烏と狐

真夜中の抹茶ラテ

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第二章:黄昏の深紅

2-3.逃亡

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 同じ王宮内だと言うのに、何故か薄ら暗く感じる廊下に、一つ、明るい足音が反響する。どこもかしこも、普段何人かが行き交って騒がしい王宮で、なぜだかこの辺りだけは、いつも異様に静まり返っていた。
 同じ建物だとは到底思えない。ある種、異界へ迷い込んだような気分が、子供心に巣食う冒険心を刺激する。
 立ち止まるのは、いつも通りの扉の前。始めて来た時はほんの偶然だったが……今となっては自分の意思で向かうまでになっている。
 これでこの扉を叩くのは何度目になるだろうか……。初めてここを訪れてから、早数日。何が楽しくて毎日通っているのかなんて、正直分からない。
 トントントン、と軽く三つノックが響いて、許可が出る前にドアノブを回す。ほんの少し押し開けて、顔だけで中を覗き込めば、光に満ちた室内が目を焼いた。
 「なんや、また来たんか」
大きく開いたフレンチウィンドと傍目く薄いレースのカーテンを前に、ぼんやりとベッドに腰を下ろしていた美麗な女性。カチューシャのように編み込まれた茶色い髪は、陽の光に照らされて、金髪のようにも輝いている見えた。
 「えへへ……だめ?」
甘えるように首を傾げる。時に、子供の純粋無垢な好意とは残酷なまでに真っ直ぐだ。
 はぁ……と大きくため息をついても、今日が愛用のパイプたばこはその手にない。息が煙を巻くことも、視界を薄灰色で染めることも、鼻につく有害な匂いも無い。なんと味気ないことか。
 「好きにしやぁ」
諦めるように口にすれば、入口から顔を覗かせていた桃色の髪の少年は、実に嬉しそうな笑顔でトタトタと足音を響かせて、勝手にソファへ腰を下ろした。全く、ここが誰の部屋かわかっているのかと、小一時間問いただしたい。
 権威を振りかざすのは好かないが、これでも彼女はこの国の第二位。国王たるKINGに次ぐ座を治める人物で、仮にも敬意を払われる側の者なのだが……
(ま、堅苦しいのも好かんしな)
なんて、許容してしまえている自分もいた。
 何しろ、どいつもこいつもペコペコと頭を下げる日常は退屈にも程がある。150年も続けたら、とっくに飽きてしまった。
 「はぁ……紅茶しか淹れへんで?」
「うっ……」
重い腰を上げて、室内に備え付けられたキッチンへ向かい、慣れた手つきで茶を拵える。
 やがて、香り立つ湯気と共に、二杯のティーカップをローテーブルへ出す。QUEENが自ら淹れた紅茶を口に出来る者などそうそういないという事実を、目の前の少年は知りもしない。
 少年からすれば、紅茶よりもジュースの方が好みだ。てwが、手をつけないのは申し訳ないからと一口に含み、ティーカップをソーサーへ戻した。
 「えと……そ、それで! 今日は何を話してくれるの?」
少年が足蹴くここへ通っているのは、一重に彼女の話を聞くためだ。他では聞けない、無数の話を彼女は知っていた。時間を縫ってでもここへ来たいと思うのは、そんな不可思議な話達に魅せられたからでもあるだろう。
 さて、では今日はなんの話しをしようか……ゆっくりと目を閉じる。ネタが尽きることはきっと一生ないが、自分の休息を削ってまで、この少年の興味につきやってやるだなんて、いつか自分自身すらネタになってしまいそうだ。
 ……しかし、悪くは無い。なぜなら、彼らは一世紀も生きない。たかだか百年程度の命に付き合ったって、自分には余るほど時間がある。
 たった数日ではいくら成長の早い子供と言えど大きく変化はしない。……けれど、ほんの一年、あるいはほんの十年程度で、目の前の少年は変わっていくだろう。……そして、凡そ百年も経たぬうちに屍とかしていくのだ。



***



 眩しい。一番初めに思ったのはそれだ。次に感じたのは熱。瞼に……否、顔面に降り注ぐ光に暑さを感じて、嫌々ながらに目を開ける。
 飛び込んできたのは青い空。ゆったりと流れる白い雲と、見慣れない窓辺の景色に、一瞬自分の置かれた状況が理解でいなかった。
 「……よぉ、随分寝てたみたいだね?」
突然声をかけられて肩が跳ねた。音源へ勢いよく視線を向けると、朝日を金の髪に美しく反射させた見覚えのある美麗な青年が一人。
 「……あー……名前……」
最近あった人物であるのは確かだ。この目の前の人物が、唐突に自分へ余命宣告紛いをしたことも。
 「んー……まあ、どうせすぐ忘れるだろうし、今はいいや」
地下で見たよりもずっと美しい青い宝石のような目を細め、美術品のように均整の取れた頬を持ち上げる。
 そうして見回した一室は見慣れない。地下室でもなければ、厨房担当が寝泊まりする部屋でも無い。第一自分には個室なんて無いし……と考えて、思い出す。そういえばここで、自分を拾ってくれた青年と少し話をしたはずだ。
 「お前、寝坊助にも程があると思うよ。厨房担当のレディが相当怒ってたらしい」
「!」
そこまで聞いてようやく理解する。日はもう高い。普段は日の出とともに一日が始まると言うのに……やらかした。また殴られるんだろうか。
 慌ててベッドから飛び起きようとして、
「俺から話があるって言っておいたから大丈夫。それより、よく眠れた?」
言葉に静止される。突然の質問に一瞬キョトンとしながらも素直に首を縦に振れば、
「それは良かった。ちなみに、俺が前にお前にあったのは五日前ね」
「!?」
たった数時間と思ったそれは、どうやら数日の間違いだったらしい。
 「まあ、よかったよかった。お前があと半日起きるのが遅ければ、俺はお前のせいで帰国の予定が一日ずれ込むことになったからね」
全く、厄介事を押し付けてくれたものだ。紺色の髪の知人が脳裏をよぎった。
「お前の名付け親は今頃♧だよ。せっかちなのは昔から変わらないみたいだねぇ……。俺はその間、お前のお守り係ってわけ」
 急いだって何も現実は変わらないのに、かの青年は無理を押して一週間分の仕事を片付けて、つい昨日、ここを出たばかりだ。こういう時に限って、異様に仕事が出来るあのKINGが、なんだか少しだけ羨ましい。
 「愛されてるねぇ……。これっぽっちも羨ましくないけど」
「愛されて、なんか……」
「愛されてるよ、間違いなくね。は、生きてるだけで周りを損なう。ただの欠陥品ならまだしも、腐ったミカンみたいなもんだよ。そんな出来損ないのために、わざわざ予定を開けて他国へ向かったやつがいるのに、愛されてないわけないだろ」
 唇を噛む。そんなこと頼んでいない。しかし、どうしようもない世界で、小さな善意は苛烈な程に痛かった。
 「……」
生きたいとは思わない。まだ、そうとは思えない。……けれど、理不尽の中で何も知らないままは死にたくないと、昨日……いや、五日前にそう思った。
 「……なぁ、お前は……俺と同じなんだろ。……その、環境とかは置いといて……。……知りたい。ちゃんと」
「いいけど……随分漠然としてるねぇ……」
クスクスと妖美に青い目が弧を描く。
「……その……能力の、こと、とか……」
段々と不安げに音量を下げるあたり、健気で面白くて、また口角に笑みが浮かぶ。子供を揶揄う趣味は無いが、存外面白い。
 「そうだなぁ……どこから話そうか。『世界には二種類の人間がいる』なんて言葉、聞いたことあるだろ?」
なんてどこかで聞いたことのあるフレーズを口にして、他愛の無い話のごとく切り出した。
 分け方なんて様々で、何故人間がそんな区分を愛しているのかなど不明だ。しかし、その中に、例えば「持つ者と持たざる者」、「扱える者と扱えない者」なんて区分があるのは確かだろう。
 「扱えるっていうのは自分で発動ON解除OFFを切り替えられるって意味ね。それで、俺ら……一般的に『制御不能』って呼ばれる奴らは、OFFにできない初期不良品。かなり珍しい体質だから、生きてる状態を見たのは、俺もまだお前が二人目だよ」
そういえば昔、能力を持っていないと称される人々は、能力が常時OFFの状態で、本来は何らかの能力を持っているのではないか……というような論文を読んだ気がする。
 「まあ、能力を制御出来ないこと自体も問題なんだけど……それより、もっと命に直結するところで問題を抱えてるんだ。制御不能この体質はね」
ただ単に能力の使い方が下手くそなだけならば、ここまで問題にはならない。ため息一つで一度言葉をきって、見上げている空は嫌な程に青く明るかった。
 「能力を使うこと=風船に空気を入れること、だと思ってよ。普通の人たちは、ある程度風船が膨らんだら、空気を入れるのをやめたり、風船から空気を抜いたりできる。……けど、俺たちはそれが出来ない。いつか膨らみ続けた風船は……」
そこでパンッと手を打つと、目の前の少年の肩が跳ねた。あぁ、やはり面白い。
「割れるだろ。死ぬってことだ。俺らの体の方が能力に負けて死に至る。一般的にはそれを体質なんて言い方するけど、病気みたいなものだよ」
病気……。その言葉が、重く響いた。きっと、治す方法はないんだろう。
 「……お前は……どうしてるんだ? ……まだ生きてるなら、……その……」
「んー……言いたいことは何となくわかるけど……言葉にするのは難しいかもね。……ま、簡単に言えば、能力を使えなくした。うーん……強制的にOFFにしたって感じかな。大体のやつは、そうやって何とかしてOFFにする方法を探してるんだ。……見つからなきゃ死ぬからね」
 もちろん全てを語っている訳では無いし、その体質を持って生まれてしまった者として、できる限り調べては来たが、それが本当に真実かどうかなんて誰にも分からない。ある種、仮説のようなものだ。
 それに、自慢げに自分で対処している風に言って見せているが、その実、この方法を思いついたのは自分ではない。……今思えば、あの時もっと感謝しておけばよかった。
 「……じゃあ、俺は……」
僅かに声が震える。脳裏に、風船の割れるイメージが繰り返し再生され、先程の破裂音が嫌な程耳にこびり付く。生きたいとは思わない。例えだとはわかっている……が、死ぬことの恐ろしさを、ようやくになって感じた気がする。
 そこでふと窓の外を見遣れば、白い鳩が一羽、空へ羽ばたいていった。
「……ただまあ……先方は引き受けてくれないだろうね」
 「……」
「あっちに、お前らを助ける理由がない。確かにアイツマールの説得には力があるけど、だからといってそれに乗るかどうかは本人次第。何の見返りもなく助けてくれるようなお人好しばかりじゃない」
「……」
たとえ助けて貰えなかったとしても、自分には件の♧の知り合いを恨む権利はない。聞いた言葉が脳裏で反芻される。
 誰かに迷惑をかけるならば、それ相応の何か自分の価値を証明しなければならない。しかし、それが今の自分にあるとは思えなかった。

 「だから、助けてやろうか」

不意に、予想外の言葉が耳を突いた。
 見れば、青い瞳がじっとこちらを見つめている。空のように、あるいは海のように澄んだ真円の丸い目。善意も悪意も揶揄いも……何も映っていない無表情などこまでも美しい目が。
 「言っておくけど、俺は善意で言ってるんじゃないよ。助けてあげてもいい。ただの時間稼ぎにしかならないだろうけど、ないよりはマシだろ? その代わり、お前は俺に何をくれる?」
その対価に値するものがあるのか、そう問うている。
 永遠のように長い一瞬、深く考え込む。こんな自分に、一体何が差し出せるだろうか? ……だから、
「……わからない。……お前は何が欲しいんだ……? ……俺に出せるものなら渡す」
必死に回答を絞り出した。
 しかし、相対する金髪はそれを笑うことなく、数秒静かに目を閉じて、一つ、告げた。
「何も欲しくないから聞いてるんだよ」



 「何も欲しくないから聞いてるんですよ」
ブロンドの髪が揺れた。見据える翡翠色の目は、この国の寒さを纏って凍てついている。
「んな意地悪なこと言わんといて……」
項垂れながら、自分と相手の間に置かれた机に肘を着いた。対話は天気に見合った膠着状態だ。
 「第一、私にあなたの言う子供を助ける利点がありません。対価なく動く者など、お人好しくらいなものですよ」
長いブロンドの髪を細い緑のリボンで一つに束ね、黒い軍服を着込んだ長身な青年の帽子と胸元には、紛うことなきKING OF CLUBのバッヂが煌めいている。
 目の前で項垂れている紺色の髪の青年は、青いコートを纏い、緑のKINGのバッヂに引けを取らない美しいKING OF HEARTのバッヂを身につけていた。ここは北の国・♧。雪と氷が閉ざした分厚い雲の王国。聳え立つ、黒と金で飾られた♧の王宮。その会議室に二人はいた。
 目の前のKINGを守るように静かに控えている黒い軍服を着込んだ黒髪の青年の胸には、JACK OF CLUBのバッヂ。三枚の絵札が睨み合う空間は、外気にも負けぬほどに冷えきっている。
 外交と言うならばこの場にQUEENが居ないのは不釣り合いだし、かと言って会合と呼ぶならばJACKが居るのは不釣り合いだ。そもそも、JACKを連れずKINGだけで単身他国へ乗り込んでくるとは何事か。
 ならば個人的な話かと思えば、彼らはその地位を示すバッヂを外さない。
「なぁ、そこをなんとか!」
「嫌なものは嫌ですよ」
「力貸してくれたって、減るもんやないやん!」
「自分に利の無いことは面倒なので」
 ギリ、と握った拳が音を立てる。何故そこまで嫌がるのか、理解できない。たった一度力を貸してくれれば良い。例えばそれが、件の彼らのように、力を使うこと自体に何かリスクを伴うならまだしも、ただ面倒だからで断られたらたまらない。
 「何がそんなに嫌なん! 人一人の命がかかっとるんやで!?」
手の平を机に打ち付ける。きっとこの場に自国のQUEENがいれば、上手く宥めてくれただろうが、残念ながら彼女は今頃自室だ。
「だからなんですか。その子供と私には根本的に関わりがありません。それに、人一人死んだところで何も変わらないでしょう」
 ここが氷の王国ならば、それを治めている主もまた、その心は氷でできているのかもしれない。
「第一、その子供は4代目のKING OF HEARTなのでしょう? ならば、成熟すればあなたは死ぬ。わかっているでしょう。我々の中で唯一、先代からその役を引き継いだ、あなたなら」
「そ、れは……」
言葉が詰まる。
 ふとした場で浮上する自分が死ぬ未来。死にたくは、ない。
「……じっさま先代がどういう思いで俺に優しくしてくれてたんかは知らん。……けど、もしほんとにそうやったとしても、それを世界が望んだなら従う。それが絵札俺らやろ」
暖かく自分を育ててくれた恩人が、時折自分へ向けていた寂しそうな目は、死期を悟っていたのかもしれない。自分にはまだ到底無理だ。
 それでも、正しいと思ったことを信じて生きてきた。今自分の心の示す正しさは、小さなどうしようもない命を救ってやることだ。
 「……お引き取りください」
「……。……穏便に済ませようと思っとったのに。……どうしても断るんやな?」
不意に鋭さを増した赤紫の目には、強い光が瞬いていた。
 後ろに控えていたこの国のJACKは、今しがた目の前のKINGがしていたように、握る拳に力が入る。強ばった肩と緊張感を増す重苦しい空間。
 もしも実力行使を持ちかけられたなら……自分で相手ができるだろうか。嫌な思考が脳裏を掠める。冷静に状況と相手を見極め、
(……化け物だな)
どこか他人事に、そして諦めきれぬ遠吠えのように胸中で零した。
 我らが主たるブロンドの青年が先手を打っていなければ、こちらは敵意を向けられた時点で詰みだ。かと言って、最悪の状況を免れたとして、単身で他国の王宮へ乗り込んでくる輩を、果たして相手取れるだろうか……。
 唾を一つ飲み込み、ただ自分が必要になるまで、行動だけは急がぬように先を待った。ほんの数秒が数十分にも感じられるほどに、酷く重く長い沈黙が閉ざす。
 「どうしても断るんやったら………こっちの言い分呑んでくれるまで帰ったらんからな!」
「子供ですか。一国の王たる者が恥ずかしい!」
「知らん! 俺はKING OF HEARTである前に、パジェーナ・マールってヒトやもん!」
「あぁもう、あなたって本当に面倒くさいですね!」
 ふ、と肩の力が抜けた。それは安堵であり、同時に自分の敗北を決定づける証拠だった。たとえ状況が揃ったとしても、おそらく自分では相手にならない。
(我らが君主を守るために強くならねば……)
他国のJACKが一人心を固める横で、話は他人事のように進んでいく。
 「……はぁ、全く……仕方がないですね……」
不毛な攻防がおよそ30分を数えようかと言う頃、先に折れたのはこの国のKINGだった。
 「Gracias! 言うたんたから、今更嫌やは聞かへんでな!?」
「ただし、条件があります」
どうにかこうにかYesを言わせるところまで漕ぎ着けたのだ、ここでチャンスを逃したくはない。多少の不利益ならば、いたし方なしとして被ろう。
 「あなたのお人好しをこれ以上放っておくと、またこちらに迷惑がかかりかねません。一度で構いませんから、その子供が失望するほどに厳しく突き放しなさい。それでもまだ、その子供があなたのそばにいることを望むのならば、力を貸して差し上げましょう」
「つ、突き放すて……」
「言葉通りの意味です。あぁもちろん、言葉で、ですよ。あとはあなたの匙加減に任せます。お前なんて死んだ方がマシだと言うも良し、迷惑ばかりかけるなと叱りつけるも良し。一度その子の信頼を自らの手でへし折りなさい」
「……」
言葉につまる。それはつまり、嘘をつけと言われているようなものだ。
 もちろん、言葉だけならばいくらでも並べたてられるだろう。……が、自分の生きる意味を見つけられていない幼子に、そんなことをすれば……
(それは……それはあかんて。死んでまう……)
もとより、件の少年には自分自身の命を軽視している部分が見受けられる。何とか生きさせようとしているというのに、その一筋の希望さえも自分で絶てだなんて……。
 赤紫の目と翡翠色の目がかちりと交わる。情熱の国の主らしい暖かく強い色と、氷の国の主らしい血の気も通わぬ冷たい目。ほんの僅かな混迷を汲み取り、告げた。
「生かしたいのはあなたのエゴです。たった一筋の脆さで折れるような者へ、私の能力を使ってまで生かす意味は無いでしょう。自分で選ばせなさい。希望を絶たれてもなお、生きたいのか。……あなたは、それでも生きたいと願うことを、信じられますか?」
 エゴ。確かにそうかしれない。本人が死を望んでいたとして、それでも生きろというのは酷だ。
 「……。わかった、条件を飲む。……けど、それやと俺だけ先払いやん? 俺やって忙しいし、すぐにこっちに来れる訳でもない」
ならば、今なぜここにいるのかという質問は野暮だ。
「……なるほど、ふむ……。では、こうしましょう。QUEEN OF SPADEの見立てでは、その子供はもってあと3年なのでしょう。ならば、3年後に一つ私から贈り物を致します。その時まで生きていれば」
「……」
猶予は、3年。……否、もっと短いかもしれない。それまでに心を決めなくては。
 「Si. それで呑むわ」
「では、さっさとお引き取り願います」
形式上だけは合意したように握手を交わすが、互いの目は異様にも鋭く、敵意を滲ませていた。



