殺人鬼転生

藤岡 フジオ

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強さゆえに

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 知らなかったぜ。聖騎士の【閃光】の魔法に、目眩まし以外でこんな効果があるなんてな。

 俺とピーターとダークは、潜っていた影から強制的に弾き出された。

「以前の僕ではないと言ったはずだ!」

 生意気だぞ、早漏のリッド。

 そう思っている間にも速攻の帰還の祈りが・・・、なぜかダークにかけられる。

(あいつらまじでダークを俺だと思っているのか?)

 俺はまるっきり無視されているような気がしてならない。ダークは「フハハハ!」と笑って負のオーラを撒き散らしている。

「無駄無駄無駄無駄無駄ッ! 我の力の前に祈りなど無意味なり!」

 まぁお前は悪魔じゃなくて人間だからな。悪魔や召喚獣を元の世界に強制送還する祈りは効かないだろうよ。

「馬鹿な!」

 僧侶たちはほぼ命中する祈りを外した事に驚いて、首を伸ばす。

 いや、無視される俺の立場よ。なんかおかしいぞ。またQが絡んでいるんじゃねぇだろうな? まぁいいか。あいつはこの世界じゃ、力をあまり発揮出来ないみたいだしな。高みの見物と洒落込もうじゃねぇか。

 リッドが聖属性の付与された剣を中段に構えて、地面を滑空するように走ってダークに突進する。

 しかし、武器のリーチはダークの方が上だ。

 剣の一撃よりも早く、空間を切り裂く鎌が聖騎士見習いを襲う。

 暗黒騎士の通常攻撃は常に空間を切り裂き、その亀裂に少し遅れて小さな爆発が発生する。どういう仕組みかは知らねぇ。多分魔法のなんかだ。

 空間を切り裂くと言っても時間差次元断のような強烈なものではなく、武器性能の底上げのような軽いものに見える。それでも物理防御を無効にする攻撃は恐ろしいものだ。

 それを恐れもせずにリッドは右からの水平斬りに突進して、鎌の柄を中盾で押しのける。しかし、湾曲した大鎌の先が背中を刺した。

「くっ!」

 金髪碧眼の聖騎士見習いのハンサムな表情が苦痛に歪んだが、それでも突進できるだけの気力が残っていた。

 聖騎士リッドの恐れ知らずな行動の原因は、後衛の僧侶があっという間にリッドの傷を祈りで治してしまうからだ。

 こりゃやべぇぞ。

 ダークは中距離戦が得意な戦士。しかも防御力自体は低い。影に潜って回避するにしてもすぐに【閃光】の光魔法で炙り出されるだろうぜ。

 いくら普通の暗黒騎士よりも耐久力が高いとはいえ、敵に懐に入られると相当不利なのだ。

 戦い方として、リーチの短い武器を持った者が、長い得物の持ち主の懐に素早く入るというのは基本中の基本だ。

 経験値の低いと躊躇したりして戸惑いが出るものなのだが、リッドは胆力を見せて真っ直ぐに踏み込んでくる。

「ハ! 我が弱点を克服していないとでも? 敵意を跳ね返せ! 紅月!」

 ダークの腹に赤い月が浮かんだが、リッドは今更止まれない。

 月に聖属性の剣を突き刺すと、リッドチームの後衛に赤い月が現れて、剣が僧侶の肝臓を突き刺した。

「いぎゃああああ!!」

 肝臓を刺されれば人は激痛で苦しむ。良い声だ、もっと喚け。

 もう一人の僧侶が致命的な傷の癒やしで、仲間をすぐに治してしまったので悲鳴は止む。僧侶がいるチームは実にしぶとい。

「ほう、ダークは俺が思っている以上に強えじゃねぇか。こんな強い奴が在野にいたとはよぉ。召し抱えなかったのは国の損失ともいえるな」

「性格に問題あるから採用しなかったんだろ」

 邪悪な顔をしたピーターが俺の影に沈みながらそう言った。俺が狙われていない事に気が付いたみてぇだな。流石は小賢しいピーター君。

「お前もだろ、ピーター」

「うるさいよ」

 影に爪を突き刺してやろうか。そうすればお前の脳天に突き刺さるぞ、邪悪なるピーター君。

「く! 卑怯な! というか、そのスキルは味方にも跳ね返る可能性があったのだぞ!」

 なんだと?

