料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

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闘技場跡地 3

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 暇な時にお菓子を作っておいたのは良かったのだけど、それにしてもこいつらどんだけ食うんだよ。出した傍から山盛りのお菓子が皿から消えていくのだが・・・。

 侯爵も無心で両手を忙しなく動かしてお菓子を口に運んでいる。髭がチョコだらけ。

 一緒になって他の奴らもパクパクと遠慮なく食いやがりまくってます。

 〇ラゴンボールのベジー〇様を女にしたような性格のサーカですら、俺を睨みながら手を止めずに食べている。ってか、何で俺を睨んでるんだ?俺のお菓子が美味しいと負けた気分になるからか?時々やる∞の口は止めろ。萌えてまうやろが~。

 それにしても、もうちょっとは味わって食ってほしいもんだ。アルケディアの高級食材店で買ったカカオマスから作ったんだぞ!まぁ材料からチョコレートを作るのは機械に全部やらせたから手間も時間も労力もかかってないけどさ。

 ああ・・・。作り置きしておいた百個ほどのチョコ菓子がもうない・・・。お前らはなにか?ひまわりの種がぎっしり入っている瓶に侵入したハムスターか?いつもより多くさつま芋をばら撒かれた時のサルかなんかか?どいつもこいつも頬袋がパンパンじゃねぇか。

 え~っと、そろそろ侯爵様は話を始めてもいいんじゃよ?っていうか、お菓子のお代わり出す前は色々と忘れて帰ろうとしてたじゃねぇか!

「あのムダン侯爵様・・・」

 俺がおずおずと呼びかけるとムダン侯爵の目に光が戻ってハッと我に返った。

「もごっ!しまった・・・。あまりに美味すぎてついつい無心になって食ってしまったわい。それでなんじゃったかな?オビオ殿」

 こっちが聞きたいわ!ドアホ!ワォ!宿敵との話はどうなったんだよ!

「宿敵がどうとか・・・」

「あ!そうじゃった!」

 お菓子を美味しいつって食ってくれるのは嬉しいけどさ、お菓子に負けて忘却の彼方に葬り去られる宿敵ってどうなのよ・・・。

 侯爵は残りの一個をヤンスさんに取られる前に素早く手に取ると何かの魔法をかけて絹のハンカチに包んだ。それからお茶をくれと湯飲みを俺に差し出す。お茶を注ぐと侯爵は口の中に残るチョコの後味を流してハンカチに包んだ菓子をダナスさんに渡した。

「それは坊に食わすから大事に持っておけよ、ダナス」

 ムダン侯爵もトウスさんみたいに小さい子供がいるのか。今かけた魔法は保存系の魔法かな?俺の周りは子煩悩な父ちゃんが多いな。俺もこんな父親になりたいもんだ。

「わしには宿敵が二人おってのう」

 やっと語りだした。食い終わるの待ってる間は退屈だったんだぞ・・・。

「二十年ほど前までは北のグランデモニウム王国と数年に一度の割合で樹族国は戦争をしておったんじゃ。あそこは狂王ガン・グランデモニウムというオークがおってな。まつりごとは一切せずに、殆ど貴族や国民の自治に任せておるような愚王じゃった。国防も砦の戦士という名のギルドが自主的にやっとったんじゃが、そこの自称オーガの将軍ゴールキはとは何度戦っても勝負がつかなくてな。まぁそいつは今回は関係ないとは思うから良いとして・・・」

 ムダン侯爵は昔を懐かしむような顔をしているので、ゴールキとかいうオーガは敵ながら良いライバルだったんだろうな。

「問題はもう一人の宿敵のほうじゃ。こいつは今思い出しても腹が立つ。現在グランデモニウム王国と停戦状態なのもこいつのせいなんじゃ。名前はナンベル・ウィン。戦場の真っ只中でもタップを踏んで踊るようなふざけた道化師兼軍師でな。最後に戦った時にナンベルの策略で我々は練度の高い騎士の多くを失った。そのせいで騎士を育てる間、下手に出兵ができなくなってな。グランデモニウム王国のほうも狂王の放蕩が酷くなり国としてまとまりがよりなくなってしまった。お蔭で大規模な軍勢で攻めてくる事はなくなったのじゃがな。精々遊撃部隊が結界を破って国境近くの村を荒らす程度じゃ」

 え、じゃあいいじゃん。どういう理由であれ戦争をしなくなったのは良い事だ。

「まぁサーカ殿は知っておるとは思うが、とある理由で近々またグランデモニウム王国と戦争が起こりそうなんじゃ。で、裏側の長からナンベルが樹族国の動向を探りに来ている可能性があると聞いてな。それで奴が潜んでいそうな場所を探し回っておったんじゃ。この闘技場跡地も警備が手薄ゆえ、もしやと思って立ち寄ったわけだ」

「そこに俺達がやって来たから怪しんだわけですね?」

「そういう事じゃな。あ奴は変装の名人でな。魔法で見破る事は難しいと言われている。だからオビオ殿を変装したナンベルだと思って手合わせを頼んだわけだ」

 侯爵の言葉の中に”じゃ“が増えてきた。地方の侯爵だから訛りが出ているのかな?訛りが出るという事はそれだけ俺たちに気を許しているからかもしれない。

「しかし、閣下。オビオの胸にはウォール家の魔法印がついております。ナンベルなどという道化師ではないとすぐに解ったのでは?」

 サーカの質問にもっともだと頷くと侯爵は髭を扱いた。

「まぁ普通はそう考えるわな。しかしの、サーカ殿はあ奴の事を知るまい。あ奴はその魔法印ですら模倣してしまうんじゃ。なので奴と戦った事のあるわしは怪しい奴を見つけた次第、誰だろうが手合わせしてもらっている」

 だから動きが鈍る大人数ではなく、ダナスさんと二人で動いているのか。まぁそれでも普通は侯爵自らが動く事はないとは思うけど。よほど自分の手でナンベル・ウィンを討ちたいんだな。

「馳走になっておいてこういう頼みは厚かましいと思うのじゃが、サーカ殿やオビオ殿はシルビィ隊と関わりがある。部隊に入って来るナンベルに関する情報を耳にした場合、わしに流してほしいんじゃ」

 侯爵の横でダナスさんが目を見開いて驚いている。

「しかし・・・閣下。それは協定違反では。王国近衛兵独立部隊は公平性を保つために如何なる大貴族とも関わりを持ちません。我らもシルビィ隊とは関わりを持たないのが貴族間の取り決めです」

「解っておる。今回だけじゃ。憎きナンベルに関する事だけと限定する。これは国防にも関わる話だ。我々は自主的な協力という形で関わり、それ以上に何かを含む事はない」

「閣下がそう思っていても他の侯爵様達がどう思いますでしょうか?特に閣下を良く思っていないワンドリッター侯爵様は大騒ぎするでしょうな」

 ワンドリッター・・・。どこにでも名前が出てくるな。聖ほどじゃないけど・・・。

「だからじゃ!だから非公式でサーカ殿やオビオ殿に頼んでおる!どうじゃ?サーカ殿、オビオ殿」

 サーカは腕を組んで考え込んでいる。おい、侯爵様の前で腕を組むな。失礼だろ。

「裏側の長の情報は確かなのでしょうか?閣下」

 裏側って忍者みたいな事してる奴等だろ?そりゃ情報は確かだろ。

「いや、城で立ち話をした時の内容だが」

「果たしてあの鬼のジュウゾ殿がそんな不確かな話を閣下にするでしょうか?あの方は寡黙でいい加減な事は言わない性格と聞いております。何かがおかしいと思いませんか?」

 お、サーカがまともだ。ジュウゾが誰かは知らないけど裏側の長の事だろう。

「・・・」

 ムダン侯爵の目と鼻の穴が徐々に大きくなる。心なしか髭も逆立っているような。

「あ奴め!」

 ドン!と背の低いテーブルを叩いて立ち上がった侯爵はフルフルと震えている。それからガハハと豪胆な笑い声をあげる。

「やってくれたわい!もう既に戦争は始まっているという事か、ナンベルめ!小賢しい!となると今、城では様々な情報が飛び交っているじゃろうな。急いで城に戻って王にこの話を伝えなければ」

 急いで部屋から出飛び出そうとした侯爵だったが、ドアノブに手をかけて動きを止める。

「世話になったな、シルビィ隊隊員サーカ・カズン殿。これを褒美にくれてやろう!」

 侯爵は仮隊員のサーカを隊員と呼んだ。それは将来性を見越しての事だろう。そして何か鞘に入った小刀のような物をサーカに投げた。あれ?樹族の魔法使いにとって刃物は禁忌じゃなかったか?

「オーガの料理人オビオ殿。菓子は大変美味であった。気が向いたらわしの屋敷に菓子を作りに来てくれ。坊がきっと喜ぶ」

 勢いよく扉を開けてムダン侯爵はドスドスと小走りで部屋を出ていった。廊下に侯爵のガラガラとした笑い声が響く。何がそんなに嬉しいのか・・・。

 サーカの言葉を聞いて侯爵が何に気が付いたのかは俺には解らなかった。でも余程大事な事だったようだ。というかサーカはワンドリッターの件でもそうだが、重要な情報を持ち帰ったり、与えたりしてるよな?なのに致命的な欠点のせいでシルビィ様の評価が低い気がする。

「ふぁ!」

 隣で急にサーカが変な声を上げた。

 まーたピーターに尻を触られたか?いや、ピーターは向うで椅子に座って紅茶を飲んでるな・・・。

「どした?」

 俺はへたり込むサーカが震えて両手で持つ小刀を見る。鶯色の革に金の蔦の装飾が施された綺麗な鞘と柄がかっこいい。

「なんだそれ」

「ムダン家の懐刀だ・・・。こここ、これを渡したという事はムダン侯爵閣下が私の後ろ盾につくという事なのだ・・・」

 ええええ!助言しただけで?そんな大層な物を?

「ななな、なんで?」

「知らん!ただ、私の生まれたカズン家は元々イストリアン領にある本家の分家。クロス地方の東端に住んでいるのも本家に近いからだ」

「すげぇな!騎士様!家に帰った時、鼻高々じゃねぇか!」

 トウスさんが素直に喜んでいる。が、サーカの事情を知る俺は少し複雑な気分になった。

 本家のお殿様がサーカの事を認めたのだ。今、サーカが自分の家に帰ってこれを見せれば彼女の祖父母は手のひらを返して喜ぶだろう。

 でもサーカはどう思うのだろうか?ここで帰れば母親も自分も安穏と暮らせるはずだ。例え今まで自分に冷たく当たっていた祖父母と一緒に暮らす事になっても。

 ムダン侯爵も粋な事をするなぁ。カズン家と聞いてサーカを部下の家族か親戚だと気が付いていたんだ。

 サーカはどうするのだろうか?じっと懐刀を見つめる彼女の顔を見ているとなんだか不安になってきた。もうお別れする事になるのだろうか・・・。それは寂しい・・・。
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