 「何も欲しくないって……」
言葉に詰まる。ならばなぜ、何かを要求するのか。何も欲しくないのなら、何も望まず引き受けてくれれば良いものを……。
 「世の中、そんな自分にバカ正直に生きられるやつばっかりだと思うなよ? 大体の人間ってのは、何かしらの理由がなければ、善行の一つもできないもんだ」
かくいう自分もその一人で、そんなことを理解していてもなお、なにか理由を求めている愚者だ。
 困り果てたように少年は目を彷徨わせる。こちらとして提示できるものに心当たりもなければ、相手に要求もない。ならば、一体どうしろと言うのか……。
 流れていく沈黙は重く、遠く飛び交う鳥の声がやけに虚しく響いている。ふぅ……と、特に意味もなく小さな息を零して、
「……なぁんてね。あんまりガキンチョを揶揄うもんじゃないか」
右の口角だけを釣り上げ、いたずらっぽい悪意のある笑顔を向けた。
 少年に揶揄われていたのかと半ば憤慨するかのように睨み返されるが、ここに至るまでの言葉に嘘は無い。要求事項が無いことも、なにか理由をつけなければ動けないことも。
 しかしまあ、哀れで愚かな小さき命のために、気まぐれに知恵を絞ってやるのも悪くはない。
「一つ、俺の些細な願いを聞いてくれる? そうしたら、俺はお前に能力を使ってやるよ」
 突飛という程かけ離れてもいないが、もっと無理難題を押し付けられると覚悟していた赤毛の少年は、少しだけ拍子抜けしながら、
「……わかった」
そう短く答えた。その願いの内容も聞かないうちに了承してしまうなんてとんだ間抜けだ。
 「そんな身構えんなよ。なぁに、単なる小さな頼み事だから」
安心しろ、なんて安心できない笑顔で微笑みながら、コツコツと靴音を響かせて、少年が腰掛けているベッドへ歩み寄る。
 あからさまに身を強ばらせるとは……心外だ。……まぁ、目の前の彼が置かれ続けた状況を考えるなら、それも致し方ないのかもしれない。
 (……誰も信じられない哀れな命……。俺も、運命か偶然の巡り合わせで、アイツらと出会っていなかったら……そうなってたのかもね)
ぽん、とやけに骨ばった薄く頼りない少年の肩に手を置き、小さな耳元に唇を寄せる。
「アイツを……俺の友人を、殺さないでやってくれ。どうしようもなく馬鹿で阿呆で迷惑ばっかりかける能無しだけど、あれでも俺にとってはそれなりに大事なヤツだからさ」
「……」
 時が止まったかのような一瞬、囁いた声が空気を揺らし、やがて、ふ……と小さな吐息が漏れて、そばにあった体温が離れる。気付かぬうちに止めていた呼吸に、肺が酸素を求めて急激に動き始めた。
 半ば振り返るような勢いで、そう囁いた相手の方へと顔を向ければ、既に先程と同じ定位置へ戻って、何事も無かったかのように外をぼんやりと眺めていた。全てが幻だったのではないかと錯覚してしまう。けれど、
「……俺の頼み、聞いてくれる?」
そう言って不気味なほどに均整の取れた美しい顔で笑う青年の言葉が、白昼夢などではないと証明していた。
 「……殺すわけ、ない」
誰が好き好んで、たった一人現れた自分に良くしてくれる人物を殺すものか。そもそもそんなこと、考えたことすらない。
 青年はその言葉に満足したのか分からない。
「……そう。ならいいけど」
どこか他人事に呟いた言葉には、一欠片の安堵も乗ってはいない。
 これから何が始まるのかと、未だ緊張の解けぬ少年を見て、小さくため息を吐く。自ら多くを口にしようとしない。そうやって、聞きたいことも知りたいことも、全て押し殺して飲み込んで生きてきたのだろう。
 「そんな強ばんなって。何も特別なことはしないよ。『俺とお前は能力を使えない。お前が俺の能力を無理やりに食い破る日まではね』」
「……?」
ここまでの会話と何も変わりがないような抑揚で、唐突に告げた青年の言葉は、部屋に反響して耳へ届くと言うよりも、脳か心臓に直接響いてくるような違和感があった。
 「はい、おしまい。これで多少はマシになるだろ」
「え……」
拍子抜け、その言葉では全く足りない。これで終わり? ただ、声をかけられただけじゃないか。
 「……まぁ、お前は俺と同じ体質のよしみってことで教えてやるけど……他言するなよ? 俺の能力は“支配”って言って、言葉で相手を操る力なんだ。その対象には俺も入ってるけどね」
苦笑いで手の内を明かす。
 「ただ、完全ってわけじゃない。基本は抵抗できないみたいだけど……中には強引に食い破ってくる輩もいる」
「……」
「ま、ともかくそんなとこ。お前に死期が近づけば、否応無しに俺の能力を食い破って、お前は死に至る。あくまで時間稼ぎにしかならないよ」
それでもないよりはマシだろ、なんて笑ってみせる。まぁ、この子供が死のうが、自分には関係の無いのとだ。あとは自分でやれ。
 「んじゃ、俺は仕事に戻るから。お前もとっとと厨房のレディに怒られてこいよ」
所詮全ては他人事だ。



***



 耳元で唸る空を斬る音。身を屈めれば、切り揃えた襟足を刃が撫でた。額を伝う雫が睫毛を越え、容赦なく眼球を刺激する。しかし、ここで目を瞑れば、敗北が見えるだろう。
 身を翻し、凪いだ切っ先が襲い来る得物を捉え、鈍い音が耳を裂いた。
(負けたく、ないっ……!)
執着心は弱い方だと思っていたが、自分の居場所がかかっているとなれば話は別だ。見放されれば、失望されれば……捨てられる。それだけは……それだけは。
 半ば気概だけで体勢を立て直し、無理を訴える身体に鞭を打って相手の刃を押し返す。相手の崩れた体勢へつけ込むように、剣の間合いの更に内側へ。ほとんど0距離まで歩を詰めて、横腹に一発、握った剣の柄を叩き込んだ。
 ちょうどそこで、教官の
「そこまで!」
という声が響き渡る。そしてようやく、早鐘を打つ自らの心臓と、忙しなく叫ぶ自らの息遣いに気がついた。
 カラン、虚しい音が響いて、手から握っていた剣が落ちる。潰れた肉刺まめは出血を伴い、体力の限界を訴えるように膝は震えていた。
 その場に崩折れたい欲望を咬み殺すように、両膝に手を着き足元に視線を投げれば、額をとめどなく伝う汗が、容赦なく目になだれ込んでくる。
 不規則な呼吸を無理やりに制して、周囲を見渡せば、そんな様子を退屈そうに眺める茶髪の女性の姿が視界の端に映った。どこかを見ているわけでも、どこも見ていない訳でもない目がぼんやりと虚空を映している。
 彼女はこの国の第二位。QUEENという名のある地位に座す権威だ。果てた気力に無理を押し通して、手でも振ろうかと体を起こしたところで、不意にそのオレンジ色の瞳と視線が交差する。
 今日はQUEEN OF HEARTが訓練の様子を見に来るとのことで、皆いつも以上に気合が入っていた。おかげで何度負けかけたことか……。一般兵の末端も末端である見習い兵が、この国の権威の顔を拝める瞬間など多くはない。
 しかし、目が合っていたのは一瞬で、すぐに視線を逸らした彼女は口元に手を当て、身を屈めてしまう。その様子に気づき、その脇に控えていたおそらくは♡10であろう男性が、慌てた様子で彼女の背を擦り、退出を促した。
 本来、彼女QUEENの横に座すべき位は、第三位たるJACKだが、残念ながらこの国は未だその席を埋めておらず、ならばその次に当たるACEはといえば、JACK欠番の中で多忙に追われ、各地を転々としていると聞く。その家族である彼ですら、今どこで何をしているのか、大まかにしか把握してはいなかった。
 (……体調、悪いのかな……)
そういえば、彼女は知り合ったときから、いつもあの部屋にいた。外を歩き回っている様子はあまり見たことが無い……。それも体調のせいなのだろうか。
 そんな思考の沼に呑まれるより早く、
「やったな!」
「ほんと、さすがって感じだなぁ!」
と周囲に群がる少年たちにもみくちゃにされる。
 褒められることが嫌いな人間なんていないだろうが、それは総じて気恥ずかしいもので、ただされるがままに頬を染めるしかできなかった。本当に、良い友達を持ったと思う。

