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お菓子は甘い
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手から頭に流れ込む、彼女の情報。
俺は勝手に人の情報を覗き見るという罪悪感と戦いながら、上位識別の指輪に身を任せた。
「?!」
――――無、だ。
彼女が何者であるかとか、実力値が幾らとか、そういった情報が皆無に等しい。
・・・・。
ただ聞こえてくるのは、大人の声。
「この子の目は、いつ治る?」
「治らないかもしれない」
「だったら、お前は忌み子だ」
「役立たず」
目が見えないってだけで、ここまでこの子を呪うのか? なんで?
恐らくは、座敷牢のような場所で育てられたのだろう。自分が何者かすらわからない状態で、今日まで過ごしてきたようだ。最低限の世話をされながら。この少女の情報を読み取れないのは、自分の存在をしっかりと認知していないからなのか?
「また余計なお節介か」
気がつくとサーカが横に立っていた。
「余計なとはなんだ。この子は目が見えないんだぞ」
「だから?」
助ける、に決まってるだろ。それを口に出せば、サーカは余計に罵ってくるだろうから話題を変える。
「聖下と辺境伯の会談はどうだった?」
「どうもなにも普通だ。現人神様は特産物や鉱物を辺境伯に売る約束をし、辺境伯は名誉を得た。明日には詩人が酒場で、今回の件を声高く歌っているだろう」
ふーん。どうでもいいや。っていうか、そんな権限がコピーロボットにあるのか?
というか、辺境伯はヒドラ星人を前にして余裕ぶっこいてんな。・・・少なからず、ヒジリの力をあてにしているって事か?
だったらその考えは甘いぞ。他国の王が武力介入なんてするわけねぇだろ。
「そうだ。ヒジリ様が、オビオのお菓子を所望しているぞ」
サーカは手を打って、ピンク色のぱっつん前髪を揺らした。
「ああ、だったらさっき作っておいたやつを持っていってくれ」
俺はサーカの腕いっぱいに、雑多なお菓子を渡した。
サーカは一つ口に頬張ると、館の中に入っていく。つまみ食いなんかしたらヒジリに怒られるんじゃないのか? いや、怒られろ。
そうだ! この子、お菓子なら食べるんじゃねぇか?
「なぁ、甘いお菓子なら食べるだろ?」
「食べない。生きてちゃ駄目って言われたから」
「ああ、それな。安心して。お菓子ってな、栄養バランスが悪いから、何個食べようが生きていられないんだ。だから食べても大丈夫。それに人はいつか必ず死ぬ。今じゃなくてもいいんだよ」
ただし永遠の命を持つ、我ら地球人は除く。
「本当?」
「ああ、本当だ。だから食べな」
「うん!」
俺はクッキーを彼女に食べさせた。
「美味しいだろ?」
「うん! サクサクしてて、味がある!」
あ、味がある・・・、だと? ぐわっ! 目頭が熱くなってきた。この子はなんて可愛そうなんだ。きっと今まで碌な料理を食わせてもらえなかったんだ。
「そうか。良かったな! それは甘いって味だ」
「甘い?」
「そう、甘い。皆、この味が大好きなんだ。ちょっと音を聞いてて」
亜空間ポケットからお菓子を取り出して、テーブルの上に置くとあっという間に無くなる。
「凄い足音がしただろ? さっきも言った通り、皆、お菓子が大好きなんだ。だから取り合いになる」
「ふぇ~ん」
松明の光が届かない闇の中から、何かがドスドスと走って来る音がする。メリィが来た。
「お菓子~!」
いや、お菓子の取り合いに参加するの遅すぎだろ。ワンテンポどころか、ツーテンポ遅い。
「あぁ~!」
魔法の松明に照らされて、テーブルの上には何もないのに、メリィは必死になってお菓子を探している。そして、無いことを悟ると、顔を掻きむしりながらこっちを向いた。こえぇよ!
