3 / 3
だらしのない雇い主
押しの強さが勝負の分かれ目
しおりを挟む
「なんだこれだけか?」
両親と暮らしたアパートメントの部屋を出る時、私の荷物が余りにも少ないと男が驚いた。
「金目のものがあったら売り飛ばそうとか期待していたんですか?」
意地悪な気持ちになって聞いてみると
「そ、そんなこたぁねえけど、お嬢様学校の生徒なんだろう? ずいぶん質素じゃねえか。」
うちがお金持ちだと思っていたのだろうか、がっかりした事を隠しきれてない返事だった。
「この街で暮らすなら身軽な方が良いというのが両親の方針でした。」
そう、治安の悪いこの街では何より命が優先だから。両親は将来への投資と言って私の学費を稼いでくれていたのだ。贅沢はできない、でも知識と学問はきっと身を助けると。服と生活用品は最低限。家具は賃貸の部屋の備え付け。自分で運べないものは持たない。そうやって私たち家族は慎ましく暮らしてきた。
「ふーん、随分と潔いな。ま、嫌いじゃないぜ。」
男のカッコつけた言葉を話半分で聞き流し、学用品と着替えの入った鞄を抱え直した。両親との絆を示す大事なものは肌身離さず持っているから、今の私に必要な物はそれだけだ。その他の生活用品は大家が処分してくれると言うし、両親が残した衣類は困っている人たちに差し上げることになっている。鍵を大家に返して、アパートメントを出る。
「悪いな、生憎自家用車なんて気の利いたモノは持ち合わせてなくてな。俺のうちまでは歩きだ。その代わり、その鞄は持ってやるよ。」
この街で自家用車なんて持っているのは政治家とマフィアだけ。ということはこの男は政治家でもマフィアでもないんだな。そんなことを考えながら、私の衣類を詰めた鞄を持った男の一歩後ろを歩いていると
「おい、ちゃんと隣を歩け。離れていたら約束が守れないだろ?」
命令口調で男が言う。
「約束? なんでしたっけ?」
首を傾げて私が訊ねると
「俺と一緒にくれば命の保証はしてやるって言っただろ? 覚えてないのか?」
不満気な顔で訊き返してくる。
そうだ、さっき墓地で声を掛けられたばかりの見知らぬ男について行く気になったのは、命の保証はしてやるという言葉が、なんとなく本当になりそうな気がしたからだった。
翌日、学校の制服を身に纏った私は、昨日出会ったばかりの男と一緒に校長室で校長先生と対面した。
「ああフェリスタ! 大変でしたね。ご両親のことお悔やみ申し上げます。昨日は御葬儀に参列できなくてごめんなさいね。先約があったものだから。」
大きな声で捲し立てた挙げ句、白いハンカチを取り出して目元を拭き始めた校長先生を見た男が
「生徒の親の葬式より大事な先約ってなんだよ」と小声で独りごちた。
「しっ!余計なこと言わないでください。」
校長先生の涙が演技だなんてとっくにわかっている。
「ところでそちらの男性は? あなたは親戚縁者はいないとのことでしたけど?」
「あの...」
私が説明書しようとすると
「私はフェリスタの後見人です。彼女の父親は立派な友人でした。惜しい人を亡くしたものです。」
男が、校長先生に負けないくらいの声を張り上げる。
「え、ええ。そうですね、立派な方でした。授業料も寄付金もきっちり年の始めに振り込んでくださいましたし...。お父様のご友人なのね?」
男の勢いに負けた校長先生が私に話題を振ってきた。
学校に着く前に「俺の話に合わせて頷いていればいいからな」と男に言われたとおり頷けば、
「そういうわけで、学費は支払い済みですし、後見人もいるわけですから、彼女は今までどおり学校に通えますね?」
「え、ええ、勿論ですとも、フェリスタは優秀な生徒ですから。」
男が畳み掛ける。
「ただ、私は生憎、男寡でして、彼女が卒業するまでは学校の寮にいられるようにして頂けると大変ありがたいのですが。それに見合う寄付もしてありますよね?お宅の学校は優秀な女子生徒を中年の男寡に任せて醜聞を招くような真似はしないでしょう?」
「え?醜聞? スキャンダルはイヤですわ。寮ですね? たぶん空きがあるかと...。ちょっとお待ちください!」
校長先生は慌てて事務室に連絡を取り、ちょうど上級生用の個室に空きがあることを確認した。
「さすが校長先生、なさることが早い!感謝いたします。友人夫婦も墓場でさぞかし安堵していることでしょう。」
男は深々と頭を下げて
「良かったな、フェリスタ。これで卒業までのあと半年、安心して学校へ行けるよ。
さあ、君も先生にお礼を言いなさい。」
喜んだふりをしながら偉そうに言う。
私は校長先生にお礼を言った。
「はぁ、まあ、良かったわね。これからも勉学に励み、この学校の生徒の模範として立派に過ごしてください。」
すっかりくたびれて溜息をつく校長先生を残して学校を後にした。
両親と暮らしたアパートメントの部屋を出る時、私の荷物が余りにも少ないと男が驚いた。
「金目のものがあったら売り飛ばそうとか期待していたんですか?」
意地悪な気持ちになって聞いてみると
「そ、そんなこたぁねえけど、お嬢様学校の生徒なんだろう? ずいぶん質素じゃねえか。」
うちがお金持ちだと思っていたのだろうか、がっかりした事を隠しきれてない返事だった。
「この街で暮らすなら身軽な方が良いというのが両親の方針でした。」
そう、治安の悪いこの街では何より命が優先だから。両親は将来への投資と言って私の学費を稼いでくれていたのだ。贅沢はできない、でも知識と学問はきっと身を助けると。服と生活用品は最低限。家具は賃貸の部屋の備え付け。自分で運べないものは持たない。そうやって私たち家族は慎ましく暮らしてきた。
「ふーん、随分と潔いな。ま、嫌いじゃないぜ。」
男のカッコつけた言葉を話半分で聞き流し、学用品と着替えの入った鞄を抱え直した。両親との絆を示す大事なものは肌身離さず持っているから、今の私に必要な物はそれだけだ。その他の生活用品は大家が処分してくれると言うし、両親が残した衣類は困っている人たちに差し上げることになっている。鍵を大家に返して、アパートメントを出る。