 片づけを終え、一人、王宮へ向かう。先ほどの様子を考えると、今日もこの部屋に彼女がいるとは限らないが……。
 いつもと同じ扉の前で立ち止まり、軽いノックの後に戸を開き、中を覗き込む。
「……なんや、また来たんか」
耳に着いたのはここ数日で聞き馴染んだQUEENの声。いつも通りにベッドへ腰を掛けて、ぼんやりと空を眺めていたオレンジ色の目が、こちらを向いた。
 体調はもう良いのか、と口を開くが早いか、
「……よぉ、あんなんとれるなぁ」
どこか冷えた音が裂く。部屋の外から扉越しに部屋を覗き込んだ、そんな間抜けな体制のまま、
「……?」
首を傾げてその言葉の意図を待つ。その先を聞くべきではない、と予兆めいた本能が囁くが、四肢は凍り付いたように動かなかった。
 「『年下のくせに』『生意気』『お前なんかいなければ』……。だぁれも、アンタのことなんか、友達やと思ってへんよ」
脳裏を過る、自分のの顔。
「そんなことっ……」
反射手に口を突いた否定の言葉は、
「ないって言いきれる? ホントォに?」
心のうちまで見透かしたような彼女の声でかき消された。
 優しく楽しい友人たち。何でもない日常。明るいそんな日々の奥深くに、目を背け続けてきた影の気配を、気づかずにいられたならばどれだけ幸せだったろうか。
 明るい友人たちから向けられる、芯の凍った視線。例え幼子であれど……否、悪意や敵意に慣れ親しんでいない幼子だからこそ、それらは過敏に脆い心を刺激していた。
 「っ……」
バタン、無駄に大きな音を立てて、こちらから訪れたにも関わらず不躾に、彼女の部屋の扉を閉めて、気が付けばもと来た道を走り出していた。後ろから、彼女の射るような言葉が追いかけてきているような気がした。

 (そんなこと……そんなことっ……)
ぐるぐるととめどなく回る思考の渦。友人たちは、一度だって冷たい言葉を投げてきたことは無い。それなのに、なぜ、簡単な言葉を否定できないのだろうか。
 気が付けば、普段友人たちと集合場所のように使っていた溜まり場へ向かっていた。特に何か考えがあったわけではないが、きっと、先ほど言われた言葉を否定したかったのだろう。
 そして、よせばいいのに、息を殺して周囲の様子をうかがう。聞こえてくるのは、いつも通りの友人たちの声。それにホッと胸をなでおろし、
(……やっぱり)
皆のところへ、と歩を進めかけて、足が止まった。
 耳に着く、楽しそうな声。それは先ほどと何も変わりがないはずなのに……。
「つーかさー、アイツ、まじむかつくよなー」
「それな! 自分だけ優秀アピールってか」
「あーあ、俺もQUEENに良い所見せたかったのに!」
自分の話ではない。そう、信じられたら良かったのに。あるいは、耳を塞いで逃げられたら良かったのに。
 脳裏を過る、
『いいなぁ、マローネは! 可愛がられてるんだろ? だし!』
『妬いちゃうよなー!』
『わかったってば、もう』
『そうだそうだー、俺らは遊んでるからさ』
何気ない、そう思っていたのは自分だけだったのだろうか……? 鼓膜を揺するとげとげしい音は、小さな悪意が滲んでいる。
 きっと、考えすぎだ。自分の話ではない。被害妄想だ、気のせいだ。そう自分に言い聞かせ、皆のところへ……と、息を吸って歩を……

「第一、の弟だろ? アイツも同類だ」

 「ッ」
踵を返す。足の裏が強く地を蹴る。冷たい声がどこまでも追ってきている気がする。目頭が熱い。息ができない。嗚咽を漏らし、どこへともなく、ただ逃げるように足を動かした。
 嘲笑うようなの声が響いている気がする。自分の兄を、嘲笑う時と同じ声で、同じ顔で……きっと、自分のことも話しているのだろう。
 被害妄想か? そうであればどれほど良かったか。友人だと思っていたのは自分だけだったのか? ……今し方QUEENに言われた言葉が、全て現実のように思えて止まなかった。
 真っ直ぐに敵意を向けられた時、人間とは実に愚かだ。きっと周囲は、見習い兵の制服のままで泣きながら走っていく少年を、奇怪な目で見つめていることだろう。しかし、そんなことを気にしている余裕なんてない。
 「……おい」
ふと、足が止まる。否、止められる。後ろへ振った腕を、冷たい手が掴んでいるのがわかる。細い指。それに対して、強い力。
 「……?」
涙で汚れた顔で振り返れば、くすんだ紅色の髪が視界に映る。自分より低い背、睨むように見上げる金茶色の目は、どことなく不安げで、それでいて、どことなく温かみがあった。
 普段同じ王宮内で生活している兄弟だが、どちらかが望んで声をかけることも、関りを持とうとすることも無かった。それがお互いにとって最善だったから。こんな時に、何の用だろう。
「……そっち、立ち入り禁止」
「え……?」
 そう言われて初めて気づいた。周囲を見渡すが……そこは、見慣れない風景。なぜこんなところに兄がいたのかも不思議だが、それ以前に迷子だ。
 「……こっち」
目の前の赤毛の少年は、見かけによらず、しっかりとした足取りで手を引いていく。自分よりも過酷な環境で生きているであろう肉親は、何故だか自分よりも凛として見えた。

 なぜ、よりにもよって自分から声をかけることになったのか。これがわからない。青い目のQUEENとの会話を終えて、厨房長のところへ行ったときには、厨房長は随分と機嫌が悪く、何度か鞭で打たれた。
 押し付けられた山のような仕事に嫌気がさしながら、何とかこなす。そして、僅かな空き時間でも持ち場から逃げようと、先日教えてもらった隠れ家の地下室へと向かっていた。
 その時に、視界に映ったのは桃色の髪。自分よりも幾分か背が高く、♡の見習い兵士の制服を身にまとったその姿を、彼はよく知っていた。
 ……しかし、どうにも様子がおかしい。普段幾人かの集団で行動している。ただ、今日は彼一人。周囲に取り巻きの姿は見られない。そのまま通り過ぎてしまえば良いものを……気づいてしまったから。その大きな赤茶色の目から、とめどなく涙があふれていることに。
 気が付けば、その腕をとっていた。立ち入り禁止、なんて言ってしまったが、そんなことは無い。ただ、彼の向かっていた先には、自分たちの隠れ家がある。そこを知られるのが、なんとなく嫌だった。それだけだ。

 適当に人が来なさそうな静かな部屋に身を隠し、扉を閉じる。
「……」
「……」
……気まずい。血の繋がった兄弟だというのに。こう面を付き合わせて会話をする機会なんてなかったし、お互いにそれを望んではいなかった。
 「その……えっと……ごめん、ありがと」
先にその静寂を破ったのは弟の方だった。
「……ん」
しかし、返すべき言葉も見つからず、相槌を打つのが精いっぱいだ。
 もちろん聞きたいことはある。普段笑顔を絶やさない彼が、どうして泣いていたのか。どこへ向かうつもりだったのか。よく一緒にいるメンバーはどうしたのか……。ただ、それらへ触ってはいけない気がした。
 「……えっと……答えたくなかったら、別にいいんだけど……えっと、その……なんで?」
涙で歪んだ顔で、混乱醒め止まぬ、弟の方が口にした。
「……泣いてたから」
彼が向かっていた先に、隠したいモノがあったとはさすがに言えない。
 「……。……すごいね、兄ちゃんは。……僕は、兄ちゃんが虐められてても、助けてあげられないのに……」
先日だってそうだった。例え周りよりも多くを知っていたとしても、助けの手を差し伸べられない。もしもそうすれば……次に犠牲になるのは自分かもしれないから。
 しかし、今考えればそれも愚かだったのかもしれない。助けようが助けまいが、周りは、友人だと思っていた人たちは……初めから自分を軽蔑していたのだろうから……。
 薄ら暗い思考が脳を染める。もしも、もっと早く知っていたら、あの時、あの場で、自分は助けの手を差し伸べられただろうか……?
 おそらく、否だ。そんな勇気はない。周りから石を投げられるとわかっていてもなお、誰かを助けるだなんて、そんなこと、できない。
 「……いい。助けてほしいなんて思ってない」
むしろ、より惨めに思えるから、気に求めないで欲しい。
 「……あの、さ……」
「……」
「……こんなこと、今言うのは違うかもしれないしけど……でも、ちゃんと伝えなきゃって思ってて……」
言える機会は、いくらでもあったのかもしれない。しかし、今しかないのかもしれない。面と向かって、言葉を交わすことができるのは。
 「……んだよ」
「……あの、ね。……その、いつか、その……ちゃんと、一緒に暮らしたいなって。兄弟として、さ。……だめ?」
ダメか否かではなく、可能か不可能かで語ったほうが正しいだろう。……が、幼心にも不可能の文字を考えたくはなかった。
 小さなお願いを口にして、甘えるように首を傾げる桃色の髪の少年と、それを濁った眼で見つめ返す紅色の髪の少年。考えれば、当然の願望かもしれない。血の繋がった兄弟でありながら、同じ屋根の下で過ごした時間の方が短いのだから。
 寂しい、という言葉では足りない。家族でありながら、赤の他人に近い、だなんて。
 数秒だろうか、数分だろうか……。この部屋に時計があったのならば、刻々と秒針を刻む音が響いていただろう。風の音も、人の気配もしない静かな部屋の中で、
「……ん」
絞り出すような小さな頷きと、小指を立てた右手を差し出して赤毛の少年は返答した。
 実に子供らしい。泣き笑いに近い、情けない笑顔を返して、
「えへへ~! じゃあ、約束だよ?」
桃色の髪の少年も右手を出して、小指を絡ませる。子供同士の約束にはつきものでありながら、その唄の歌詞と惨さを何も理解しないまま、
「ゆ~びき~りげ~んまんっ」
と可愛らしい声で歌う。叶うかわからない未来に希望をかけて、挙句針を飲ませる約束を結ぶだなんて、正気とは思えない。
 「ゆ~びきった!」



