料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

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酒場と貴族

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 高飛車な樹族が支配する(俺はチラリとサーカ・カズンの顔を見る)城下町アルケディアはもっと陰気な街かと思っていたが、活気があって空気は明るい。なぜかというと露店で商売をする者の殆どが地走り族で、可愛い子供のような声を一生懸命張り上げて客寄せをしているからだ。

「美味しいお肉はどうですかー!健康な肉虫から取れたお肉ですよー!」

 え?肉虫ってなに!うわぁ!なんか気になる。

「いらっしゃい!いらっしゃい!ドラゴンフライ・フライが安いよ~!」

 三十センチほどの棒に大きなトンボのフライが刺さってる・・・。羽にまで衣が付いているよ・・・。一本1000銅貨か。何気に高い。地球で言うとデュプリケイトしてない本物のエビフライみたいなものかな?

 それにしても・・・。

「はぁぁ。地走り族ってほんと可愛いなぁ。禿げてるオッサンですら可愛い。オッサンなのに子供みたいだ」

「それはそうだろう。オーガと違って我ら樹族や地走り族は死ぬ数年前まで若さを保つからな。寧ろ干し果物のように徐々に皺くちゃになっていくオーガやドワーフの方が気持ち悪いわ」

 露店の食べ物を眺めつつも、視界の端で手頃な値段の宿屋の看板がないかを探している俺の横で、呑気に干しリンゴを齧るサーカはいつものように憎たらしい。

「樹族とか地走り族って老化しないんだ?それは羨ましいな!(俺たちは地球人は普通に歳をとるし老衰で死ぬからなぁ。寿命で死んだらまた18歳から再スタートだけど)」

「羨ましがったところでお前は皺くちゃになって死ぬ運命だ。嘆け」

 あぁもう、なんだこいつ。性格悪すぎ。やっぱりエリムス様に厄介払いされたんじゃないのか?

「それにしても誰も俺の事を気にしていないな。騎士と一緒だと皆安心するんだろうな」

「当たり前だ。皆お前の事を私の奴隷か何かだと思っているのだろうさ。感謝して私の足を舐めろ」

「いくら涼しくなってきたとはいえブーツの中は蒸れて臭そうだし遠慮しとくわ。そういえば、サーカは何でシルビィ様の屋敷の外で待っていたんだ?」

「そ、外の空気を吸いたかったからに決まっている!」

 嘘だな。あそこはメイドですら高位の貴族。そんな中で田舎貴族の下級騎士がいても居心地が悪いだけだ。

「まぁ大貴族の屋敷だもんな。誰だって緊張するわ。それにしても宿屋が見つからないな。大部屋がある宿屋って中々ないもんだな」

「土地代や税が高いのだから小さな部屋を用意して沢山の客を囲うのは当たり前だろ。皆が雑魚寝するような宿屋はアルケディアには無いぞ。貧民街の宿屋でも個室だ。お前は足が棒になるまで無駄に部屋を探し回っていればいい。私はこの宿屋に入る。明日の朝十時にこの宿屋の前で集合だ。ではな」

「ちょ!おい!俺は右も左もわからないんだぞ!もう暫く一緒にいてくれてもいいだろ!一緒にいてくれないと俺がトラブルに巻き込まれる」

「うるさい、知った事か。それにお前は一つ忘れている事がある。それのお陰で私がいなくてもお前は絡まれる事はない」

 何を忘れているって?本当に俺を置いて宿屋に入っていきやがった。っていうかあいつ金あるのか?アルケディアの宿屋は高いって自分で言ってたろ?まぁ経費で落ちるんだろうけども。

 ぽつぽつとあちこちでランタンや魔法の街灯が灯り、太陽が山の向こうに隠れようとしている。

 うう、冷えてきた。俺は閉店の準備を始めた店で大きな黒い布を買ってマントのように羽織る。一枚羽織るだけで格段に暖かくなるもんだな。

 ん?宿屋からサーカがすぐに出てきた。耳が真っ赤だ。何があったのだろうか?俺は近づいてみる事にした。

「どした?」

「う、うるさい!この宿屋は気に入らないからお前の宿探しをもう少し手伝ってやろうと思っただけだ!」

「でも大部屋のある宿屋は無いんだろ?」

「もしかしたらあるかもしれないだろう。一緒に探してやると言っているのだ。礼ぐらい言え」

 ああ、もしかして宿泊料の高さに驚いて出てきたとか?つまり経費で落ちない額だったと。或いは一日の宿泊費の上限が決まっているとか。まぁ俺を監視するという前例のない任務だからあまり予算を割いてくれなかったのだろう。

