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願えば叶う(1)
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エリスは念願のエレオノール王都守護部隊に入隊を許された。
王都守護部隊とは、近年王都郊外で発生する魔物から王都を守る部隊である。
隊長はエレオノール国の第一王子カマエル。彼は陽気で温かな人柄から太陽王子と呼ばれてきたが、子供時代から熱心に鍛錬を続け、成人する頃にはエレオノール随一の武人となった。その王子が部隊を率いて魔物から王都を国を守ることから次第にエレオノールの守護神と呼ぶ民も増えつつある。
そんなカマエルの前に跪き、エリスは
「剣士エリス、エレオノールの民とカマエル様のために精魂込めてお仕えいたします」
誓いの言葉を述べた。
「剣士エリス、そなたを我が部隊に迎えよう! しっかりと働いてくれ!」
王子カマエルが愛用の剣の切っ先でエリスの肩にそっと触れる。その重みを感じながら「畏まりまして」
エリスが応えると、
「エリス、面を上げよ」
剣を収めてカマエルは穏やかに声をかけた。
エリスが顔を上げてカマエルを見つめると
「よろしくな、エリス」
太陽の光のような笑みがこぼれた。
エリスは憧れ続けてきたカマエルの笑顔に感激した。
エリスはエレオノールの南に位置する辺境伯領を預かるシュルデン伯爵家の長女である。3人の兄たちの影響か、国境を守る辺境伯領の環境故か、エリスは幼い頃より剣術を学び、馬を乗りこなし、弓も扱う。女性として美しく成長したエリスが武人を務める必要はないと、父も兄たちも諭してきたが、エリスは「領地で武官になれないのならば、王都へ参ります!」と宣言して、王都守護部隊へと志願すると言い出した。魔物退治は危険を伴うが、まさか女性のエリスが入隊を許可されないであろう、王都へ行って憧れの王子に会い、入隊を拒まれれば引っ込みがついて帰ってくると予想した伯爵はエリスの王都出仕を認めてしまった。
ところが、王都へと入ったその日、思わぬ事件が起きた。
エリスが王都へと到着して直ぐに、魔物が郊外に現れ、カマエル王子率いる守護部隊が出動したのだ。魔物は少数と連絡を受け、小隊が出動したのだが、直ぐにそれは間違いとわかった。
数は少ないが大型の魔物が出現していたのだ。
応援を待つほうが懸命と思われたが、あいにく収穫直後の村を襲われて猶予はならぬと、カマエル達は攻撃を始めたが大型の魔物相手に苦戦を強いられた。初めは襲われた民の避難を誘導しながら戦況を見守っていたエリスは、魔物がカマエルの一撃を悠然とかわした様子を見て矢も盾もたまらず「助っ人いたします」と戦闘に加わった。
突然現れた剣士に驚いたカマエルも直ぐにエリスの的確な剣さばきを見て
「頼む」と助太刀を受け入れた。
しばらく戦闘が続き、最後の魔物に向けてカマエルが大きく剣を振りかぶった時、カマエルのそばで剣を構え直したエリスの首飾りが太陽の光を受けてキラリと光った。
その光を浴びた魔物はまるで時が止まったかのように動きを止めた。その好機を見逃さずにカマエルが最後のとどめを刺し、魔物は消滅した。
カマエルもエリス自身も何が起きたのかよくわからないうちに戦闘が終わった。
「その首飾りには不思議な力があるようだな」
応援部隊が到着し、魔物に荒らされた村の復旧作業に当たっている時にカマエルが呟いた。
「私もこのようなことは初めてです。シュルデン伯領には魔物は出現しておりませんし」
よくわからない面持ちのまま、エリスも答えた。
「そなた、シュルデンの者か、しかも女性なのだな、名はなんという?」
訊かれたエリスは慌てて畏まった。
「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。私はシュルデン伯爵家のエリスと申します。」
カマエルは鷹揚に微笑んで
