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リンネのために
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ビャクヤがワンドを構えた途端、リツのノーモーションの盾強打が迫り来る。
要は大盾によるただの素早い突進だが、エリートオーガの巨体から繰り出されるタックルは、受けた者に何トンもの衝撃を与える。
特に鉄騎士団団長の盾強打をまともに受けた者は、盾に張り付いて死ぬと言われている。
その様子から傭兵の間では、彼女の盾強打で死んだ者は”盾飾り“になったと呼ばれるようになった。
それを敢えてビャクヤはリフレクトマントで受け流す。この魔法のマントはダメージを無効にするが、上手く翻さないと衝撃をもろに受ける。
「噂は訊いておりますよッ! リツ団長殿! その大盾だけで何百人もの敵を葬ってきたと」
気力の漲るビャクヤは、純粋に興奮している。
歴史上の人物と―――、ましてや神の子ヤイバの母親と戦える機会に。
最初こそ尻込みをしていたが、今では嘘のようにネガティブな気持ちが吹き飛んでいた。
「魔人族が、私の攻撃を往なすなんて驚きですわ」
上品な口調の中に驚きの色を見せるリツは、ビャクヤをすぐさま実力者だと判断して飛び退いた。
伝説級の装備も実力のうち。なぜならそういった装備を買うだけの財力があるか、或いは迷宮の奥で強力な魔物を倒して手に入れるかしかないからだ。
装備を代々受け継ぐという場合もあるが、その場合も実力者の系譜という事になる。
もしビャクヤが戦闘経験の少ないただの金持ちなら、いくらリフレクトマントを装備していようとも、今の攻撃を受けて弾き飛ばされていたはずだ。
しかし、目の前の若い魔人族は、闘牛を往なすかの如き動きをした。リツは横目でヴャーンズ皇帝を一瞬見る。
ゴブリンの皇帝は長い鼻の横に皺を作っている。彼は失望と不満を顔に表しているのだと感じ、リツは内心で自戒した。
(無様な戦い方を陛下に見せてしまいましたわ。魔人族のメイジ如き、一撃で屠れると慢心した自分が恥ずかしい)
かといって迂闊に飛び込めば、どんなマジックアイテムの反撃があるかわかったものではない。
とはいえメイジを前にして距離を取るのは愚策である。
自分の悪い癖が出たとリツは後悔した。
(能力が未知数の敵と対峙すると、慎重になり過ぎるこの性格を何とかしなくては)
そう思っている内に、牽制の【氷の矢】が飛んでくる。まるで帝国魔法騎士団がやる、お手本通りの攻撃にリツは少し心の余裕を取り戻した。
「そんなもの!」
大盾で氷の矢を受けるも、矢の冷気はすぐに小手を伝わって、フルアーマーを冷やす。
(魔法防御力に特化した特注の盾と鎧を貫通するなんて! レジストしていなければ、今頃は全身に凍傷を負っていたでしょう)
戦場に時々現れる、エースをリツ・フーリーは思い浮かべた。
場慣れしており、経験も豊富で、ここぞという時の胆力もある。
ビャクヤはそれに匹敵するとリツは感じた。
(まるであの忌々しいノーマルオーガと対峙しているようですわ)
グランデモニウム王国の侵攻ルートを探る為に、斥候の情報を元に隊を率いて向かった先に、必ず待ち構えていた女傭兵ヘカティニスの顔が頭をちらつく。
魔剣”へし折り“を持つ暴風のような存在。
ヘカティニスとは幾度戦っても決着がつかず、団員の多くが彼女の魔剣によって、大ダメージを受けて撤退している。実質負けているようなものだった。
もし彼女がメイジで男だったら、今のビャクヤのように厄介だったろう。
(メイジに詠唱時間を与えてはならない)
そう思ってリツは盾を構えたままビャクヤに近づこうとしたが、逆に彼は近づいて来る。
彼と同じ魔人族のナンベル・ウィンのように道化師のタップを踏みながら。
「馬鹿にして!」