「いやぁ助かりますよ、騎士様が傍にいてくれると。ならず者や魔物にも襲われないしね、今日の焚火の番をよろしく」

 野宿するしかないという遠回しな皮肉を言うとサーカが鉄の脛あてで俺の弁慶の泣き所を蹴った!

 蹴った後、彼女は腕を組んでそっぽを向いてる。せめてほっぺたを膨らませてくれたら萌え度が上がったのに。

 ああ、本格的に日が暮れてきた。本腰入れて宿屋・・・もう馬小屋か納屋でもいい。早く見つけないと・・・。

「おにーちゃん!」

 ん?誰だ?俺の股の下から聞き覚えのある声がする。薄暗闇になりつつある中で目を凝らして足元を見た。

「チッチ!」

 数日前によくわからない場所で出会って以来だ。俺はチッチを抱き上げるとお餅のようなほっぺたにキスをした。どうもこの地走り族という種族に俺は弱いようだ。子供だと尚更可愛い。

「キャハ!くすぐったいよ!お兄ちゃんは南の獣人国の国境に向かったはずなのに何で逆方向のアルケディアにいるの?」

「んーまぁ色々あってね。気が付いたらアルケディアにいたんだよ」

「ふーん」

「チッチ、お母さんは?」

 まさかこの夕闇のアルケディアを一人で子供が歩いているわけじゃないよな?

「お母さんは今からお仕事だから私はお店のお部屋で明日まで待つ事になってるの。退屈だったから窓の外を見ていたらオビオが見えたから出てきたんだよ!」

「仕事?」

「うん!新しいお仕事!お客さんにお酒注いだりするお仕事だって!」

 水商売か。何かわけがあるのかな?

「お父さんはどうしたの?」

「お父さんは大工さんなんだけど、オビオと別れた日に仕事中に屋根から落っこちて大怪我しちゃったの。今は教会で治療してもらっているから御薬代とかがかかるんだって・・・。だからお母さんが今日から働く事になったんだ」

「あれ?僧侶とかに頼んだらすぐに治してくれるんじゃないの?」

 俺は聖騎士見習いのフランちゃんを思い浮かべた。彼女のように祈りの奇跡を起こす者が傷や病気を簡単に治してくれるはずだが。

「馬鹿か、オビオは。本当にお前は世間知らずだな。僧侶は高い寄付金を払わないと癒してはくれないぞ。そもそも地走り族の貧乏大工ごときに僧侶が祈ってくれるものか。坊主どもは金に目がないからな」

「でもフランちゃんはタダで癒してくれたじゃないか」

「彼女は能力こそ高いがまだ見習いだからな。正式な聖騎士になれば神聖国モティの息がかかった神学庁の下僕になって、癒しの祈りの報酬を怪我人や病人から毟り取るようになる。で、その金の一部は我が国の神学庁経由で神聖国モティの法皇様・・・に渡るって寸法だ」

 サーカは法皇様ってところを強調している。嫌いなんだろうな、法王とか僧侶とかの宗教家の事が。というか、サーカは人自体を嫌っていそうだけど。

「そっか・・・。おいそれと癒しの奇跡なんて受けられないんだな・・・。大変だな。なんか手伝える事あるかな?」

「おい!オビオ!宿を決めるのではなかったのか?」

 眉間に皺を寄せたサーカの目が俺を睨んでいる。腰のメイスに肘を掛けてるのは威嚇のつもりか?

「ああ、だったらサーカ一人で探してくれ。俺はこの子とこの子の母親に借りがあるんだ。ウォール家に捕まる危険を冒してまで赤いバンダナを俺の腕に巻いてくれたんだからな。借りを返したい」

「ふん、義理堅い事だな。好きにしろ。では明日、アルケディアの中央噴水で10時に待ち合わせだ。中央噴水は目立つからすぐにわかる。遅れるなよ」

「ああ」

 監視役を初日から放棄しやがった。俺がこのまま一人で旅立ったらどうするんだ?

