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第六章 ハロウィン戦争編

第百四十五話「残された奥義」

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 緊急任務:ネフティスNo.6北条銀二の討伐、地球防衛組織ネフティスを北条の支配から奪還する

 遂行者:黒神大蛇、白神亜玲澄、武刀正義、エレイナ・ヴィーナス、涼宮凪沙、サーシェス、アルスタリア高等学院全生徒 
 犠牲者:???



「見せてあげよう。『電光石火』の二つ名をもつ私の力を……『神器解放エレクト』」
「……!!」

 これが……ネフティス最強と呼ばれる最大の理由か。
 刀身から放たれるとてつもない魔力。見るだけで直に死を予感させるほど恐ろしい神器。その名は――

「神器『獄滅刀ヘルヘイム』……地獄をも断ち斬る冥殺めいさつの刀だ。とくと見るがいい――」

 アメジストのオーラが刀身から放出され、正嗣総長が勢いよく突進すると同時にブレーキランプの如く魔力が軌道を描く。

「くっ……!」

 何とか右手の反命剣リベリオンで一撃を受け止め、つば迫り合いになる。しかし圧倒的な力に押し負け、後から来た衝撃波で大きく吹き飛ばされる。更に正嗣総長は両足で地を蹴り、その距離を確実に詰める。

「ちっ……!」

 背中が地に着く前に空中で一回転し、両足で踏ん張る。そして左手の五本指からアメジスト色の糸……『闇糸剣シュナイデン』を精製し、鞭のように正嗣総長に向かって叩く。

「……ふっ!」

 しかし正嗣総長の神器には手も足も出ない。呆気なく糸がバラバラに斬られてしまう。

(くそっ……狩人之羽刃ギルティハント闇糸剣シュナイデンも通用しない。だからと言って剣で戦うとなると間違いなく俺は負ける。しかもまだ右足に毒が残っている。そんな中でどうしたらっ……!)

 勝つための策を考えながら数々のビルや建物を利用して避ける。しかし徐々に距離は縮まる一方だ。このままでは時間の問題だ。

 ――なら仕方ない、こうなったら出し惜しみ無しだっ!!

「うぉぉぉおおおお!!!」

 俺はすぐに空中で身体を180°方向を変え、逃げるのを止める。その代わりにありったけの力で地を蹴り、正嗣総長に劣らずの速さで突進する。剣を肩に担ぐように構えながら、追いかけられた時の倍の速さで迫り、剣を振る。刀身が青白い光を帯びながら俺の動きに合わせて軌道を描く。

 俺の奥義『終無之剣ラストソード』。今までも最大の危機に陥った俺を救ってくれたピンチヒッターだ。

 ――今回はピンチのレベルが違うが、お前に全て賭けるっ!!

「らぁぁぁああっ!!」
「っ……! 速さが段違いとは……」

 そう、俺が今の正嗣総長に勝つための条件はたった一つ。この奥義を止める事なくひたすら剣を振るだけだ。前も同じ作戦でミスリアと戦って、勝ちはしなかったが通用した。
 そもそも先生ミスリアに通じて卒業生正嗣総長に通じないなんてあり得ない話だ。

「……っ!!」

 ついに正嗣総長に焦りが見えてきた。比較にならない程の速さと一撃の強さ。それも振り続ける度に少しずつ速く、強くなっていく。

「厄介な技だ……」
「褒めても何も出ないっ……!!」

 何連撃しようが関係ない。俺に限界の壁が来るまで、全てが尽きるまで振り続けるだけの事。それに応えるかのように刀身の光がより一層輝きを増したような気がした。

 流星群の如く舞う光の軌跡と、神器同士が衝突し合う強大な魔力の衝撃波が互いに一撃を繰り出すと同時に発生する。一撃、また一撃と繰り出しては受け流されての繰り返しだ。このまま止まったら正嗣総長は確実に俺にその刀で全身を木っ端微塵みじん斬りにするだろう。
 無論、それは俺の復讐劇の終着点と言えよう。

「……出し惜しみのつもりか、正嗣総長。このまま耐えてものちに地獄を見るだけだぞ」

 無限の一撃を繰り出す度に少しずつ正嗣総長に攻撃が命中しているのが目に見える。
 
「どうやらそうなりそうだな……っ!!」
「ちっ……!」

 先程の俺と同じように正嗣総長は右足を後ろに蹴って距離をとり、刀身から無数の衝撃波を放つ。対して俺は青白い刃を軽々と振り回し、衝撃波を斬りながら渋谷の街を駆け抜ける。
 だが流石に連撃を繰り出したおかげか、もう体力が底を尽きてる。まだ北条との戦いがあるというのに。

「はぁ、はぁっ……!!」
「隙は見えた……ここで引導を渡すっ!!」

 反撃の時が来たかのように、正嗣総長は逃げる足を止めて抜刀の姿勢に入る。刀を左後ろに構え、前傾姿勢で俺が来るのを待つ。

(ある程度距離は空けておいた。ここまで来る時にはもう剣を振る力が彼には無い)

「くっ……!」

 段々と衝撃波が重く感じてきた。まずい、奥義が途切つつある。刀身の光も薄くなってきているのは気のせいでは無い。俺の限界の証拠だ。

 ――だが、こんな所で終わるわけにはいかないっ……!!

「おおおああぁぁぁぁっ!!」

 来た。流れてきた。右目から、温かい血の涙が。即ち、限界突破――

「……『希星之望刄リライトステラ』」

 しかし、それは相手も同じ。目から流血はしていないものの、刀身がアメジストから太陽のような温厚の光をまとった。

 ここからは互いに一撃必殺。己の全てをぶつける時――
 
「おっ……らああああぁぁぁぁ!!!」
「はぁぁぁぁっ!!!!」

 右肩よりも更に後ろにまで剣を振りかぶり、勢いに任せるがままに全身を使って振り下ろす。正嗣総長も間合いが詰まったその刹那、ついに刀が今までとは比べ物にならない速さで一瞬の内に俺の首元に切り傷をつけた。
 
 そして、二重の甲高い音と共に二つの軌跡がそれぞれ一直線にほとばしった。

 それはまるで、流星のように――
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