いつもはニコニコ顔で目を見開かない彼女だが、今は瞳がはっきりと見える。
「オビオ」
「はい」
「お菓子ッ!」
銀髪を振り乱して近づいてくるメリィに、俺は焼き菓子を渡した。
「ありがとぉ」
修道騎士はいつもの笑顔に戻り、お菓子を頬張った。
誰も取りやしないのに、急いで食うなよ。
俺は少女に振り返って言う。
「な? お菓子って凄いだろ? もっと食べるか?」
「うん!」
お、笑った! 守りたい、この笑顔。
俺は勝手に人の情報を覗き見るという罪悪感と戦いながら、上位識別の指輪に身を任せた。
「?!」
――――無、だ。
彼女が何者であるかとか、実力値が幾らとか、そういった情報が皆無に等しい。
・・・・。
ただ聞こえてくるのは、大人の声。
「この子の目は、いつ治る?」
「治らないかもしれない」
「だったら、お前は忌み子だ」
「役立たず」
目が見えないってだけで、ここまでこの子を呪うのか? なんで?
恐らくは、座敷牢のような場所で育てられたのだろう。自分が何者かすらわからない状態で、今日まで過ごしてきたようだ。最低限の世話をされながら。この少女の情報を読み取れないのは、自分の存在をしっかりと認知していないからなのか?
「また余計なお節介か」
気がつくとサーカが横に立っていた。
「余計なとはなんだ。この子は目が見えないんだぞ」
「だから?」
助ける、に決まってるだろ。それを口に出せば、サーカは余計に罵ってくるだろうから話題を変える。
「聖下と辺境伯の会談はどうだった?」
「どうもなにも普通だ。現人神様は特産物や鉱物を辺境伯に売る約束をし、辺境伯は名誉を得た。明日には詩人が酒場で、今回の件を声高く歌っているだろう」
ふーん。どうでもいいや。っていうか、そんな権限がコピーロボットにあるのか?
というか、辺境伯はヒドラ星人を前にして余裕ぶっこいてんな。・・・少なからず、ヒジリの力をあてにしているって事か?
だったらその考えは甘いぞ。他国の王が武力介入なんてするわけねぇだろ。
「そうだ。ヒジリ様が、オビオのお菓子を所望しているぞ」
サーカは手を打って、ピンク色のぱっつん前髪を揺らした。
「ああ、だったらさっき作っておいたやつを持っていってくれ」
俺はサーカの腕いっぱいに、雑多なお菓子を渡した。
サーカは一つ口に頬張ると、館の中に入っていく。つまみ食いなんかしたらヒジリに怒られるんじゃないのか? いや、怒られろ。
そうだ! この子、お菓子なら食べるんじゃねぇか?
「なぁ、甘いお菓子なら食べるだろ?」
「食べない。生きてちゃ駄目って言われたから」
「ああ、それな。安心して。お菓子ってな、栄養バランスが悪いから、何個食べようが生きていられないんだ。だから食べても大丈夫。それに人はいつか必ず死ぬ。今じゃなくてもいいんだよ」
ただし永遠の命を持つ、我ら地球人は除く。
「本当?」
「ああ、本当だ。だから食べな」
「うん!」
俺はクッキーを彼女に食べさせた。
「美味しいだろ?」
「うん! サクサクしてて、味がある!」
あ、味がある・・・、だと? ぐわっ! 目頭が熱くなってきた。この子はなんて可愛そうなんだ。きっと今まで碌な料理を食わせてもらえなかったんだ。
「そうか。良かったな! それは甘いって味だ」
「甘い?」
「そう、甘い。皆、この味が大好きなんだ。ちょっと音を聞いてて」
亜空間ポケットからお菓子を取り出して、テーブルの上に置くとあっという間に無くなる。
「凄い足音がしただろ? さっきも言った通り、皆、お菓子が大好きなんだ。だから取り合いになる」
「ふぇ~ん」
松明の光が届かない闇の中から、何かがドスドスと走って来る音がする。メリィが来た。
「お菓子~!」
いや、お菓子の取り合いに参加するの遅すぎだろ。ワンテンポどころか、ツーテンポ遅い。
「あぁ~!」
魔法の松明に照らされて、テーブルの上には何もないのに、メリィは必死になってお菓子を探している。そして、無いことを悟ると、顔を掻きむしりながらこっちを向いた。こえぇよ!
いつもはニコニコ顔で目を見開かない彼女だが、今は瞳がはっきりと見える。
「オビオ」
「はい」
「お菓子ッ!」
銀髪を振り乱して近づいてくるメリィに、俺は焼き菓子を渡した。
「ありがとぉ」
修道騎士はいつもの笑顔に戻り、お菓子を頬張った。
誰も取りやしないのに、急いで食うなよ。
俺は少女に振り返って言う。
「な? お菓子って凄いだろ? もっと食べるか?」
「うん!」
お、笑った! 守りたい、この笑顔。
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