料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

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砂糖の価値

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 俺は集まったアマチャヅルの山をむんずと掴み、汁を鍋に入れていく。

 汁気の多い蔓から落ちるこの汁は、なぜか空気に触れる事で甘味が増す。なのでインド人が紅茶を高い位置からカップに入れて泡立てるように、俺も高い位置から汁を鍋に落とした。

 子供たちは俺がやる事を興味深そうに見ているので、煮詰める前の時点で味見をさせてみた。コップに入れてメイズに飲ませてみる。

「甘いか? メイズ」

「うん、甘い! 凄いな、オーガ! ジュースみたいだよ!」

「オビオだ。さっき名乗っただろ。オビオって呼べ」

「わかった。オビオの蔓ジュースは、スッキリしてて癖がなくて甘い」

 素直でよろしい。メイズはジュースを全部飲まずに、真っ先に貧しい子供たちに回し飲みさせた。根っこは良い奴なのかもしれない。

「それにしても樹族国は良い食材が多いのに、迷信や貧乏人の食材というレッテル貼りで、食べない事が多いのは勿体ないなぁ」

 俺は汁をお玉でかき回し、煮詰めながらピーターにそう言った。

「貴族はやたら色に拘るしな。サーカも真っ黒な食材を嫌うだろ? あれも闇堕ちして黒髪になった樹族を連想するからだって」

「うん、前にシジミを見て言ってた。シジミなんて旨味も多いし、肝臓にも良いのにな」

 ムダン侯爵なんて青い髪色だが、見方によっちゃ黒にも見える。きっと子供の頃は髪の色でいじめられ・・・。いや、あの豪快な性格だ。いじめられたりしてないだろうな。寧ろいじめてきた相手をコテンパンにしてそう。

「さぁ煮詰まってきたぞ」

 俺は取り敢えず小皿に少量とって舐めてみる。うん、甘い。このまま砂糖にしてもいいけど、こっから結晶化させるのは手間がかかるな。

 俺がどうするか悩んでいると、小皿に付いていた汁が冷めると、勝手に結晶化し始めた。

「うそ! この煮詰めた汁は冷めると砂糖になる! 普通は飴みたいなるのに、これはサラサラの粉のようだ!」

 これはいい。保存性も上がるし、袋に入れて持ち運びも便利になる!

「こんなに手軽なら、今ある癖のある砂糖はお払い箱だね。これは商売になるよ、オビオ」

 うん、俺もそう思った。

「なぁ、メイズ。この砂糖で商売をしたら、パパもママもメイズの事認めて、会いに来てくれるんじゃないかな?」

「おい、オビオ! こんな金の生る木を、金持ちに渡してどうする気だよ!」

 まぁ気持ちは解るよ、ピーター君。でも落ち着け。

「メイズは金持ってるだろ。人を雇って大規模な砂糖作りができる資金がある。そうだよな?」

「うん、僕はお金を渡されて放置されているから・・・」

「じゃあ、人を雇って、今みたいに砂糖を作るんだ。今日俺がやったみたいに貧しい人々を雇うと、村の貧富の差も埋まる。いいか、砂糖作りの指揮は全部メイズがやるんだぞ。商才のあるブライトリーフ家のプライドにかけてな。そしたらパパもママもきっと関心を持ってくれるよ」

「ほんと? 僕やるよ!」

「ただし、タダじゃない。俺はこのアイデアをメイズに売るんだ。売り上げの一割は貰う。それから前金に金貨を一枚貰う」

 そう言ったところでピーターが安心したような顔をして落ち着いた。利益に目ざとい彼の性分が、タダでアイデアを譲るなんてのは許せなかったのだろうが、俺だって馬鹿じゃない。タダでアイデアを譲ってしまうと、メイズの心に失敗してもいいや的な緩みがでるからだ。

「じゃあ僕は金貨と契約の羊皮紙を持ってくるね!」

「うん」

 俺はにっこりと笑うと、嬉しそうに屋敷に駆けていく彼の背中を見送った。

「このアイデア、誰かに盗まれたりしないかな・・・」

 そう呟くとピーターが、コインをピンと弾いて手の甲でキャッチした。器用だな。

「表! 大丈夫だ。運命の神は言ってるよ。この国ではまだ誰も、このアイデアに気付いていないって。契約の羊皮紙に書き込んだ日にちで、誰が一番初めに商品化したか解るようになっているんだ。アイデアを思い付いただけじゃ意味はないからね」

