料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

文字の大きさ
12 / 336

ネズミ使いの暗殺者 2

しおりを挟む
「チィ! うっとおしいオーガだギャ。なぜ光側の味方をしている!」

「(光側とか闇側とか知らねぇっつーの!)お世話になった人に、味方するのは当然だろ」

「そうキャよ。裏切り者め。じゃあお前を真っ先に殺ーす」

 ひえぇ! そりゃねぇよ! 俺、手を怪我してんですけど? もういいでしょ! 料理人の命ですよ! 手って!

「魔法であのゴブリンを何とかできないんですか? ママ」

「出来ない事はないけど、暗殺者は大抵、簡単な魔法への対抗措置はしているわよ。恐らく【眠れ】の魔法は効かないと見ておくべきね」

「他に魔法は?」

「【魔法の矢】ぐらいかしら? あの三人なら使えると思うけど・・・」

「ギル伯爵の子分さんたち!【魔法の矢】であのゴブリンを撃ってください!」

「でも暗殺者は、陰に潜んで狙えねぇんですが?」

 魔法って万能なんじゃないのかよ! 相手が潜んでいても追尾して攻撃したりしないんですかー!

 うわぁぁ! ゴチャゴチャ言ってる間に、側面にある建物の陰からゴブリンが!

 俺が成す術もなく驚いていると、ダガーが顔の前まで迫ってきた・・・。

 ――――その時!

 攻撃の成功を確信してほくそ笑むゴブリンの顔が、横から割り込んできたメイスの一撃で凹み、勢いよく吹っ飛んでいった。

「ふん。試練の塔で奮戦した時のオビオは、どこにいった?」

 くぅぅ! こいつには助けられたくなかった! メイスで自分の肩をトントンと叩いて、俺をニヤニヤしながら見つめる憎たらしい顔がそこにあった。

「サーカ・・・」

「サーカ様、ありがとうございます、だろう?」

 抜群のタイミングで現れたのが、実に嘘くさい。俺がピンチになるまで待ってたんじゃないだろうな?

「お前、宿探しをしてたんじゃないのかよ・・・」

「サーカ様、ありがとうございますはどうした? オーガは命の恩人に礼すらいえない程、知能が低いのか?」

「くそ! サーカ様、ありがとうございました!」

 俺はやけくそになって礼を言った。

「よろしい。さてゴブリンだが・・・。なぜ同じ闇側種族であるお前が狙われた? お前は同胞から恨みを買っているのか?」

「俺じゃねぇよ。奴隷商人の伯爵様を狙ってたんだよ、ゴブリンは」

「ほう?」

 俺が痛みに耐えながら手に刺さったダガーを引き抜いていると、ママが耳打ちをしてきた。

「この騎士様は誰なの? オビオちゃんのお知り合い? もしかして恋人?」

「はぁ・・・、そんなんじゃないですよ。俺の監視役として同行している下級騎士ですよ」

「あらぁ。まあでも・・・。オーガが一人でウロウロするなんて事、普通は出来ないわよね。そりゃ監視ぐらいはつくか・・・。それにしても美人ねぇ」

 ママは気絶したゴブリンの身元を探っているサーカを見て、うっとりとしている。

「あんな子がうちで働いてくれたら、売り上げが倍増しそう!」

「とんでもない! 性格が最悪ですよ、あの騎士様は。店で働かせようものなら、トラブル必至!」

「ええ? そうなの?」

 さっきの俺とサーカのやり取りをママは聞いてなかったのか・・・? とんでもねぇ性悪女ですよ、奴は!

