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第212話 不採用。3

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「……え?」

 俺の発言が上手く理解できなかったのだろうか。バカの表情は真顔で静止している。

 正直に言うなら俺だって雇ってやりたかった。こいつはバカだけど真面目だし、根もいい奴だ。しかし、うちの店に新たに人を雇う余裕がない。

 店を始めた頃に比べて利益はだいぶ落ちている。この間のプリン事件の影響で損害もかなり大きい。他にも柚子ちゃんがシフトに入っている時間は店をよく閉めるから利益も生まれない。柚子ちゃんだけは可愛いからという理由で給料も少しだけ高い。

 ……何だか柚子ちゃんを中心に店のお金が無駄に無くなっている気がするが、今こいつを雇うことはできない。

「すまない」

「……お、お願いします!」

「お前なら他の店でも頑張っていけるさ」

「他の店で働くなんて無理です!ここで働かさせてください!」

「たしかに他の店も無理だろうが、うちの店も無理だ!」

「お金なんていらないですから!働かさせてください!」

「何バカなこと言って……」

 こいつが働きたいという気持ちはよく伝わってくる。しかし――。

「先輩はバカっすけど、バカなことは言ってないっすよ」

 突然事務所のドアが開き、あかっちが入ってきた。……仮にも面接中だぞ。うちの店自由かよ。

「何だよあかっち。聞いてたのか?言ってる通りこいつは不採用だ」

「……アルバイトとして不採用ってことっすよね?」

「……その通りだけど、それがどうした」

「それなら、ボランティアとして採用したらいいじゃないっすか」

「……はあ!?そんなのこいつも嫌に決まってるだろ!?」

「さっき先輩はお金なんていらないって言ったんすよ?」

「いや、それはこいつも働きたいから必死になって言ったことだろ!?」

 何あかっちまでバカなこと言ってんだ。そんな無給で働きたいなんてガチで言わねえだろ。

「え!?ボランティアならいいんですか!?」

「嘘だろ!?」

 バカが嬉しそうにしているが、こいつボランティアの意味わかってんのか。お金発生しないんだぞ。うちで働く意味あんのか。

「無給で人を雇えるんなら採用しない理由ないっすよね?」

「……いや……そうだけど……」

「ありがとうございます!頑張って働きます!」

「……いや……でも……」

「うちの店にデメリット全くないからいいでしょ?」

「……ええい!もう何でもいいや!採用採用!ボランティアとして採用だ!!」

 こうしてうちの店にボランティア1名が加わることになった。
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