。ぶつかり合った傘が彼女の手を離れ、雨に濡れる灰色の街へ彼女の傘が転がって、水音を立てた。
「それに、そんな恰好じゃ寒いでしょ! なんでコートとか着てこなかったのさ!」
ただ状況が追い付かず困惑するばかりの彼女に、袖の塗れてしまったコートを羽織らせる。二月の厳しい寒さの中に、明らかに不健康そうなか弱い女性を晒しておくなんてできない。
「……コートと言われましても、持ち合わせがありません」
先日の夜もそうだったが、コートがあれば言われるまでもなく着てきたとも。
「あれ? 支給品は?」
「……先日も思ったのですが……その支給品というのは、いったいなんのことでしょうか……。私の確認漏れではないかと、戻ってから確認もしたのですが……」
「おかしいなぁ……。手配が遅れてるのかな……」
支給品の手配は既に終わっているはずだ。彼の認識と違う現実に首を傾げる。報告書に目は通していないが、何か不備があったのかもしれない。
「はい、急に引っ張ってごめんね。さ、行こ!」
そう言って傘を拾い渡す。そして、彼女の手を引いて歩き出す。
「……」
されるがままに手を引かれ、最早止めることも諦めた彼女は、歩幅を合わせてついて行く。足の長い彼は、彼女よりも歩くペースが速く、半ば引きずられる形になっているが……。
(……初めは怖い方かと思いましたが…………思ったよりも子供っぽいというか……)
第一印象を改めながら、こっそり隣を歩くJACKを見やる。
(……まあ、こういう関係も悪くはないのかもしれませんね……)
雨の街を歩く二つの黒い傘。降りしきる雨は傘布の上でリズムを刻み、跳ねる水音と相まって灰色の街を彩っていく。
やがて目的地にたどり着いたのか、先行していた青年が傘を閉じ、軒下に身を寄せた。どこにでもありそうな庶民的な服屋だ。
「Ciao~」
彼がいつも通りに入店すると、ドアに取り付けられたベルが音を鳴らした。
マローネは迷うことなくレディースのコーナーへ向かい、物色を始める。行きつけと言っただけあって、どこに何が売られているかは把握しているらしい。
「あ、これとかどう? 可愛くない?」
数十秒程度でお目当ての物を発掘し、フリルがふんだんにあしらわれた女の子らしい服を持ち上げる。自分で着るなら、カジュアルものを選ぶが、他人に着せるなら話は別だ。
……しかし、対する彼女は顔を歪めていた。
「……あの…………申し訳ないですが……それはちょっと……」
肩につかない程度に切りそろえられた銀の髪、中性的な顔立ちに、高くもなければ低くもない声……。一見すると青年にも見える彼女には、少しハードルが高かった。
「えぇ? 似合うと思うんだけど……」
可愛い子には可愛い服を着せたい。着飾れば彼女だって、可愛らしく見えるはずだ。
「……私には似合いませんよ」
「う~ん……似合うと思ったんだけどなぁ……」
少し残念そうに眉根を寄せる。嫌がっているものを無理に着せるわけには行かない。
仕方なしにといった様子で再度服を見繕う。傍から見てもその様子は楽しそうで、何をも知らぬ年相応の青年のようにしか見えない。
「……楽しそうですね。お好きなのですか?」
「うん。僕、昔はファッション関係の仕事に就きたかったんだ。今はもう叶わないことだけどね」
手元に向けた視線を上げないまま、苦笑いを浮かべる。
昔から……と言っても、記憶がある限りだが、誰にどんな服が似合うかを想像するのは楽しい。組み合わせ次第で、人の雰囲気を大きく変化させる、衣装のマジック……。できることなら、本業に叱った。
……しかし、その夢が叶うことは無い。目を覚ました時から絵札として育てられ、語らることも許されないまま、夢は終わってしまったから。もしも、なんて想像するだけ無駄だけど……未練は消えることを知らない。
「君にも、夢はあった?」
「……えぇ。……もう叶うこともないでしょうけれど」
服を見繕う彼の背を眺めながら、彼女も静かに肯定した。この立場に選ばれてしまったからには、皆等しく、自らの人生を諦めなければならない。
「……」
「……」
会話の途切れた二人の間に、店内のレコードが淡々と流れていった。気まずい雰囲気を紛らわすように
「あ、これとかどう?」