「チッチ、お母さんの店に案内してくれないか。それからチッチは部屋に戻るんだよ。夕飯はちゃんと用意してくれているのか?」

「うん、お母さんのサンドイッチがあるよ」

「よし」

 俺に出来る事の選択肢はあまりない。精々まだ客が付いていないだろうチッチの母親の為にお金を使う事ぐらいだ。この手の店は場末だと売春宿を兼ねてるが、ここはアルケディアの高級店っぽいからそれはないだろうとは思う。単純に客とお酒を一緒に飲んで愚痴を聞く。俺はまだ十七歳なので酒は飲めないが、チッチの母親を指名するぐらいはできるだろう。

 エリムス様から旅の路銀としてから貰ったお金は結構な額がある。銀貨が十枚。つまり金貨一枚分だ。昔の日本の貨幣価値に当てはめると十万円ぐらいになるかな?なんの根拠もないけど半分ぐらい使っても大丈夫だろ。宿屋探しはもういいや。暫くは野宿で我慢しよう。

「こっちだよ、オビオ。お母さんも喜ぶと思うよ」

 初めて見る未知の世界に俺は緊張しながら、濃い紫に金の縁取りをした扉を開けた。

「いらっしゃ~い」

 体を小さくして扉をくぐり部屋に入ると、にこやかに振り返った地走り族や樹族のホステス達が一斉に驚いて悲鳴を上げた。

「きゃーー!オ、オーガ!」

「怖いオーガじゃないよ!もう!」

 チッチが俺の前で大の字になって庇ってくれている。

「あら!オビオ!」

 ホステスの中から天高くそびえる巻き糞のような髪型のチッチのお母さんが前に出た。そして俺の脚に飛びついてくる。

 それにしても・・・なんだその髪型。

「またお会いできて嬉しいです、チッチのお母さん」

「オビオは獣人国を目指していたはずじゃ・・・。でも会いに来てくれて嬉しいわ。ママ、紹介するわね。彼は料理人のオーガ、オビオ」

「あら?オーガのお客さんなんて初めて!ちょっと驚いたけど嬉しいわぁ!それによく見ると貴方、まつ毛も長いし可愛い系ね。ンフュ!」

 ぐぅ!またお姉系樹族!テラテラ光った唇を半開きにして舌なめずりするんじゃない!モッコスさんといい、このママといい俺は性を超越した人と関わる運命なのか?樹族なのに水商売をしているって事はこの人や他のホステスも貴族じゃないんだろうな・・・。

「ようこそ、オビオさん。どうぞソファーにお座りになって。今飲み物を用意しますから。チッチちゃんはそろそろお部屋に戻ろうね。これから貴方のお母さんはお仕事の時間だから邪魔しちゃだめよん?」

「はーい」

 チッチは素直に二階への階段を駆けあがっていった。

 俺は地球人でも座れる大きなソファーに腰をかけた。きっと樹族ならばもう一人座れるのだろうけど、俺の尻は彼女たちよりもデカい。遺伝子操作する前の小さかった地球人ですら一人と半分ぐらいしか座れないかもしれない。

「流石はオーガね、本当は隣にホステスが座るのだけども・・・。いいわ、ホッチさん、隣に椅子を用意するからオビオさんのお相手よろしくね」

 チッチのお母さんはホッチさんっていうのか。そういや出会った時に名前を聞いてなかったな。お父さんはアッチとかそんな感じか?

「そういえば、ホッチさん。バンダナありがとうございました。お蔭で道中冒険者に襲われる事がなかったです。あれをチッチに巻かせたのはホッチさんなんでしょう?」

「ああ、あのバンダナ?オビオに主人がいますよって勘違いさせる為にチッチに巻かせたの。役に立って嬉しいわぁ」

「俺の為に・・・ウォール家に捕まる危険を冒させてすみません・・・」

「ふふふ。いいのよ。だってバンダナ一枚程度なら何とでも言えるでしょう?それにあれは厳密にはウォール家の炎の赤色じゃないし」

 ぬぉ!中々どうして可愛い顔してるのに、このお母さんは強かだ!

