殺人鬼転生

藤岡 フジオ

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トウバの息子

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 次々と飛んでくる魔法を斬り捨て、俺は喚く。

「魔法? 無駄無駄無駄無駄ぁ!」

 意識外から飛んでくる魔法でもない限り、俺には魔法は効かん。

 詠唱の声、衣擦れの音、緊張した時の汗の臭い。

 それらの全てが魔法発動の印だ。ここにいる王国騎士は経験値の低さからか、フェイクもフェイントも無し!

 まぁしかし、褒めるところもある。互いの呪文が干渉し、阻害しないようにと同系統の攻撃魔法で攻めてくるところは、流石王国騎士か。

 だが、その規律のとれた規則正しい屁みたいな魔法攻撃は、悪魔の目にはとてもゆっくりに見える。

「魔法を刀で斬るなんて! 一体どういう仕組みだ!」

 悔しそうにして騎士たちは騒めく。

 職業的にはメイジ寄りである樹族の騎士に、絶望の色が浮かんだのを見て、俺はニヤリとする。

 そうそう、そのざわざわした空気、いいぜぇ。

 サーカスの道化のように慌てふためけ!

 道化というワードを思い浮かべたせいで、脳内に自分の子孫ナンベル・ウィンの顔が、水面に浮かぶようにして消える。

(ナンベルもビャクヤほどの可愛気があればな・・・)

 意識を戦いに戻して、まだ気力に満ちた騎士はいるかと周りを見る。

 が、どいつもこいつも戦意を失っていた。だらしねぇなと思いつつ、この中にトウスレベルの接近戦のプロはいるかと見当を付けてみた。

(おらん!)

 即座に自分の声で返事が返ってくる。俺の心の声は無慈悲で容赦がない。萎えるわ・・・。

 樹族は魔法を封じられると途端に弱くなる。

 俺がこれまで見た中で、しっかりと接近戦ができる樹族はシルビィとその親父だけだ。

 あの二人と同時に戦ったらどうなるかを脳内シミュレーションしていると、この場唯一の接近戦のプロが俺に攻撃を仕掛けてきた。

「ゴアァァ!」

 ライオンの吠え声はいつ聞いても迫力があるねぇ。おまけにゴブリン神の支援まである。力も回避力も上がっている。

 だが―――。

 神の支援とはいえ、人を超人にするほどでもねぇ。

 クソ神の加護を受けた獅子人と戦っていても、普通にもどかしさが増すだけだ。

「あのゴブリン、うぜぇな・・・。あいつが実況すると俺までそう動いてしまう」

 思わず声に漏れる。

 確かに俺はゴブリンの言葉に惑わされている。

 あの瓶底眼鏡が「トウスの爪がキリマルを袈裟懸けにするーー!」と実況してくると、一瞬袈裟懸けを受けてしまいそうな体勢をとってしまうのだ。

 勿論、ゴブリン糞神(くそしん)の声に抗って袈裟懸けを躱すのだが、この支援が長く続けば続く程、こちらの苛立ちは募る。

 俺の目線の先を察知したオビオが、ゴブリンを守ろうと走っていくのが見えた。

(ハ! お前ごときに守れるものなどあるか)

「ヒャハハ! 残念! ハズレ!」

 俺は乱戦の中で腰を抜かしていた近くの村人を殺した。この広い集会場で、いつまでも戦いの真ん中にいるからだ。

「てめぇ!」

 トウスが吠えて、グレートソードの一撃かと思うような片手剣の斬撃を振り下ろす。

 勿論、俺は余裕で回避。

「お前の父ちゃんも正義漢だったなぁ。奴隷解放を願って、命懸けで戦っていたぞ? その願いは叶ったのか? トウス・イブン・トウバ! クハハ!」

 頭に思い浮かぶのはトウスのような白獅子ではなく、茶色い獅子人だ。

 俺の言葉に僅かに困惑し、トウスは眉根を動かした。

「こいつ・・・。まさか。いやしかし、こいつは樹族の剣士ではねぇ。悪魔だ」

 白獅子が小さな声でそう呟いたのが聞こえた。

 おめぇの親父は俺の事を話したのか?

(樹族国にトウバの息子、ましてやゴブリンがいるってこたぁ、多様な人種の往来が容易になったって事か? じゃあトウバは奴隷解放運動で何かしらの爪痕は残したんだな)

「俺がなんとかしないと・・・。俺のせいなんだ・・・・。俺が・・・」

 トウスとまた鍔迫り合いをしていると、悪魔の耳にオビオの葛藤する声が聞こえてくる。

 獣人の重い薙ぎ払いを飛び退いて躱し、オビオを見る。

 村人が死んだことにショックを受けるオビオの顔を見て、俺は怒りが湧いてきた。

(―――厚かましい!)

 ただの料理人のくせに厚かましいわ! 奴は、ここにいる全ての弱者を救えると思っているのか! 何様だ!

 ヒジリのようにパワードスーツを身に着けた格闘家兼科学者でもねぇ、ただの一般人が厚かましい!

 すると俺の心の声を代弁するが如く、邪悪なるピーター君がオビオを諭してくれた。

「思い上がるなよ、オビオ」

 小さな子供が無理やり師匠キャラを演じているような、オモシロ声が聞こえてくる。

「その生意気な声は・・・ピーターか。んだよ!」

 オビオは隠遁スキルを使って気配と姿を消すピーターを探すも、ただの料理人に見つけられるはずもなく、キョロキョロとしている。

「あのキリマルに刀を持たせたのは俺なんだ! だから俺が何とかしないと駄目だろ!」

 まぁ! なんと責任感の強い料理人なのでしょうか。(CV:麻生美代子)

「だから思い上がるなって言ってんの。料理人のくせにさ」

 そうだぞ、オビオ。邪悪なるピーター君の言う通りだぞ。

 スゥ―ッと集会所の入り口近くにある棚の陰からピーターは現れ、オビオを睨んでいる。

 地走り族ってのはどいつもこいつも、子供みたいで可愛いはずなんだがよ、奴はなにをどうしたらそんなに顔を歪ませられるのかってぐらい、滑稽な顔をしている。きっとあれはピーターの中で一番怖い顔なんだろうよ。

「お前にはお前の戦い方があるだろって話をしてんだよ。俺とオビオはパーティの中でも戦闘に不向きだ。俺は潜んでようやくトウスさんの通常攻撃レベルの力が発揮できる。なのでまだ役に立とうと思えば立てる」

 ほぉ。バックスタブでとはいえ、トウス並みの攻撃力が出せるならスカウトの中じゃ有能な方じゃねぇか。

「じゃあそうしろよ」

 オビオがピーターに不貞腐れて返事をする。

 そうだ、そうしろ。斬り殺してやるからよ。早く背中に来い。

「やだよ、俺みたいなのは敵に見つかって反撃されたら即死だろ! だからさ、俺とオビオでなんかやるんだよ。勿論、作戦を練るのも攻撃を受けるのもオビオ。何とかしたいんだろ? オビオは」

 ピーターがオビオに”邪悪なる“という二つ名を付けられている意味がよくわかったぜ。奴は間違いなく属性(アライメント)が悪。

 そして二人はゴニョゴニョと作戦会議を始める。まぁ悪魔の耳に丸聞こえなんだけどな。

 今回、俺はコズミックペン相手に試してみてぇ事があるんだ。だから乗ってやるぜ、その幼稚な寸劇スキットに。
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