「そのように畏まらなくて良い、お前がシュルデンのエリスか。噂は聞いていたが、それ程の腕前とはな。驚いた。この時期、王都へやって来たとは何故に?」
噂とはどの様なものだろうと気になりはしたが、カマエルが自分の名を知っていたことが嬉しくて、勢い良く答えた。
「カマエル様のお側で剣士としてお仕え致したく参りました。どうか、王都守護部隊に加えていただきたく存じます。」
「入隊には審査もあるが、その首飾りの効果もある、前向きに考えよう。取り敢えず、今日は助かった、礼を言おう」
差し出された王子の手を取り、エリスは深く頭を垂れた。王子の手は大きく温かだった。その温かさに、エリスの心臓は初めての震えを感じた。
魔物に襲われた村の復旧作業が終わり、守護部隊が撤収する段になると
「エリス、お前はこの後どうするつもりなのだ?」
カマエルに尋ねられエリスが
「本日は王都内のシュルデン伯爵家の分館に入り、明日登城する予定でしたが……。」
戸惑いをにじませながら言うと
「ならば、今夜はゆっくりと休み、明日、城に俺を訪ねて来い。その首飾りのことで聴きたいこともある。ひとまず、ともに王都へ帰還しよう。」
カマエルが誘う。
「はい、お供致します。」
エリスはまだ暫くカマエルのそばに居られる、明日も会えると喜びで舞い上がりそうになったが、それでは守護隊の剣士は務まらないと自分を律した。
王都に到着し、城へ報告に戻るカマエルは
「その首飾りだが、何か謂れのあるものか? 国王にお伝えしても構わぬだろうか?」
改めてエリスに問うた。
「これはシュルデン家に伝わる家宝の一部でございます。魔物に対してあの様な効果があるとは私もつゆ知らず……。」
エリスが言葉を濁すと、
「わかった、では今日のところはお前の助太刀のみの報告にしておこう。他の者にも口外せぬ様言っておく。明日はお前の知ってる範囲で詳しく教えてくれ、良いな?」
「わかりました。」
「では明日、会おう」
太陽の様と言われる笑顔を見せて城へと去っていった。
エリスはその場に佇んでカマエルの背中を見送り、深く深く呼吸をした。
王都守護部隊とは、近年王都郊外で発生する魔物から王都を守る部隊である。
隊長はエレオノール国の第一王子カマエル。彼は陽気で温かな人柄から太陽王子と呼ばれてきたが、子供時代から熱心に鍛錬を続け、成人する頃にはエレオノール随一の武人となった。その王子が部隊を率いて魔物から王都を国を守ることから次第にエレオノールの守護神と呼ぶ民も増えつつある。
そんなカマエルの前に跪き、エリスは
「剣士エリス、エレオノールの民とカマエル様のために精魂込めてお仕えいたします」
誓いの言葉を述べた。
「剣士エリス、そなたを我が部隊に迎えよう! しっかりと働いてくれ!」
王子カマエルが愛用の剣の切っ先でエリスの肩にそっと触れる。その重みを感じながら「畏まりまして」
エリスが応えると、
「エリス、面を上げよ」
剣を収めてカマエルは穏やかに声をかけた。
エリスが顔を上げてカマエルを見つめると
「よろしくな、エリス」
太陽の光のような笑みがこぼれた。
エリスは憧れ続けてきたカマエルの笑顔に感激した。
エリスはエレオノールの南に位置する辺境伯領を預かるシュルデン伯爵家の長女である。3人の兄たちの影響か、国境を守る辺境伯領の環境故か、エリスは幼い頃より剣術を学び、馬を乗りこなし、弓も扱う。女性として美しく成長したエリスが武人を務める必要はないと、父も兄たちも諭してきたが、エリスは「領地で武官になれないのならば、王都へ参ります!」と宣言して、王都守護部隊へと志願すると言い出した。魔物退治は危険を伴うが、まさか女性のエリスが入隊を許可されないであろう、王都へ行って憧れの王子に会い、入隊を拒まれれば引っ込みがついて帰ってくると予想した伯爵はエリスの王都出仕を認めてしまった。
ところが、王都へと入ったその日、思わぬ事件が起きた。