***



 時の流れは無情に残酷で、それでいて平等で美しい。トントントン、三つノックが響いた。中からの返事を待たず、少しだけ扉を開き、顔だけを覗かせると、月日の経過を思わせぬ部屋と時に置いていかれた美麗な女性の姿が目に入る。
 「なんや、また来たんか」
「えへへ……?」
意味もなく笑って、入室の許可も待たずに勝手に室内に入り込む。
 気がつけば初めてここへ来てから、もう二年が経とうかとしていた。あの頃よりもまた少し背が伸びて、じきに130cmを数えるだろう。年は今年で8つ。あの頃から変わらないことは、未だ黒星は着けたことがないことだけだ。
 一方で、QUEENの様子は二年程度では何も変わって見えない。強いて言うならば、パイプを吹かせているところを見なくなったことくらいだ。その理由は、
「アンタみたいなには悪影響やろ」
とのことだった。 
 いつも通りにベッドへ腰かけたまま、ぼんやりと空を眺めているQUEENの隣に腰を下ろし、
「今日は何の話をしてくれるの?」
図書室の語り部へ群がる子供のように、首を傾げた。
 彼女は実に物知りだった。それは、この世の全てを把握しているのではないかとも思えるほどに。
「そーやなぁ……」
彼女の太陽の色に似たオレンジの目に、ゆったりと流れていく白い雲が反射している。
 ふわり、室内に風が流れ、彼女は隣に腰かけた桃色の髪の少年へと目を向けた。時の流れとは、実に早いものだ。あと半世紀もすれば、彼も死ぬだろう。自分の歩んできた人生のおよそ三分の一。それが、彼の余命だと思うとあまりにも命とは儚い……。
 「?」
「……アンタ、多分長生きしんよ」
なんて言葉が口を突いた。
 「え……」
明るい表情に影が差し、混乱と困ったような表情が向けられる。
 QUEENはその国の未来を占い、将来を覗き見る力を持つ。ただ、それらはあくまで占い。何か根拠があるわけでもない。それに、今は何かを占ったわけでもない。故に、ただなんとなく、そう思っただけだ。
 「……いや、なんでもないわ」
怪訝そうな視線から逃げるように空を見上げれば、逆光で黒く染まった何かの鳥の影が空を横切っていった。
 「なんでもなくないよね⁉ ねえ、どういうこと? あ、そういえばQUEENって占いできるんだよね? 何かやって見せてよ!」
馴れ馴れしい様子で、少年は食いついてくる。二年間も通い続ければ、嫌でも馴れ馴れしくもなる。
 「あー……もう、鬱陶しいなぁ……。たく、見世物やあらへんで」
「いいじゃん、減るものでもないでしょ?」
「嫌やて、疲れるんやもん」
「え~……」
傍から見ればそれこそ姉と弟のように映るかもしれない。血縁の兄弟よりも、よっぽど彼らの方がかった。
 「ほれ、そろそろ訓練やろ。はよ行きゃぁ」
しっし、と手を払うような動作で、未だ興味覚めやらぬと身を乗り出す少年を追い払えば、
「うぅ、あとちょっとぉ……」
少しばかり生意気さを増して、少年は口をへの字に曲げた。
「……はぁ、アンタのことやで、どうせなんかウチが話すまで行く気ないんやろ?」
「うん」
舌打ちが漏れかけた。どうしてこうも図々しくなったのか……。
 「しゃぁないなぁ……。ま、どうせ、アンタと会うのもそろそろ終わりやろうし」
「え……?」
「置き土産程度に教えたるわ」
「??」
話を語る、美しい赤色の唇を、彼は止められなかった。まるただ一人、現実に置いていかれたように、首を傾げることしか。
 「訓練終わったらな」
そこまで意味深に引き伸ばしてから、あっさりときり捨てる。あぁそうだった、この人はこういう人だ。
 「もうっ……!」
「……二つ。ま、今までそれなりに退屈しんかった礼に、ウチもの一番の話準備しといたるで、はよ行きゃぁて」
首を傾げている間に話は締めくくられた。
 ただ、それ以上に言及したところで、彼女はそれ以上を語る気はないのだろう。二年は短くもあるが、それでも、彼女が頑固だと知るには十分だった。



 金属音が響く訓練場。二年経っても、桃色の髪の少年・マローネの位は見習い兵から変わっていなかった。もちろん、同じ兵のメンツは年と共に変わっているが、♡本隊に入隊できるのは10歳から。将来有望だと言われていても、年齢の壁は越えられない。
 背が伸びた分制服も新調してもらったし、剣も以前より重い物を持たせてもらっている。白星の数は依然増える一方だが……周囲との関係は、変わってしまった。
 以前友人だと思っていた少年たちとの関係は、日に日に薄くなっていった。あの日、QUEENの言葉が真実だったと知ってしまったその日のことは、誰にも話していない。
 もちろん、次の日、いきなりに彼らの態度が変わるようなこともなかった。以前通りの……。しかし、その何気ない日々の裏に、ずっと後ろめたさが影を落としていたのではないか……と思うと、徐々に疎遠になっていった。
 面と向かって、自分のことをどう思っているのか、なんて聞ける勇気があれば違ったのかもしれない。だが、自分には無理だ。
 ただ……おそらく、あの日聞いた言葉に嘘はなかったのだろう。距離を置いてみて、わかる。彼らの向ける視線は、妙に冷たかった。
 見放されないようにと努力してきた結果が、嫉妬の山なら笑い話だ。それでも、だからと言ってここで剣術をやめてしまえば、それこそたような気がして、諦めることすらもできなかった。
 カラン、不意に高い音が鳴り、相手の得物が地に落ちる。空を切った切先が、相手の喉元へ向き、静止する。
「ヒッ……」
「はい、僕の勝ち」
本当に斬ったりなんてしない。あくまでこれは訓練なのだから。
 「大丈夫? 立てる?」
弾き飛ばした相手の剣を拾い、本物の刃が喉元をかすめた恐怖からか腰の抜けてしまった相手へ、手を差し伸べる。別に、悪意や敵意を持っているわけでもない。
 それ故だろうか。友人であった者たちとの考えの溝は埋まらなさそうだ。
「あ、あぁ……。な、なぁ、不謹慎かもしれないが……本当なのか?」
「?」

「あー……その……♡Aが、その……行方不明って……」

目の前の凡そ同い年か一つ上あたりの少年は、言いにくそうにそう口にした。
 おそらくそれをマローネへ聞いたのは、彼が♡Aの実子だからだろう。もちろん、それが本当であれば、父の死という子供にとってはあまりに酷な質問だが……。
「え……? ごめん、その……知らない……」
一言でいうならば、驚いた。聞いたことすらない。
 「そうなの? う~ん……なら、ただのデマかなぁ……」
そうであってくれ、と願う反面、どこか他人事に捕らえている自分にも驚いた。考えてみれば当然かもしれない。国のために忙しくしている父と、家族として過ごした思い出の方が少ない。
 「多分そうじゃないかな……? ゴメン、ちょっと抜けるね」
それでも、気にはなる。訓練を勝手に抜け出せば、後々面倒なことになることは目に見えているが……今、知らなければならない。そんな気がした。そんな本能に突き動かされるようにして、訓練場をこっそり抜け出した。

 向かう先に当てなんてない。けれど、この王宮内で頼れる人物は初めから一人しかいなかった。今日、既に一度通った静かな廊下を駆け抜ける。
 胸騒ぎに似た嫌な予感で、訓練で流した熱い汗とは違う冷たい物が背中を伝った。水を打ったような静寂が包む廊下に、嫌に大きく足音が反響している。
 いつも通りの彼女の部屋の前に立ち、
(……?)
気づく。珍しく、中から声がする。
 きっと良くないことだ。そんなこと分かり切っているというのに、こういう時、人間は好奇心という内なる魔物を抑えられない生き物でもある。息を殺して扉の前にしゃがみ込み、そっと耳を澄ます。
 「……それがアンタの家としての判断やけど、何か言い分ある?」
「……何を、今更」
「ま、それもそうやな。どうせアンタとアンタの家は縁切った後やし。んじゃ、話し通しとくわ」
「……ん」
何の話かは分からない。けれど、誰が話しているかは分かった。
(兄ちゃん……?)
 気になり始めたら、止まらない。よせば良いのに、そっと扉へ手をかけて、
「何の話……?」
そう、声をかけてしまった。
 訓練前にここへ来た時と、何も変わらない室内の様子。ローテーブルに向かい合って座っているのは、茶髪の美麗な女性と、あの頃と変わらないまま、時を閉じ込めた赤毛の少年。横に並んでも、兄だと紹介したら皆信じないだろう幼い姿のままの。
 「……なんや、聞いとったんか」
どことなく他人事に呟いて、茶髪のQUEEN・フィーリア・フェールは入り口に立った桃髪の青年・マローネを見やった。こくりと頷いた彼の赤茶色の目は、不安げに揺れている。
 「大した話でもあらへんよ。聞いとらへんの? アンタ、もうすぐこの国出てくんやろ」
急に言われた言葉に、脳が処理をやめる。この国を、出ていく? どうして? そんな話、聞いていない。突然に沸き上がった疑問の渦が、止まった思考を無理やりに回していくが、そこに応えはない。
 「ど、どういうこと……? 聞いてない、けど……」
第一、目の前にいる自分の兄は、絵札になるのではなかったのか。この国の。ならば、この国から出ていくわけにはいかないはずだが……。
 いやしかし、今の状況を考えると、確かにこの国にいない方が良いのかもしれない。けれど、なぜ急に? 昔からずっとそうだったのを、見て見ぬふりで通してきたというのに、今更になって何故?
 出ていくといっても、この後どこの国で、どうやって生きていけば良いのだろうか。言語だって、歴史だってわからない未知の土地で上手くやっていける自信なんてないし、今までだってこれからだってずっと、自分は♡の兵になるのだと信じて疑わなかったというのに……。
 「詳しくは親に聞きゃぁ。アンタは♢に行くんやお」
♢、♢……。確か、海の向こうの国の名前だ。そこへどうやって行くのか、それがいつなのか、これからどうしていけば良いのか……なにも、わからない。けれど、一番気になったのは、
「……兄ちゃんは……?」
将来を約束されている自分の兄は、どうなるのだろう……? そんな言葉にできない不安感だった。
 数秒の間が開いて、オレンジと赤茶色の二対の目が降り注ぐ中、金茶色の目の少年は、真っ直ぐに弟である彼を見つめ、
「……俺は、行けない」
とだけ返した。行かないのではなく、行けないのだと。
 「っ……やだよ! 僕は兄ちゃんと一緒にいたい!」
半ば反射的に駆け寄り、ただ冷たくこちらを見つめ続けるQUEENの視線から庇うように、100cmにも満たない細い体のままで時を止めた赤毛の兄を抱き寄せる。握ったら折れてしまうのではないかと心配になるほど薄く細い体。これで二つ上だというのだから恐ろしい。
 「!? 離せ! この!」
恥じらいと照れくささとその他諸々をごちゃまぜにされて、腕の中で赤毛の少年は激しく抵抗する。けれど、悲しいかな時の流れは冷酷で、5つの頃のまま、何も変わっていない少年の抵抗を、無理やりに抑え込むことができる程度には兄弟の間に溝は深くなってしまっていた。
 あの頃のまま時を刻まない絵札と、その幼体。この空間では、まるで自分だけが年老いていっているような錯覚を覚え、妙に空しくなる。共に生きることはできないのだと、見せつけられているようで胸が苦しい。
 その空虚感に抗うように、暴れる兄をより一層強く抱きしめれば、やがて諦めたように彼は抵抗をやめた。その様子を傍から目に見つめていたフェールはただ、
「……アンタの意見なんて、多分今更なんも意味あらへんよ。もう決まっとることやろし。いうたやろ、アンタと会うのもそろそろ終わりやって」
駄々をこねる子供に言い聞かせるがごとく静かに言葉を並べていった。
 大人の決定とは実に理不尽だ。子供の意見を最優先にするだなんて建前で、結局大きな決断の時に、意見の一つすらも聞いてはもらえない。
「……」
「……ま、今日が最後ってわけやないやろうけど、最後に二つ、アンタにあげたるわ」
親の仇でも睨むかのように見上げてくる赤茶色の目をいなし、はなむけにでもと言葉を紡ぐ。なるほど、あの時の「二つ」という言葉はそういう意味だったのか。
 なぁに、大したことではない。ただの気まぐれだ。縁が無ければもう会うこともないだろう。けれど、二年もここに通われて、多少ばかりも情が湧かなかったわけではない。故に、僅かばかりの縁のきっかけを作っておいても、ばちは当たらないだろう。
 「一つ、ウチの偽名はフィーリア・フェール。アンタにとってのマローネ・ニービオって名前と同じ意味やお」
初めから偽名だと示して名を名乗ることもまた珍しい……。それで名の意味があるのかと問われれば、QUEENという絵札を守るためだとでも答えよう。
 けれど、名前はその人を示す唯一無二の物でもある。例えそれが偽名であっても、長く生きれば、いつか必ずその名には意味が宿るものだ。
 「それで、二つ目。ウチの本当の名前やけど……」
まるでどこか他人事に、打ち明けることにすら何の抵抗もないと示すかのように、彼女は凛としたままで、ゆったりとその名を呟いた。



***



 その日の朝は薄い霧がかかっていた。がらんとした室内に、見慣れた光景はもはやない。家具は全て運び出され、この場に残されているのは、人物だけ。生まれてからずっと、この家で育ってきたのに、その場所を離れるというのは、やはりどことなく寂しさを感じてしまうものだ。
 「……じゃあね、カイト。元気でやるのよ」
「……ん」
桃色の髪の母は、家を追い出された頃と寸分変わらぬ姿の赤毛の兄を抱きしめ、優しくその癖毛な頭を撫でる。いつも通りともとれるような、ぶっきらぼうな短い返事で返す彼もまた、どことなく寂しそうだ。
 それはそうだろう。例え家を追い出されていたとしても、今まではこっそりと会いに来れていたが……国が変わればそうとも行かない。次にいつ会えるのか……否、もう二度と会えないかもしれない。そう思うと、自然と涙がこみあげてきてしまうものだ。
 しかし、泣くだなんてみっともないと、幼心をギリギリで律し、せめて強がって口を一文字に結ぶ。別れくらい笑顔で、なんてとても言えないが、それでも最後くらい強がっても許されるだろう。
 そんなことを思っている横で、
「うぅっ……兄ちゃぁんっ……! 僕やだよ、離れ離れなんて……。うっ、うっ……」
堪えきれない……というより、こらえるつもりもなさそうな大粒の涙を、綺麗な赤茶色の澄んだ瞳から零し、耐えられないと弟は兄へ抱きついた。
 あの時、QUEENの部屋で暴れた姿とは打って変わって、存外赤髪の少年は抵抗せず、大人しく抱きしめられている。まあ……最後くらいなら。万能にも等しい言葉の響きは、不器用な少年の背を少しだけ素直な方向へ押す程度の力を持っていた。
 「さよなら、じゃ、ないからねっ……。また、絶対、遊びに来るからっ……、兄ちゃんも、♢に来たら教えてねっ……」
ぐいと強がって笑ってみても、細めた瞳は、よりいっそう雫で溢れかえって、とめどなく頬は濡れていく。
 たとえそんないつかがやってこなかったとしても……たとえ小さな約束が果てずとも……僅かばかりの希望を未来に描いたって、許されるだろうか……。
「……Si」
恥じらいを押し殺して、上背な弟の背へ手を回す。
 なぜ自分だけがと理不尽を嘆いたって、きっと現実は変わらないし、誰も気になどかけてくれない。今年で10を数えた小さな身体では、未だ届かぬものばかり……。それでも、一つ、灰色の雲間から光が射すように、
(……生きたい)
力無い鼓動は渇望を示した。願った未来が叶うまで。みっともなく泣いてまで自分との再会を願ってくれる、共には生きられない肉親のために。
 遠くで汽笛の音がなる。時間だ。あともう少し、もう少しと諦めの悪かった桃髪の少年も、どうしようもない現実にようやく手を離し、最後に一度だけ
「兄ちゃんが遊びに来てくれる日、待ってるからっ……! だから、兄ちゃんも、待ってて……!」
今度こそ精一杯に笑って見せて、踵を返した。



 初めてに船旅は正直いって最悪だった。不規則な揺れと、不衛生な環境。♢へ秘密裏に渡る者たちを、まるで家畜かなにかと勘違いしたように押し込めた貨物船は、はめ殺しの窓がある程度で、あとは室内を満たす湿気だけ……。
 何度嘔吐をこらえたことか。ただそんな生理現象を静止していたのは、ここを吐瀉物で汚したら、後々自分の吐いた物の匂いやらで余計に苦しむだろう事実一つ。
 感動に別れからいくら経ったのか不明瞭だが、こんな目に合うくらいならば、国に残った兄がいっそ羨ましかった。……なんて、口には到底できないけれど……。
 「おい、皆起きてくれ。予定ならあと数時間で着く。その前にもう一度経路を確認しておきたい」
今回の密航のリーダー格を担っている男が、どこに地図だか分からない紙を広げ、劣悪な船旅を紛らわすために目を閉じていた仲間たちを起こしていく。実際、こんな場所ではまともに寝られる気がしないし、異様に起きるのが早いところを見れば眠れていた人なんていないのだろう。
 リーダーの男は、降り立つ予定の港を指し示し、♤経由で♢へ渡ることを示した。♢は内陸国で、♡は島国だ。この二国間を行き来するためには、海と♢の両方に接している、♤か♧を通る必要がある。
 どちらのルートにせよ、リスクが付きまとうことに変わりはなく、今回は苦渋の策で♤を選んだようだった。まだ8つの少年にはここまでしか分からず、なぜ♧ではいけないのかまで汲み取ることはできなかった。
 まあ、どちらにしたって最終目的は♢へ向かう事。大した差では無いのだろう。未だと密航、密入国という言葉の意味を正しく理解していない少年には仕方の無いことだ。
 「今回一番問題になって来るのは、♤の国境警備隊だ。少しでも奴らの目を眩ませるために、♢と♤の国境の森を進むことにする。はぐれても、迷っても、他人のことは気にするな。とにかく東へ進め。森を抜けたらあとは各々が連絡した親戚家族達と会えるだろう」
話を聞いていた大人たちは、旅の荷物に混ぜたコンパスと握って静かに頷いた。なぜ、こんなにも場の空気が重いのか……それを知るのは、あと数時間先の話……。



 海風が吹き抜け、ようやく不規則な船の揺れから開放されるが早いか、いつになく真剣な顔の母に手を引かれ、足早に人混みへ隠れ、人目を切って駆けていく。あぁ、もう少し海風を堪能したかったのに。
 振り返れば人混みの向こうにうっすらと青い地平線が見えたが、それも一瞬のこと。あの向こうに、別れた家族がいると思うと……何故だろう、胸が痛く締め付けられる。
 異国の匂い、異国の言葉、異国の景色……見渡す全てが知らない物ばかりで、好奇心が走り出すが早いか、全ては木々に覆われる。どうやら、件のルートの森へ逃げ込んだらしい。
 大人たちの話によれば、こと辺りには100年ほど前まで村があったのだとか。しかし、先代のKING OF SPADEに刃向かったとして、見せしめに焼き討ちにあったそうな。そして今は、そこに植林がされ、こうして森ができていると聞く。
 昔焼き討ちにあったその村には多くの♡出身の移民がいたらしい。彼らの母国への忠誠が木々を育てたのだとすれば、今♡から渡ってきた自分たちに少しばかり道としての力を貸してくれるのも納得がいく。
 森を抜けるために走っている中、誰も一言も口を開かない。ただ延々と無言に足音と風音と木々の葉が擦れる音がするだけの、影が満たす不気味な空間に、なんだか予感めいた不穏さを感じざるを得ない。
 本当にこの道であっているのか……。どこまでも同じにしか見えない景色は、人間の本能的恐怖を煽る。進んでいる方角を確認してみても、コンパスは毅然と正しいと返すばかり。
 ♡の見習い兵として体力はつけていたつもりだったけれど、所詮子供は子供。徐々に足取りは重くなり、背に重しでもかけられたように肩は下がっていく。
 見回せばそれはどうやら自分だけではなかったようだ。あんな劣悪な環境から開放されて、間もないままに、今度は体力を酷使しながら正しいのかも確信の無い道を進むだなんて、体力があったとしてもそうそうできるものでは無い。
 誰がとなく、
「……一旦休もう。このままじゃ進むペースも次第に落ちる」
なんて口にすれば、満場一致で首肯する。見上げれば木々の覆う隙間からうっすらと夕闇に飲まれていく、赤と紫の混ざりあった空が覗いていた。
 国を出たのは確か明け方近かったはずだ。船内も森の中も、明暗がつかない薄ら暗さ故に、時間の感覚が相当ズレていたらしい。じきに夜闇が街灯のないここいら一体を包むだろう。
 薪を起こして、キャンプじみた野宿でもするのか、なんて子供心に思ったのが悪かったのか……。皆が各々密航のために持ってきた軽食を取っているころの頃だ。
 「ッ……全員走れ!」
誰かの叫び声を皮切りに、穏やかな時間は一気に切り落とされる。既に日は落ち、月光の一筋もほとんど入らない暗闇に、ようやく目が慣れようかというそんな時だった。
 故に、わけも分からないまま母に腕を引かれ、持っていたチョコレートバーを落としてしまったが……どうも、そんなことを気にしている余裕は無さそうだ。
 先程より少しばかり明るく感じたのはどうやら気の所為ではなくて……振り返った視界に、赤色が写った。母国の鮮烈ながらに美しい赤ではない。敵意を灯した松明の色だ。
 何人かの兵士のような見た目に人影が見えた気がする。彼らの持つ松明がきっと先程の月明かりだけの状態よりも少しばかり明かりを与えてくれていたのだろう。
 ……そして、どうやら遭難者紛いの自分たちを助けに来てくれたという風貌では無さそうだ。そこまでまなこに焼き付けたところで、いよいよ自分が命の危険に晒されていることを理解し、前を向き、力の限りに地を蹴った。
 密航の意味なんて知らない。密入国の何がいけないのかなんて習っていない。けれど……けれど、捕まればきっと殺されてしまうのだろう。周りの大人たちの、それこそ必死と言える形相からだって、それは読み取れた。
 どこかから悲鳴が上がる。耳を塞ぎたい。けれど、それは繋いだ手が許さない。そして何より……次にそうなるのが自分である気がして、強ばった身体は走り続けること以外を許さなかった。
 「っだめだ、出口を潰されてる!」
「あぁクソッ! 奴らは夜目が効くんだったな!」
「多分匂いか何かでも追われてるだろッ」
逃げ場がない。そんな絶望の縁に立たされた時、人間というのは愚かで……打開策が浮かばない代わりに現状を叫びたくもなるものだ。決定付けられた死を前に、もはやきっと年齢は関係ない。
 幾人固まって行動していたのか、こうも暗いと分からないが、誰かの最後の振り絞るような断末魔が鼓膜を震わせる度に、一人、また一人と周りから人の気配が消えていっているような気がした。
 不意に母に手を引かれ、進む方向が変わる。
「……静かに。このまま走っていっても追いつかれるわ。一度隠れましょう」
そっと耳元に囁かれる声は、激しく息を切らしており、正当に理由付けしてでも、一度休憩を挟まなければ走り続けられないと示しているようだった。
 特に意味もなく口元に手を当てて、高鳴る鼓動と吐き出される熱い息を押し殺す。轟々と唸る風の音が、誰かの最後の息遣いのようで、抑えられない震えを隠すように自分の方を抱いた。
 死にたくない。死にたくない。まだ、死ねない。やりたいことだって沢山あったはずだ。今この土壇場で、そんななんでもない日常を思い浮かべる程の余裕は無いが、叶えたい夢も楽しいことも美味しいものも、まだ、足りない。生き足りない。
 生きる意味を見失っていた兄のことなど理解できない。一体どうしたら、死にたいだなんて思えるのか。生きたくないだなんて思えるのか……。
 それに、約束した。件の紅色の髪の二つ上の少年と。再会を。そして、いつかそれこそ兄弟のように……と。まだ、諦めたくない。たとえ共に生きる寿命さえ持たずとも、この命果てるまではそばにいる事くらい許されるだろう。
 心臓の脈動がようやく収まりを見せる頃には、同じくして思考の波も静まっていた。たとえいくら周りが、共に船に揺られた同志が犠牲になろうとも、母とたった二人になろうとも……♢へ必ずたどり着こうと、代わりに心を燃やして。
 気がつけば煩かった森は不気味な程に静まっていた。もう人の断末魔も聞こえない。ただ不気味に枝葉を揺らす頭上の音が降ってくるだけ。
 暗くてほとんど何も見えないが、
「……行きましょう、多分もう大丈夫よ」
先導するように手を引かれて立ち上がる。息を殺し、足音を消して歩いていく法学が正しいのか……それを知る由はない。
 やがて、嫌に静かな森に、薄ぼんやりと光が射し初め、生還を思わせるように姿を隠さんと霧がたち始める。緊張状態にある、長い長い夜の中で、他のメンバーに出会うことは結局一度もなかった。
 皆、死んでしまったのか。あるいは、各々こうしてどうにかこうにかやり過ごし、目的地を目指しているのか……。できることなら、後者であると願いたいものだ。
 現実はドラマチックでもなんでもないし、人間が死ぬ時なんてどうしようもないぐらいに一瞬だ。それを誰かは理不尽と呼び、また誰かは美しいと笑った。どちらが正しいのか、あるいはどちらとも間違っているのか……。
 切れかけた緊張の糸に、穏やかな睡魔が顔を見せ始める中、僅かに見える森の出口を遠目に、丘状に僅かばかり隆起した道を登る。そこで、

