料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

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全滅

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 そこに現れた悪魔は、俺が知っている人修羅ではなかった。だが見覚えはある。

「なんだ? こいつ・・・!」

 そういうトウスさんは総毛立っている。こんなに怯えた彼を、今まで見たことがない。

「グレーターデーモンか?」

 ウィングは、悪魔の放つ恐怖のオーラに抗えず、エペを落とした。

「こんな悪魔、知らない!」

 専門家のデーモンバスターのように悪魔に詳しいとは言えないが、それでも幽霊や悪魔を退治する事に長けているメリィは、初めて見る黒い悪魔に怯えている。

「こいつ、知っているぞ・・・!」

 俺は少し前の記憶を探る。そうだ・・・。こいつは!

「ヤンスさんと話している時に、空間を破って入ってきた悪魔だ!」

「よう、さっきぶりだな。オビオ」

 目の無い黒い悪魔は、ハンマーのような頭を俺に向けた。裂けた口からはサメみたいな歯が見えている。油断すれば失神しそうな程怖い。

「そのしわがれた声は・・・。やっぱお前、キリマルなのか?」

「ああ、そうだ。これを見ろ。クハハ」

 腰に浮く魔剣天の邪鬼を俺に見せて笑う悪魔は、どう見てもキリマルじゃあない。なんというか、よくわからないけど人とか悪魔とかを超越した存在のように見える。

「な、なんでそんな姿してんだ?」

 俺は鼓動が早くなるのを何とか抑えて、訊いてみた。

「人修羅の最終形態がこれなんだわ。ゲキャキャ。それにしてもよぉ。神域でヤンスに死にたくないと言って、必死に抗っていた時のお前はどこにいった? 神に逆らう奴なんて、久しぶりに見たからよぉ。次元を超えて、ついつい手を貸してしまったが、余計なお世話だったか?」

「ってことは、俺が生き返ったのって・・・」

「そう。この俺様がぁ、魔剣天の邪鬼の力で蘇らせた。どうだ? 殺人鬼に助けてもらった気分は」

「最高、なわけないだろ。だが、今はそれどころじゃねぇ! キリマルに頼みがある!」

「大凡予想はつく。その女騎士を蘇らせろってとこだろう?」

「正解ッ!」

 俺はビビリ過ぎて、クイズ番組の司会者みたいな返事をしてしまった。

「・・・気に入らねぇなぁ」

 俺がふざけているように見えたのか、急にキリマルの機嫌が悪くなった。

「ふざけているように見えたなら悪かった。これ、この通り! サーカ・カズンを蘇らせてくれ! こいつは大事な仲間なんだ。どうしても生き返らせてやりたい!」

 俺は腰を深く折って、キリマルに頭を下げた。

「それだけか?」

 それだけ? どういう意味だ? その程度の関係だったって事か?

「もっと言うと、俺はサーカを愛おしくさえ思っていた・・・」

 キリマルにだけ聞こえるような小さな声で、俺はゴニョゴニョと答える。

「ぶっ殺すぞ。お前の恋心なんて聞きたかねぇわ。そんな話はしてねぇ。俺はなぁ。神に逆らった時のお前が見てぇんだよ」

 そう言われても、そんときの事あんまり覚えてねぇし! っていうか、ヤンスさんって神だったの? 知ってたら土下座してたかも。

「じゃあ、どうすりゃいいんだよ!」

「クハハ! そりゃあ簡単な事よ! 俺様の二つ名は反逆。相手が誰であろうと逆らって抗う奴が好きなんだわ。だからよぉ。俺様に抗ってみせろ、オビオ。そうだな。・・・一分だ。一分の間、俺の前に立っていられたら、願いを聞いてやる」

「俺だけでお前に立ち向かうのか?」

「いいや、パーティ全員でもいいぜ? ここは大部屋で広いし、多少はドタバタしても文句は言われねぇだろ」

 意外と気遣いができる奴なんだな・・・。

 一分か・・・。いくらキリマルが強くても、それぐらいなら耐えられるかもしれない。



 一分は長かった。

 先手必勝とばかりに、キリマルに飛びかかったトウスさんは、南斗水鳥拳を受けた雑魚のように、切り刻まれて絶命した。

 多分、キリマルは高位の必殺技を使ったんだろうけど、何がどうなってトウスさんが肉片になったのかが、似非戦士の俺には理解できなかった。

 次に切り刻まれたのはウィングだった。奴は小便を漏らしながら、【透明化】の魔法を使って身を隠したが、それは無駄に終わった。「小便くせぇな」とキリマルが言った後、なにもない空中から血が吹き出す。ウィングは透明化したにも関わらず、場所を特定されたのだ。

 魚のアラ汁に入っている肉片の如く、ウィングのそれは床に散らばった。

「うわぁぁぁ!」

 メリィは悲鳴と共に、光魔法【閃光】を唱えた後、帯刀する輝きの剣をキリマルに突き立てようと前進した。

 ――――ガキン!

 岩石のようなキリマルの皮膚に火花が散る。

「当たった!」

 そう言うメリィの首が跳ね跳ぶ。

「クハハ! 【閃光】は無意味だったな。俺には目がねぇからよ」

 ハァハァ・・・。次は俺が殺される番か? まだ十秒も経ってねぇんじゃねぇの?

「オビオ!」

「キュル!」

 リュウグとその両親の声が後ろから聞こえる。

「逃げろ! リュウグ! 俺が時間を稼ぐから!」

 俺が部屋の扉までの退路を確保しようと動いたその時、リュウグ一家は三枚におろされて血を吹き出す。

「リュウグ!」

 キリマルは接近戦が得意そうに見えるが、遠距離攻撃もできるのか。普通、漫画とかだとリュウグみたいな可愛らしいキャラは死なないもんだろ。くそ! くそ!

「さぁどうする? オビオ。まだ四十秒くらい残っているぜぇ?」

「爆ぜろ! 俺の感性! 能力の極限まで引き出せ! ナノマシン!」

 トウスさんの肉片の中に落ちている血まみれの魔剣を拾って、俺は残像を作りながらキリマルに飛びかかった。

「期待はずれもいいとこだな。死ね」

 死ねとか簡単に言っちゃ駄目だと、親から習わなかったのか? キリマル。

 ――――ザン!

 首を斬られる音って、当たり前だけど、気持ちの良いもんじゃねぇなぁ・・・。

 あぁ。俺の胴体が目の前にある。

 いや、前に遠ざかっているんだ。

 ん? 待てよ、俺の頭が後ろに吹き飛んでんだ。

 まじかよ・・・。また俺は死ぬのか。今度はヤンスさんの所には行けない気がするなぁ・・・。

 サーカごめん。皆ごめん。
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