料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

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幸せの家族

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 トイレから戻って来たナンさんは、地下墓地の闇の奥から、凄まじい速さの競歩で追いついてきた。

「キュッキュッキュ! おまた~!」

 怖いって。ピエロって、なんでこんなに怖いんだろうか。スティーヴン・キングが悪い。しかも何で競歩なんだよ。ケツをぷりぷりさせやがって・・・。

「すっきりした? ナンさん」

「は? なにが?」

「いや、ウンコしたんでしょ?」

「は? ウンコとか言わないでください。下品な」

 もう、なんなんだよこの人。わけわかんねぇよ!

「その人、そういう人でやんす。つい今しがた吐いた言葉と、真逆の事したりするでやんすから、あまり気にしない方がいいでやんすよ」

 ヤンスさんが俺の心を読んだ! パーティに二人も【読心】の魔法が使える奴がいるのは、厳しいものがあるな・・・。

 なんだかんだで帰りは何事もなく出口まで辿り着けた。

 まぁ行きしなに対アンデッド無双をしてたメリィがいたからな。

 彼女は料理中に何度か俺に触れてきたので、実力値が1つ上がったのは知っている。サーカやトウスさんやピーターを差し置いて11になっていた。

「さて小生は用事が済みましたし、故郷へ帰りますかな」

(何の用事だよ! あんた穴に落ちて、地下墓地で迷子になってただけじゃん)

「待て、ナン。オビオ、ナンを鑑定の指輪で調べろ」

 不思議に思ったが、サーカに言われるまま俺はナンさんの肩に右手で触れた。

 いつもの如く情報が流れ込んでくる。ステータスよりも先にナンさんの過去が見えた。

 メイクをしていないナンさんが手で顔を覆っていた。幾何学模様の白い線が顔や腕にある。これもメイクなのかな?

 両手で顔を引っかいて、女の人と女の子の遺体の前で呻いている。「イイイイイィィィ!」という声は絶望と後悔と悲しみに満ち溢れていた。

 なんだ? 誰の死を悲しんでいるんだ? 凄く気の毒に思えてくる。

 しかしそれ以上は闇に消え、何も見えなくなってしまった。

(この星の住人は皆、何かしらの悲しみを背負って生きているのかもしれない)

 のほほんと生きてきた自分が急に恥ずかしくなってきた。俺には何もない。悲しみも背負って生きていない・・・。

 続いてナンさんのステータスが頭に流れ込む。

 名前はナンベル・ウィン。種族魔人族。実力値32・・・。32だと! 英雄クラスじゃんか! しかも適正職業は付魔師のみだ! つまり道化師兼暗殺者の才能は元々なかったって事か!

 努力のみで英雄クラスまでのし上がってきたとか、すげぇ!

 力12、知力17、信仰心7、体力12、器用さ18、素早さ19、魔力15、運9、魅力10・・・。属性、闇と風。

 お、運と魅力のステータスが見れるようになってる。普通は隠れている能力値なのかな?

「どうだ、オビオ。何が視えた?」

「言っていいのかな・・・。あれ?待てよ・・・。ナンベル・・・? ナンベル・ウィンって、確かムダン侯爵が探してた人じゃないの?」

「やはりな! 貴様がナンベル・ウィンだったか! 樹族国に何をしに来た! 戦争に有利になるよう様子を探りに来たか!」

 サーカがワンドを抜いて詠唱を開始した。

「おぉっ! 怖い怖い。サーカちゃんは、黙ってれば可愛いのにねぇ」

 同感だ・・・。いや、でもどうすればいいんだ? 相手は英雄クラスの道化師だぞ!