と、コーディネートを提案する。灰色のインナーに黒のジャケット、濃い色のジーンズと灰色のマフラー……カジュアルな組み合わせだ。
「はい、とりあえず着て! 文句ないよね? ほら、早く!」
「え、あ……は、はい……」
半ば押し付ける形で服を渡し、試着室の方へと背中を押す。さすがにレディの着替えに付き合うことはできない。
数分後、渡された服を身に着けて戻ってきた彼女に、
「うん、やっぱり僕の目は狂ってないね! すっごく似合ってるよ!」
素で自画自賛とも取れる言葉を投げた。
黒を基調とした衣服と対照的な銀の髪とまつ毛はよく映えて、中性的な顔立ちも相まって完全に美青年にしか見えない。
「……ありがとうございます」
「じゃあ、ちょっと待ってて。あぁ、そのまま着てて良いから。タグ切ってもらわないとね」
彼もそれが気に入ったのか、待ち時間に選んでいたであろう数着を片手に、早足にレジヘ向かう。
「え、あ、あのっ……」
流石に自分で払うと止めようとする彼女を差し置いて、手早く会計を済ませ、ご満悦の様子で戻ってくる。
「す、すみません……。代金お返ししますよ」
「いいよ、気にしないで? 女の子にお金払わせるとか無いから!」
そんなことをいいつつ、先日、お互いの金を奪い合ったばかりなのだけれど……。まあ、今は関係ないか。
「服はこれで良し、と……。あ、コートは返してもらうね。さすがに寒い」
「はい、ありがとうございました」
店員に服のタグを切ってもらっていた彼女は、顔を上げ、素直に例を言う。こんなところで意地を張る必要もない。
返してもらったコートに、再度袖を通す。そして、店員が仕事を終えるのを待ってから、
「さ、何か美味しい物でも食べに行こうよ!」
そう言って手を引いて店を出た。
***
ーI am the master of my fate. I am the captain of my soul.ー
「う~ん……ん~…………」
雨粒が曇りガラスに弾ける音、店内の穏やかなBGMに合わせてどことなくノスタルジックなノイズを奏でる中、窓辺に腰を下ろした桃色の髪の青年は、両肘をテーブルについて、その美しい顔を苦悶に歪ませていた。
「……決まりましたか?」
「うぅ…………イチゴパフェとチーズケーキ、どっちにしよう……」
可愛らしい顔の桃色の髪の青年、マローネ・ニービオはどこまでも乙女な悩みを口にする。ここだけ見れば、彼がこの国の第三位だとは思わないだろう。
現在地は、王都のとある喫茶店。有名というわけでも、無名というわけでもなく、混雑しているというわけでも、閑散としているわけでもない。
「……どちらでも良いではありませんか……」
今日もなさそうなため息を吐いて、銀髪のQUEEN、クローネ・アルギスは店員に声をかける。
「すみません、コーヒー二つと、イチゴパフェとチーズケーキを一つずつお願いします」
「かしこまりました」
「え、あ、ちょっと!」
勝手に注文を決めたことに、マローネは抗議の声を上げる。一方のアルギスは、答えることなく、窓の向こうへ視線を投げた。
雨の色に濡れていく王都。故郷を思わせるその景色を、美しいと感じてしまう。それは、彼女の心が♢ではなく♤の色でできているからだろうか……。
「ねぇ、ちょっと! 聞いてるの?」
桃色の髪が、窓ガラスに反射している。薄ら暗い風景よりも、暖色で暖かく照らされた店内の方がはっきりと見えた。
しばらくして注文の品が運ばれてくる。不服げな表情だったマローネの表情は一気に明るくなった。目の前に置かれる高いパフェには、形の揃ったイチゴが飾られていて、年頃の女子なら飛びきつきそうだ。
「わぁっ、美味しそう!」
一口含めば、途端に口内に広がる甘いクリームの味。季節外れのイチゴはかなり酸っぱいが、その酸味が甘めのクリームとよくあっていた。この国は、深刻な食糧難に見舞われているが、存外王都では気にならない。食を楽しみの一つとしている彼にとっては、この上なく幸福な事だ。
「……」
アルギスは、そんな青年を横目に、自分の目の前に置かれたチーズケーキの皿を、マローネの方へ押し出す。
「? いらないの?」
「……スイーツを食べる余裕があれば、食事もきちんと取っていますよ」