 俺の話し声が聞こえたのか、サーカはこちらを鋭い目で一瞥すると、伯爵の子分に声を掛けた。

「おい、そこの地走り族! 詰め所に行って見回りの騎士を呼んで来い!」

 そう言ってゴブリンに魔法を唱えている。恐らく【捕縛】の魔法だと思う。

「へい!」

 伯爵の子分の一人が走って行く。地走り族はほんとに駆け足が速い。もう見えなくなってしまった。

「ふふふ、こいつは中々の獲物だ」

 サーカはゴブリンの襟元に何かを見つけたのか、笑っている。

「不気味な笑顔を見せてどうした? サーカ」

「不気味は余計だ。これを見ろ」

 そう言ってサーカは、ゴブリンの襟元に光る小さな紋章を見せた。

「なんだそれ?」

「樹族至上主義者が集う秘密結社、永遠の緑葉の紋章だ」

 これまで何度もこのゴブリンを見ていたが、襟元に光る紋章などなかったように思う。特殊な方法で探し出したのか、葉っぱの紋章は白い光を放っている。

「え? それっておかしくないか? 樹族至上主義者がなんでゴブリンを雇うんだ? 樹族が一番と考えているならゴブリンと関わりたくはないだろう?」

「奴らは理想の為なら何だってする。あのギム伯爵のバックにいるワンドリッター侯爵は、以前から永遠の緑葉の一員だという噂があった。だから闇側国に侵入して、ゴブリンやオークやオーガを奴隷として連れて帰る奴隷商人を、援助していたのだろう。樹族以外、特に闇側種族は、奴隷に相応しいと考えているような連中だからな」

 なんでただの下級騎士が、そこまで裏事情を知ってんだよ。

「でも何で、仲間のギム伯爵を殺す必要があるんだ?」

「料理人のお前に、こんな事を話しても良いものかは解らんが・・・。まぁいいか。お前はシルビィ様のお墨付きだしな。ワンドリッター卿は王政側ではなく評議会側の貴族だ。王政を叩きつつ、民の人気も欲しい評議会の爺達はマイナスイメージを嫌う。黒い噂があれば、人心はすぐに離れていくからな。世間の流れが奴隷禁止に傾いている今、闇側種族の奴隷売買を推奨していたワンドリッター卿は、評議会から疎まれているのだ。だから卿も身を綺麗にする為に、関わった奴隷商人を次々と消しているのだ、と推測する」

「えらく詳しいな?」

「一応これでも紫陽花騎士団あじさいきしだん団長の妹だぞ? 兄上はシルビィ様と幼馴染なのだ。なので近衛兵騎士団独立部隊の手伝いをする事もある。嫌でも色んな情報が耳に入ってくるのだ」

 ん? 所属していた騎士団の話をしたサーカが、少し寂しそうな目をした気がする。やはり紫陽花騎士団に戻りたいのだろうか?

「そっか。すまん」

 うっかり彼女の境遇を考えて謝ってしまった。彼女にしてみれば今の謝罪は意味不明だろうな。そうだった。こいつエリムス様の妹なんだった。なんか直ぐに忘れてしまうんだよな、その事。やっぱ憎たらしい事ばかり言ってるからだろうか。

 なぜ俺が謝ったのかを不思議に思い、何かを言いかけたサーカだったが、それを遮るようにして伯爵の子分が、樹族の騎士を連れて戻ってきた。

「巡回中の騎士様を連れてきましたよ~!」

 騎士はサーカを見て、すぐに顔を歪める。

「ゲェ、性悪のサーカ・・・」

 なんだ? サーカはやはり性悪で有名なのか? 警邏専門の騎士まで彼女の事を知ってるじゃないか。

「主のいない詰め所通いのくせに、口を慎んだらどうだ?」

 サーカの毒舌が、見回りの騎士に炸裂する。

「お前こそ!」

「ハッ! 私はシルビィ様の下で働いているのだ。お前ごときと一緒にするな。下級騎士風情が」

(もしもし、サーカさんや? 貴方も立派な下級騎士ですよ?)

