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魂を送る料理 4
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樹族国の守り人が守る森と言えど、小さくて弱い魔物は存在する。殆どは害をなさない小動物のようなものだが、初めて見る魔物ばかりで気味が悪いが興味深かくもあった。
「なんだよ、あの一つ目の真ん丸お化けみたいな奴」
「どれだ」
俺は木にぶら下がるコウモリの羽が生えた一つ目の魔物を指さした。
「ただの野生のイービルアイだろ。割と人懐っこいぞ。ただし怒らせたら魅了の瞳で魅了されて無駄に連れまわされるけどな」
宇宙船に備え付けられている一つ目アンドロイドそっくりだな。じゃあ大神聖と共にこの星に来たウメボシもイービルアイに間違えられているのだろうか。あれも一つ目だったし。
「あれは?あのカメレオンみたいなの」
「(カメレオン?)まだ若いバジリスクトカゲだ。見るな。お前が目玉焼き使ったのはあれの卵だ。というかイービルアイもバジリスクトカゲもどこにでもいる魔物だろうが!お前はどこまで物知らずの赤ちゃんなのだ!」
何見ても珍しくて面白いんだからしょうがねぇだろ。
「イジダはありそうか?」
「まぁ珍しい果物でもないしな・・・。ほら、あそこにある低木がそうだ」
柿の木みたいなものを想像していた俺は、サーカの背丈よりも低い木を見て驚いた。赤い洋ナシのような実がびっしりと生っている。
「へぇこれがイジダか・・・。どれどれ」
ぶほぉ!渋い!甘みの後に柿渋のような渋みが口に広がる。
「トウスが渋いと言っていただろう。バカが」
「お前は俺が料理人だって事を忘れたか?敢えて味見したんだよ」
「どうだかな。お前は物知らずの馬鹿だから、トウスに言われた事も忘れて齧ったに違いない」
ほんと失礼な奴だ。こいつにも無理やりイジダを食わせてやろうか。全く・・・。
「しかし、こんな物が思い出の食べ物とはな。神学庁の連中は退廃的で贅沢ばかりしている僧侶しかいないと思っていたが・・・。デイジーは質素な生活をしていたようだな」
「昔はこんなものでも豪華なお菓子だったのかもしれないだろ」
「で、それをどうやって干しイジダにするんだ?もう間もなく夜がくるぞ」
俺を誰だと思っているのだ。未来の世界からやって来た猫型・・・ゲフンゲフン。41世紀の地球からやって来たミチ・オビオ様だぞ。
「まぁそれは心配ないさ。それより早く帰って晩飯の用意しないと。サーカも腹が減っただろ?」
「うむ。今日は何にするんだ?」
「それは戻ってからのお楽しみ」
俺たちがキャンプに戻ると、トウスさんがあまのじゃくを踏む仁王像のように小さな何者かを踏みつけていた。
「いだだだ!酷いでヤンス!あっしはちゃんと許可証を持っているでヤンス!」
おわ・・・。ゴブリンだ。
「嘘つけ!その羊皮紙だって偽造したもんだろうが。大体樹族がそう簡単にゴブリンに通行許可証を出すか!」
「どうした?」
俺はトウスさんの足の下でジタバタと暴れるビン底眼鏡のゴブリンを見て少し可哀想に思った。
「不法入国者だ。しかも闇側の。スパイに違いないぞ!」
うーむ。俺も闇側のスパイだと思われていた頃があったし、トウスさんも元不法入国者じゃないか。なんだかなぁ。
「どれ、俺がその通行許可証が本物かどうか見てやるよ。だからゴブリンを踏まないでやってくれ、トウスさん」
俺は地面に這いつくばるゴブリンから羊皮紙を受け取ると本物だと瞬時に判別できた。
「本物だぞ、これ。でも樹族国を通り過ぎるだけの許可しかされてないけどな」
「だからあっしは宿屋に泊まらず野宿しながらポルロンド目指してたでヤンスよ!」
踏みつけからようやく解放されたゴブリンは俺の手から通行許可書をひったくった。
「そりゃあ、すまねぇ。悪い事したな。あんた、名前は?」
トウスさんが頭を掻きながら謝る。
「ヤンスでやんす。世界を旅するのが生きがいなんでやんすよ」
おお、カッコイイ。そう言えば服装もどこか使いこなした感じがして旅慣れている感じだ。ポケットの沢山ついたダブレットを着ているし、少し離れたところに大きなリュックもある。
「へぇ!凄いな!魔物に襲われたりしないのか?」
「そりゃあ襲われるでヤンスよ。まぁあっしほど旅慣れているとどんな魔物相手でも上手に逃げられるでヤンスがね」