皮肉げで回りくどい♤らしい言い回しで返し、机に肘を着いて雨の町へと再度視線を投げる。
「うーん、それもそっか」
素直に彼女の申し出を受け入れて、彼女に合わせるように窓の外を見る。この国のしては珍しい曇天。そんなに熱心に、彼女は何を見ているのだろう……。
「……そういえばさ、僕が言うのもなんだけど……この国って治安悪いでしょ? 今まで一人で暮らしてて、平気だったの?」
ふと、気になったことを口にする。JACKの本業は、KINGとQUEENの護衛だ。しかし、国防と司ると同時に、治安維持の最高権威でもある。そんなJACKとして、軽々しく治安が悪いとは言えないのだけれど……。
「……これでも私、剣の国の出身ですよ? ある程度は慣れております」
この国もこの国だが、隣国♤も、他国のことを言えたものでは無い。♤は、まだ発展途上な地域が多く、内政を司るKINGが不在だと聞く。ならば国が乱れるのも、ある種仕方の無い。
「そう? ならいいけど……」
「……あぁ、そういえば……着任式の日、些細な暴行事件を目撃致しました。一応報告を……」
「ふーん?」
まあ、この国ではよくある事だ。その一件一件を重要視したりはしない。せっかくの祭日ぐらい、殴り合いなどやめればいのに。
「……しかしまぁ…………綺麗な赤髪でしたねぇ……。……あぁそれと」
その一件とほとんど関係を持たない情報を口ずさんで、ふと思い出す。
「その件に関わっていた方の言葉は、あなたの発音と似ていた気がします。……まぁ、彼の方が訛りは強かったですが……もしかしたら、同じ地域の出身なのでは?」
暴行事件の中央のいた、不機嫌そうな赤髪の、鈍い月色の目をした青年。思い返せばマローネと背格好も近かった気がする。
「へぇ? この国の人?」
不明な自分の過去に、近づけるかもしれない。興味なさげな様相を纏ったまま、彼の心だけは強くその話に惹き付けられていた。
「いえ……旅行者だそうです。なんでも、人探しに度々訪れているのだとか……。運が良ければ、またお会いできるかもしれません」
「人探し……かぁ…………。うーん…………」
「……おや? なにか気になることでも?」
「うーん…………」
歯切れの悪い言葉を返し、一体どこまで話すべきかと思案する。別に隠すようなことでもない。それに彼女には既に、自分の出身が不明であり、過去の記憶を失っていることを話してある。
「うーん…………大したことじゃないんだけど……僕も探したい人がいるんだよね」
そうして、不器用な言葉を繋いでいく。
「探したい人、と言うのは?」
「えっと……実兄? だと思うんだけど……」
兄にしては疑問符の多すぎる回答に、窓の外を見ていた彼女も、怪訝そうに視線をこちらへ向けた。
「うーん……ごめん、僕もよくわかんなくて……。多分兄だと思うんだけど……顔も名前もわかんなくて……でも、ふとした時に思い出しかけたり、探さないといけないような気がしたりするんだ……」
その言葉に嘘は無い。泣きそうに、不安げに、彼の声は震えていた。
しかし、兄弟を探すならば大きな問題がある。
「…………えぇと……その、失礼ながら……マローネさん、今おいくつですか?」
「えっと……実年齢?」
「……なぜここに来て、着任時の年齢を問うと思ったのですか……」
「あはは……」
外見だけならば20代前半のようにしか見えない彼らだが、絵札は人間よりもずっと長い時を生きる。見た目と実年齢は一致していない。
「……えっと…………今年で、78……」
表情を歪めて、苦々しく白状する。見た目がどれだけ若々しくとも、生きてきた年数的には相当な老人だ。
「えぇと……ならば、探す相手も……」
「うぅ……」
残念なことに、この国の医療水準は高くない。
「で、でも、ほら、もしかしたらまだ生きてるかもしれないし……?」
望みが無い訳では無い。平均寿命は約60際だが、それはあくまで平均。まだ可能性はある。
「えぇと……ま、まあ……私にできることがあれば、気持ち程度は協力致しましょう……」
「……Grazie」
会話が途切れ、重い空気が満ちる。雨音と店内ミュージックがどれだけ鮮やかに彩っていても、直面した現実の重さに、言葉が詰まってしまう。