パン、

と一発、銃声が響いた。それが重かったのか軽かったのか、判断する猶予も余裕もない。
 不意にずっと繋いでいた暖かな手が離れ、代わりに強く背中を押される。登りきった坂道を転げ落ちるように、重力に逆らえない身体は一人でに加速して、縺れ絡まる足は前へ前へと回るばかり。振り返ろうとすれば、バランスの崩れた身体は肩から地面へ着地して、痛みだか熱さだかわからない衝撃に包まれた。
 絶叫か断末魔にも似た、
「行って! 走って!」
という叫びに、地に伏した身体は弾かれる。進むことは、逃げることは……家族を、肉親を、見捨てることを意味した。……それでも、大好きな人の願いがそれならば、迷うことはできない。
 振り返りたい気持ちを、足を止めたい願望を、理性で押し殺して縺れる足をひたと地面に叩きつける。耳元で唸る風の音は、母の最後を耳へ届けない。とめどなく溢れ出る涙を拭うことすら今は疎ましく思え、舌を噛んで嗚咽を殺した。
 しかし、前に踏み出した足がガクリと揺れ、今度は転げ落ちると言うより頽れるように、その場に倒れ込む。木の根にでも足を取られた訳では無い。これは……
(……霧、じゃ、ない……?)
ガスだ。先程から足が縺れていたのは何も疲労だけではなかったらしい。
 ピリピリと痺れるような感覚は、一度倒れた体を気概だけで立ち直させることなど許さない。いくら渇望しようとも、いくらその心が叫ぼうとも、非力さは踏み躙られる先を意味した。
 遠くで嗤う嫌な声が聞こえた気がする。一体何が愉しいのだろう。自分たちが一体何をしたと言うのか。ただ通りたかっただけなのに……。
 震える唇を噛み締めると、うっすらと血の味が滲んだ。
(いや、だ……死にたく、ない)
動かない現実を前に、悔しさ三度瞳を濡らす。迎うる死も時間の問題で、徐々の不明瞭になっていく白い霧の森。
 ただ一つ、最後に

「助けてあげよっか」

なんて声が鼓膜を揺らした気がする……



***



 その日は随分と風が強い日で、バタバタと無駄に煩く音を立てた洗濯物やらが天へと舞い上がり、それに気づいたメイド達が慌ただしく追いかけていく。おかげで、何度ぶつかられそうになったことか。
 既に切られた縁と言えど、それでも肉親であった家族がこの国を出て早一ヶ月。蕾だった花も時の無情さに枯れ始めている。
 寂しさもあれど、しかしながら、生きたいという小さな斜光は希望と言う名の幻影を見せるには余りあって、今までただどこまでも薄ら暗かった日常が、ほんの僅かに色付いたようだとさえ思えた。降り注ぐ無数の理不尽も、耐えるに足る理由があるのならば、うずめく希死念慮には遠く及ばない。
 そんな、変わらぬ日常の中が、ゆっくりと順調に回り始めたとある午後三時過ぎ。積み上げられた仕事にようやく終わりが見え、疲弊した身体を引きずって、不可思議なえにしで結ばれた青年の隠れ家へ向かって歩いている。
 どこもかしこも人で満ち、雑踏の消える場所など無いように思われる♡の王宮で、ほとんど唯一と言っていいほどに人の来ない場所を目指す最中さなかにも、宮内の飛び交う人の声は耳を突いた。
「なぁ聞いたか?」
なんて、どこにでありそうな切り出しから始まる会話。聞かなければ良いものを……しかし、内容を察するより前に耳を塞ぐなんてできなくて、続く言葉は通り過ぎていく少年に気づくことなく紡がれていく。
 「何を?」
「♢に密航したヤツら、♤の国境警備隊に捕まったらしいぜ?」
「あー、その話か。嫌になっちまうよなぁ……」
「だな~」
淡々と、まるで他人事に。どうでも良い作り話を聞き流し、間もなく話題は変わってしまう。その横を、紅色の髪の少年が駆け抜けて行った。
 聞かなければよかった。そう後悔してももう遅く。第一に、聞こうとしたわけでも無く、言葉が耳へ届いてしまっただけ。言うなれば運が悪かった。
 嫌な動悸がする身体を誤魔化すように駆け出し、慣れた手つきでランタンに光を灯して地下への階段を一気に下る。途中絡まった足がかい暖を踏み外さなかった幸運が、先程の不運の振り戻しならば最もかもしれない。
 捕まった? 捕まった……? ぐるぐると脳裏で反芻する未だ耳の奥にこびりついた言葉……。
 詳しくは知らない。今回のこの一件についても。そして、♤の国境警備隊が何たるかも、亡命の意味も……。しかし、ただ一つわかること。ここ最近で♢から♡へ渡った者に、何かあったのだ。
 ……その中に、知っている顔があったかもしれない……。もちろん確信なんてない。それなのに、嫌な想像ばかりが思考を埋めつくしていく。
 たった今、今すぐに、たとえ縁を切られたあとだとしても、血を分けた家族の無事を知りたい。大丈夫だと繰り返したところで、高鳴った鼓動は冷めやらず、走ったせいか息は荒い。
 生きたいと思ったのは、再会を約束したからに違いない。他にもきっと潜在的には理由があったのだろうけれど、それでも直接的な部分はそれに由来する。
 それなのに、それなのに……。信じた光が指の隙間をこぼれ落ちるように、あるいは淡い希望が崩れ去るように、進み始めた平穏が音を立てて塵と化していく。
 脆いバランスで保たれていた全てが、まるで一つの崩壊に吊られるように、
「っ……」
冷たい石の床に膝が落ちた。薄く張った黒い海水がパシャリと弾けて水面みなもを揺らす。
 「げほっ……ごぽ……」
口にあてがった手がぬめりとした生暖かい液体で濡れ、喉の奥気泡が割れた。溺れるような感覚がする。まともに息が吸えない。もがくように胸元を掴んでみても、首を抑えてみても、溺れているわけでもなく……。いずれ水に沈むこの部屋も、未だ陸にあると言うのに。
 耳元で、『もって三年』なんて言葉が響いた気がする。青い目をした美麗な影が脳裏を掠めた。あれは……その言葉を言われたのはいつだったか……。正確な日付など覚えていないが、既に二年は経過しただろう。三年という言葉は、三年間は生きられると保証している訳では無い。
 時効か。不意に視界に影が落ち、瞳が曇る。生きる理由は……まだあるかもしれない。けれど、確信はなくて……。もしも、律儀に約束を果たそうとする必要がないのなら……諦めてもきっと許される?
 轟々と唸る風の音が鼓膜の内側で響いている気がした。ぐるぐると薄ら暗い視界が回っているような感覚。吐き気だろうか、呻いて見てもゴポゴポと喉の奥は液体を吐くばかり。
 形容できない不快感が体内を駆け巡る。内蔵をかき混ぜられるような、肉が焼けるような、骨が溶けるような……。平衡感覚は間もなく力尽き、ぐらりと視界が傾く。
 手から滑り落ちたランタンが床を叩き、転がった後、悲鳴にも似た小さな高音を響かせて砕け散った。部屋全体が狂ったように震えている気がする。
 無理やりにしがみついていた意識は、黒く染って行く視界に飲み込まれ、徐々に酷く歪んで、やがて全てが陽炎ように踊っていた。ぐわんぐわんと揺らぐ意識をつなぎとめる手段など知らず、ただ
(……あぁ、ここが自分の死に場所か……)
だなんて、どこか他人事にごちる。
 暗闇に埋め尽くされる意識と視界の向こうで、あの日、眩い光を背にして『殺さないでやってくれよ』なんて言ったQUEENと同じ、青い色の光が僅かに見えたような気がした。



【2-3.逃亡】

---------------

ー登場人物ー(T624年現在)


名前:茶岳さたけ 飛羽とわ
偽名:マローネ
役職:元見習い♡兵
能力:ーー
外見:桃髪、赤茶色の目
出身:♡
性別:男
象徴:茶
備考:現在生死不明


名前:波白なみしろ 海翔かいと
偽名:パジェーナ・ロッソ
役職:JACK OF HEART
能力:ーー
外見:赤髪、金茶色の目
出身:♡
性別:男
象徴:赤
備考:現在生死不明


名前:ーー
偽名:フィーリア・フェール
役職:QUEEN OF HEART
能力:ーー
外見:茶髪、橙目
出身:ーー
性別:女
象徴:桃 / いるか
備考:いつも体調が悪そう


名前:ーー
偽名:パジェーナ・マール
役職:ーー
能力:ーー
外見:紺色の髪、赤紫の目
出身:ーー
性別:男
象徴:海 / くじら
備考:意外と人脈が広い


名前:花園はなぞの 緋結ひゆう
偽名:オパール・レ・フルール
役職:QUEEN OF SPADE
能力:支配(相手の心を支配する能力)
外見:白に近い金髪、青眼
出身:♢
性別:男
象徴:青 / 豹
備考:博識


名前:ーー
偽名:ノワール・モンド・シュランゲ
役職:JACK OF CLUB
能力:ーー
外見:黒髪、金眼、黒メガネ
出身:ーー
性別:男
象徴:黒 / 蛇
備考:現実主義者


名前:ーー
役職:KING OF CLUB
外見:ブロンドの髪、緑の目
性別:ーー
備考:?

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