ぐぉ!それはかっこ悪い。実は凄い戦士かメイジで魔物を倒しながら旅しているのかと思ったのに。
俺はさりげなく素性を探ろうとヤンスさんの肩を触った。
「疑ったお詫びに晩飯でも・・・」
突然頭がグルグルと回った。と同時に何かとてつもないタブーに触れたような罪悪感が頭を駆け巡る。
(鑑定の指輪が表示したヤンスさんの種族欄に一瞬”神“と映った様な・・・)
「どうした?オビオ」
突然フラフラしだした俺をトウスさんが心配している。直ぐにナノマシンが混乱状態を元に戻してくれた。
「いや、何でもないよ。(なんだ?指輪がおかしくなったか?きっと魔法的な干渉か何かでこうなったんだろう)ヤンスさんも俺が作る料理を食べてってくれよ」
「い、いいんでやんすか?ここんところ、木の実と野草をそのまま食べてただけだから嬉しいでやんすよ!」
今のはなんだったのだろう?俺はビン底眼鏡で見えないゴブリンの奥底に何か途轍もない何かを感じ取った。
確かめてみるか・・・。
「ところでヤンスさんは好きな食べ物とかあるかい?」
もう一度彼の肩に手を置く。また頭が混乱したらどうしようかという不安はあったけど、なんともない。
種族ゴブリン。実力値20。20?すげぇ。確か一般人の実力値の成長って15が限界じゃなかったっけ?それ以上はとてつもなく成長が遅くなるとこっちの世界の本で読んだぞ。エリート種や英雄で30ぐらい。大神聖は50くらいあるんじゃないかって噂されてたけど・・・。職業は吟遊詩人?へぇ!でも楽器とか持ってないよなぁ・・・。
「ヤンスは好き嫌いなく何でも美味しく食べるでやんす」
おほ!料理人としては嬉しいね。
「じゃあ待ってて!すぐに作るからさ」
俺は亜空間ポケットから食材乾燥機を取り出して真っ先にイジダとリンゴを入れた。後は一時間ほどで勝手にドライフルーツができる。
ヤンスさんはきっと亜空間ポケットを見て驚くだろうなと思ったが、流石は高レベルの旅人。この世界にある無限鞄と呼ばれる収納具は見慣れているのだろう。全く驚いていなかった。
次に生前は野菜料理が好きだったろう樹族の幽霊に供える料理を作る。
この国には豆腐によく似た食材があった。よく似たというが、そのまんま豆腐だ。少し違うのは水分が少なく、食紅を入れて赤くする事ぐらいか。理由はそうしたほうが美味しそうに見えるかららしい。
俺はその赤い豆腐を油で揚げていく。厚揚げを作るのだ。フライパンで市場で買った朝霧菜と呼ばれる地球には無い葉物野菜をフライパンで炒める。朝霧菜は霧が出ている朝の内に摘むと美味しいからそう呼ばれているそうだ。見た目は茎の根元から葉がついている小松菜といった感じだろうか?味も似ている。
鍋に鰹節と昆布で出汁を作る。出汁ができたらそこに薄口しょうゆとみりんを入れて軽く煮立ったら炒めた朝霧菜と切った揚げ豆腐を入れて煮びたしを作った。
オーブンに入れておいたナスが丁度焼けた。黒い食べ物は貴族が嫌うらしいので緑色のナスを厚めの半円形に切って、その上に味噌を乗せて焼いたのだ。味噌は試練の塔の野営地で味噌汁を出した時に評判が良かったので大丈夫だろう。それにしても樹族国のナスは大きい。ぱっと見ステーキっぽくも見える。
肉を好むトウスさんやピーター用に市場で買った肉虫の肉を焼いてみる事にした。小さな一切れを焼いてまず味見をしてみる。鳥のささ身みたいで淡白だ。美味い。これはフライにしたほうがいいな。ジャイアントパフボールみたいな見た目の白い肉虫の肉を適度な厚みに切って、溶き卵、水、小麦粉で作ったバッター液につけて、パン粉にまぶす。後はキツネ色になるまで揚げるだけだ。
テーブルになりそうなものがないので、ワンプレート盛りだ。揚げ豆腐と朝霧菜の煮びたし、肉虫のフライ、焼きナス。デザートは干したイジダとリンゴ。
後でナハトさんとデイジーさんに供える二人分を余分に取っておいて俺は皆と食事をする事にした。大丈夫だ、きっとナハトさんは現れる。何の根拠もないけど・・・俺の勘がそう言っている。
「美味いでやんすーーー!」
ヤンスさんはもう既にフライにかぶりついていた。フォークに突き刺した肉虫のフライは彼の顔ぐらい大きい。
「淡白なのに肉汁がジューシーで、衣のサクサクした触感も最高でやんす!」
きたきた!料理人として一番嬉しい時間が!