エリスが王都へと到着して直ぐに、魔物が郊外に現れ、カマエル王子率いる守護部隊が出動したのだ。魔物は少数と連絡を受け、小隊が出動したのだが、直ぐにそれは間違いとわかった。
数は少ないが大型の魔物が出現していたのだ。
応援を待つほうが懸命と思われたが、あいにく収穫直後の村を襲われて猶予はならぬと、カマエル達は攻撃を始めたが大型の魔物相手に苦戦を強いられた。初めは襲われた民の避難を誘導しながら戦況を見守っていたエリスは、魔物がカマエルの一撃を悠然とかわした様子を見て矢も盾もたまらず「助っ人いたします」と戦闘に加わった。
突然現れた剣士に驚いたカマエルも直ぐにエリスの的確な剣さばきを見て
「頼む」と助太刀を受け入れた。
しばらく戦闘が続き、最後の魔物に向けてカマエルが大きく剣を振りかぶった時、カマエルのそばで剣を構え直したエリスの首飾りが太陽の光を受けてキラリと光った。
その光を浴びた魔物はまるで時が止まったかのように動きを止めた。その好機を見逃さずにカマエルが最後のとどめを刺し、魔物は消滅した。
カマエルもエリス自身も何が起きたのかよくわからないうちに戦闘が終わった。
「その首飾りには不思議な力があるようだな」
応援部隊が到着し、魔物に荒らされた村の復旧作業に当たっている時にカマエルが呟いた。
「私もこのようなことは初めてです。シュルデン伯領には魔物は出現しておりませんし」
よくわからない面持ちのまま、エリスも答えた。
「そなた、シュルデンの者か、しかも女性なのだな、名はなんという?」
訊かれたエリスは慌てて畏まった。
「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。私はシュルデン伯爵家のエリスと申します。」
カマエルは鷹揚に微笑んで
「そのように畏まらなくて良い、お前がシュルデンのエリスか。噂は聞いていたが、それ程の腕前とはな。驚いた。この時期、王都へやって来たとは何故に?」
噂とはどの様なものだろうと気になりはしたが、カマエルが自分の名を知っていたことが嬉しくて、勢い良く答えた。
「カマエル様のお側で剣士としてお仕え致したく参りました。どうか、王都守護部隊に加えていただきたく存じます。」
「入隊には審査もあるが、その首飾りの効果もある、前向きに考えよう。取り敢えず、今日は助かった、礼を言おう」
差し出された王子の手を取り、エリスは深く頭を垂れた。王子の手は大きく温かだった。その温かさに、エリスの心臓は初めての震えを感じた。
魔物に襲われた村の復旧作業が終わり、守護部隊が撤収する段になると
「エリス、お前はこの後どうするつもりなのだ?」
カマエルに尋ねられエリスが
「本日は王都内のシュルデン伯爵家の分館に入り、明日登城する予定でしたが……。」
戸惑いをにじませながら言うと
「ならば、今夜はゆっくりと休み、明日、城に俺を訪ねて来い。その首飾りのことで聴きたいこともある。ひとまず、ともに王都へ帰還しよう。」
カマエルが誘う。
「はい、お供致します。」
エリスはまだ暫くカマエルのそばに居られる、明日も会えると喜びで舞い上がりそうになったが、それでは守護隊の剣士は務まらないと自分を律した。
王都に到着し、城へ報告に戻るカマエルは
「その首飾りだが、何か謂れのあるものか? 国王にお伝えしても構わぬだろうか?」
改めてエリスに問うた。
「これはシュルデン家に伝わる家宝の一部でございます。魔物に対してあの様な効果があるとは私もつゆ知らず……。」
エリスが言葉を濁すと、
「わかった、では今日のところはお前の助太刀のみの報告にしておこう。他の者にも口外せぬ様言っておく。明日はお前の知ってる範囲で詳しく教えてくれ、良いな?」
「わかりました。」
「では明日、会おう」
太陽の様と言われる笑顔を見せて城へと去っていった。
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