オレと私の Hello World

ひるまのつき

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だらしのない雇い主

押しの強さが勝負の分かれ目

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「なんだこれだけか?」
両親と暮らしたアパートメントの部屋を出る時、私の荷物が余りにも少ないと男が驚いた。
「金目のものがあったら売り飛ばそうとか期待していたんですか?」
意地悪な気持ちになって聞いてみると
「そ、そんなこたぁねえけど、お嬢様学校の生徒なんだろう? ずいぶん質素じゃねえか。」
うちがお金持ちだと思っていたのだろうか、がっかりした事を隠しきれてない返事だった。
「この街で暮らすなら身軽な方が良いというのが両親の方針でした。」
そう、治安の悪いこの街では何より命が優先だから。両親は将来への投資と言って私の学費を稼いでくれていたのだ。贅沢はできない、でも知識と学問はきっと身を助けると。服と生活用品は最低限。家具は賃貸の部屋の備え付け。自分で運べないものは持たない。そうやって私たち家族は慎ましく暮らしてきた。
「ふーん、随分と潔いな。ま、嫌いじゃないぜ。」
男のカッコつけた言葉を話半分で聞き流し、学用品と着替えの入った鞄を抱え直した。両親との絆を示す大事なものは肌身離さず持っているから、今の私に必要な物はそれだけだ。その他の生活用品は大家が処分してくれると言うし、両親が残した衣類は困っている人たちに差し上げることになっている。鍵を大家に返して、アパートメントを出る。
「悪いな、生憎自家用車なんて気の利いたモノは持ち合わせてなくてな。俺のうちまでは歩きだ。その代わり、その鞄は持ってやるよ。」
この街で自家用車なんて持っているのは政治家とマフィアだけ。ということはこの男は政治家でもマフィアでもないんだな。そんなことを考えながら、私の衣類を詰めた鞄を持った男の一歩後ろを歩いていると
「おい、ちゃんと隣を歩け。離れていたら約束が守れないだろ?」
命令口調で男が言う。
「約束? なんでしたっけ?」
首を傾げて私が訊ねると
「俺と一緒にくれば命の保証はしてやるって言っただろ? 覚えてないのか?」
不満気な顔で訊き返してくる。
そうだ、さっき墓地で声を掛けられたばかりの見知らぬ男について行く気になったのは、命の保証はしてやるという言葉が、なんとなく本当になりそうな気がしたからだった。

翌日、学校の制服を身に纏った私は、昨日出会ったばかりの男と一緒に校長室で校長先生と対面した。
「ああフェリスタ! 大変でしたね。ご両親のことお悔やみ申し上げます。昨日は御葬儀に参列できなくてごめんなさいね。先約があったものだから。」
大きな声で捲し立てた挙げ句、白いハンカチを取り出して目元を拭き始めた校長先生を見た男が
「生徒の親の葬式より大事な先約ってなんだよ」と小声で独りごちた。
「しっ!余計なこと言わないでください。」
校長先生の涙が演技だなんてとっくにわかっている。
「ところでそちらの男性は? あなたは親戚縁者はいないとのことでしたけど?」
「あの...」
私が説明書しようとすると
「私はフェリスタの後見人です。彼女の父親は立派な友人でした。惜しい人を亡くしたものです。」
男が、校長先生に負けないくらいの声を張り上げる。
「え、ええ。そうですね、立派な方でした。授業料も寄付金もきっちり年の始めに振り込んでくださいましたし...。お父様のご友人なのね?」
男の勢いに負けた校長先生が私に話題を振ってきた。
学校に着く前に「俺の話に合わせて頷いていればいいからな」と男に言われたとおり頷けば、
「そういうわけで、学費は支払い済みですし、後見人もいるわけですから、彼女は今までどおり学校に通えますね?」
「え、ええ、勿論ですとも、フェリスタは優秀な生徒ですから。」
男が畳み掛ける。
「ただ、私は生憎、男寡おとこやもめでして、彼女が卒業するまでは学校の寮にいられるようにして頂けると大変ありがたいのですが。それに見合う寄付もしてありますよね?お宅の学校は優秀な女子生徒を中年の男寡に任せて醜聞を招くような真似はしないでしょう?」
「え?醜聞? スキャンダルはイヤですわ。寮ですね? たぶん空きがあるかと...。ちょっとお待ちください!」
校長先生は慌てて事務室に連絡を取り、ちょうど上級生用の個室に空きがあることを確認した。
「さすが校長先生、なさることが早い!感謝いたします。友人夫婦も墓場でさぞかし安堵していることでしょう。」
男は深々と頭を下げて
「良かったな、フェリスタ。これで卒業までのあと半年、安心して学校へ行けるよ。
さあ、君も先生にお礼を言いなさい。」
喜んだふりをしながら偉そうに言う。
私は校長先生にお礼を言った。
「はぁ、まあ、良かったわね。これからも勉学に励み、この学校の生徒の模範として立派に過ごしてください。」
すっかりくたびれて溜息をつく校長先生を残して学校を後にした。
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