「この焼いたナスも美味いな。豆のペーストのソースが味に深みを与えている」
サーカは焼きナスをナイフとフォークで切り分けて何度も口に運んだ。好きなものを真っ先に食べるタイプなんだな。
「この赤豆腐と朝霧菜の副菜も味が染みててうめぇわ」
トウスさんは煮びたしが気に入ったようだ。ピーターは黙って夢中になってそれぞれを一口ずつ食べている。
「良かったよ、皆が気に入ってくれて」
「オビオの料理は魚の出汁で旨味を出す事が多いな。きっと故郷は海の近くなのだろう?」
まぁ大阪だし間違っちゃいない。でも一応記憶喪失って設定なんだったな、俺は。
「かもな。サーカは魚好きか?」
「ああ、肉よりも好きだな。シンプルに塩焼きにしたものが特に」
いいねぇ。アユの塩焼きが食べたくなってきた。
「一夜干しのアジも美味いよな」
「それは知らん。美味いのなら今度食べさせてくれ。普通、干物は何日も干してカチカチにするものだろう。一夜だけ干したら保存が利かんから誰もそんな事はしないぞ」
「じゃあ今度海辺の街に寄る事があれば食わせてやるよ」
「ああ、楽しみにしている」
俺は少しデイジーさんが気になって守り人の石像を見る。まだ彼女は抱き着いたままだ。そのまま石像にデイジーさんが染み入るんじゃなかろうかとさえ思うほどに。
「現れるかなぁ?ナハトさん」
「そればっかりは神様しかわからねぇ」
それを聞いてヤンスさんがデイジーさんを不思議そうに振り返って見た。
「あのワイトは誰かの魂を待っているでやんすか?恋人かなにかで?」
「うん、彼女が抱き着いている守り人の像の中に恋人の魂があるんだ。経年劣化による損傷じゃないと中の魂が地獄に堕ちるって言い伝えがあるんだけど、あの石像はさっきここであった戦闘で欠けちゃったんだ」
「は?なんでヤンスか?その言い伝えは」
フン、とサーカが鼻を鳴らした。また悪い口が開くぞ。
「お前の国に守り人の刑などないだろうから知らなくて当然だな。世界中を旅している割に樹族国の事は知らないのだな。所詮はゴブリンよ」
俺はサーカの後ろでヤンスさんに片手を立てて「ごめん」のポーズをした。こういう奴なんですよ、サーカは。
ヤンスさんも俺の考えが伝わったのか、ハハッと笑って済ましてくれた。
「あれはただの石化の魔法でやんすよ。石化魔法は闇魔法でやんすから、樹族国では大っぴらにできないでやんすが・・・」
「何っ?」
ゴブリンのヤンスさんの言葉に聞き捨てならないとばかりサーカが目を光らせた。
まーためんどくさい事にならなければいいけど・・・。
「なんだよ、あの一つ目の真ん丸お化けみたいな奴」
「どれだ」
俺は木にぶら下がるコウモリの羽が生えた一つ目の魔物を指さした。
「ただの野生のイービルアイだろ。割と人懐っこいぞ。ただし怒らせたら魅了の瞳で魅了されて無駄に連れまわされるけどな」
宇宙船に備え付けられている一つ目アンドロイドそっくりだな。じゃあ大神聖と共にこの星に来たウメボシもイービルアイに間違えられているのだろうか。あれも一つ目だったし。
「あれは?あのカメレオンみたいなの」
「(カメレオン?)まだ若いバジリスクトカゲだ。見るな。お前が目玉焼き使ったのはあれの卵だ。というかイービルアイもバジリスクトカゲもどこにでもいる魔物だろうが!お前はどこまで物知らずの赤ちゃんなのだ!」
何見ても珍しくて面白いんだからしょうがねぇだろ。
「イジダはありそうか?」
「まぁ珍しい果物でもないしな・・・。ほら、あそこにある低木がそうだ」
柿の木みたいなものを想像していた俺は、サーカの背丈よりも低い木を見て驚いた。赤い洋ナシのような実がびっしりと生っている。
「へぇこれがイジダか・・・。どれどれ」
ぶほぉ!渋い!甘みの後に柿渋のような渋みが口に広がる。
「トウスが渋いと言っていただろう。バカが」
「お前は俺が料理人だって事を忘れたか?敢えて味見したんだよ」
「どうだかな。お前は物知らずの馬鹿だから、トウスに言われた事も忘れて齧ったに違いない」
ほんと失礼な奴だ。こいつにも無理やりイジダを食わせてやろうか。全く・・・。