「ははは。拷問官さんも同じ事を言っていました」

「まぁ!拷問されたの?オビオ!じゃあウォール家の人に捕まったって事かしら?」

「捕まりましたが、拷問はされてませんよ。魔法で心を読まれて終わりでした。特に怪しい者ではないと解ってくれたようで、不法滞在の罪を帳消しにするという条件で野営地まで行って料理を作らされましたけど」

「野営地っていっても安全じゃないでしょう?戦闘に巻き込まれるだろうし。よく任務を成し遂げれたわね!凄いわ!オビオ!」

「まぁシルビィ様も非戦闘員なのによく頑張ったって褒めてくれました。もっと褒めてください」

「も~オビオったら!うふふ!」

 ホッチさんと笑ってると向こうからママがしゃなりしゃなりと歩いてお盆に水とワインの入った瓶を持ってくる。

「おまたほ~。オビオちゃんは何歳かわからないから水とワインを用意しました~」

 ガラガラ声でママはテーブルにワインと水を置いた。

 ママは見た目が中性的だから黙ってると女性だが、声を出すと酒焼けした喉の奥で野太い声がするので男だと解る。あと喉仏でも。

「俺、まだ17歳なので水を頂きますね。あの・・・それから今日は予算が銀貨五枚しかないのでそれでお願いします」

「あら、中々賢い子じゃない。最初に予算を言ってしまうなんて。大体の客は見栄張ってお金が足りない事を隠して後で召使いにお金を持って来させたり、支払えなくて体で払うのにぃ。ンフ」

 体で払う?こえええ!一体ママに何をされるんだ・・・。まぁ想像はつくけど考えないようにしよう。

「銀貨五枚だと、新人のホッチさんとこのワインで丁度ね。先にお代頂いとくわね」

 ママにそう言われて俺は亜空間ポケットから銀貨の入った革の小袋を取り出し、銀貨五枚を手渡した。

「んまっ!無限鞄!オビオちゃんはお金持ちって感じじゃないから、購入したようには見えないし、能力持ちね?」

「俺にもよく解らないけど、そうなんですかね?(本当は地球人の標準装備だけど)」

「オビオは記憶喪失で家の近くで寝転がってたのよ、ママ。だから何も知らないの」

 ナイスフォロー、ホッチさん。

「まぁ可哀想に~。行くあてがないのなら私がお世話してあげてもいいのよ?ンフフ」

 背筋に寒気が走った・・・。食われる!この人の世話になったら絶対に俺の初めてを奪われてしまう!と、頭に警報がジリリリと鳴り響く。

「いや・・・あの、これから料理人として生きていこうと思っていて、あちこち旅して修行する予定なんです」

「偉いわねぇ。私なんて17歳の時は男の尻ばかり追いかけてたわよ。それにしても人の記憶って凄いのね。記憶喪失になっても自分が料理人だったって事は忘れてないなんて。やっぱり身に付いたスキルってのは記憶を失っても身についているもんなのねぇ」

 嘘をつき続けるのも何だか嫌なので俺が苦笑いしながら話題を変えようとしたら、入り口から誰かが入ってきた。

「よぉ。ママ。久しぶりに飲みに来たぜ!・・・ん?」

 眼帯をした如何にも荒くれ者といった雰囲気の樹族が入ってきた。その樹族は鋭い眼光を放って俺を見た後に仲間と一緒にテーブルにドカッと座る。

(樹族にしてはワイルドだなぁ)

 眼帯の男は黒い革装備にワンドを腰に二つ指している。魔法二刀流みたいな事するのかな?

