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第二章 シンデレラ宮殿編

第三十三話「たとえ敵であれど」

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 緊急任務:パンサーと名乗る怪盗を逮捕、シンデレラ宮殿の象徴「スタニッシュリング」を奪還

 遂行者:黒神大蛇、白神亜玲澄、武刀正義、エレイナ、錦野蒼乃、涼宮凪沙、桐谷正嗣、桐谷優羽汰
 犠牲者:???   




「Salauds ! Tuez-les ! !!!!(てめぇら! 殺っちまえええ!!!!)」
「……俺から離れるなよ、芽依」

 多くの人が出歩いている街の歩道で、俺――黒神大蛇くろがみおろち桐雨芽依きりさめめいは不良達に迫られていた。

 周囲からざわざわと騒ぐ中、前後から不良が大きく鉄パイプを振りかぶりながら飛んでくる。それに対し、俺は芽依を両手で抱えながら右に避ける。

 二人の全体重が乗った鉄パイプの先端が甲高い音を立てながら地面を叩きつけた。若干だが火花が散った。

 その隙を逃さず俺は右足で地面を蹴る。低い姿勢を維持したまま、左の不良のあご目掛けて全身を使って回し蹴りを喰らわせる。

「Gaah !(がああっ!)」

 回し蹴りの勢いで体制を整え、更に二人目の鉄パイプ不良の右頬めがけて左足を回して蹴り飛ばす。

「Gofuh ...... !(ごふっ……!)」

 不良は人気の無い裏道に吹き飛ばされ、歩いている人がそちらに顔を向けていた。俺は芽依を一旦下ろし、背中に乗せた。

「おっ君……」
「芽依、しっかり捕まってろ。物理的に振り回されて落ちるなよ」

 この一言に芽依は大きく目を開いた。その後口元を緩め、俺の背中を両手両足でぎゅっと捕まえた。

「Heh, la panthère se met à dos l'homme !(へっ、パンサーが男におんぶされてるぜ!)」
「Vous n'avez pas honte !(恥ずかしくねぇのかよ!!)」

 俺達を小馬鹿にするように不良達が大きな声で嘲笑わらった。言語が通じたのか、芽依は頬を膨らませる。

「……気にするな。今から奴らに情けない姿を街の人々に見せつけてやる」

 俺は再び地を蹴って正面にいる不良軍団との間合いを一気に詰める。後ろの方から不良の一人が俺に向かって走りながら右拳で殴りかかってくる。

 顔面に当たる寸前に左手で右拳を弾き返す。その勢いで男は右に体制を崩したので、軸足を右足で水平に思い切り払う。

 男が一瞬宙を舞うその一瞬を逃さず右手を強く握り、魔力を籠める。無防備の腹部目掛けて渾身の一撃を放つ。

「ふっ……!」

 俺の右拳が黒い閃光を放ち、男の腹部に直撃すると同時に槍のように穿つ。黒壊クラッシュアウトを見事命中させ、男は後方に大きく吹き飛ばされ、不良軍団も巻き込まれて吹き飛ばされる。

「ふふっ、おっ君カッコいい~♡」
「……気が散るからやめろ」

 言い切る前に後ろにいた不良軍団が鉄パイプで襲ってきた。左右から来たそれを両手で掴んではへし折った。

 そして両手に持つ短くなった鉄パイプを左右の不良めがけて投げ飛ばし、それぞれ腹部と左頬に命中しては倒れた。

「Merde, c'est un monstre !(くそっ、化け物かよこいつ!!)」

 多少ビビっている不良軍団だが、その後一斉に雄叫びを上げながら俺に襲いかかる。

「はぁ、懲りない奴らだ……」

 これでも一応一般人の前なので、なるべくここで神器を出したくない。強いて言えば魔力も出したくなかったが、それはやむを得なかった。

「Meurs ! !!(死ねええええ!!)」

 無数の光が街の一部を蜂の巣にした。ふと見ると、不良軍団の後方にマシンガンの集団が見える。

「芽依、顔を出すなよ。蜂の巣にされるぞ」
「う……うんっ」

 芽依の身体が震えているのが俺の背中から伝わる。怖いのだろう。あのマシンガンの音と弾があらゆるものを死に至らせるのだから。

「Hyahahaha !!!(ひゃっはあああ!!!)」

 再び銃弾が襲いかかった。更に不良達は俺だけでなく、一般人に向けて引き金を引いていた。当然建物や車の窓は割れ、そこを歩く人々はバタバタと倒れていく。

 
「酷いっ……!」
「ちっ、一般人を巻き込むとはな……!」

 怒りのあまり、俺は魔力を容赦なく使う事にした。右手の指先から紫色の糸のようなものを生成し、むちのように不良軍団を打つ。

 糸がマシンガンに触れた刹那、一瞬にして不良軍団全員を五本の糸で拘束した。

「Qu'est-ce que c'est que ça ?(な、何だこれは!?)」

 不良軍団が暴れても抜け出せない中、左手で先程吹き飛ばした不良軍団に向けて同じ糸を生成して同じように拘束する。

「……丁度いいタイミングだな」

 本当に最高のタイミングで警察が来た。俺の目の前で数十台のパトカーが停車し、そこから十人程の警察が降りてきた。気づかれる前にバスの中心に不良達を集め、糸を消滅させて拘束を解いた。

 片方の集団が暴れるより先に警察が捕らえ、パトカーの中に乗せる。更にまた何台かこちらに来ては不良達を乗せて真っ直ぐ走り去っていく。

「はぁ……、一先ひとまず助かったな」
「うん……ありがとう、助けてくれて」
「礼を言われる程でも無い。早急にお前の用事を終わらせて……あいつらに、会わない……とっ……!」

 突如全身の痛みが俺を襲った。よく見ると腹部や両腕、両太腿にマシンガンの弾が埋め込まれ、そこから出血していた。

「がっ……!」
「おっ君……!!」

 痛みに耐えきれず、思わず膝を突く。芽依が俺から離れ、大丈夫と声をかける。

 警察の人達も救急車を呼ぶためか慌てながら電話をかけているところも見かける。

 そうしている間にも、意識が遠のいていく。更に不幸なのが、弾一つ一つに毒が塗り込まれていた。普通の弾なら何発か喰らっても瞬時に回復魔法をかければ何とでもなる。

 しかし、毒が塗り込まれていたとなれば話は別。回復魔法をかけたとしても毒の強さによっては全く効果が無い事もある。今回はそのパターンだと思って良いだろう。

「おっ君! しっかりしておっ君!!」
「……あぁっ……」

 そういえば、街の人達も同じ弾を喰らっているのだろう。もう助からないのは分かっている。

 もし俺が魔力や神器をもっと使っていれば助けられたかもしれない。何て思うととても心が痛くなる。

 そう考えてる内に視界が暗くなる。次第に意識が暗転する。




 そして体温すら消えていく――
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