「しかし、こんな物が思い出の食べ物とはな。神学庁の連中は退廃的で贅沢ばかりしている僧侶しかいないと思っていたが・・・。デイジーは質素な生活をしていたようだな」
「昔はこんなものでも豪華なお菓子だったのかもしれないだろ」
「で、それをどうやって干しイジダにするんだ?もう間もなく夜がくるぞ」
俺を誰だと思っているのだ。未来の世界からやって来た猫型・・・ゲフンゲフン。41世紀の地球からやって来たミチ・オビオ様だぞ。
「まぁそれは心配ないさ。それより早く帰って晩飯の用意しないと。サーカも腹が減っただろ?」
「うむ。今日は何にするんだ?」
「それは戻ってからのお楽しみ」
俺たちがキャンプに戻ると、トウスさんがあまのじゃくを踏む仁王像のように小さな何者かを踏みつけていた。
「いだだだ!酷いでヤンス!あっしはちゃんと許可証を持っているでヤンス!」
おわ・・・。ゴブリンだ。
「嘘つけ!その羊皮紙だって偽造したもんだろうが。大体樹族がそう簡単にゴブリンに通行許可証を出すか!」
「どうした?」
俺はトウスさんの足の下でジタバタと暴れるビン底眼鏡のゴブリンを見て少し可哀想に思った。
「不法入国者だ。しかも闇側の。スパイに違いないぞ!」
うーむ。俺も闇側のスパイだと思われていた頃があったし、トウスさんも元不法入国者じゃないか。なんだかなぁ。
「どれ、俺がその通行許可証が本物かどうか見てやるよ。だからゴブリンを踏まないでやってくれ、トウスさん」
俺は地面に這いつくばるゴブリンから羊皮紙を受け取ると本物だと瞬時に判別できた。
「本物だぞ、これ。でも樹族国を通り過ぎるだけの許可しかされてないけどな」
「だからあっしは宿屋に泊まらず野宿しながらポルロンド目指してたでヤンスよ!」
踏みつけからようやく解放されたゴブリンは俺の手から通行許可書をひったくった。
「そりゃあ、すまねぇ。悪い事したな。あんた、名前は?」
トウスさんが頭を掻きながら謝る。
「ヤンスでやんす。世界を旅するのが生きがいなんでやんすよ」
おお、カッコイイ。そう言えば服装もどこか使いこなした感じがして旅慣れている感じだ。ポケットの沢山ついたダブレットを着ているし、少し離れたところに大きなリュックもある。
「へぇ!凄いな!魔物に襲われたりしないのか?」
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ぐぉ!それはかっこ悪い。実は凄い戦士かメイジで魔物を倒しながら旅しているのかと思ったのに。
俺はさりげなく素性を探ろうとヤンスさんの肩を触った。
「疑ったお詫びに晩飯でも・・・」
突然頭がグルグルと回った。と同時に何かとてつもないタブーに触れたような罪悪感が頭を駆け巡る。
(鑑定の指輪が表示したヤンスさんの種族欄に一瞬”神“と映った様な・・・)
「どうした?オビオ」
突然フラフラしだした俺をトウスさんが心配している。直ぐにナノマシンが混乱状態を元に戻してくれた。
「いや、何でもないよ。(なんだ?指輪がおかしくなったか?きっと魔法的な干渉か何かでこうなったんだろう)ヤンスさんも俺が作る料理を食べてってくれよ」
「い、いいんでやんすか?ここんところ、木の実と野草をそのまま食べてただけだから嬉しいでやんすよ!」
今のはなんだったのだろう?俺はビン底眼鏡で見えないゴブリンの奥底に何か途轍もない何かを感じ取った。
確かめてみるか・・・。
「ところでヤンスさんは好きな食べ物とかあるかい?」
もう一度彼の肩に手を置く。また頭が混乱したらどうしようかという不安はあったけど、なんともない。
種族ゴブリン。実力値20。20?すげぇ。確か一般人の実力値の成長って15が限界じゃなかったっけ?それ以上はとてつもなく成長が遅くなるとこっちの世界の本で読んだぞ。エリート種や英雄で30ぐらい。大神聖は50くらいあるんじゃないかって噂されてたけど・・・。職業は吟遊詩人?へぇ!でも楽器とか持ってないよなぁ・・・。
「ヤンスは好き嫌いなく何でも美味しく食べるでやんす」