 ママが急いでお酒を持っていく。

「ほんと、お久しぶりねぇ。今日はワンドリッター様はご一緒じゃないのぉ?」

「侯爵様がそうそう場末の店に酒を飲みに来れるわけないだろ。というかいつから奴隷オーガを雇うようになったんだ?ボディーガードか?誰かに嫌がらせでも受けてんなら俺が一言言ってやろうか?」

「まぁ嬉しいけど、そんなのじゃないのよ。彼はオーガのコックさんでこれから修行の旅に出るのよぉ。偉いでしょ?」

「って事は旅人か!よく国境を通してもらったな。最近はサヴェリフェ子爵の奴隷のせいでオーガのイメージは上がってからな。ちょっと前までこの国にいるオーガっていやあ奴隷しかいなかったのに、時代は変わったもんだぜ。俺はてっきり恩赦を受けたオーガが仕事探してウロウロしてんのかと思ったわ。だってそうだろう?あの忌々しいシルビィが闘技場を閉鎖したんだからよ」

 シルビィ様って魔法院を閉鎖したり闘技場を閉鎖したりしてんだな。というか持ってる権限凄くねぇか?王国近衛兵騎士団独立部隊隊長って・・・。どんな仕事なんだ?

「んまぁ!シルビィ様を呼び捨てだなんて、命知らずねぇギルちゃんは!」

「ちゃん付けは止めてくれよ、ママ。俺だって一応名ばかりとはいえ伯爵なんだぜ?それにしてもシルビィめ!あいつのお陰で俺はワンドリッター侯爵に縁を切られそうになってんだよ・・・ばっきゃろー!」

 もう酔ってる!はしご酒でもしてきたのかな?伯爵って結構偉くなかったか?確か子爵より上だよな。

「仕方ないじゃない。これも時代の流れよぉ。きっと奴隷商売もここまでなんじゃないかしらぁ?別の仕事でもしたら?」

 ふむふむ、ギルさんは伯爵だけど奴隷商人的な何かで、シルビィ様が奴隷売買を禁止する方向にもっていっているのが気に食わないんだな?

「汚い仕事でのし上がってきた俺様が真っ当な仕事なんてできるわけねぇだろ」

 自分で汚い仕事をしているという自覚があるのか。

「噂によるとよぉ、兄貴!あのサヴェリフェ家の奴隷オーガが奴隷制度を無くすようシルビィ様やシュラス国王陛下に進言したらしいぜぃ?」

 三下風の地走り族の子分、可愛い。

「なにぃ!くぅぅ!糞ったれのヒジリが!シュラス陛下もシルビィもあのオーガの言いなりだ!ワンドリッター様も元老院巻き込んでヒジリを弾劾するとか言ってるけどいつまで経っても動きやしねえ」

「そりゃあ仕方ないわよ。救国の英雄なんだもの、ヒジリ様は。エルダーリッチを追い返したり、魔王をあっさり倒したりしてんだから。魔王と千年も戦っていた魔法国スィーツの妖精女王様がこれ以上ないほどの喜んでるみたいで、彼に自由騎士の位を授けるって専らの噂よぉ?皆、英雄オーガのヒジリ様の味方するでしょうね。だから国民の支持が欲しい元老院はワンドリッター侯爵に迎合なんてしないわよ」

 噂には聞いてたけど、どんだけ強いんだよ大神聖は。魔王ってゲームだと最終ボスだよな?あっさり倒すってどうやったんだ?宇宙船カプリコンの再構成蘇生ビームを応用した消滅ビームでも当てたのか?そんな事したら地球で稼いだボランティアポイントをかなり支払わないといけないぞ。

「あぁ、むしゃくしゃするぜ・・・。そうだ!」

 禿眼帯のギルさんは酒で濁った眼を俺に向けてニタァと笑っている。

「そこのオーガのコック。ヒジリの代わりに一発殴らせてくれよ」

 何言ってんだ、このオッサン・・・。

「い、いやですよ・・・」

「な?な?金なら払うから。一発金貨一枚だ!破格の値段だろ!」

 一発十万円!うぉ!心が揺らぐ!しかし、それをしたら人間お終いな気もする。プライドを売るようなもんだし。

「なに馬鹿な事言ってんのよぉ、ギルちゃん。オビオちゃんは関係ないでしょ?も~。酔っぱらい過ぎよ」

 ママ、庇ってくれてありがとう。俺の視線を感じたママがウィンクしてくる。だめだめだめ!そんな事しても惚れないよ!

