上 下
46 / 231
第二章 シンデレラ宮殿編

第四十五話「浄化の光」

しおりを挟む
 緊急任務:パンサーと名乗る怪盗を逮捕、シンデレラ宮殿の象徴「スタニッシュリング」を奪還

 遂行者:黒神大蛇、白神亜玲澄、武刀正義、エレイナ、錦野蒼乃、涼宮凪沙、桐谷正嗣、桐谷優羽汰、桐雨芽依


 全身がエメラルドの光に包まれる。痛みも、苦しみも全部感じないし、これから感じる気配もしない。

「何だこれは……」
 
 回復魔法なのか。……いや、あの分断された状態から一瞬で無傷に出来る魔法なんて無い。

「お前が持っていたのか……そのデタラメな禁忌魔法!!」
「っ――!!」

 芽依の身体に憑依してるザクトが突然地を蹴りながら無数のトランプを俺に向かって投げ飛ばした。正面のトランプは剣で弾き、四方八方から迫ってくるトランプはすぐに頭上に飛んで避けた。

 ――しかし、ザクトは右手を地面に付け、時計のような魔法陣を精製した。

「『白時無象ホワイトレイズ』」
「なっ――!?」

 嘘だろ。何で芽依が……奴がそれを使ってるんだ。あれは元々亜玲澄の禁忌魔法だ。なのに何故……


 ――時が止まった。身体が人形の如く動かない。体内の機能も停止している。唯一動けるのは奴だけだ。

『や……めてっ……!!』
「騒ぐな、桐雨芽依。ただ大蛇の時を止めただけだ。まだ殺すつもりは……無いっ!!」

 すると今度は芽依の右手から黒い波動が俺を襲った。間違いない、これは俺の禁忌魔法『黒光無象ブラックバリスタ』だ。

「っ――」

 いつも見る光景だ。白紙に黒い液体を思い切りこぼしたような風景。まさか、やられる側としてこれを見るとはな。
 この後俺の過ちを犯した時の記憶が出てくるはず。その度に謎の黒剣に内部から串刺しにされる。

「……終わりだ、八岐大蛇。己の禁忌に打ち砕かれよ」

 あぁ……、やっぱり殺す気だったじゃないか。さっきの言葉はどこいったんだ。この大嘘つきが。


 徐々に意識が暗転する。今までの記憶がフラッシュバックされる。精神が歪まれる。

 またあの惨劇が繰り返される――



 ……そんな事、私がさせない――!!


「――――!!!」


 少女の声が聞こえた刹那、俺の身体から放たれるエメラルドの光が強く、より輝きを増していた。

 まるで呼吸するかのように。少しずつ、徐々にモノクロの空間に彩りを与える。そして爆発するかのように瞬き、一瞬で黒光無象ブラックバリスタが光に呑まれ、ホテルの風景に戻る。

「がっ……ああっ……!」

 光に触れた途端、芽依は頭を両手で抑えながら歯を食いしばった。

『おっ君……っ!』

 二つの禁忌魔法を強制的に解き、俺は少しずつ芽依の方へ歩み寄る。

など……あるはずが無い!」
「これは本来存在しないのに、俺を呪うこの宿命は存在するのか。概念の有無を決めつけるとは、随分と勝手な神様だな」
「貴様っ……!!」
 
 ザクトは怒りのあまり俺に銃口を向け、引き金を引こうとしたが中にいる芽依に止められた。

『早く……離れて!』
「くっ、まだ意識があるのか。強靭な女もいるのだな……」

 ザクトは諦めるかのように銃を下ろした。その後芽依の背中から禍々しい闇が出現し、壁をすり抜けて外へ出た。

「はぁ、はぁ……もう何なのあいつ~!!」
「ザクト……」

 あの暗黒神でさえも、未知なるものは存在するのか。さっきの俺の身体から放たれた謎の光のように。だが、これで少し光明が見えてきた。あの光はきっと、この宿命を変える大きな鍵になるだろう。

「――アカネ」
「え?」
「……いや、何でも無い。それよりもう朝だ。あいつらを起こしに行くぞ」

 ザクトが消えた途端、いつの間にか日は昇り始め、部屋番号も元通りになっていた。

 これで、俺が芽依に殺される運命は変えられたな――




「皆起きてー! 朝だよー!!」

 芽依の元気あふれる大声に起こされた亜玲澄と正義はびっくりしながら重い身体でベッドから出た。

「皆おはよー!」
「おい、朝からうるせぇな! せめて揺すって起こしやがれ!」
「お前も言えないだろ……」

 あの現象以降もいつも通りの二人を見て、俺は少し安心した。

――――――――――――――――――――

「いよいよか……」

 人通りの無い焼け落ちた公園で、タバコを吸いながら一人の男が呟く。ただじっと消し炭と化した遊具を眺める。

「Ce soir, l'un des plus grands combats de tous les temps aura lieu au Cinderella Palace.(今宵、シンデレラ宮殿で過去最大規模の抗争が起きるだろう)……そうだろ、パンサー。いや……」




 ――サリエル。
しおりを挟む

処理中です...