おほ!料理人としては嬉しいね。
「じゃあ待ってて!すぐに作るからさ」
俺は亜空間ポケットから食材乾燥機を取り出して真っ先にイジダとリンゴを入れた。後は一時間ほどで勝手にドライフルーツができる。
ヤンスさんはきっと亜空間ポケットを見て驚くだろうなと思ったが、流石は高レベルの旅人。この世界にある無限鞄と呼ばれる収納具は見慣れているのだろう。全く驚いていなかった。
次に生前は野菜料理が好きだったろう樹族の幽霊に供える料理を作る。
この国には豆腐によく似た食材があった。よく似たというが、そのまんま豆腐だ。少し違うのは水分が少なく、食紅を入れて赤くする事ぐらいか。理由はそうしたほうが美味しそうに見えるかららしい。
俺はその赤い豆腐を油で揚げていく。厚揚げを作るのだ。フライパンで市場で買った朝霧菜と呼ばれる地球には無い葉物野菜をフライパンで炒める。朝霧菜は霧が出ている朝の内に摘むと美味しいからそう呼ばれているそうだ。見た目は茎の根元から葉がついている小松菜といった感じだろうか?味も似ている。
鍋に鰹節と昆布で出汁を作る。出汁ができたらそこに薄口しょうゆとみりんを入れて軽く煮立ったら炒めた朝霧菜と切った揚げ豆腐を入れて煮びたしを作った。
オーブンに入れておいたナスが丁度焼けた。黒い食べ物は貴族が嫌うらしいので緑色のナスを厚めの半円形に切って、その上に味噌を乗せて焼いたのだ。味噌は試練の塔の野営地で味噌汁を出した時に評判が良かったので大丈夫だろう。それにしても樹族国のナスは大きい。ぱっと見ステーキっぽくも見える。
肉を好むトウスさんやピーター用に市場で買った肉虫の肉を焼いてみる事にした。小さな一切れを焼いてまず味見をしてみる。鳥のささ身みたいで淡白だ。美味い。これはフライにしたほうがいいな。ジャイアントパフボールみたいな見た目の白い肉虫の肉を適度な厚みに切って、溶き卵、水、小麦粉で作ったバッター液につけて、パン粉にまぶす。後はキツネ色になるまで揚げるだけだ。
テーブルになりそうなものがないので、ワンプレート盛りだ。揚げ豆腐と朝霧菜の煮びたし、肉虫のフライ、焼きナス。デザートは干したイジダとリンゴ。
後でナハトさんとデイジーさんに供える二人分を余分に取っておいて俺は皆と食事をする事にした。大丈夫だ、きっとナハトさんは現れる。何の根拠もないけど・・・俺の勘がそう言っている。
「美味いでやんすーーー!」
ヤンスさんはもう既にフライにかぶりついていた。フォークに突き刺した肉虫のフライは彼の顔ぐらい大きい。
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「ああ、楽しみにしている」
俺は少しデイジーさんが気になって守り人の石像を見る。まだ彼女は抱き着いたままだ。そのまま石像にデイジーさんが染み入るんじゃなかろうかとさえ思うほどに。
「現れるかなぁ?ナハトさん」
「そればっかりは神様しかわからねぇ」
それを聞いてヤンスさんがデイジーさんを不思議そうに振り返って見た。
「あのワイトは誰かの魂を待っているでやんすか?恋人かなにかで?」
「うん、彼女が抱き着いている守り人の像の中に恋人の魂があるんだ。経年劣化による損傷じゃないと中の魂が地獄に堕ちるって言い伝えがあるんだけど、あの石像はさっきここであった戦闘で欠けちゃったんだ」
「は?なんでヤンスか?その言い伝えは」
フン、とサーカが鼻を鳴らした。また悪い口が開くぞ。
「お前の国に守り人の刑などないだろうから知らなくて当然だな。世界中を旅している割に樹族国の事は知らないのだな。所詮はゴブリンよ」
俺はサーカの後ろでヤンスさんに片手を立てて「ごめん」のポーズをした。こういう奴なんですよ、サーカは。
ヤンスさんも俺の考えが伝わったのか、ハハッと笑って済ましてくれた。
「あれはただの石化の魔法でやんすよ。石化魔法は闇魔法でやんすから、樹族国では大っぴらにできないでやんすが・・・」
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