刹那、
「全員動くな!!」
男の声が店内に響く。その声に引き寄せられ、ほとんど全員の視線が店の入口に集中した。
入口には、覆面姿の大男六人組。手には大口のリボルバー、威嚇するようにガンガンと引き金を打ち鳴らし、床板に弾丸の痕跡を残す。
(物騒ですねぇ……)
急激な店内の変化に、息を飲むように、食い入るように、この場にいるほとんど全員が男達に熱い視線を送る。しかし、その中でアルギスは冷めた表情で、気だるげに窓の外を見つめたままだ。
男たちが声を張り上げ、タバコを食みながら、店員へ金銭を要求する。相対するマローネは、同じように面倒くさそうば表情で入口を一瞥し、外を見つめ続けるアルギスに視線を向けた。
「……どうする?」
「……そうですねぇ…………」
彼女が他人事に呟いたその時、ガシャンと音を立てて、彼女の手元のコーヒーカップが割れる。まだ八割以上残っていたコーヒーがテーブルを濡らした。
横を見れば、男が一人立っており、その拳銃からは煙が上がっていた。
「舐めてんのかてめぇら」
下品な声と、苛立たせた肩。鼻息は荒く、いかにも気に食わないと言う態度だ。
「……」
「いいえ、これっぽっちも」
ようやく窓から視線を戻したアルギスは、その赤い色の目で、真っ直ぐに目の前のJACKを見つめる。
「……では、たまには職務を全うしてみては?」
死刑宣告のように、JACKからの質問へ回答を述べ、穏やかに首を傾げた。
「Si」
言うが早いか、次の瞬間には、彼女の眼前にJACKの姿はなく、代わりに床に硬いものが打ち付けられる音が響いた。
「ガッ……!?」
遅れて、状況を理解する。彼女の横に立っていた男が、顔を掴まれて床に頭を打ち付けられる。もちろん、その顔を掴んでいるのは、件のJACKだ。
急激な衝撃に真っ先に反応するのは肺。息が詰まり、一瞬視界が明滅する。そのたった一瞬でも、拘束するには十分な隙になり得た。
マローネは男の腕を後ろへ回し、ゴキゴキと嫌な音を鳴らしながら、関節を外していく。生憎、手錠は持ち歩いていない。
(……さすがはJACKですね…………)
理解はしていたけれど、いざ実際にJACKとして働いている姿を見るのはこれが初めて。人間の動体視力を超えた動きと、的確な対処に、動揺を堪えるのが精一杯だった。
その間にも、敵意を見せた桃髪の青年に、強盗らしき男たちは攻撃を開始する。店内を発砲音が満たす。他の客の絶叫が聞こえ、店内は瞬く間に地獄絵図と化した。
その中を一人、彼は飄々とした様子で弾丸を躱し、一人、また一人と男達を地面に叩きつけていく。凡そ人間がやろうとしてできる動きでは無い。
「ッ!? お前っ、何m……」
なんとか抵抗しょうとした男の声に、
「答える義理はないかな」
無慈悲な回答を下した。
手早い動きで最後の一人も手足の関節を外して放置する。関節のある位置に無理やり指をねじ込んで脱臼させる様子は、見ていて楽しいものでは無いし、激痛に対する男たちの絶叫も、聞いていて楽しいものでは無い。
しかし、そんな環境音を気にもとめず、マローネは
「これで終わりだね」
なんて呟いた。さて、この男たちをどうやって警察署へ運んだものか……。
その時、その油断しきった彼の背へ向けて銃声が響く。一番最初に地面に叩きつけられた男は、外れた手関節を必死に抑えながらも、引き金を引いたのだ。
「!?」
いくら人間離れした動きができるJACKでも、まずは状況を確認しなければ回避できない。音が耳に届くと同時に振り返るが……内心、避けられないだろうと察していた。
しかし、そんな彼が振り返って目撃したのは、眼前で火花を散らし、ぶつかり合う二つの弾丸。走馬灯を見る際、時間の流れを遅く感じるとはよく聞くが、その一瞬の出来事は酷くゆっくりに目に映る。
「!」
直後、跳ね返って着弾した弾は、一方は壁に、もう一方は彼の足元に穴を開けた。
「……詰めが甘いですよ」
見れば、アルギスが拳銃をしまうところだった。弾丸に弾丸を当ててはじき返すなんて、よく訓練された兵でもそうそうできない。弾速の違いを理解した上で、弾丸に着弾させるべき角度を計算し、寸分のズレなく発射するなんて……。
(……君の方が何者かわかんないよ……?)
