52 / 336
幸せの家族
しおりを挟む
トイレから戻って来たナンさんは、地下墓地の闇の奥から、凄まじい速さの競歩で追いついてきた。
「キュッキュッキュ! おまた~!」
怖いって。ピエロって、なんでこんなに怖いんだろうか。スティーヴン・キングが悪い。しかも何で競歩なんだよ。ケツをぷりぷりさせやがって・・・。
「すっきりした? ナンさん」
「は? なにが?」
「いや、ウンコしたんでしょ?」
「は? ウンコとか言わないでください。下品な」
もう、なんなんだよこの人。わけわかんねぇよ!
「その人、そういう人でやんす。つい今しがた吐いた言葉と、真逆の事したりするでやんすから、あまり気にしない方がいいでやんすよ」
ヤンスさんが俺の心を読んだ! パーティに二人も【読心】の魔法が使える奴がいるのは、厳しいものがあるな・・・。
なんだかんだで帰りは何事もなく出口まで辿り着けた。
まぁ行きしなに対アンデッド無双をしてたメリィがいたからな。
彼女は料理中に何度か俺に触れてきたので、実力値が1つ上がったのは知っている。サーカやトウスさんやピーターを差し置いて11になっていた。
「さて小生は用事が済みましたし、故郷へ帰りますかな」
(何の用事だよ! あんた穴に落ちて、地下墓地で迷子になってただけじゃん)
「待て、ナン。オビオ、ナンを鑑定の指輪で調べろ」
不思議に思ったが、サーカに言われるまま俺はナンさんの肩に右手で触れた。
いつもの如く情報が流れ込んでくる。ステータスよりも先にナンさんの過去が見えた。
メイクをしていないナンさんが手で顔を覆っていた。幾何学模様の白い線が顔や腕にある。これもメイクなのかな?
両手で顔を引っかいて、女の人と女の子の遺体の前で呻いている。「イイイイイィィィ!」という声は絶望と後悔と悲しみに満ち溢れていた。
なんだ? 誰の死を悲しんでいるんだ? 凄く気の毒に思えてくる。
しかしそれ以上は闇に消え、何も見えなくなってしまった。
(この星の住人は皆、何かしらの悲しみを背負って生きているのかもしれない)
のほほんと生きてきた自分が急に恥ずかしくなってきた。俺には何もない。悲しみも背負って生きていない・・・。
続いてナンさんのステータスが頭に流れ込む。
名前はナンベル・ウィン。種族魔人族。実力値32・・・。32だと! 英雄クラスじゃんか! しかも適正職業は付魔師のみだ! つまり道化師兼暗殺者の才能は元々なかったって事か!
努力のみで英雄クラスまでのし上がってきたとか、すげぇ!
力12、知力17、信仰心7、体力12、器用さ18、素早さ19、魔力15、運9、魅力10・・・。属性、闇と風。
お、運と魅力のステータスが見れるようになってる。普通は隠れている能力値なのかな?
「どうだ、オビオ。何が視えた?」
「言っていいのかな・・・。あれ?待てよ・・・。ナンベル・・・? ナンベル・ウィンって、確かムダン侯爵が探してた人じゃないの?」
「やはりな! 貴様がナンベル・ウィンだったか! 樹族国に何をしに来た! 戦争に有利になるよう様子を探りに来たか!」
サーカがワンドを抜いて詠唱を開始した。
「おぉっ! 怖い怖い。サーカちゃんは、黙ってれば可愛いのにねぇ」
同感だ・・・。いや、でもどうすればいいんだ? 相手は英雄クラスの道化師だぞ!