「偽造できるんじゃねぇの? それって」

「契約の羊皮紙は仕組みはわからないけど、魔法印と同じで偽造ができないようになってる。オビオのウォール家の紋章や、自由騎士様の紋章と同じさ。偽ろうとすると恐ろしい呪いが降りかかる」

「まじで? じゃあ安心か」

「問題はイメージだな。貧乏人の食材で砂糖を作ったとなると、貴族は口にしないだろう。となると売る相手は中間層以下。値段よりも売りさばく数で勝負する事になるか」

 イメージか・・・。

 砂糖が売れてもメイズのパパやママは良い顔しれないかもな・・・。しまった。

「オビオ!」

 げ、サーカ達がやって来た。いつまで経っても馬車に戻らないからそりゃ探しに来るわな・・・。

「いつまで待たせる気だ!」

「まぁまぁ。ジュースでも飲んで落ち着いて」

 俺はビンに入れておいたアマチャヅルのジュースを、コップに注いで他のメンバーに差し出した。

「こんなものでご機嫌取りか!」

 そう言ってサーカは何のジュースかも聞かずに飲んだ。

「ほう・・・。美味いな。爽やかですっきりとした甘み。何のジュースだ?」

 飲んでから聞いたお前が悪いんだからな。

「アマチャヅルだ」

「嘘をつけ。それは貧乏人が時々齧ってるやつだろう? 細い紐のようなみすぼらしい蔓だ。こんな上品な味が貧民の食べ物なわけない」

「ところがどっこい。この村のアマチャヅルはどういうわけか、汁気が多くて太いんです、騎士様」

 ピーターが絞る前の蔓を見せた。

「ちょっと修道騎士様、この蔓の味を確かめてみてくださいよ。この時点では大して甘くないんです」

 なんでメリィに齧らせるんだよ。太さがなんか卑猥だぞ。狙ってやってるだろ、ピーターは。メリィはお色気担当キャラじゃない。性格的にはおませなリュウグにやらせるべきだろ。

「えー、私もサーカの飲んだのと同じジュースが飲みたいなぁ~」

 ひゃはは! 断られてやんの。俺は据わりの良い顔をして、スッとサーカにジュースを渡した。

「さぁ、メリィさんや、ジュースをお飲みなさい」

「わぁ、ありがとう! お祈りを沢山して、疲れてたから嬉しいぃ」

 メリィはジュースを飲んでニコニコしている。

「はいはいはい! わたし、齧ってみたい! ノーム国にはこん植物ないしー」

 すけべいなお前にはぴったりの役割かもな、リュウグよ。

 ピーターの顔が真顔だな、おい。さっきまでの期待でキラキラしてた顔はどこに行った?

 黒目の多い可愛らしい顔が、太い蔓を口に運んだ。そして嬉しそうな犬みたいな顔をして豪快にかぶりつく。

「いたたた」

 ピーターが股間を押さえた。自分のナニを齧られたみたいな反応するんじゃねぇよ。

「うん、確かにあんまり甘くない。なんで甘くなるんやろか」

「俺もよく解らないけど、汁が空気に触れると甘くなる」

 甘味の差を解らせる為に、リュウグにもジュースの入ったコップを渡した。

「ほんまや、めっちゃ甘い。でも甘過ぎないのがいいなぁ!」

 トウスさんにもジュースの味見をしてもらった。

「いんじゃねぇのか? こりゃどちらかというと、大人が好みそうな甘さだな」

「おーーい!」

 向こうからメイズが羊皮紙の巻物を振りながら走って来る。

 執事とメイドが必死になって追いかけてきてるから、一応立会人の大人を連れてきたわけか。しっかりしてるな。

「この度はメイズ坊ちゃんが・・・」

 若い執事が俺に話しかけようとしたのをメイズは遮った。

「煩い、黙ってろ。全部僕がやるんだ。お前たちは見ているだけでいい。さぁオビオ。さっきの契約内容をここに書いてくれ」

「おうよ」

 よく考えたら、俺はこの星に来て初めて字を書く。翻訳機で翻訳した内容は、勿論頭に入っているので書ける。異世界ものにありがちな、文字が読み書きできない、という事もない。ただ上手に書けるかどうか。

 亜空間ポケットから魔法の一本足テーブルを出すと、羊皮紙を置いて羽ペンにインクを付けた。この羊皮紙とペンもマジックアイテムだ。記録の内容を保証するような魔法がかかってある。

 俺はサラサラと羊皮紙に契約内容を書いていく。

 アマチャヅルを使った砂糖の精製方法や、販売権をメイズに譲ると。その代わりそこから出た利益の一割を貰う的な内容を書いて、最後にミチ・オビオと署名した。その下にメイズ・ブライトリーフが自分の名を書き込む。

 メイズの名前を見て羊皮紙を覗き見していたサーカの眉間に皺が寄ったが、彼女は何も言わなかった。なんだろう?

「これで契約成立だな! よーし、やるぞ! 僕がこの村を樹族で一番の砂糖の村にするんだ!」

「ただ貧民の食材ってイメージをどうするかだな・・・」

 俺は頭を掻きながらサーカに向いた。

「なぁ、この砂糖の件もシルビィ様に報告するのか?」

「無論だ」

「だったらこの砂糖を一緒にシルビィ様に届けてくれないかな? 土のゴーレムってそういうのできる?」

 俺は革の小袋に入れた緑色の砂糖をサーカに見せた。

「箱のような物に入れてくれれば問題ない。土の中を移動させてシルビィ様の下へ届ける」

 なんかめっちゃ時間かかりそうなんですけど・・・。まぁきっと魔法的な何かで、スムーズに運ぶんだろうな。気にしないでおこう。

「じゃあさ、シルビィ様に味見をしてもらって、美味いというお墨付きが欲しいんだがいいか?」

「なるほどブランド価値を付与するというわけか。中々小賢しいな。オビオのくせに」

「よかったな、メイズ。ウォール家のお墨付きがあれば、貴族もきっと買ってくれるぞ!」

「ありがとう、オビオ!」

 緑髪で緑色の瞳の少年は、貴族の顔を捨てて素直に俺にお礼を言った。

「どういたしまして!」

「早速明日からの計画を練るよ。僕はこれで失礼する。じゃあね! オビオ!」

 そういってメイズは屋敷へと戻って行った。その後を執事とメイドが追いかけていく。

「はぁ~。良いことしたなぁ~、俺」

「馬鹿が。何が良い事だ。お前は敵に塩ならぬ、砂糖を送ったのだぞ」

「へ? どういう事?」

 サーカが眉間を揉んで呆れている。俺が何をした?

「いいか、メイズの父親であるグリーン・ブライトリーフは、ソラス・ワンドリッターと同じく樹族至上主義者だ。彼らはムダン侯爵やシルビィ様のような、柔軟な考え方をする貴族を嫌う。ウォール家のお墨付きには、良い顔をしないかもな」

「でもメイズはそこまで排他的じゃなかったぞ?」

「いずれ一族に染まる。彼はオビオとの契約を恥だと思うようになるだろう」

「そんな・・・」

 将来、メイズが俺の事で頭を悩ますのだろうか? オーガにアイデアを貰った一族の恥という烙印を押されて。俺は余計な事をしてしまったのか?

 誰かが俺の横に立って背中を叩いた。トウスさんだ。

「心配するな、オビオ。それに騎士様よぉ、俺はそうは思わねぇぞ? こんな田舎の村に大物貴族の息子がいるのなら、あのメイズって小僧は次男坊か三男坊だろ? だったら一族から独立する日がいつかくるわけだ。後継ぎじゃねぇからな。つまり一族に染まる可能性も低いし、一人の樹族として、オビオとの関わりを受け止めるに違いねぇ。人ってのは一族の意向でどうこうなるもんじゃねぇんだよ。もっと複雑で色々考えてるもんさ」

「ふん、流石は一族の意向を無視して、戦士の部族を抜けてきただけの事はあるな。言葉が妙に重い」

 おい、皮肉も大概にしろよ。流石にそれはトウスさんも怒るぞ、サーカ。

 しかしトウスさんは大笑いしている。今の度の過ぎた皮肉にも笑って対応できるとは大人だなぁ。俺ならブチ切れてる。

「ガハハハ! 流石は仮とはいえシルビィ隊の隊員だな。俺がトウス・イブン・トウバだって知ってたのか。トウスって名前は、割とどこにでもある名前だから本名を名乗ったのだが」

「もうお前は樹族国民なのだ。我らが法に従ってもらうぞ。暴動など、以ての外だからな」

「ぷは~、もう一杯~」

 シリアスなシーンで、メリィがジュースのお代わりを欲しがった。はぁ~。流石は我らが癒しのメリィちゃん。空気が一瞬で和やかになったように思える。

 俺はこの落差が堪らなく可笑しくなってきたので笑う。

「ブハハ! 俺、この纏まりのないパーティが好きだわ」
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