大振りなバトルハンマーがビャクヤの頭上を空振りする。感情から出た一撃など、メイジ程度でも軌道を読める。
「ビャクヤはウィン家の者だ」
リツの心中を読心魔法で知ったヴャーンズが、ひじ掛けに頬杖を突いて抑揚のない声でそう言った。
「道理でやりにくいわけですわ」
挑発や甘言や誘惑、強迫に幻影。ナンベルはそれらを駆使して相手を翻弄し、暗殺職であるにもかかわらず、正面からの不意打ちを得意とする。
(本当に戦い難い。それに今日の私は、私らしく戦えていない)
焦りと戦うリツを見て、ビャクヤはどんどんと調子に乗る。相手が焦れば焦るほど、或いは相手の士気が下がれば下がるほど、こちらは頭が冴えて動きも良くなるのだ。
「いきマンモスッ!」
掛け声とともにビャクヤはタップを踏んで間合いを詰めてきた。
「―――?!」
メイジが自ら接近してくるとはどういう事か。リツはビャクヤの考えを測りあぐねていた。
それはリンネも同じで、なぜビャクヤが接近戦のエキスパートに近寄るのがかわからない。
(普段は『メイジは前衛に守られてナンボッ! 敵から距離を取ってナ~ンボッ!』とか言ってるのに・・・)
エリートオーガのどんな些細な攻撃を受けようが、直撃すればビャクヤは即死するだろう。
リンネの心臓の動きが速くなる。やはり恋人の危機に心が揺らがないわけがない。
(リフレクトマントがあるとはいえ・・・。連続で攻撃され続けたら)
その心配が的中する。
リツはシールドバッシュとバトルハンマーの重い一撃、そして体術の蹴りをビャクヤに対して時間差やフェイントを織り交ぜつつ繰り出してきたのだ。
ビャクヤはシールドバッシュをマントで往なし、ハンマーの攻撃を受けたように見えたが、【絶対回避】という一日に一度しか唱えられない特殊な魔法でその強烈な一撃を躱す。
「ここまでですなッ! リツ殿ッ!」
最後の蹴りをもう一度リフレクトマントで往なして、ビャクヤはワンドを腰のホルダーにしまった。リツが戦意を失ってもいないにもかかわらず・・・。
「グランデモニウム王国で、砦の戦士たちに襲われた時の教訓が今ッ! 役に立ちましたッ!」
「でも・・・」
リンネは不安を払拭できないでいる。もう一度リツのあのコンボが来たらどうするのか。
リツはまだまだスタミナが残っているように見える。その気になれば疲れ果てるまで、狂ったように攻撃を繰り出せるだろう。
しかし、そうはならなかった。
なぜならリツが蹴りを突き出した時のポーズのまま、動かなくなっていたからだ。
その彼女の脚をビャクヤは得意げな顔で軽く触った後に、ビシッと自分を抱きしめて、陶酔するようなポーズをとった。
「バトルメイジの戦い方を実践してみたのですが、いかがだったでしょうかッ! 我が愛しのッ! リリリリリリンネッ!」
「え?」
当然リンネは驚く。
恐らく帝国騎士の中でも最強だろうリツを練習台にして、ビャクヤは自分の為にバトルメイジの戦い方を見せてくれたのだ。
「リツ殿が脚を出してくれたのは幸いでした。脚絆の隙間から魔法を流し込めましたからね」
「ほぉ」
ヴャーンズ皇帝が玉座から立ち上がってやって来る。後ろ手を組んで、興味深そうにビャクヤとリツを見て微笑んだ。
「お前は連れのメイジの為に、帝国鉄騎士団の団長を練習台にしたというのか」
「はぁい、陛下。それができたのはッ! 相手がリツ殿だからこそでんすッ!」
「というと?」
「我が愛しの恋人リンネはッ! これからバトルメイジの道を歩みますッ! しかしッ! かの職業はッ! 勇気と思い切りの良さとッ! 死の覚悟が必要ッ!」
「ふむ。生半可な相手では見本にならんと」
「そうです、ヴャーンズ陛下ッ! 帝国最強の鉄騎士ッ! エリートオーガの中でもッ! 名門中の名門であるッ! リツ・フーリーという化け物が相手でなければッ! 吾輩はッ! 死の覚悟を持ってバトルメイジの戦い方を教示できなかった!」