「サーカ、待て! ナンさんは実力値が32だぞ! 敵いっこない!」
「馬鹿め! だからと言って何もせずに見逃せるわけなかろう。私はもう憂いはなくなったのだ、いつでも死ねる覚悟がある!」
「ムダン侯爵の後ろ盾を得た今、もうジブリット家に固執する必要はないもんな。でもお前が死んだら、お母さんが悲しむだろ! それに、誰がお母さんの病気は治すんだよ!」
言い争う俺たちを見て、ナンさんが手を叩く。
「だめだめぇ。仲間同士で言い争いなんてしちゃあ。小生は君たちを殺したくはありませーん。特にオビオ君、君は親友のヒジリ君と同じ匂いがしますからぁ。さぁヤンス、転移でゴデの街までお願いしますよ!」
「ナンベルさんは転移石を持ってるでやんしょ。なんであっしを巻き込むんでやんすか」
「お黙りなさい! 私と関わりがある貴方が樹族国に残ればッ! 拷問は必至。そうなりたくはないでしょう? さぁ、はやキュー!」
「せっかくオビオのパーティが面白くなってきたところなのに・・・。仕方がないでやんすね。はぁ・・・オビオの料理が食べられなくなるのは、とても残念でやんす。もしグランデモニウム王国に来る事があったら、オーガの酒場を訪ねてほしいでやんすよ。あっしはそこの二階に住んでいるでやんすから。それではさようなら皆さん。それからオビオ。これからも自由にしたいように旅をするでやんすよ。君は運命を背負った特異点ではないのでやんすから・・・」
特異点? 何の事だ?
シュッと音を立てて二人が消えた場所に、【大火球】が隕石のように落ちてきた。
「ええぃ! 間に合わなかったか!」
地下墓地入り口手前の敷地が、半径五メートルほどの丸い焦げ跡を残して燻っている。その焦土を憎々し気に見つめてから、サーカは白い短めのマントを翻した。
「くそ! ヤンスめ! 行くぞ! オビオ!」
八つ当たりして、とげとげしい声で俺を呼ぶサーカの後ろを黙って歩き、振り返って二人が消えた場所を見る。
「チートみたいな支援実況がありがたかったヤンスさんまで行っちゃったか・・・。パーティの知恵袋的存在だったのにな・・・」
「寂しいね、オビオ」
メリィもヤンスさんの事が気に入っていたのか、悲しそうな顔をしている。
「まぁ人との別れなんてこんなもんさ。死に別れないだけマシだ」
ほんと、いつも出会いも別れもあっという間の風の如し。確かに人が簡単に死ぬこの世界で、死に別れていないというのは幸運な事だ。またヤンスさんには会えるさ。
「だよな。ありがと、トウスさん。さぁニーシ村に戻ろう。早くアッチさんを治さないと危ない」
俺は錬金術師の爺さんに賢者の石を見せた。爺さんは鑑定魔法で、二つの石を見比べている。
「何も違いはないがの。ワシの賢者の石と、お前さんの持ってきた賢者の石・・・。ん? なんじゃ? 徐々にワシの賢者の石の情報が変わっていく・・・。こ、これは・・・辰砂!」
どういう理由かはわからないが、偽の賢者の石が正体を現した。爺さんのボケが治って、ちゃんと鑑定できようになったか、或いは偽の情報を付与していたどこぞのメイジが死んだか。
「いや、そもそもアッチさんに水銀中毒の症状が出てた時点で、気付いてないとおかしいだろ」
まぁ水銀中毒の症状を知らなかった可能性もあるし、単純にボケて頭が固くなっていたか。
「ど、どうしたらいいんじゃ! ワシはとんでもない事をしでかした!」
今更かよ。
「ここはプライドを捨てて、修道騎士のメリィに回復を頼むしかないだろ。アッチさんを治癒するぞ? いいな?」
プライドを捨てないといけないほど仲が悪いと言っても、爺さんが一方的にメリィを敵視してるだけだけどな。
「・・・。ああ、頼む」
よし! 俺はメリィに頷いて合図をした。メリィも頷き返す。
・・・が、彼女は頷き返しただけだった。
「早く祈れよ!」
俺は思わず裏手で彼女の肩にツッコミを入れた。
「ふぁ!?」
驚いたメリィの大きな胸が揺れた。こういうとこあるよな、この人・・・。ぼんやりしているというか。
「えへへ。祈りまーす!」
頭にコツンと拳骨を当てて、恥ずかしそうに笑っているメリィはアホ可愛い。
くそ、サーカとはまた違ったベクトルで可愛いんだよなぁ。
「運命の神よ・・・」
よし、祈りが始まった。これで一安心か。そういやメリィは運命の神の信者なんだな。地走り族は運命の神を信仰する人が多い。恩恵とかあるのかな?
見る間にアッチさんの顔色が良くなっていく。震えも泊まり何事もなかったかのようにベッドから降りた。骨折も治っていたのだ。
奇跡すげぇな。そりゃ医療を発展させる必要がないわけだわ。
「お父さん!」
「あなた!」
イイヨイイヨー。この幸せが訪れる瞬間、イイヨー! 他人の幸せそうな顔、イイヨー!