「ふん、まぁいいさ。俺は仕事をさっさと済ませに来たんだ。ゴブリンを連れていくぜ?」

「いや、このゴブリンは只のゴブリンではない。私が直にシルビィ様に報告する。だからさっさと捕り物証明書をよこせ」

「なんだ? 騎士のくせにがめついな。騎士を止めて、冒険者にでもなったらどうだ?」

 騎士はフンと鼻で笑って、腰の小物入れから小さな帳簿を出した。

「なんとでも言え。金は幾らあっても困らん」

 俺はそれが何なのか気になったので聞いてみた。

「なぁサーカ。なんの証明書を貰ってんだ?」

「突然の犯人逮捕や、魔物退治に貢献した者が貰う、褒賞金引換券みたいなものだ。その場で請求しないと貰えない。冒険者のクエストと違って報奨金は安いがな。だが貰える金はなんだって貰うさ」

 見回りの騎士は薄汚いワラ半紙の帳簿に、親指を押し付けたあと、一枚引きちぎってサーカに渡した。

「ほらよ。お前の靴の下で顔を歪ませているゴブリンは、近衛兵騎士団独立部隊の管轄でいいんだな? そう報告しておくぞ? そっちのオーガも、お前に関係しているのか?」

「ああ、そうだ。だが、必要以上に情報は出さんぞ? 任務中だからな。お前にはもう用がない、さっさと下がれ三下騎士」

 ひでぇ物言いだな、サーカさんや・・・。

「チッ! 性悪め・・・。気分が悪い。仕事が終わったら、酒でも飲むか」

 その気持ち、解ります。酒でも飲んでストレスを発散してください。俺はずっとストレス溜めっぱなしですけどね・・・。

「伯爵様の所へ行くぞ、オビオ」

「聞き取りか?」

「そうだ」

 あ~あ、なんか面倒くさい事に巻き込まれたなぁ・・・。永遠の緑葉がどうたらこうたら言ってたし・・・。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

キャンピングカーで、異世界キャンプ旅

風来坊
ファンタジー
東京の夜を走り続けるタクシードライバー、清水翔。 ハンドル捌きと道の知識には自信があり、理不尽な客にも笑顔で対応できる――不器用ながらも芯の強い男だ。 そんな翔が、偶然立ち寄った銀座の宝くじ売り場で一人の女性・松田忍と出会う。 彼女との再会をきっかけに、人生は思いもよらぬ方向へ動き出した。 宝くじの大当たり、そして「夢を追う旅」という衝動。 二人は豪華にバスコンをカスタムしたキャンピングカー「ブレイザー」を相棒に、日本一周を計画する。 ――だが、最初のキャンプの日。 雷の直撃が二人を異世界へと連れ去った。 二つの月が照らす森で、翔は持ち前の度胸と行動力を武器に、忍を守りながら立ち向かう。 魔力で進化したブレイザー、忍の「鑑定スキル」、そして翔の判断力と腕力。 全てを駆使して、この未知の世界を切り開いていく。 焚き火の炎の向こうに広がるのは、戦いと冒険、そして新しい絆。 タクシードライバーから異世界の冒険者へ――翔と忍のキャンピングカー旅が、今始まる。

家の庭にダンジョンができたので、会社辞めました。

希羽
ファンタジー
都内のブラックIT企業で働く社畜・佐藤健太(27歳)。 手取り18万、残業100時間。唯一の資産は、亡き祖母から相続した郊外のボロ戸建てだけ。 「このまま死ぬのかな……」 そう絶望していたある夜、庭の物置の裏に謎の穴が出現する。 ​そこは、なぜか最弱モンスターしか出ないのに、ドロップアイテムだけは最高ランクという、奇跡のボーナスダンジョンだった。 試しにスライムを叩いたら、出てきた宝石の査定額はなんと――【1,000,000円】。 ​「……え、これ一個で、俺の年収の3分の1?」 ​スマホアプリで即換金、ドローン配送で手間いらず。 たった10分の庭仕事で5000万円を稼ぎ出した健太は、翌朝、上司に辞表を叩きつけることを決意する。 ※本作は小説家になろうでも投稿しています。

巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった

ノラクラ
ファンタジー
俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。 学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。 だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。 暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。 よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!? ……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい! そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。 赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。 「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」 そう、他人事のように見送った俺だったが……。 直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。 「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」 ――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。

魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します

burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。 その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。

ある日、俺の部屋にダンジョンの入り口が!? こうなったら配信者で天下を取ってやろう!

さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。 冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。 底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。 そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。  部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。 ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。 『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

処理中です...