先程自分に向けられた問いを、知人 兼 上司へ向けて
「……Grazie」
一応、礼を述べる。どうせ治るとはいえ、痛い思いをしなくて済んだのは、純粋に感謝すべきだ。
その後、ようやく到着した警官に男達を引き渡し、店を出る。動乱こそあったものの、気晴らしには十分だった。外は快晴とは言い難いが、曇り空の合間から陽の光が差しており、町を濡らす雨粒に反射して、光の渦で世界を彩っている。
「……良かったのですか?」
不意に、隣に並ぶ銀髪が問う。165cmの頭は、彼を見上げるために少し上を向いた。
「何が?」
急な問いに反応出来ず首を傾げてると、桃色の柔らかな髪が耳から落ちた。
「なんの説明も無しに、現場を引き渡してきてしまったことですよ。最悪、あなたが反社会勢力かなにかだと疑われても仕方ない状態だと思いますけれど……」
この国の第三位が、警察組織から目をつけられた、なんて笑い話でしかない。
「いいのいいの、一々そんなこと気にしないって!」
まるで他人事のように笑って言う。だって、例え疑いをかけられても、警察組織の上層部とは面識があるから問題ない。万が一問題になったら、その時はその時だ。
そうして晴れた街にまた一歩踏み出す。快晴とはとても言えないが、晴れ間の多いこの国によく似合う。見つからない探し人も、立ち込める暗雲のことも、今だけは、全て忘れて、その美しさにただ酔いしれていたかった。
***
ーQui ne cherche pas à te voir, ne souffre pas de ton absence.ー
コツリ、一つ足音が響く。汚れた町、道の端に転がる死体だか死体予備軍だか見分けのつかない人型がことがっている。遠くに聳え立つ白銀と黄金が彩った美しい王宮は、その下に無惨な町があるからこそ、対比で煌びやかに見えるのかもしれない。
そんなことを考えながら、白に近いプラチナブロンドの髪を優雅に靡かせて、一歩、また一歩と、足音が町に響く。この国は、我が故郷は……あまりにも廃れた。
それは事実だ。変えようもない。……けれど、それでも真っ直ぐに前へ向かおうと、光に猛進する羽虫のように、この国は、一種の眩さを纏っていた。
ふと視線をあげると、しわくちゃの紙切れが空を舞っている。導かれるように手を伸ばし、紙切れを掴んでみる。どうやらそれは、元々は新聞だったらしい。
衣服も食料もろくに無いこんな町で、一体誰が新聞など読むものか……。これらに意味があるとするなら、燃やして暖を取ることくらいだ。
無意味な紙に刻まれた文言は、何百年かぶりに王座に着くべきものが見つかったという吉報。長らく空席だった女王の座は、ようやく座るべき相手を見初めたらしい。これで、三枚の絵札が揃ったと、そう晴れ晴れしく謳っている。
「QUEEN OF DIAMOND、ねぇ…………」
待たりた人物が現れたというのに……この国のこの現状は、一体どういうことだろう?
よれた紙切れを、くしゃりと丸め、道へ投げる。不法投棄? そんなことを気にしている者が、一体どこにいる?
ふぅ……と、諦観とも哀れみとも違う、深い息を吐き出して、空を見上げる。味気ない灰色の雲ばかり。……否、きっともっと美しい色をしているのだろうけれど、この場所からは、その色を楽しむ気力も起こらない。
「……君と一緒に仕事をするのが楽しみだよ。名も知らぬQUEEN」
誰にとなく声を落として、止めていた歩を踏み出す。一体どんな悪女がその椅子を手に入れたのだろうか。不敵に口角を引き上げて、プラチナブロンドの髪の人物は、暗い町へ消えていった。
【2-2.水平線は何色か】
----------------
ー登場人物ー(トランプ史700年現在)
名前:ーー
偽名:クローネ・アルギス
役職:QUEEN OF DIAMND
能力:ーー
外見:銀髪、赤眼
出身:♤
性別:女
象徴:烏 / 銀
備考:食欲がない……
名前:トワ?
偽名:マローネ・ニービオ
役職:JACK OF DIAMOND
能力:ーー
外見:桃髪、赤茶色の目
出身:不明
性別:男
象徴:茶 / 鳶
備考:兄を探している
名前:オジロ?
仮名:ヴァイス・ファルケ
役職:KING OF DIAMOND
能力:ーー
外見:白髪、銀眼
出身:♧
性別:男
象徴:白 / 鷹
備考:心配性
名前:ーー
外見:白に近い金髪
性別:ーー
備考:?
0
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
自由を愛する妖精姫と、番にすべてを捧げた竜人王子〜すれ違いと絆の先に、恋を知る〜
来栖れいな
ファンタジー
妖精女王と精霊王の間に生まれた特別な存在――セレスティア。
自由を愛し、気ままに生きる彼女のもとに現れたのは、竜人族の王子・サイファルト。
「お前は俺の番だ」
番という名の誓いにすべてを捧げた彼は、王族の地位も未来も捨てて森に現れた。
一方のセレスティアは、まだ“番”の意味すら知らない。
執着と守護。すれ違いと絆。
――これは、ひとりの妖精姫が“特別”に気づいていく物語。
甘さ控えめ、でも確かに溺愛。
異種族の距離を越えて紡がれる、成長と守護のファンタジー。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?
行枝ローザ
ファンタジー
美しき侯爵令嬢の側には、強面・高背・剛腕と揃った『狂犬戦士』と恐れられる偉丈夫がいる。
貧乏男爵家の五人兄弟末子が養子に入った魔力を誇る伯爵家で彼を待ち受けていたのは、五歳下の義妹と二歳上の義兄、そして王都随一の魔術後方支援警護兵たち。
元・家族の誰からも愛されなかった少年は、新しい家族から愛されることと癒されることを知って強くなる。
これは不遇な微魔力持ち魔剣士が凄惨な乳幼児期から幸福な少年期を経て、成長していく物語。
※見切り発車で書いていきます(通常運転。笑)
※エブリスタでも同時連載。2021/6/5よりカクヨムでも後追い連載しています。
※2021/9/15けっこう前に追いついて、カクヨムでも現在は同時掲載です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】異世界で神の元カノのゴミ屋敷を片付けたら世界の秘密が出てきました
小豆缶
ファンタジー
父の遺したゴミ屋敷を片付けていたはずが、気づけば異世界に転移していた私・飛鳥。
しかも、神の元カノと顔がそっくりという理由で、いきなり死刑寸前!?
助けてくれた太陽神ソラリクスから頼まれた仕事は、
「500年前に別れた元恋人のゴミ屋敷を片付けてほしい」というとんでもない依頼だった。
幽霊になった元神、罠だらけの屋敷、歪んだ世界のシステム。
ポンコツだけど諦めの悪い主人公が、ゴミ屋敷を片付けながら異世界の謎を暴いていく!
ほのぼのお仕事×異世界コメディ×世界の秘密解明ファンタジー
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