家族三人がメリィの手の甲にキスをして、腰の寄付金入れに、お金を幾らか入れた。どういうわけか、あの口が空きっぱなしのポーチは、激しく動いてもお金が飛び出さない。
(寄付金といっても相場があるし、結構な額だろうな。チッチが先払いした銅貨じゃ足りないと、ホッチさんもわかってたんだ)
それでも神学庁の僧侶に頼むよりは遥かに安い。ではなぜ皆、修道騎士に治療を頼まないかというと、数が少ない上に、各地を転々としているので滅多に出会えないからだ。
見た目もすぐには修道騎士とはわからない。鎧に付いている小さな手裏剣のような十字マークを見つけるまでは、ただの貧乏くさい騎士にしかみえないのだ。
「その、すまなんだ。アッチ。お前に辰砂の粉をずっと飲ませていたとは・・・」
「気にしないで下さい、スペンクさん。結果オーライですよ! きっと運命の神もそう言いましょう」
運命の神はえらくざっくばらんなのだな。名前はなんだっけ? オーガの神はヒュージャック・ハヤブサ・サコモトだったかな? 前にヤンスさんが言ってたけど、訛りがきつくてよく聞き取れなかった。
「君たちが治療費として支払った金は全額返させてもらう。それから今、修道騎士に渡した寄付金も私が支払う」
「そんな・・・スペンクさんは悪気があったわけじゃないのですし」
アッチさんが恐縮して驚いている。相手は村の重要人物だしな。
「いいや! これぐらいはさせてくれ! 今後、君達がけがや病気をしても無料でやらせてもらう」
良い方へ振り切れた時も頑固だな、この爺さんは。
「爺さんもそう言っているんだし、そうさせてもらったら?」
俺がそういうと、アッチさんはやっと首を縦に振った。
「ではそうさせてもらいます。よーし! なんか運が上向きになってきた気がするぞ! 休んでいた分、これからはバリバリ働かないと! ホッチももうアルケディアに働きに行かなくていいぞ。慣れない事をさせてすまなかった」
くぅー! 三人で抱き合ってる。なんだか嬉しくなるなぁ。俺もあの家族の中に混ざって抱き合いたい。
「回復祝いに今夜は俺が料理を作りますよ!」
幸せを御裾分けしてもらったお礼に俺はそう提案した。
「ほんと? やった! オビオの料理! オビオの料理!」
チッチが飛び跳ねている。そういやチッチやホッチさんに俺の料理を食わせるのは初めてだったかな。よーし腕を振るっちゃうぞ、お兄さん。
お好み焼き以外の材料なら結構あるし、少し買い足して振る舞うか。
「やったぁ! 今日の晩御飯は何かな~?」
メリィが口をジェリービーンズみたいな形にして喜んでいる。涎は少し出てるぞ。
ジュエリービーンズか・・・。豆のスープをメニューに加えておこう。
「キュッキュッキュ! おまた~!」
怖いって。ピエロって、なんでこんなに怖いんだろうか。スティーヴン・キングが悪い。しかも何で競歩なんだよ。ケツをぷりぷりさせやがって・・・。
「すっきりした? ナンさん」
「は? なにが?」
「いや、ウンコしたんでしょ?」
「は? ウンコとか言わないでください。下品な」
もう、なんなんだよこの人。わけわかんねぇよ!
「その人、そういう人でやんす。つい今しがた吐いた言葉と、真逆の事したりするでやんすから、あまり気にしない方がいいでやんすよ」
ヤンスさんが俺の心を読んだ! パーティに二人も【読心】の魔法が使える奴がいるのは、厳しいものがあるな・・・。
なんだかんだで帰りは何事もなく出口まで辿り着けた。
まぁ行きしなに対アンデッド無双をしてたメリィがいたからな。
彼女は料理中に何度か俺に触れてきたので、実力値が1つ上がったのは知っている。サーカやトウスさんやピーターを差し置いて11になっていた。
「さて小生は用事が済みましたし、故郷へ帰りますかな」
(何の用事だよ! あんた穴に落ちて、地下墓地で迷子になってただけじゃん)
「待て、ナン。オビオ、ナンを鑑定の指輪で調べろ」
不思議に思ったが、サーカに言われるまま俺はナンさんの肩に右手で触れた。
いつもの如く情報が流れ込んでくる。ステータスよりも先にナンさんの過去が見えた。
メイクをしていないナンさんが手で顔を覆っていた。幾何学模様の白い線が顔や腕にある。これもメイクなのかな?