「じゃあこうしようぜ!オビオとやらは料理人なんだろ?料理を作って美味かったら金貨一枚払う。が、不味かったり気に入らなかった場合、顔面に一発拳をぶち込ませてもらう。これならいいだろ」

 なにがいいんだよ。そもそも大神聖と関係ない俺が何で殴られなきゃなんねぇんだよ!理不尽過ぎるぞ、ジャイアンかよ!でも金貨一枚は欲しい・・・。そうだ!料理対決みたいなもんだと思えば・・・。

「わかりました!俺が勝ったら金貨一枚、負けたら顔面に一発!その勝負受けますよ!」

「ちょっと、オビオ!貴方争いごとに弱いんだからやめといた方がいいわよ!鬼イノシシから逃げるオーガなんだから」

 俺のサポートスーツをぐいぐい引っ張るの止めてください、ホッチさん。伸びる素材で出来ていますから幾らでも伸びますよ。

「大丈夫ですよ、ホッチさん。俺、料理には自信があるんです!」

「でも・・・」

 ホッチさんの巻き糞ヘアーが萎れたように見えた。心配してくれているのか。

「オビオよぉ!よく言った!流石は戦闘種族のオーガ!料理人でも戦士の心を宿しているな!勝負を挑まれたら不利だと解っていても受けて立つなんて男の中の男よ!」

 褒めてくれるのは嬉しいんですが、手に持ったナックルに魔法を籠めて強化するの止めてくれませんか?ギルさん・・・。

「好きな料理とかありますか?ギルさん」

「そりゃ教えるわけにはいかねぇな。勝負はもう始まっている。俺様が何を欲しているかを考えながら料理を作るんだな!そんなに時間はかけるなよ?俺様は気が短い」

 より一層ナックルに魔力を籠めやがった!あんた、俺を殺す気でいるだろ・・・。

「食材は何があります?ママ」

「そうね、軽食に使うような物ならあるわよ。ベーコン、玉ねぎ、トマト、ジャガイモ、人参、キャベツ、パン、卵。でも本当にいいの?ギルちゃんは最初から不味いって言う気満々よ?」

「それを美味いと言わせるのが料理人なんですよ」

 よーしやってやるぞ!

「この材料で素早くできるのは・・・」

 ジャーマンポテトかな?あまり時間は無いとギルさんは言ってた。だったらすぐに始めよう。

 まずは地球で高いBPを支払って買った包丁でジャガイモの皮を剥く。俺の大事な一本だけの包丁。地球で一番の包丁職人キリマルの包丁だぞ!これをゲットするためにどれだけ無償労働をしたか。本物の食材しか口にしない信条の人達の為に朝から晩まで料理を作って提供してポイントを稼ぐ事半年!俺はやっと名匠キリマルの万能包丁を手に入れたんだ。本当はジャガイモの皮剥きに使うのは勿体ないぐらいだよ。

 というのも試練の塔の任務でピーラーをなくしちゃったからな。てか、トレーとフォークとナイフの殆どが返ってこなかった。皆記念にくれと言って傭兵達や一部の騎士がポッケやズボンのベルトに挟んで持って行ってしまったからな。まぁまだ亜空間ポケットに少し残っているからいいけど。でも、一個しかなかったピーラーは勿体なかった。誰だよ!置いといたテーブルの上から盗んだの!くそ!