 って事は紅月は敵味方関係なくランダムに攻撃を跳ね返すスキルか?

 まぁビャクヤはリフレクトマントと分身の魔法に守られているし、リンネには分厚い鎧がある。ピーターは影の中。一番危なかったのは俺じゃねぇか。聖属性の剣だと普通にダメージが通るぞ!
 
「ヒヒヒ、卑怯上等! 我を誰だと心得る! 正義を説きながら、小姓の後で腰を振る法王ではない!」

 あぁ、中々いい挑発だ。やっぱこいつ俺とキャラが被るわ。アニメだと死亡フラグだけどよ。

「貴様! なんという侮辱を!」

 リッドは顔が真っ赤だ! そりゃそうだ。法王はロリペドだと言われたようなものだからな。

 紅月の効果が消えたのを見計らってからの、白い鎧を着たリッドのタックルが炸裂する。

 ダークは吹き飛び転げ回るが、全身を包む黒い革鎧が衝撃を吸収してくれるので、体勢を整える余裕があった。

 この間ビャクヤたちはなにをしているかというと勿論、神殿騎士や司祭の魔法攻撃を引き受けている。

 と言っても神殿騎士たちは、ビャクヤの分身や俺の分身と戯れているだけだが。

 ビャクヤも調子に乗ってきている。ナンベルのようなタップを踏んでから、神殿騎士をおちょくるように弱い魔法を撃っていやがる。いや、殺さないように注意しながら、弱い単体魔法を選んで撃っているのかもしれねぇ。

 これまでの冒険に比べてこの大会はイージーモードだからな。一撃必殺の多い俺はともかく、搦手の多いビャクヤには余裕だろう。まぁ油断すると歯抜け戦士に腕を持っていかれるような珍事も起こるがな。

「この戦いは、案外難しいかもよ」

 影の中からピーターが俺の考えとは反対の事を言う。

「なんでだ?」

 まぁ理由はわかっているが、一応聞いてみる。

「だってそうだろ? 俺たちが実力を発揮なんてすれば敵チームを殺してしまうじゃないか。そうなると負け確定。かといって手加減しながら戦っていると、いつまでも僧侶が回復してしまう。長期戦必至じゃないか」

「そんなのは最初から承知だ、アホが」

 一撃必殺のアタッカー揃いのビャクヤチームは、確かに手加減が難しい。

 臆病なピーター君でも、バックスタブの一突きで、腕力の高い獣人並の攻撃力を発揮する。そんなものを僧侶にぶちかませば、即死間違いなし。

「お前、パチンコ持ってるだろ?」

 俺は退屈で腕をぶらぶらさせながらピーターに提案する。

「あるけど、なに?」

「それで後衛を狙え。僧侶だけじゃだめだ。司祭も回復手段を持っているからな。ほぼ同時に三人の頭に石をぶつけて気絶させるんだ。名付けて――――、俺様の天才的発想に脱帽したピーターが、平伏しながら敵を気絶させる作戦!」

「作戦名長いわ! 平伏なんかしてたらパチンコを撃てないだろ! それにそんな都合よくいくかよ!」

「いや、俺相手に毒クッキーを食わせたお前ならやれる。俺が奴らの相手をしてもいいんだが、爪の裏で頭を叩いただけでも僧侶たちはひしゃげて死ぬんだわ。それこそクッキーみたいに平らになるんよ。それでも良いならやるが?」

「おえ! 想像しちゃっただろ! わかったよ。やるけど、ちゃんとフォローしてくれよな!」

 するか、アホ。なんなら返り討ちで死ね!

「わかった、わかった。尻拭いはしてやるから、安心して行ってこい」

 影に沈みながら訝しむ視線を残して、ピーターは影世界に消えた。
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