「サーカ、待て! ナンさんは実力値が32だぞ! 敵いっこない!」

「馬鹿め! だからと言って何もせずに見逃せるわけなかろう。私はもう憂いはなくなったのだ、いつでも死ねる覚悟がある!」

「ムダン侯爵の後ろ盾を得た今、もうジブリット家に固執する必要はないもんな。でもお前が死んだら、お母さんが悲しむだろ! それに、誰がお母さんの病気は治すんだよ!」

 言い争う俺たちを見て、ナンさんが手を叩く。

「だめだめぇ。仲間同士で言い争いなんてしちゃあ。小生は君たちを殺したくはありませーん。特にオビオ君、君は親友のヒジリ君と同じ匂いがしますからぁ。さぁヤンス、転移でゴデの街までお願いしますよ!」

「ナンベルさんは転移石を持ってるでやんしょ。なんであっしを巻き込むんでやんすか」

「お黙りなさい! 私と関わりがある貴方が樹族国に残ればッ! 拷問は必至。そうなりたくはないでしょう? さぁ、はやキュー!」

「せっかくオビオのパーティが面白くなってきたところなのに・・・。仕方がないでやんすね。はぁ・・・オビオの料理が食べられなくなるのは、とても残念でやんす。もしグランデモニウム王国に来る事があったら、オーガの酒場を訪ねてほしいでやんすよ。あっしはそこの二階に住んでいるでやんすから。それではさようなら皆さん。それからオビオ。これからも自由にしたいように旅をするでやんすよ。君は運命を背負った特異点ではないのでやんすから・・・」

 特異点? 何の事だ?

 シュッと音を立てて二人が消えた場所に、【大火球】が隕石のように落ちてきた。

「ええぃ! 間に合わなかったか!」

 地下墓地入り口手前の敷地が、半径五メートルほどの丸い焦げ跡を残して燻っている。その焦土を憎々し気に見つめてから、サーカは白い短めのマントを翻した。

「くそ! ヤンスめ! 行くぞ! オビオ!」

 八つ当たりして、とげとげしい声で俺を呼ぶサーカの後ろを黙って歩き、振り返って二人が消えた場所を見る。

「チートみたいな支援実況がありがたかったヤンスさんまで行っちゃったか・・・。パーティの知恵袋的存在だったのにな・・・」

「寂しいね、オビオ」

 メリィもヤンスさんの事が気に入っていたのか、悲しそうな顔をしている。

「まぁ人との別れなんてこんなもんさ。死に別れないだけマシだ」

 ほんと、いつも出会いも別れもあっという間の風の如し。確かに人が簡単に死ぬこの世界で、死に別れていないというのは幸運な事だ。またヤンスさんには会えるさ。

「だよな。ありがと、トウスさん。さぁニーシ村に戻ろう。早くアッチさんを治さないと危ない」




 俺は錬金術師の爺さんに賢者の石を見せた。爺さんは鑑定魔法で、二つの石を見比べている。

「何も違いはないがの。ワシの賢者の石と、お前さんの持ってきた賢者の石・・・。ん? なんじゃ? 徐々にワシの賢者の石の情報が変わっていく・・・。こ、これは・・・辰砂!」

 どういう理由かはわからないが、偽の賢者の石が正体を現した。爺さんのボケが治って、ちゃんと鑑定できようになったか、或いは偽の情報を付与していたどこぞのメイジが死んだか。

「いや、そもそもアッチさんに水銀中毒の症状が出てた時点で、気付いてないとおかしいだろ」

 まぁ水銀中毒の症状を知らなかった可能性もあるし、単純にボケて頭が固くなっていたか。

「ど、どうしたらいいんじゃ! ワシはとんでもない事をしでかした!」

 今更かよ。

「ここはプライドを捨てて、修道騎士のメリィに回復を頼むしかないだろ。アッチさんを治癒するぞ? いいな?」

 プライドを捨てないといけないほど仲が悪いと言っても、爺さんが一方的にメリィを敵視してるだけだけどな。

「・・・。ああ、頼む」

 よし! 俺はメリィに頷いて合図をした。メリィも頷き返す。

 ・・・が、彼女は頷き返しただけだった。

「早く祈れよ!」

 俺は思わず裏手で彼女の肩にツッコミを入れた。

「ふぁ!?」

 驚いたメリィの大きな胸が揺れた。こういうとこあるよな、この人・・・。ぼんやりしているというか。

「えへへ。祈りまーす!」

 頭にコツンと拳骨を当てて、恥ずかしそうに笑っているメリィはアホ可愛い。

 くそ、サーカとはまた違ったベクトルで可愛いんだよなぁ。

「運命の神よ・・・」

 よし、祈りが始まった。これで一安心か。そういやメリィは運命の神の信者なんだな。地走り族は運命の神を信仰する人が多い。恩恵とかあるのかな?

 見る間にアッチさんの顔色が良くなっていく。震えも泊まり何事もなかったかのようにベッドから降りた。骨折も治っていたのだ。

 奇跡すげぇな。そりゃ医療を発展させる必要がないわけだわ。

「お父さん!」

「あなた!」

 イイヨイイヨー。この幸せが訪れる瞬間、イイヨー! 他人の幸せそうな顔、イイヨー!

 家族三人がメリィの手の甲にキスをして、腰の寄付金入れに、お金を幾らか入れた。どういうわけか、あの口が空きっぱなしのポーチは、激しく動いてもお金が飛び出さない。

(寄付金といっても相場があるし、結構な額だろうな。チッチが先払いした銅貨じゃ足りないと、ホッチさんもわかってたんだ)

 それでも神学庁の僧侶に頼むよりは遥かに安い。ではなぜ皆、修道騎士に治療を頼まないかというと、数が少ない上に、各地を転々としているので滅多に出会えないからだ。

 見た目もすぐには修道騎士とはわからない。鎧に付いている小さな手裏剣のような十字マークを見つけるまでは、ただの貧乏くさい騎士にしかみえないのだ。

「その、すまなんだ。アッチ。お前に辰砂の粉をずっと飲ませていたとは・・・」

「気にしないで下さい、スペンクさん。結果オーライですよ! きっと運命の神もそう言いましょう」

 運命の神はえらくざっくばらんなのだな。名前はなんだっけ? オーガの神はヒュージャック・ハヤブサ・サコモトだったかな? 前にヤンスさんが言ってたけど、訛りがきつくてよく聞き取れなかった。

「君たちが治療費として支払った金は全額返させてもらう。それから今、修道騎士に渡した寄付金も私が支払う」

「そんな・・・スペンクさんは悪気があったわけじゃないのですし」

 アッチさんが恐縮して驚いている。相手は村の重要人物だしな。

「いいや! これぐらいはさせてくれ! 今後、君達がけがや病気をしても無料でやらせてもらう」

 良い方へ振り切れた時も頑固だな、この爺さんは。

「爺さんもそう言っているんだし、そうさせてもらったら?」

 俺がそういうと、アッチさんはやっと首を縦に振った。

「ではそうさせてもらいます。よーし! なんか運が上向きになってきた気がするぞ! 休んでいた分、これからはバリバリ働かないと! ホッチももうアルケディアに働きに行かなくていいぞ。慣れない事をさせてすまなかった」

 くぅー! 三人で抱き合ってる。なんだか嬉しくなるなぁ。俺もあの家族の中に混ざって抱き合いたい。

「回復祝いに今夜は俺が料理を作りますよ!」

 幸せを御裾分けしてもらったお礼に俺はそう提案した。

「ほんと? やった! オビオの料理! オビオの料理!」

 チッチが飛び跳ねている。そういやチッチやホッチさんに俺の料理を食わせるのは初めてだったかな。よーし腕を振るっちゃうぞ、お兄さん。

 お好み焼き以外の材料なら結構あるし、少し買い足して振る舞うか。

「やったぁ! 今日の晩御飯は何かな~?」

 メリィが口をジェリービーンズみたいな形にして喜んでいる。涎は少し出てるぞ。

 ジュエリービーンズか・・・。豆のスープをメニューに加えておこう。
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