魔法効果が切れてきたのか、リツは脚を下ろすと荒い息をして仁王立ちで立つ。麻痺をしてずっと筋肉が強張っていたはずの脚を休めようとはしていない。
「大体予想はつくが一応聞いておこか。彼女に何の魔法をかけたのかね、ビャクヤ」
「脚絆の隙間をワンドで突き刺して、【麻痺の雲】を少々、血中に送り込ませていただきまんしたッ!」
シュバシュバっとビャクヤが動くたびに、玉座の間を守るガードナイトが反応するので、ヴャーンズが手を上げて動くなと無言で命令する。
「ハハハハ! そんな戦い方があるのか! 私は普通に【麻痺】の魔法がリツに効いたのだと思っていたが! だがクラウド系の魔法を、動き回る相手に流し込むなどという離れ業は、流石に無謀。そういった戦法はリフレクトマントを持つお前にしかできないだろう。それにしても・・・。【麻痺の雲】を少量だけ送り込むという芸当自体、相当難易度が高い。魔法の度合いを大きくするのは簡単だが小さくするのは難しいからな。大量の麻痺雲を血中に送りこめば普通は死ぬ。息ができなくなり、数分は苦しむ事であろう」
「死を覚悟したとはいえッ! 模擬戦ですゆえッ! 帝国の貴重な財産でもあるッ! リツ殿を殺すわけにはいきませんぬッ!」
ビャクヤの戦い方を改良して新たな戦法はないかと、あれこれと考え始めたのか、時折ヴャーンズ皇帝は「暗黒騎士どもに・・・」だとか「いや魔法騎士のほうが」などとブツブツと独り言を呟いている。
「納得いきませんわ! 陛下!」
大盾を床に置いてリツは感情任せに喚いた。
鉄騎士団の団長がここまで感情を見せるのは初めてなのか、ガードナイトたちも彼女を抑えるべきか、見守るべきか躊躇っている。
ヴャーンズ皇帝は、眉間を揉んでやはりこうなるかと溜息をついた。
(フーリー家の者は、誰もかれもプライドが高い)
慎重派で堅実なリツ、それに対して調子に乗れば乗るほど実力が上がるトリックスターのメイジ。
王道な戦法や模式美を好むリツにとって、ビャクヤは相性が悪かったのだ。
要は大盾によるただの素早い突進だが、エリートオーガの巨体から繰り出されるタックルは、受けた者に何トンもの衝撃を与える。
特に鉄騎士団団長の盾強打をまともに受けた者は、盾に張り付いて死ぬと言われている。
その様子から傭兵の間では、彼女の盾強打で死んだ者は”盾飾り“になったと呼ばれるようになった。
それを敢えてビャクヤはリフレクトマントで受け流す。この魔法のマントはダメージを無効にするが、上手く翻さないと衝撃をもろに受ける。
「噂は訊いておりますよッ! リツ団長殿! その大盾だけで何百人もの敵を葬ってきたと」
気力の漲るビャクヤは、純粋に興奮している。
歴史上の人物と―――、ましてや神の子ヤイバの母親と戦える機会に。
最初こそ尻込みをしていたが、今では嘘のようにネガティブな気持ちが吹き飛んでいた。
「魔人族が、私の攻撃を往なすなんて驚きですわ」
上品な口調の中に驚きの色を見せるリツは、ビャクヤをすぐさま実力者だと判断して飛び退いた。
伝説級の装備も実力のうち。なぜならそういった装備を買うだけの財力があるか、或いは迷宮の奥で強力な魔物を倒して手に入れるかしかないからだ。
装備を代々受け継ぐという場合もあるが、その場合も実力者の系譜という事になる。
もしビャクヤが戦闘経験の少ないただの金持ちなら、いくらリフレクトマントを装備していようとも、今の攻撃を受けて弾き飛ばされていたはずだ。
しかし、目の前の若い魔人族は、闘牛を往なすかの如き動きをした。リツは横目でヴャーンズ皇帝を一瞬見る。
ゴブリンの皇帝は長い鼻の横に皺を作っている。彼は失望と不満を顔に表しているのだと感じ、リツは内心で自戒した。
(無様な戦い方を陛下に見せてしまいましたわ。魔人族のメイジ如き、一撃で屠れると慢心した自分が恥ずかしい)
かといって迂闊に飛び込めば、どんなマジックアイテムの反撃があるかわかったものではない。
とはいえメイジを前にして距離を取るのは愚策である。
自分の悪い癖が出たとリツは後悔した。
(能力が未知数の敵と対峙すると、慎重になり過ぎるこの性格を何とかしなくては)
そう思っている内に、牽制の【氷の矢】が飛んでくる。まるで帝国魔法騎士団がやる、お手本通りの攻撃にリツは少し心の余裕を取り戻した。
「そんなもの!」
大盾で氷の矢を受けるも、矢の冷気はすぐに小手を伝わって、フルアーマーを冷やす。
(魔法防御力に特化した特注の盾と鎧を貫通するなんて! レジストしていなければ、今頃は全身に凍傷を負っていたでしょう)
戦場に時々現れる、エースをリツ・フーリーは思い浮かべた。
場慣れしており、経験も豊富で、ここぞという時の胆力もある。
ビャクヤはそれに匹敵するとリツは感じた。
(まるであの忌々しいノーマルオーガと対峙しているようですわ)
グランデモニウム王国の侵攻ルートを探る為に、斥候の情報を元に隊を率いて向かった先に、必ず待ち構えていた女傭兵ヘカティニスの顔が頭をちらつく。
魔剣”へし折り“を持つ暴風のような存在。
ヘカティニスとは幾度戦っても決着がつかず、団員の多くが彼女の魔剣によって、大ダメージを受けて撤退している。実質負けているようなものだった。
もし彼女がメイジで男だったら、今のビャクヤのように厄介だったろう。
(メイジに詠唱時間を与えてはならない)
そう思ってリツは盾を構えたままビャクヤに近づこうとしたが、逆に彼は近づいて来る。
彼と同じ魔人族のナンベル・ウィンのように道化師のタップを踏みながら。
「馬鹿にして!」
大振りなバトルハンマーがビャクヤの頭上を空振りする。感情から出た一撃など、メイジ程度でも軌道を読める。
「ビャクヤはウィン家の者だ」
リツの心中を読心魔法で知ったヴャーンズが、ひじ掛けに頬杖を突いて抑揚のない声でそう言った。
「道理でやりにくいわけですわ」
挑発や甘言や誘惑、強迫に幻影。ナンベルはそれらを駆使して相手を翻弄し、暗殺職であるにもかかわらず、正面からの不意打ちを得意とする。
(本当に戦い難い。それに今日の私は、私らしく戦えていない)
焦りと戦うリツを見て、ビャクヤはどんどんと調子に乗る。相手が焦れば焦るほど、或いは相手の士気が下がれば下がるほど、こちらは頭が冴えて動きも良くなるのだ。
「いきマンモスッ!」
掛け声とともにビャクヤはタップを踏んで間合いを詰めてきた。
「―――?!」
メイジが自ら接近してくるとはどういう事か。リツはビャクヤの考えを測りあぐねていた。
それはリンネも同じで、なぜビャクヤが接近戦のエキスパートに近寄るのがかわからない。
(普段は『メイジは前衛に守られてナンボッ! 敵から距離を取ってナ~ンボッ!』とか言ってるのに・・・)
エリートオーガのどんな些細な攻撃を受けようが、直撃すればビャクヤは即死するだろう。
リンネの心臓の動きが速くなる。やはり恋人の危機に心が揺らがないわけがない。
(リフレクトマントがあるとはいえ・・・。連続で攻撃され続けたら)
その心配が的中する。
リツはシールドバッシュとバトルハンマーの重い一撃、そして体術の蹴りをビャクヤに対して時間差やフェイントを織り交ぜつつ繰り出してきたのだ。
ビャクヤはシールドバッシュをマントで往なし、ハンマーの攻撃を受けたように見えたが、【絶対回避】という一日に一度しか唱えられない特殊な魔法でその強烈な一撃を躱す。
「ここまでですなッ! リツ殿ッ!」
最後の蹴りをもう一度リフレクトマントで往なして、ビャクヤはワンドを腰のホルダーにしまった。リツが戦意を失ってもいないにもかかわらず・・・。
「グランデモニウム王国で、砦の戦士たちに襲われた時の教訓が今ッ! 役に立ちましたッ!」
「でも・・・」
