殺人鬼転生

藤岡 フジオ

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オビオとサーカ

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 クロノ邸では誰もがオビオに愛想が良い。

 なぜかというと、この背の高いコックが一ヶ月前に来てから、料理が格段に美味しくなったからだ。

 固くボソボソとしていたパンは柔らかくしっとりとし、料理は今まで味わった事のない程の旨味がたっぷりと含まれている。これを喜ばない者はいなかった。

 屋敷の殆どの者が食事とは、生きるための作業であると心の中で思っていたが、今はそれが楽しみに変わっていた。

 退屈な日々に楽しみを増やしてくれたコックが、今日はどんな美味しい料理を作ってくれるのか、どんな驚きがあるのか。

 休憩時間に好意的な仲間に囲まれて、オビオはにこやかに冗談などを言い合って別れ、階段を登ると屋敷の一室に入る。

「今日もクロノさんは城から帰ってこないとよ、サーカ」

 お姫様のような白いドレスを着るサーカは、ソファに座って肘掛けに寄りかかって頬杖を突いている。

 サーカは他国の貴族なのでお姫様のような扱いを受けている。この屋敷の主は一般人で、使用人たちも一般人だ。貴族に対して無礼な態度をとろうとはしない。

「新たな情報は? あのウィザードの助力がなければ、この田舎島から脱出する手段はないのか? オビオ」

「この島に強力な転移結界がある以上、脱出手段はないだろ。寧ろ、権力者のクロノさんに拾ってもらえた事を感謝しろよ。彼の助力や情報が無ければ、俺たちはわけのわからないまま、この地で果てていたかもしれないんだぞ。魔物の霧が俺たちを人間族の住む島に飛ばしただけだったのは、不幸中の幸いだったな」

「代わりに、入れ違いでブラッド領で化け物が暴れているかもな」

「嫌な事を言うなよ。例えそうだとしても、ブラッド領は霧の魔物を倒すために存在しているようなもんだろ。あのエリート樹族たちが全滅するとは思えないな。どこかの偉そうな自称エリートと違ってさ」

 オビオは皮肉でサーカにそう言ったが、彼女は何かを考えているのかリアクションがなかった。

 それを寂しく思いつつ、オビオは腕を組む。

(それにしてもおかしいな・・・)

 魔物の霧は暫くその場所に留まっており、自分の世界へ帰る選択肢もある。しかしオビオを巻き込んだ霧はニムゲイン王国に来るとすぐに消えてしまった。

 街道の端で途方に暮れる二人は、馬車で通りかかった無愛想なクロノに拾ってもらわなければ、今頃どうなっていたかとオビオは考える。

(言葉は翻訳デバイスでなんとかなったが、全てゼロからの出発は正直きつかったろう。無愛想な人だが、クロノさんに出会えたのは幸運だった)

「レッサーオーガの住む島があるという噂は聞いていたが、本当だったとはな」

 サーカはこの一ヶ月、人間族とエルフしか見ていない。

「なんだよ、急に。そんな国もあるだろうさ。色んな種族がいるこの星ならさ」

「とはいえ、クロノは樹族に似ていたから、レッサーオーガと樹族の間の子かもしれん」

 オビオはそれを聞いて笑う。ヒジリのような科学者でなくとも、植物と動物の間で子を作る事なんてできないと分かっているからだ。

「プッ! そんなわけあるか。お前らの祖は植物だろ。俺らは動物。どう足掻いても子供なんて作れやしないさ。クロノさんはエルフっていう種族だよ」

「エルフだと?」

「ああ。俺たちのお伽噺に時々出てくる種族だ。本当にいるとは思わなかったけど」

「妖精とかの類か?」

「まぁそういう事になるのかな? 識別の指輪で握手した時に進化の系譜まで見れたけど、思念体・・・、え~とサーカたちの言う、精霊が人間に憧れて肉体を得たとあった」

「戯言を・・・」

(お前がそれを言うのか。俺からしてみたら、お前らの存在も十分戯言のようなファンタジーなんだが?)

 ヒジリと同じく四十一世紀の地球から来たオビオは、魔法と異種族だらけのこの星に来て毎日驚いてばかりだ。

 今も三つ首のヤモリが壁にいる。視線が合うとヤモリは白い壁に擬態して消えた。

(俺にも宇宙船やアンドロイドを持てるだけの能力があればなぁ)

 そう言ってオビオは、クロノが自分用に特注してくれた大きなベッドに寝転んで天井を眺めた。

 惑星ヒジリを発見をする、という偉業を成した大神聖は、祖父母が永遠の死を受け入れており、その見返りとして莫大なボランティアポイント(お金のようなもの)を得ていた人物でもある。

(祖父母の遺産と知的生命体のいる惑星を太陽系で見つけたという偉業で、所持しているボランティアポイントは凄まじいだろうな)

 地球では誰もが働かなくても生活に困ることなく生きられるが、専門的な知識や技術、物などを手に入れようとするとボランティアポイントが必要になってくる。

 永遠の死とは、今や不死となった地球人が完全に世界から消える覚悟を受け入れるという事だ。

 人口が一定数になるよう管理されている地球では、肉体も記録データも消すという遺言は、世界に新たなる命が芽吹くという祝いの言葉でもあるのだ。

 そうなると子供を欲しがる人たちに、限りなくゼロに近い確率の抽選で、そのチャンスが巡ってくる。当選日は一大イベントになるのだ。

 新たなる可能性に命を託し、永遠の死を受け入れた者は名誉を受け、石碑に生前の姿と声を繰り返すだけの簡易ホログラム映像を残すのみだが、それでも遺族に対して人々は敬意を常に示すようになる。

(聖坊っちゃんはいいよなぁ。元々優遇されてて尚且、転移事故で白々しいぐらいに偶然に、この星を見つけて、地球との通信手段を得たのだもの。元は無名のゴリマッチョ科学者だったのに、今や地球では知らない者はいない超有名人。片や俺はただの料理人。パワードスーツもなけりゃ、相棒のアンドロイドもいない。何なら違法入星している罪で、ヒジリに見つかれば、訴えられる可能性もある。俺にあるのは、料理の腕とすっかりお姫様気分の傲慢な女樹族だけか・・・。でも美人だからいいか。ふへへ)

 オビオはサーカに出会った当初から惚れていた。

 眉毛を隠す整えられた前髪、ストロベリーブロンドのポニーテール。耳さえ長くなければ人間とそう変わらない。ほんの僅かに緑がかった肌をしているのは血管を流れる葉緑素のせいか。

 そのサーカが鋭い目をしてオビオを睨んだ。

「おい! 私を見て、何を想像している? そういうのを視姦というのだぞ、オビオ。妄想の中で私を犯しているのだろう? 汚らわしい! 視姦という言葉と意味を、少ない脳みそに刻み込んでおくのだな、間抜け面のオーガ!」

「視姦って言葉ぐらい知っとるわぃ! っていうか、視姦なんかしとらんわ! どアホ! うぬぼれんな!」

 オビオは思わず出身地の関西弁が出る。

 大阪シティ、センバヤシの出身なのだ。四十一世紀の大阪で方言を使う者は殆どいない。使うのは感情的になった時のオビオくらいだ。

(ほんとサーカって性格悪いよなぁ。性格さえ良ければ完璧なのに・・・)

 ハァと溜め息をついて、オビオはベッドから起き上がると、ドアまで歩いてドアノブを握る。

 そのタイミングでドアの向こう側でドアノブを回す者がいたので、すぐに力を緩めるとドアが開いた。

「急用の為、ノックもなしに失礼します。オビオさん、クロノ様がお城まで来てほしいそうです。サーカ様も」

 室内でオビオとサーカのラブロマンスが繰り広げられている事を期待していたらしき赤毛のメイドが、頬を赤く染めて笑って誤魔化す。

 オビオもサーカも、突然の呼び出しに何事だろうかという顔をして視線を交わした。
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