「悪いな、生憎自家用車なんて気の利いたモノは持ち合わせてなくてな。俺のうちまでは歩きだ。その代わり、その鞄は持ってやるよ。」
この街で自家用車なんて持っているのは政治家とマフィアだけ。ということはこの男は政治家でもマフィアでもないんだな。そんなことを考えながら、私の衣類を詰めた鞄を持った男の一歩後ろを歩いていると
「おい、ちゃんと隣を歩け。離れていたら約束が守れないだろ?」
命令口調で男が言う。
「約束? なんでしたっけ?」
首を傾げて私が訊ねると
「俺と一緒にくれば命の保証はしてやるって言っただろ? 覚えてないのか?」
不満気な顔で訊き返してくる。
そうだ、さっき墓地で声を掛けられたばかりの見知らぬ男について行く気になったのは、命の保証はしてやるという言葉が、なんとなく本当になりそうな気がしたからだった。
翌日、学校の制服を身に纏った私は、昨日出会ったばかりの男と一緒に校長室で校長先生と対面した。
「ああフェリスタ! 大変でしたね。ご両親のことお悔やみ申し上げます。昨日は御葬儀に参列できなくてごめんなさいね。先約があったものだから。」
大きな声で捲し立てた挙げ句、白いハンカチを取り出して目元を拭き始めた校長先生を見た男が
「生徒の親の葬式より大事な先約ってなんだよ」と小声で独りごちた。
「しっ!余計なこと言わないでください。」
校長先生の涙が演技だなんてとっくにわかっている。
「ところでそちらの男性は? あなたは親戚縁者はいないとのことでしたけど?」
「あの...」
私が説明書しようとすると
「私はフェリスタの後見人です。彼女の父親は立派な友人でした。惜しい人を亡くしたものです。」
男が、校長先生に負けないくらいの声を張り上げる。
「え、ええ。そうですね、立派な方でした。授業料も寄付金もきっちり年の始めに振り込んでくださいましたし...。お父様のご友人なのね?」
男の勢いに負けた校長先生が私に話題を振ってきた。
学校に着く前に「俺の話に合わせて頷いていればいいからな」と男に言われたとおり頷けば、
「そういうわけで、学費は支払い済みですし、後見人もいるわけですから、彼女は今までどおり学校に通えますね?」
「え、ええ、勿論ですとも、フェリスタは優秀な生徒ですから。」
男が畳み掛ける。
「ただ、私は生憎、男寡でして、彼女が卒業するまでは学校の寮にいられるようにして頂けると大変ありがたいのですが。それに見合う寄付もしてありますよね?お宅の学校は優秀な女子生徒を中年の男寡に任せて醜聞を招くような真似はしないでしょう?」
「え?醜聞? スキャンダルはイヤですわ。寮ですね? たぶん空きがあるかと...。ちょっとお待ちください!」
校長先生は慌てて事務室に連絡を取り、ちょうど上級生用の個室に空きがあることを確認した。
「さすが校長先生、なさることが早い!感謝いたします。友人夫婦も墓場でさぞかし安堵していることでしょう。」
男は深々と頭を下げて
「良かったな、フェリスタ。これで卒業までのあと半年、安心して学校へ行けるよ。
さあ、君も先生にお礼を言いなさい。」
喜んだふりをしながら偉そうに言う。
私は校長先生にお礼を言った。
「はぁ、まあ、良かったわね。これからも勉学に励み、この学校の生徒の模範として立派に過ごしてください。」
すっかりくたびれて溜息をつく校長先生を残して学校を後にした。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
幼馴染の許嫁
山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。
彼は、私の許嫁だ。
___あの日までは
その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった
連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった
連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった
女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース
誰が見ても、愛らしいと思う子だった。
それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡
どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服
どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう
「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」
可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる
「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」
例のってことは、前から私のことを話していたのか。
それだけでも、ショックだった。
その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした
「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」
頭を殴られた感覚だった。
いや、それ以上だったかもしれない。
「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」
受け入れたくない。
けど、これが連の本心なんだ。
受け入れるしかない
一つだけ、わかったことがある
私は、連に
「許嫁、やめますっ」
選ばれなかったんだ…
八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる