終末のダンジョンアカデミア

三國氏

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告白と新たな始まり その3

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 長さ83cm重さ900gの金色の金属の棒、持ち手は丁度いい太さで妙にしっくりくるグリップが巻かれたそれは、紛う事なき金属バット。
 東、慶瞬、蘭丸、鍵束、絵汰、そして何故か来宮が加わりゴブリンを追い払い、なんとか合流を果たした東がそう言ってバットを差し出している。
 ちなみに太極拳をやっていたおばちゃんと男女の2人組は東達が助けていた。
 ゴブリンを倒したのはおばちゃんではなく、東達だったようだ。

「ほら、受け取れよ真司。得物がなきゃ戦えないだろ?なんだよその目は別に盗んできたわけじゃねぇぜ。すぐ近くの野球店の店主を助けた時に、お前の分も貰ってきてやったんだ」

 別に盗んだとかを疑ったわけではない。
 俺の目が東に疑っているように映ったのは、なんでお前がここにいるんだというもの。
 しかも俺の分もってことは俺がいることを知っていたかのような口ぶりだ。

(まさかこいつら俺達のことつけてきたわけじゃねぇよな)

 確かに助けられたがそれとこれとは別問題だ。
 この混乱に収拾がついたら必ず問い詰めてやろう。

「あぁ、とりあえず助かった。とにかく今は避難を優先しよう。建物の中に入ってバリケードを作れば自衛隊が来るまではしのげるだろうからな」

 しかし東から返ってきたのは否定の言葉。

「いいやダメだ。俺にはもっといい考えがある。なんせ向こうですげぇもん見つけたんだ、あれを生かさない手はねぇぜ」

 東は目をギラギラと輝かせ自信ありげに言うが、後ろにいる慶瞬達の表情は非常に硬い。
 おそらく危険が待っているということだろう。全く気乗りはしないし、なんだか少し胸騒ぎもする。

「慶瞬はどう思う?やっぱり反対だろ?」

「そう……だね。僕達だけでは危険が大きい」

「僕もやめたほうがいいかなぁと思うけどなぁ……」

 慶瞬に続き蘭丸も否定の言葉を述べる。

「おいおいおい、話も聞かねぇで反対はないだろ?こいつらはともかくお前なら絶対賛成するはずだぜ。まぁ、まずは話を聞いてくれや」

 東は何を勘違いしているのかは知らないが、俺は慶瞬や蘭丸同様、自他共に認める慎重な男だ。
 それにまずは公園で助けた7人の人達をどうにかしなければ、自由に動くことすらままならない。

「その前にこの人たちを安全な場所に連れて行く。話はそれからだ」

「ならこのバットをくれた野球ショップに行こう。あそこなら頑丈そうなシャッターもあったし、大丈夫だろ」

「わかった。案内してくれ」

 少しばかり大所帯になったが、戦える人の数が増えた分守りは容易になり、その後襲ってきた数体のゴブリンは難なく打ち払うことができた。
 そうして公園を出た俺達がまず向かったのはすぐ近くの大通り。俺達は目立たぬよう林の中を進み、気付かれぬよう木々の間から顔を覗かせた。
 東が言っていた野球ショップはこの通りにあるそうだ。

 ───しかし、状況は俺の想像を遥か彼方に置き去りにするほど、深刻極まるものだった。

「嘘……だろ。どうなってんだよこれは」

 大通りはむせ返りそうになるほど濃い血の匂いが立ち込め、数え切れないほどの悲鳴が連鎖的に重なる。
 少し前に並んで歩いたはずの大通りとはまるで別世界、いっそ違う通りと言ってくれたどれだけマシだろうか。

 そしてそれを引き起こした元凶であるゴブリンやオーク、奴らが逃げ遅れた人々に群がり襲う。
 その獰猛な顔には見た者に必ず嫌悪感を抱かせるような醜い笑みを作り、本能の赴くままただただ嬲る。

 隣を見れば顔を真っ青にして口元を押さえている蘭丸の姿が目に入る。
 勿論女子の顔は見ないようにする、そういう気配りはこんな時でも忘れない。
 蘭丸は今にも吐きそうなくらいだが、必死に胃から込み上げてくるものを抑えようとしているようだ。
 たぶん蘭丸が吐いたら俺も我慢できずに吐くだろう、それくらいこの光景はショッキングに過ぎた。
 B級ホラー映画でももう少しグロ表現は抑える。

「……15年前と同じね」

 後ろで誰かの呟いた声がこの騒ぎの中でもはっきりと耳に残った。
 15年前、はじめて現実世界にモンスターが現れたあの日もこうだったのだろう。
 そして今、世界最悪の天災とも呼ばれる15年前の出来事が再現されようとしている。

「くそっ、とにかく進むしかない、店はどっちだ?」

 俺がそう尋ねると東は苦虫を噛み潰したように渋面を作り、静かに指を指した。
 その先には低い知能ながら野生の勘とでも言うべきそれで、中に人がいることを察しているかのようにシャッターを叩いたり体当たりするゴブリンが数体。
 さらにその周りにはオークまでもが徘徊している。
 15年前の事があるのでかなり丈夫そうなシャッターだが、中に入らなければ意味がない。

「ダメだ、あれじゃあ近づけない」

 他を探そう、そう言いかけたところで、金属バットを肩に担いで持つのが妙に似合った来宮が口を開く。

「私達でゴブリンとオークの注意を引いて、シャッターの前から遠ざける。その間に避難してもらえばいい。幸い先程店主からシャッターの暗証番号も聞いているし、その後我々も何処かに避難する」

「悪くない手だ。ただ少し訂正していいか?」

「多桗真司……訂正とは?」

 切れ長の目を細め少し睨むような視線を送りながら来宮は聞き返す。

「俺と東、あと慶瞬の3人でやろう。残りは避難してくれないか?東と慶瞬もそれでいいか」

「いいぜ」「わかった」

 東と慶瞬はすぐに頭を縦に振り同意してくれた。
 しかし何故か来宮の視線はさらに鋭くなった。

「そんな気遣いは無用。男だから女を守るなどという古い考えでの発言ならば、今すぐ取り下げてもらおう」

 流石は一年生総代は言うことが違う。
 元々実技試験を重視したダンジョン学園の入試で一位になったわけだし、男なんかに守られたくないという意思がひしひしと伝わってくる。

 確かに実力は申し分ない、特に襲いかかってきたゴブリンに対して繰り出す、微塵の迷いもないバットスイングは見事なものだった。
 ならばこれ以上議論している時間もないので手伝ってもらうことにしよう。

「わかった、それじゃあ4人でモンスターを引きつけよう。とりあえず店から離れた大通りの奥に誘導…………はぁぁあ⁉︎なんだよアレはゲート……なのか?」

 ありえないありえないありえないありえないありえない。
 アレが、ゲートがこんな場所にあるはずがないのだ。
 大通りの奥の数百メートル先に、まるで最初からあったかのようにどっしりと構えているアレは、見間違う筈もなく正真正銘本物のゲート。

「あそこからモンスターが?でもおかしい……15年前にゲートが現れた時からゲートの数は一つも増えていない、そうだろ?」

 密林や人の住めないような秘境にゲートが出現していたものの、誰にも気付かれず後で発見されたなんてケースがほんの数件あったというのは聞いたことがある。
 だが、今までなかった場所に突然新たに現れたなんて話聞いたこともない。
 ゲートの数は日本に8個、地球上では総計215個なんてのは小学生でも知ってる事実だ。
 それが今になって日本に9個目のゲートが現れたなんて、目で実際に見ても信じられない。
 というか信じたくもないし、ぜひ夢であってくださいと今にも手を合わせて神様にお願いしたいくらいである。

「だからさっき言ったろ?すげぇもん見つけたってよ。それでさっきの話に戻るわけだ」

 さっきの話とは公園で東がバットを渡してきた時の話だろう。
 俺にいい考えがあると、それはもう生き生きとした表情で言っていた東の顔が、くっきりと脳裏に浮かぶ。
 しかも東の言わんとしていたことも今ならばわかってしまう。あの時後ろで慶瞬と蘭丸が表情を硬くしていた理由も含めて。

「中に……ダンジョンの中に入ろうって言いたいのか?」
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