「流石ねぇ。こんなにスルスルと途切れずに皮を剥く人は初めて見たわ。私何て分厚く皮を剥くから無駄にする部分が多くて・・・」

 ホッチさんが俺の腕前に感心してる。照れるなぁ・・・。

「でもジャガイモは芽に毒がありますから分厚く剥いた方がいいと思います。このジャガイモは皮が緑色になってないし芽もでていないので、薄く剥いているのです」

「まぁそうなの?私の村だとじゃがいもより石芋をよく使うから知らなかったわ。勉強になる~」

 なんだよ、石芋って・・・。日本の伝説になんかそんなの出て来たな。硬くて食べられない芋を坊さんにやったら天罰でその土地の芋が全部石のように硬くなったとかなんとか。

 フライパンにオリーブオイルで俺の持ってるニンニクを炒めて香りを油に染み込ませる。玉ねぎとベーコンを炒めている間に、時短でジャガイモを電子レンジでチンだ。

「ジャガイモが空中でクルクル回っているけどどういう仕組み?」

 ホッチさんが興味津々って目で見てる。地走り族ってのは好奇心旺盛で何でも聞いて来るなぁ。

「何も無い空中で回っているように見えますが、力場でジャガイモの周りを囲んでその中で熱を発生させているのです」

 滅茶苦茶端折ったけどこれぐらいの説明でいいだろう。俺も賢くないからそこまで携帯電子レンジの仕組みは知らないし。

「やだ!マジックアイテム!何者なのよ、オビオちゃんは。あ、記憶喪失だから解らないのよね。ごめんなさい。でも私が思うに、オビオちゃんは闇側の国でも相当なお坊ちゃまなんだと思うわ。だってこんな高そうな魔法の調理器具を持ってるのだもの」

 だから舌なめずりして潤んだ目で俺を見ないでくれ、ママ。

「あまり大っぴらにそういう調理器具は見せない方がいいかもしれないわね。それを狙って貴方を殺そうと思う人が出てきてもおかしくないわ」

 物騒な事言わないでください、ホッチさん。それに貴重な器具を持ってようが持ってまいが、あそこにいる眼帯の伯爵様は俺を殺したがってるようにも見えますが。

「火の通ったジャガイモをフライパンに入れて焼き色を付けてから、隠し味に御酢と粒マスタードをおおさじ一杯。後は塩と胡椒で味を調えて完成!」

 俺はジャーマンポテトをギル伯爵のテーブルに置いた。

「食べ終わったら感想を聞かせてください」

「おうよ。これねぇ・・・。オーガの国じゃ珍しい料理かもしれねぇが、樹族国じゃ名前すらないありふれた料理なんだが・・・」

「まぁそう言わずに食べてみて下さいよ」

 俺は少し小腹が空いたので、伯爵がジャーマンポテトを食べている間にキャベツパンと呼んでいる具乗せトーストを焼く事にした。

 パンを一枚取ってその上にスライスしたベーコン、刻んだキャベツ、スライストマト、チーズ、亜空間ポケットから自前のマヨネーズを取り出してかけ、携帯電子レンジのオーブン機能で焼く。

「おい!食い終わったぞ!」

 早っ!もう?

「評価はどうでしょうか?」

「ああ、美味かった。ベーコンの旨味が染み入ったジャガイモ、後味をスッキリさせてくれる御酢と粒マスタード」

「じゃあ・・・?」

「いいや、美味いが料理自体はありふれたもので気に入らねぇな。料理人なら珍しくない材料で珍しい料理を作ったりできるだろう?なんでこんな一般人が食うようなオーソドックスな料理を舌の肥えた俺に食わせた?」

「何言ってるのよ、ギルちゃん。オーソドックスでシンプルな料理こそ難しいのよ?誤魔化しがきかないんだから」

 ママはいつも俺の味方をしてくれてる。ほ、惚れてしまいそう。おっと、駄目だ駄目だ。俺の惚れやすい性格をなんとかしないと・・・。

「うるせぇ!客が何を欲しているか考えるのも料理人の務めだろうが!俺はワンドリッター様のお供で色んな料理を食べさせてもらってんだ!今更こんな芋料理で喜ぶか!さぁ!約束だ!オビオ!一発殴らせろよ?」

 ひえっ!伯爵の拳が俺をぶちのめしたくて真っ赤に光っている。

「ちょっと!ギルちゃん!止めなさいよ!美味しかったならもういいでしょ!」

 伯爵の絶対殴るという気迫が凄い。41世紀の地球人の平均身長である2m50cmである俺よりも90cmほど低い樹族がこんなに大きく見えるとは。

「ほら、しゃがめよ!オビオ!顔に一発入れられないだろうが!」

 くぅぅ!確かに伯爵の出した条件には美味しくなかったり気に入らなかったりというのがあった。しかも最初から殴る気満々でもあった。それを知りながら俺は勝負を受けたのだ。最初から殴られると解っていたのに、もしかしたらという甘い考えと過剰な自信がこの結果を招いた。仕方ない・・・。

 俺は諦めて跪き、歯を食いしばれと言う伯爵の言葉に従った。歯を食いしばったところで痛みが和らぐことはないだろうけど・・・。
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とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。 全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。 ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。 これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

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10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

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