両手で顔を引っかいて、女の人と女の子の遺体の前で呻いている。「イイイイイィィィ!」という声は絶望と後悔と悲しみに満ち溢れていた。
なんだ? 誰の死を悲しんでいるんだ? 凄く気の毒に思えてくる。
しかしそれ以上は闇に消え、何も見えなくなってしまった。
(この星の住人は皆、何かしらの悲しみを背負って生きているのかもしれない)
のほほんと生きてきた自分が急に恥ずかしくなってきた。俺には何もない。悲しみも背負って生きていない・・・。
続いてナンさんのステータスが頭に流れ込む。
名前はナンベル・ウィン。種族魔人族。実力値32・・・。32だと! 英雄クラスじゃんか! しかも適正職業は付魔師のみだ! つまり道化師兼暗殺者の才能は元々なかったって事か!
努力のみで英雄クラスまでのし上がってきたとか、すげぇ!
力12、知力17、信仰心7、体力12、器用さ18、素早さ19、魔力15、運9、魅力10・・・。属性、闇と風。
お、運と魅力のステータスが見れるようになってる。普通は隠れている能力値なのかな?
「どうだ、オビオ。何が視えた?」
「言っていいのかな・・・。あれ?待てよ・・・。ナンベル・・・? ナンベル・ウィンって、確かムダン侯爵が探してた人じゃないの?」
「やはりな! 貴様がナンベル・ウィンだったか! 樹族国に何をしに来た! 戦争に有利になるよう様子を探りに来たか!」
サーカがワンドを抜いて詠唱を開始した。
「おぉっ! 怖い怖い。サーカちゃんは、黙ってれば可愛いのにねぇ」
同感だ・・・。いや、でもどうすればいいんだ? 相手は英雄クラスの道化師だぞ!
「サーカ、待て! ナンさんは実力値が32だぞ! 敵いっこない!」
「馬鹿め! だからと言って何もせずに見逃せるわけなかろう。私はもう憂いはなくなったのだ、いつでも死ねる覚悟がある!」
「ムダン侯爵の後ろ盾を得た今、もうジブリット家に固執する必要はないもんな。でもお前が死んだら、お母さんが悲しむだろ! それに、誰がお母さんの病気は治すんだよ!」
言い争う俺たちを見て、ナンさんが手を叩く。
「だめだめぇ。仲間同士で言い争いなんてしちゃあ。小生は君たちを殺したくはありませーん。特にオビオ君、君は親友のヒジリ君と同じ匂いがしますからぁ。さぁヤンス、転移でゴデの街までお願いしますよ!」
「ナンベルさんは転移石を持ってるでやんしょ。なんであっしを巻き込むんでやんすか」
「お黙りなさい! 私と関わりがある貴方が樹族国に残ればッ! 拷問は必至。そうなりたくはないでしょう? さぁ、はやキュー!」
「せっかくオビオのパーティが面白くなってきたところなのに・・・。仕方がないでやんすね。はぁ・・・オビオの料理が食べられなくなるのは、とても残念でやんす。もしグランデモニウム王国に来る事があったら、オーガの酒場を訪ねてほしいでやんすよ。あっしはそこの二階に住んでいるでやんすから。それではさようなら皆さん。それからオビオ。これからも自由にしたいように旅をするでやんすよ。君は運命を背負った特異点ではないのでやんすから・・・」
特異点? 何の事だ?