リンネは不安を払拭できないでいる。もう一度リツのあのコンボが来たらどうするのか。
リツはまだまだスタミナが残っているように見える。その気になれば疲れ果てるまで、狂ったように攻撃を繰り出せるだろう。
しかし、そうはならなかった。
なぜならリツが蹴りを突き出した時のポーズのまま、動かなくなっていたからだ。
その彼女の脚をビャクヤは得意げな顔で軽く触った後に、ビシッと自分を抱きしめて、陶酔するようなポーズをとった。
「バトルメイジの戦い方を実践してみたのですが、いかがだったでしょうかッ! 我が愛しのッ! リリリリリリンネッ!」
「え?」
当然リンネは驚く。
恐らく帝国騎士の中でも最強だろうリツを練習台にして、ビャクヤは自分の為にバトルメイジの戦い方を見せてくれたのだ。
「リツ殿が脚を出してくれたのは幸いでした。脚絆の隙間から魔法を流し込めましたからね」
「ほぉ」
ヴャーンズ皇帝が玉座から立ち上がってやって来る。後ろ手を組んで、興味深そうにビャクヤとリツを見て微笑んだ。
「お前は連れのメイジの為に、帝国鉄騎士団の団長を練習台にしたというのか」
「はぁい、陛下。それができたのはッ! 相手がリツ殿だからこそでんすッ!」
「というと?」
「我が愛しの恋人リンネはッ! これからバトルメイジの道を歩みますッ! しかしッ! かの職業はッ! 勇気と思い切りの良さとッ! 死の覚悟が必要ッ!」
「ふむ。生半可な相手では見本にならんと」
「そうです、ヴャーンズ陛下ッ! 帝国最強の鉄騎士ッ! エリートオーガの中でもッ! 名門中の名門であるッ! リツ・フーリーという化け物が相手でなければッ! 吾輩はッ! 死の覚悟を持ってバトルメイジの戦い方を教示できなかった!」
魔法効果が切れてきたのか、リツは脚を下ろすと荒い息をして仁王立ちで立つ。麻痺をしてずっと筋肉が強張っていたはずの脚を休めようとはしていない。
「大体予想はつくが一応聞いておこか。彼女に何の魔法をかけたのかね、ビャクヤ」
「脚絆の隙間をワンドで突き刺して、【麻痺の雲】を少々、血中に送り込ませていただきまんしたッ!」
シュバシュバっとビャクヤが動くたびに、玉座の間を守るガードナイトが反応するので、ヴャーンズが手を上げて動くなと無言で命令する。
「ハハハハ! そんな戦い方があるのか! 私は普通に【麻痺】の魔法がリツに効いたのだと思っていたが! だがクラウド系の魔法を、動き回る相手に流し込むなどという離れ業は、流石に無謀。そういった戦法はリフレクトマントを持つお前にしかできないだろう。それにしても・・・。【麻痺の雲】を少量だけ送り込むという芸当自体、相当難易度が高い。魔法の度合いを大きくするのは簡単だが小さくするのは難しいからな。大量の麻痺雲を血中に送りこめば普通は死ぬ。息ができなくなり、数分は苦しむ事であろう」
「死を覚悟したとはいえッ! 模擬戦ですゆえッ! 帝国の貴重な財産でもあるッ! リツ殿を殺すわけにはいきませんぬッ!」
ビャクヤの戦い方を改良して新たな戦法はないかと、あれこれと考え始めたのか、時折ヴャーンズ皇帝は「暗黒騎士どもに・・・」だとか「いや魔法騎士のほうが」などとブツブツと独り言を呟いている。
「納得いきませんわ! 陛下!」
大盾を床に置いてリツは感情任せに喚いた。
鉄騎士団の団長がここまで感情を見せるのは初めてなのか、ガードナイトたちも彼女を抑えるべきか、見守るべきか躊躇っている。
ヴャーンズ皇帝は、眉間を揉んでやはりこうなるかと溜息をついた。
(フーリー家の者は、誰もかれもプライドが高い)
慎重派で堅実なリツ、それに対して調子に乗れば乗るほど実力が上がるトリックスターのメイジ。
王道な戦法や模式美を好むリツにとって、ビャクヤは相性が悪かったのだ。
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