シュッと音を立てて二人が消えた場所に、【大火球】が隕石のように落ちてきた。
「ええぃ! 間に合わなかったか!」
地下墓地入り口手前の敷地が、半径五メートルほどの丸い焦げ跡を残して燻っている。その焦土を憎々し気に見つめてから、サーカは白い短めのマントを翻した。
「くそ! ヤンスめ! 行くぞ! オビオ!」
八つ当たりして、とげとげしい声で俺を呼ぶサーカの後ろを黙って歩き、振り返って二人が消えた場所を見る。
「チートみたいな支援実況がありがたかったヤンスさんまで行っちゃったか・・・。パーティの知恵袋的存在だったのにな・・・」
「寂しいね、オビオ」
メリィもヤンスさんの事が気に入っていたのか、悲しそうな顔をしている。
「まぁ人との別れなんてこんなもんさ。死に別れないだけマシだ」
ほんと、いつも出会いも別れもあっという間の風の如し。確かに人が簡単に死ぬこの世界で、死に別れていないというのは幸運な事だ。またヤンスさんには会えるさ。
「だよな。ありがと、トウスさん。さぁニーシ村に戻ろう。早くアッチさんを治さないと危ない」
俺は錬金術師の爺さんに賢者の石を見せた。爺さんは鑑定魔法で、二つの石を見比べている。
「何も違いはないがの。ワシの賢者の石と、お前さんの持ってきた賢者の石・・・。ん? なんじゃ? 徐々にワシの賢者の石の情報が変わっていく・・・。こ、これは・・・辰砂!」
どういう理由かはわからないが、偽の賢者の石が正体を現した。爺さんのボケが治って、ちゃんと鑑定できようになったか、或いは偽の情報を付与していたどこぞのメイジが死んだか。
「いや、そもそもアッチさんに水銀中毒の症状が出てた時点で、気付いてないとおかしいだろ」
まぁ水銀中毒の症状を知らなかった可能性もあるし、単純にボケて頭が固くなっていたか。
「ど、どうしたらいいんじゃ! ワシはとんでもない事をしでかした!」
今更かよ。
「ここはプライドを捨てて、修道騎士のメリィに回復を頼むしかないだろ。アッチさんを治癒するぞ? いいな?」
プライドを捨てないといけないほど仲が悪いと言っても、爺さんが一方的にメリィを敵視してるだけだけどな。
「・・・。ああ、頼む」
よし! 俺はメリィに頷いて合図をした。メリィも頷き返す。
・・・が、彼女は頷き返しただけだった。
「早く祈れよ!」
俺は思わず裏手で彼女の肩にツッコミを入れた。
「ふぁ!?」
驚いたメリィの大きな胸が揺れた。こういうとこあるよな、この人・・・。ぼんやりしているというか。
「えへへ。祈りまーす!」
頭にコツンと拳骨を当てて、恥ずかしそうに笑っているメリィはアホ可愛い。
くそ、サーカとはまた違ったベクトルで可愛いんだよなぁ。
「運命の神よ・・・」
よし、祈りが始まった。これで一安心か。そういやメリィは運命の神の信者なんだな。地走り族は運命の神を信仰する人が多い。恩恵とかあるのかな?
見る間にアッチさんの顔色が良くなっていく。震えも泊まり何事もなかったかのようにベッドから降りた。骨折も治っていたのだ。
奇跡すげぇな。そりゃ医療を発展させる必要がないわけだわ。
「お父さん!」
「あなた!」
イイヨイイヨー。この幸せが訪れる瞬間、イイヨー! 他人の幸せそうな顔、イイヨー!
家族三人がメリィの手の甲にキスをして、腰の寄付金入れに、お金を幾らか入れた。どういうわけか、あの口が空きっぱなしのポーチは、激しく動いてもお金が飛び出さない。
(寄付金といっても相場があるし、結構な額だろうな。チッチが先払いした銅貨じゃ足りないと、ホッチさんもわかってたんだ)
それでも神学庁の僧侶に頼むよりは遥かに安い。ではなぜ皆、修道騎士に治療を頼まないかというと、数が少ない上に、各地を転々としているので滅多に出会えないからだ。
見た目もすぐには修道騎士とはわからない。鎧に付いている小さな手裏剣のような十字マークを見つけるまでは、ただの貧乏くさい騎士にしかみえないのだ。
「その、すまなんだ。アッチ。お前に辰砂の粉をずっと飲ませていたとは・・・」
「気にしないで下さい、スペンクさん。結果オーライですよ! きっと運命の神もそう言いましょう」
運命の神はえらくざっくばらんなのだな。名前はなんだっけ? オーガの神はヒュージャック・ハヤブサ・サコモトだったかな? 前にヤンスさんが言ってたけど、訛りがきつくてよく聞き取れなかった。
「君たちが治療費として支払った金は全額返させてもらう。それから今、修道騎士に渡した寄付金も私が支払う」
「そんな・・・スペンクさんは悪気があったわけじゃないのですし」
アッチさんが恐縮して驚いている。相手は村の重要人物だしな。
「いいや! これぐらいはさせてくれ! 今後、君達がけがや病気をしても無料でやらせてもらう」
良い方へ振り切れた時も頑固だな、この爺さんは。
「爺さんもそう言っているんだし、そうさせてもらったら?」
俺がそういうと、アッチさんはやっと首を縦に振った。
「ではそうさせてもらいます。よーし! なんか運が上向きになってきた気がするぞ! 休んでいた分、これからはバリバリ働かないと! ホッチももうアルケディアに働きに行かなくていいぞ。慣れない事をさせてすまなかった」
くぅー! 三人で抱き合ってる。なんだか嬉しくなるなぁ。俺もあの家族の中に混ざって抱き合いたい。
「回復祝いに今夜は俺が料理を作りますよ!」
幸せを御裾分けしてもらったお礼に俺はそう提案した。
「ほんと? やった! オビオの料理! オビオの料理!」
チッチが飛び跳ねている。そういやチッチやホッチさんに俺の料理を食わせるのは初めてだったかな。よーし腕を振るっちゃうぞ、お兄さん。
お好み焼き以外の材料なら結構あるし、少し買い足して振る舞うか。
「やったぁ! 今日の晩御飯は何かな~?」
メリィが口をジェリービーンズみたいな形にして喜んでいる。涎は少し出てるぞ。
ジュエリービーンズか・・・。豆のスープをメニューに加えておこう。
0
あなたにおすすめの小説
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
家の庭にダンジョンができたので、会社辞めました。
希羽
ファンタジー
都内のブラックIT企業で働く社畜・佐藤健太(27歳)。
手取り18万、残業100時間。唯一の資産は、亡き祖母から相続した郊外のボロ戸建てだけ。
「このまま死ぬのかな……」
そう絶望していたある夜、庭の物置の裏に謎の穴が出現する。
そこは、なぜか最弱モンスターしか出ないのに、ドロップアイテムだけは最高ランクという、奇跡のボーナスダンジョンだった。
試しにスライムを叩いたら、出てきた宝石の査定額はなんと――【1,000,000円】。
「……え、これ一個で、俺の年収の3分の1?」
スマホアプリで即換金、ドローン配送で手間いらず。
たった10分の庭仕事で5000万円を稼ぎ出した健太は、翌朝、上司に辞表を叩きつけることを決意する。
※本作は小説家になろうでも投稿しています。
キャンピングカーで、異世界キャンプ旅
風来坊
ファンタジー
東京の夜を走り続けるタクシードライバー、清水翔。
ハンドル捌きと道の知識には自信があり、理不尽な客にも笑顔で対応できる――不器用ながらも芯の強い男だ。
そんな翔が、偶然立ち寄った銀座の宝くじ売り場で一人の女性・松田忍と出会う。
彼女との再会をきっかけに、人生は思いもよらぬ方向へ動き出した。
宝くじの大当たり、そして「夢を追う旅」という衝動。
二人は豪華にバスコンをカスタムしたキャンピングカー「ブレイザー」を相棒に、日本一周を計画する。
――だが、最初のキャンプの日。
雷の直撃が二人を異世界へと連れ去った。
二つの月が照らす森で、翔は持ち前の度胸と行動力を武器に、忍を守りながら立ち向かう。
魔力で進化したブレイザー、忍の「鑑定スキル」、そして翔の判断力と腕力。
全てを駆使して、この未知の世界を切り開いていく。
焚き火の炎の向こうに広がるのは、戦いと冒険、そして新しい絆。
タクシードライバーから異世界の冒険者へ――翔と忍のキャンピングカー旅が、今始まる。
巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった
ノラクラ
ファンタジー
俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。
学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。
だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。
暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。
よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!?
……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい!
そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。
赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。
「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」
そう、他人事のように見送った俺だったが……。
直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。
「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」
――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。
美少女に転生して料理して生きてくことになりました。
ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。
飲めないお酒を飲んでぶったおれた。
気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。
その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった
魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します
burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。
その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
ある日、俺の部屋にダンジョンの入り口が!? こうなったら配信者で天下を取ってやろう!
さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。
冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。
底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。
そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。
部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。
ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。
『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる